好き好きアーツ!#60 ミラー・アート編

【ミラーと聞いて思い浮かんだ曲】

SNAKEPIPE WROTE:

昨年の10月下旬にROCKHURRAH RECORDS事務所移転の話は何度かしたよね。
荷造りしている時、戸棚の奥から出てきたのは、段ボールで厳重にくるまれた物体。
前事務所にいる間、一度もお目見えしないまま、しまい込まれていたことになる。
中身は何なのか、しばし考え込み、鏡だったことに気付く。
かつて南方系のインテリアを好んでいたSNAKEPIPEが、一目惚れした逸品だったよ。
段ボールを外してみると記憶通りの鏡が出現!
経年劣化で木彫りのフラミンゴが美しかったインドネシア製の鏡は、色が褪せてしまい、少し寂しそうに見える。
着色し直して、もう一度飾ってみようかな!

鏡について考えていたら、鏡を使ったアートに興味が湧いてきたよ。
今まで鑑賞した展覧会でも、ミラー・アート(?)に出会っていることを思い出した。
過去に紹介した作品も含めて書いていこう!

鏡を使ったアート作品と検索すると、必ず上位でヒットするのが草間彌生なんだよね。
SNAKEPIPEも今までいくつかの草間彌生のミラー・アートを鑑賞したことがあるけれど、その中で一番印象に残ったのは、2004年に森美術館で鑑賞した「クサマトリックス」での「水上の蛍」だよ。
無限に広がる空間に、儚い光が点在している。
それはまるで死者の霊のように見えて、涙ぐみそうになったSNAKEPIPE。
「クサマトリックス」は素晴らしい展覧会だったので、アンコール展示して欲しいよ!

2022年5月にワコウ・ワークス・オブ・アートで鑑賞したアニッシュ・カプーアも忘れられない。
ステンレスを磨き上げ、鏡のようにピカピカにした作品群は、見つめていると目眩がするほどの存在感があったよ。
感想にも書いていたように、お金があったらカプーアの作品が欲しい!(笑)

2018年3月に森美術館で鑑賞した「レアンドロ・エルリッヒ展」にも鏡の作品があったよね。
「試着室」は、どこまでが本物の場所で、どれが鏡に写った光景なのか分からなくなり、不安を感じる体験型の作品だった。
まるで迷路を進んでいるようで、方向音痴のSNAKEPIPEにとっては恐怖そのもの!
アート作品を観ているのに、まるでホラーのアトラクション現場にいるよう。
2022年7月の「KAMU kanazawa」にもエルリッヒのミラー・アートがあったっけ。
「インフィニティステアケース」は、永遠に螺旋階段が続いているように見えるトリック・アートだったよ。
階段が横向きだったので、不思議な感覚に陥ったけれど、恐怖はなかったので良かったよ。(笑)

レアンドロ・エルリッヒの展覧会についてのブログにも出てきたのが、2017年1月に鑑賞した柳幸典の「ワンダリング・ポジション展」のミラー・アート。
暗い会場が迷路のようになっていて、鏡の効果で異空間に迷い込んだ気分になったんだよね。
更に鏡に自分の姿が写っていないことに気付いた時、SNAKEPIPEは絶叫しそうになったものよ。
ROCKHURRAHから「鏡の角度」について指摘されなかったら、二度と現実世界に戻れなかったでしょう。(大げさ)
恐怖の度合いでいうと、エルリッヒの「試着室」よりも格段に柳幸典が上だったね!
本当に怖かったもん。

他にも鏡を使ったアート作品はないのか検索してみる。
チリ出身の彫刻家であるIván Navarro(イヴァン・ナヴァロ)は光と鏡、電気を使用した作品を制作しているという。
画像は2016年の「Loop」という作品ね。
チリでのピノチェト独裁政権下で、人々が電気を止められ、自宅に孤立させられたらしい。
ナヴァロは、そうした恐怖や人間の行動の制御を表現しているんだとか。
監視、拷問、拘束、支配といった暗いテーマが扱われているけれど、きっと作品を目の前にしたら美しいんだろうね。
現在はニューヨークを拠点に活動しているというナヴァロの作品、一度観てみたいよ!

Chul Hyun Ahn(アン・チョルヒョン)は韓国出身で、現在はボルチモア(!)を拠点に活動しているアーティスト。
ボルチモアと聞くとジョン・ウォーターズを連想して興奮するSNAKEPIPEなんだよね。(笑)
アンは鏡と光の組み合わせを通じて、無意識の理論を探求しているんだとか。
「光の能力で自然の美を照らし、変容させる」というコンセプトを基に作品制作していると書いてあるよ。
「無限のイリュージョン」を感じることができるというアンの作品、どんな意識の変化をもたらしてくれるのか経験してみたいね!

