ベン・シャーン展 —線の魔術師—

                   

【埼玉県立近代美術館入り口にあった公園前の看板を撮影。光が良い感じ!】

SNAKEPIPE WROTE:

現在埼玉県立近代美術館で「ベン・シャーン展 線の魔術師」が開催されている。 ベン・シャーンと聞いて一体何をやっていた人なのか即答できる人はどれくらいいるだろうか。
例えばSNAKEPIPEだったら一番初めに思い浮かべるのは写真家としてのベン・シャーンである。
次に画家、と答えると思う。
高校の美術の教科書に載っていた絵を未だに覚えているからね。(笑)
この回答とは違うことを答える人もいるだろう。
ベン・シャーンは単なる画家としてだけではなく壁画、ポスター、挿絵、写真などグラフィックアートのあらゆる分野を手がけたマルチアーティストだからね。
戦争、貧困、差別などの社会派リアリズムをテーマにしている点がベン・シャーン最大の特徴なんだよね。

では簡単にベン・シャーンの経歴について書いてみようか。
1898年リトアニア生まれのユダヤ人。
迫害を恐れ、8歳の時に家族と共にニューヨークに移住。
石版画職人として生計を立てながら、美術学校や生物学などを学ぶ。
30歳の頃から労働者や事件をテーマにした絵を描き始める。
1935年から38年にかけて、再入植局(RA)と農業安定局(FSA)が行ったプロジェクトに写真家として参加する。
1942年から戦時情報局グラフィック部門(OWI)、1945年からは産業別労働組合グラフィック・アート部門(CIO-PAC)に所属し、ポスターを制作。
1969年に死去。

今回の展覧会の副題が「線の魔術師」だったのと、美術館のHPに載っていた紹介文の中に
「初公開の絵画・ドローイングを含むおよそ300点によって、ベン・シャーンの魅力を紹介していきます」
と書いてあったので、もしかしたらドローイングが中心の展覧会なのかも、とある程度の予想はしていたんだけどね。
それでも行ってみないと判らないから、と大雨の中ROCKHURRAHと二人で埼玉まで出かけたのである。

実はSNAKEPIPEが埼玉県に足を踏み入れるのはこれが2度目。
1度目は確か20歳くらいの頃にバイトで行ったことあるんだよね。
どうやら2007年に閉店してるみたいだけど、丸井所沢店に!
あの時は遠かったなー!(笑)
ROCKHURRAHは埼玉には今まで一度も縁がなかったと言う。
今回の埼玉県立近代美術館は「北浦和」という京浜東北線の駅から徒歩3分とのこと。
そこまで遠くはないかな?と軽い気持ちで出かけたけれど、やっぱり埼玉は侮れないね。
どうやら最高気温が千葉や東京とは違っているらしく、埼玉着いた途端に寒くてガタガタ震えてしまったほど!
「夏の最高気温も埼玉はいつでも2℃くらい高かったよね」
「きっと冬は2℃低いんだろうね」
などと固まりかけた唇をなんとか動かし、会話するROCKHURRAHとSNAKEPIPE。(大げさ)
何かお腹に温かい物を入れないと凍えてしまう、とまずは腹ごしらえ。
何故だか一人で来店する女性客ばかりのイタリアン・レストランでホッと一息。
都内でも、ここまで一人客ばかりって珍しいような気がする。
なんでだろうね?謎だな。

美術館は北浦和公園の中にあるので、公園を散歩しながら向かう。
このシチュエーション、木場にある現代美術館と同じ構造だよね。
あっちはMOMA、こっちはMOMAS?
うりゃ、思った通りにThe Museum Of Modern Art, Saitamaだったよ。
だからMOMAに付け足してSがあるんだね。ダサっ…。(笑)
千葉にあったらMOMACなのか。うーん、良い勝負だね!

11月から開催されているためもあるのか、美術館内はそれほど混雑していない。
走り回るような子供もいなくて良いね。
1階の常設展を鑑賞した後、いよいよ2階のベン・シャーン展へ向かう。

前述したSNAKEPIPEの予想は的中してしまった。
今回の展覧会はドローイングが中心で、最も関心を持っていた写真はなんと3点のみの展示という残念な結果にガッカリ。
色々な分野の仕事をしてきたアーティストの場合には、こういうことがあり得るんだよね。
ある特定の分野に焦点を当てるような企画ね。
ROCKHURRAHも退屈だったようで、途中で眠くなる始末。
わざわざ遠出したのに、大変申し訳ないことをしてしまった。済みません。
ということで今回のブログは以前のジェームス・アンソール方式
「こんな絵や写真を鑑賞したかった」という特集にしてみたいと思う。
これからまた同じようなブログの時には、アンソール方式と呼ぶことにしよう。
うん、それが良い!(笑)