オレゴン州ポートランドで作品を制作しているPeter Gronquist(ピーター・グロンクィスト)。
2017年のミラー・アート作品「Chrome Jets」を載せてみたよ!
縦と横の幅が152cmあるというので、かなり大型の作品だよね。
モチーフは飛行機や花で、ずっと下のほうまで続いているように見えるよ。
ちなみに花を使った作品は、$40,000、日本円で約600万円で購入可能だって。
かなりインパクトがあるだろうね!
グロンクィストは、ビデオや絵画から彫刻、特定の場所に特化したインスタレーションなど多岐に渡り制作する「一貫した独自のスタイルを持たない」アーティストだという。
「流動性と柔軟性を第一原則とする」らしいよ。
多彩なアーティストなので、いつか作品を目にする機会もあるかもしれないね。

今回は鏡をテーマに作品紹介してみたよ!
なんだかキュレーターになったみたいで面白かった。
また企画を考えてみよう。(笑)

好き好きアーツ!#59 HTコレクションより part3

20230917 04

【伯母が何枚も撮っていた夕日の写真】

SNAKEPIPE WROTE:

今週で最終回となる伯母の写真特集。
まるで写真家が撮影したようなショット集で締めくくってみよう。
きっと伯母本人は、たまたまシャッターを切っただけで、プロっぽく仕上げたつもりじゃないはず。
個人的な思い出の一枚だったんだろうけどね?

工場地帯を移した写真。
まるでアンドレイ・タルコフスキーの映画みたいじゃない?
恐らくバスか電車の中から撮影したように見えるよ。
インダストリアル好きのSNAKEPIPEには、グッときた一枚。

カラーのフィルムにはよくあった赤く焼けた写真。
デジタルになってからは見かけなくなったのは当たり前。
これはカメラに何かしらの光が入ったせいで、フィルムが感光したのが原因だって。
伯母は電柱をモチーフにしていることが多いんだよね。
惹かれるものがあったんだろうね。
写真的には失敗なんだろうけど、フィルムで撮影した写真ならではの味わいがある一枚だよ。

1970年代に始まる「ニュー・カラー」と呼ばれる潮流がある。
例えば2010年8月に書いた「SNAKEPIPE MUSEUM #05 Stephen Shore」などの写真家が有名なんだよね。
色使いが独特で、初めて観ても「懐かしい」と感じてしまう写真。
影のバランスも抜群だよ。

色褪せたカラー写真を作ろうと思ってもなかなかできないよ。
伯母の写真特集は一切加工することなく、スキャンしただけの写真を載せているので、この色合いでアルバムに貼られていたんだよね。
70年代に、アメリカのディズニーランドに行ったようで、その時に撮影されたみたい。
なんとも言えないノスタルジックな一枚だよね。

ここからは、まるで写真家の藤原新也の写真集に収められているかのような写真を載せていこう。
霧の中にぼんやりと浮かぶ街並みは、まるで映画の一コマのよう。
建物の窓を開けて撮影されたみたいだね。

神々しく光を放つ雪山。
空の藍色との対比が美しい。
満州育ちの伯母やROCKHURRAHの母は、寒さに強かったみたい。
これくらいの雪なんてへっちゃらだったのかも?

自宅で咲いた花なのか。
ピンボケ具合が素晴らしいんだよね!(笑)
上の2枚と合わせると、藤原新也の写真に見えてしまうのはSNAKEPIPEだけ?
花が好きだった伯母は、何枚も写真に記録を残していた。
その中で奇跡の一枚がこれ。
伯母本人からすると、失敗作なのかもしれないけどね?

最後はこちら。
この写真も「メメント・モリ」に含まれていても違和感がない一枚だよ。
ピンボケの雲と水面に映る光が、この世とは思えない。
じっと観ていたら、写真の上下が逆さまだと気付く。
不自然な印象を持ったのは、そのせいかもしれないね?
伯母が撮りたかったのは、雲と光なので幻想的な一枚として、このまま載せておきたいよ。

映画「ブレードランナー」の中で、レプリカントと呼ばれる人造人間達が、「自分は人間だ」と証明するために写真を所持しているエピソードがある。
子供自体の写真があるから、自分は人間に間違いないと主張するんだよね。
写真の持つ重要さにショックを受けたSNAKEPIPE。

3週に渡って特集してきた伯母の写真コレクションにも、「ブレードランナー」に似た存在証明としての意義を写真に感じたんだよね。
伯母は、どんな想いで、これらの写真を撮ったのか。
写真を観ながら冥福を祈りたいと思う。

好き好きアーツ!#59 HTコレクションより part1

20230903 10
【遺品整理で発見!大阪万博をモチーフにした写真屋の紙袋】

SNAKEPIPE WROTE:

今から1年前、ROCKHURRAHの伯母が永眠したため、遺品整理を行っているROCKHURRAHとSNAKEPIPE。
SNAKEPIPEが初めて会った時には、すでに伯母は80歳を優に超えていた。
元教育者だったという伯母は、高齢になっても口調や言葉がはっきりしていて、話がとても面白かったよ。
年に数回自宅を訪れ、食事をして楽しい時間を過ごさせてもらっていた。
10年以上そんな関係が続いていたけれど、骨折がきっかけになり、伯母は施設に入所することになった。
自宅に戻りたいという希望は叶わなかったのが残念でならない。

一人暮らしだった伯母の遺品整理を引き受けることになり、1年経った現在も続いている。
タンスやキャビネットなどの大物を処分し、中に入っていた食器や書類などを見ていく。
遺品の中で最も多かったのがアルバムや写真類だった。
タンスや押し入れの奥、キャビネットの中など、膨大な数の写真が残されている。
アルバムのまま保管するのは難しいので、写真だけ剥がして保存することにした。

写真を見て分かったのは、伯母が世界20ヶ国以上を旅行していたこと。
テレビの旅番組で見たことがある場所で微笑む伯母の姿を見て驚く。
そして伯母はアルバムにコメントを残し、旅を振り返っていたようだった。

一枚一枚を見ていくと、まるで写真家が撮ったような写真があることに気付く。
このまま埋もれさせてしまうには惜しい写真がいっぱい!
そこで今週から伯母の写真コレクションを紹介していきたいと思う。
最初はモノクロームの写真にしてみよう。
アルバムから外し、何の加工もせずにスキャンしているので、色合いなどはそのままだよ。
伯母のイニシャルからHTコレクション、と名付けさせてもらおう。

伯母の母親、ROCKHURRAHの祖母のポートレート。
写っている時に笑顔を見せている写真は珍しいよ。
大抵は無表情で、ちょっと厳しい雰囲気に見えることが多い祖母だからね。
自宅の庭なのか、植物に囲まれてとても幸せそう。
この写真を見た時に、ソフィア・ローレンが出ていた映画「ひまわり」を思い出したSNAKEPIPEだよ。

恐らく伯母と伯父の子供時代じゃないかと推測する。
若い頃に亡くなってしまった伯父については、何度も話をしていた伯母。
自慢の弟だったと聞いている。
写真でも、伯父の足元を支えて、とても可愛がっていることが分かるね。
学校か公園で撮影されたんだろうか。
NHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」に出てきた「肋木」が写っているね。

アンリ・カルティエ=ブレッソンが撮影したような写真だね。
スケートをしているみたいだよ。
ROCKHURRAHの母方の一家は、満州にいたという。
冬はとても寒くて、校庭に水をまいておくと、翌日にはスケートができた、と伯母から聞いたことがあるよ。
もしかしたら、この写真も学校で撮影されたものかもしれないね?

祖母と親戚?
まるで土田ヒロミの写真みたいだよ。
何の作業をしているところなのか不明だけど、「はい、チーズ」と撮られた写真じゃないね。
自然なスナップ・ショットが新鮮だよ。

高い位置から撮られた写真。
建物の上なのか乗り物から撮影してるのか。
構図が面白いよね。
場所や日時が特定できないので、日本なのか満州なのかも不明だよ。
もしかしたら中に親戚がいるのかもしれないね。
撮影の目的がよく分からないけれど、気になる写真だよ。

遊園地の写真を2枚載せてみよう。
観覧車に乗っている祖母を確認することができる。
いつなのか不明だけど、この時の観覧車には安全設備がないんだね!
楽しいというよりは怖そうな乗り物に思えるよ。
「森永ミルクキャラメル」の看板が目立つ右側の写真。
同じ遊園地の写真なのかな。
遠心力で回るタイプのアトラクションみたいだよ。
これもとても怖そうだね!