SNAKEPIPEが高校の美術の教科書で観たのはこの絵。
バルトロメオ・ヴァンゼッティとニコラ・サッコ(1931-1932)である。
1920年代にアメリカで偏見による冤罪疑惑により大問題となったサッコ・ヴァンゼッティ事件で死刑執行された2人を描いた作品である。
容疑者の2人がイタリア系の移民であり、徴兵を拒否したアナーキストだったという理由から、警察は明確な物的証拠がないまま二人を検挙、さらにニセの目撃者まででっち上げる始末。
知識人や当時のイタリア首相まで有罪判決に抗議するほど、社会的な大問題になった事件だったなんてことは女子高生だったSNAKEPIPEは知らなかった。
ただ、この絵のインパクトはずっと覚えていたんだよね。

インパクト、という点では今回の展示の中で最大級だったのはポスターだね。
上は「This is Nazi brutality」(これがナチスの残虐だ) という1942年の作品である。
ポスターはどれも主題がはっきりしていて、ズバッと大きく描いているのが特徴的である。
ポスター本来の目的を果たしながらも、アート的である点が重要だね。

ポスターには採用されていなかったけれど、ベン・シャーンの作品でもうひとつ気になったのはフォント。
絵本や挿絵などの作品もたくさん制作しているベン・シャーン。
解説には自身の子供のために作ったと書いてあり、優しい作風に納得する。
左の作品はちょっと小さくて解り難いかもしれないけれど、独特のフォントが採用されている。
リンチ・フォントの時と同じようにシャーン・フォントと名付けたくなるね。(笑)
どうやら石版画職人だった頃に、レタリングの技術を習得したらしい。
確かにこの字体は素人じゃないよね。
今回の展覧会での主要な展示であるドローイングには、最小限の線だけでそっくりな人物画を描き切っている作品が多くあり、その見事さに驚かされた。
なるほど、展覧会の副題が線の魔術師なのもうなずけるね!

今回の展覧会には3枚しか展示されていなかったベン・シャーンの写真。
こんな作品群が観たかったー!という4枚を選んでみたよ。
1935年から1938年にかけて撮りためた写真はおよそ6000枚とのこと。
再入植局と農業安定局のプロジェクトによる撮影ということで、人物を中心に撮られtレいることが多いみたい。

恐らくSNAKEPIPEが選んだ上の写真は街中なので、ベン・シャーンの個人的な趣味のための写真なのかもしれないけどね?
どの写真を観ても、対象と写真家の距離が近い。
相手が警戒しないで被写体となっていることが判るので、ベン・シャーンはコミュニティやその街に同化して撮影を行なっていたんだろうね。
ドキュメンタリー・フォトとしても、スナップ写真としても優れた写真群だと思う。
写真展があったら観たいなー!写真集でも良いな!(笑)

ベン・シャーンは自分で撮影した写真を元にして、絵を描いていたようだ。
人物を描く際にも使用していたみたいだね。
上の作品「Handball」(1939年)も極めて写真的な絵画だよね。
いや、もう写真そのものと言って良いんじゃないかな?
恐らく写真で鑑賞しても充分カッコ良い作品だったと思うよ。
そう、ベン・シャーンは社会派に目覚める前から、まるで写真のような絵を描いていた。
絵の人なら中心を主題だけに置くような場合でも、ベン・シャーンはまるで広角レンズを覗いた時のような構図にしているのだ。
きっと写真家的な目を持った画家だったからこそ、グラフィックも手がけたマルチアーティストに成り得たんだろうなあ。

日本のリアリズムや社会派などと呼ばれるような、人間の苦悩や時事問題を扱うような文学、写真、映画、その他諸々の表現世界には、ほとんど興味がない。
今でも「しわが刻まれた老人の顔」や「農村で働く人達」をモノクロームで撮影し、「これぞリアリズム!」と叫ぶ人もいるだろう。
その手法が古いとか新しいとか、良いとか悪いの問題ではなく、単なるSNAKEPIPEの好みだからね。
それなのに何故だろう、1920年代や1930年代のアメリカやヨーロッパの写真となると、「カッコ良い!」と思い、更には「懐かしい」とまで思ってしまう。
これは以前SNAKEPIPE MUSEUMでStephen Shore について書いた時にも似たようなことを言ってるな。
一言で言ってしまうと「憧れ」になるのかもしれないね。

さて、今年は今回のブログが最終回ということになるんだね。
夏が長くて暑い日々が続いていたら、急に寒くなって。
あんまり師走だ、クリスマスだ、と感じないまま正月とは!トホホ。

今年もブログを一回も欠かさずに書き連ねることができて良かった!
来年もまたROCKHURRAHと二人で「次のブログはどうしようか?」と頭を抱えながら、何かしらの記事を書いていきたいと思っている。
ROCKHURRAHブログ・ファンの皆様!来年もよろしくお願いいたします。
どうぞ良いお年を!

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