写真が変色して、縁がシルバー色になっているよ。
この色合いが素敵だよね。
教育者だった伯母の職場で撮られたのかもしれない。
女児の髪型が古めかしいね。
お遊戯していた子どもたちは、今はどうなっているのかな。

伯母が残したモノクローム写真を紹介してみたよ。
一番上は写真が入っていた紙袋で、70年の万博デザインなんだよね。
岡本太郎の「太陽の塔」や新幹線が描かれていて、レトロ・モダンでオシャレ。
来週もHTコレクションとして、伯母の写真を特集するよ!

好き好きアーツ!#58 世界アート(仮)探訪 4

20230625 08
【アリゾナ州の砂漠にあるジェームズ・タレルの作品】

SNAKEPIPE WROTE:

当ブログのカテゴリーである「好き好きアーツ!」の中にある「世界アート(仮)探訪」は、「鑑賞できたら良いな」という願いを込めて、SNAKEPIPEが行ってみたい場所を特集する記事なんだよね。
今回はパブリック・アートやインスタレーションについて書いてみたいと思う。
現地に赴かない限り、観ることができない作品を集めてみたよ!
早速紹介していこう!

トマス・サラセーノの作品「Cloud City」は、空中都市生活をイメージして作られたという。
確かに「メタボリズムの未来都市展」や「未来と芸術展」などで見かけたセルの集合体みたいだよ。
2012年にニューヨークのメトロポリタン美術館屋上に展示され、体験型アートとして人気だったんだとか。
実際にセルに入れるなんて楽しそう!(笑)
ちなみにこの作品の評価額は$11million、日本円で約15億8,000万くらい!
トマス・サラセーノはアルゼンチンのアーティストで、環境問題や共存についてのヴィジョンを作品に取り入れているんだって。
2020年9月に鑑賞した「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」も、環境に配慮した体験型アートを作成していて似た雰囲気だと感じるよ。
最近の傾向なのかな?

イギリス人のジェイソン・デカイレス・テイラーは、海中彫刻で有名なアーティスト。
SNAKEPIPEもメキシコにあるカンクン海中美術館の様子はインターネットで見たことあるよ!
載せた画像はモルディブの高級リゾートに配置された「Coralarium」。
ターコイズブルーの海にポッカリと浮かぶステンレスの物体。
上部と内部に人を形どった彫刻が配置されている。
内部の彫刻は次第に周囲のサンゴや海洋生物が定着していき、新たな生態系の基礎を作っていくという。
時間の経過で作品が変化していくんだね!
どんな状態になっていくのかを知る前に、この作品は2018年、宗教的な理由により破壊されてしまったんだとか。
二度と目にすることができないと聞くと、残念でならないよ。

「Vessel:Stairway to Nowhere(どこへも続かない階段)」はイギリスのデザイナーであるトーマス・ヘザーウィックによって制作されたという。
場所はニューヨークの再開発エリアであるハドソン・ヤードで、高さは80m、階段の数は2500段というから相当な高さだよね!
まるで映画のセットのようなランドマーク、目の前にあったら腰を抜かしそう。(笑)
エッシャーのだまし絵のように見える画像も見かけたよ。
入場は無料らしいけど、予約でいっぱいなんだって。
いつかニューヨークに行った時には訪れたいね!(笑)

最後はこちら!
1979年から建設が進められているという、ジェームズ・タレルの「Roden Crater」。
まるでアレハンドロ・ホドロフスキー監督作品である「ホーリー・マウンテン(原題:he Holy Mountain 1973年)」の中に入り込んだみたいじゃない?
タレルのライフ・ワークとして有名な「ローデン・クレーター」は、アリゾナの砂漠地帯に40万年前にできた噴火口に作られているという。
一体どんな様子なのか動画で観てみよう。

 

火口から地下へと続く階段があり、空を見上げるようになっているんだね。
異空間にいる気分で、世界観が変わりそうじゃない?
11の地下室や長いトンネルを作り、月や太陽の光を感じる作品になるんだとか。
アリゾナ州立大学が作品完成へのサポートをしたり、カニエ・ウェストが1000万ドル(約10億円)の寄付をしたなどの記事もあったよ。
完成した暁には、今まで誰も観たことがない作品になること間違いなし!
いつか実物を観てみたいよね。

絵画や彫刻などと違って、現地に行かない限り実物を鑑賞することができないインスタレーションやパブリック・アートを特集してみたよ!
初回なので有名な作品ばかりを集めてしまったかも?
次回もお楽しみに!