映画の殿 第34号 市川崑「横溝正史シリーズ」02

20180923 top
【フランス人をも魅了した美人女優、岸恵子】

SNAKEPIPE WROTE:

市川崑監督作品「横溝正史シリーズ」の第2弾!
今回は「悪魔の手毬唄」について書いていこう。

「悪魔の手毬唄」は1957年から1959年にかけて雑誌「宝石」に連載されていた横溝正史の小説である。
映画化されたのは1977年。
市川崑監督が横溝正史作品を手がけた第2作目になるんだね。
※ネタバレしていますので、未鑑賞の方はご注意ください
まずはトレイラーを載せておこう。

簡単なあらすじはこちら。(Amazonより)

古い因習が息づく鬼首村(おにこべむら)で、村に伝わる手毬唄をなぞらえた殺人事件が次々に起こる。
事件解決を要請されて駆けつけた金田一は、手毬唄の謎を解こうと奔走する。

「犬神家の一族」に続き、金田一耕助を演じるのは石坂浩二。
ぼさぼさ頭で、髪をかきむしると大量のフケが落ちるのがお約束なんだけど、「悪魔の手毬唄」では入浴シーンがあるんだよね。
お風呂に入ってもシャンプーはしないってことかな?(笑)
「悪魔の手毬唄」では以前からの知り合いである岡山県警の磯川警部に調査を依頼され、鬼首村にやってくるのである。
この村の名前からしてすでに禍々しいもんね。

金田一耕助に調査を依頼した磯川警部を演じたのは若山富三郎。
20年間も粘り強く未解決の事件を追っているんだよね。
SNAKEPIPEは勝新太郎と若山富三郎の区別がつかない時があって、今回も間違えそうになっていたよ。(笑)
あまり邦画を観ないせいもあるけれど、若山富三郎が出演した作品の記憶がないんだよね。
「悪魔の手毬唄」では、警部役が似合っていたよ。
Wikipediaで出演作品一覧をみると、時代劇かヤクザ映画が多いみたいだけど、人情味のある穏やかな今回の役はとても良かったよ。
もっとこんな役があったら、若山富三郎の代表作が違っていたかもしれないよね?
あまり知らないで書いてるので、間違っていたらごめんなさい。

金田一耕助が逗留した宿の女将リカ役の岸恵子。
岡山の僻村に、こんな女将がいたら大事件だよ!
1932年生まれの岸恵子、この映画の時45歳なのかな。
驚くほどの美しさに惚れ惚れしちゃうね。
昭和の時代の女優さんってキレイな人多いよ。
ちょっとおっちょこちょいな女、という役柄も合っていたね。
リカには一男一女の子供がいるんだよね。

「犬神家の一族」では元ジャニーズのあおい輝彦が重要な役を演じていたよね。
市川崑監督2作目でリカの長男を演じたのは、ある程度の年齢の人なら知ってるフォーリーブスの北公次。
ジャニーズ事務所所属タレントとしては、かなり古株だからね。
ちなみに画像左にいるのは大和田獏ね。若い!(笑)
映画というのは、ある程度の宣伝効果も考えてキャスティングされるだろうけど、この時期のフォーリーブスの人気は下降気味だったみたいね。
役者として活躍していく、というところまでいかなかったのは、この演技を見ると納得かも。
最近のジャニーズ事務所所属タレントは、歌も踊りも演技も得意だからね。
器用さがないと芸能界では生き残れないんだろうなあ。

リカの長女、里子。
生まれつき体の半身に痣があり、人目を避けるため蔵に住んでいる。
鬼首村にいわくつきで生まれた女、というだけで小説やホラー映画の題材になるよね。
あまりセリフもなく、頭を頭巾でくるむ登場が多かったし、あんなことになってしまうので、ずっと不幸なままの里子だったよ。
演じていたのは永島暎子。
出演作品を調べてみたけど、ほとんど知らないものばかり。
邦画もドラマも、あまり知らないからねえ。

里子には3人の幼馴染がいるんだよね。
それぞれ屋号を持った家に生まれた女の子達が、仲良く遊んだ記憶の映像化が怖かった!
少女達が毬をついているだけのシーンなんだけど。
人形なのか人間なのか判別できなかったんだよね。
日本人形というのが、愛らしさよりも怪談で語られることが多いせいかな。
かなり不気味で、SNAKEPIPEは殺人現場よりも恐ろしく感じたよ。

金田一耕助に手毬唄を聞かせたい、と由良家の隠居である五百子が手毬唄を歌いながら毬をつくシーンも怖いんだよ。
演じているのは原ひさ子。
おばあちゃん役でしか観たことがないような?
腰が曲がっているので、畳と毬との距離は30cmもないみたい。
かぼそい声で歌うのが鬼首村手毬唄。

うちの裏のせんざいに
すずめが三匹とまって
一羽のすずめのいうことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様
狩り好き酒好き女好き
わけて好きなが女でござる
女たれがよい枡屋の娘
枡屋器量よしじゃがうわばみ娘
枡ではかって漏斗で飲んで
日がないちにち酒浸り
それでも足らぬとて返された
返された

二番目のすずめのいうことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様
狩り好き酒好き女好き
わけて好きなが女でござる
女たれがよい秤屋の娘
秤屋器量よしじゃが爪長娘
大判小判を秤にかけて
日なし勘定に夜も日もくらし
寝るまもないとて返された
返された 

桝屋こと由良家の泰子が最初の犠牲者、 秤屋こと二礼家の文子が2番目に殺害される。
手毬唄通りに演出された現場は、芸術的ともいえるよね。
そして手毬唄3番で錠前屋の娘が「返される」ことになっている。
「返される」とは「始末される」ってことね。
錠前屋こと別所家の千恵を演じたのは仁科明子。
ところが別所知恵は生き残る。
別人が「返され」てしまったんだよね。 

里子の幼馴染3人の母親達は、脇役ながら大女優が揃っていたよ。
左から白石加代子、渡辺美佐子、草笛光子ね。
草笛光子は「犬神家の一族」では三姉妹の三女で登場していたけれど、今回は少し足を引きずって歩く由良家の嫁だったよ。
以降の横溝正史シリーズでは必ず出演しているんだよね。
白石加代子は、なんともいえない迫力がある女優で、初めて観た時は驚いたよ。
ドロドロした日本土着の風習や因縁めいた話を語らせたら、右に出る者はいないんじゃないかという雰囲気がある。
なんといっても顔が怖い!
脇役でも強い印象を残すんだよね。
渡辺美佐子はSNAKEPIPEにとっては「ムー」のおかみさんなんだよね。(笑)
優しいおかみさんのイメージだから、横溝正史シリーズに出演している事自体に違和感があるよ。
そんな感想を持つのは少数かもしれないけどね?

「犬神家の一族」で存在感を示していた加藤武が、再び岡山県警の主任として登場!
勝手な推理で犯人を特定し、
「よーしわかった!」
と手を叩くポーズと粉薬を口から吐き出しながら喋るシーンは、シリーズ全編を通して見ることができるよ。
「いつでるか」
と期待して待ってしまうんだよね。(笑)
加藤武の後ろにいるのは岡本信人ね。若い!

「いつでるか」と期待して待ってしまう俳優は他にもいる。
三木のり平と沼田カズ子である。
今回の三木のり平は元活弁士という役どころ。
沼田カズ子は前回同様、無愛想な妻役である。
昔を懐かしがって当時の思い出を語り続ける三木のり平に対して、ぶっきらぼうながら金田一耕助の手助けをするカズ子。
この2人、名コンビだなあ!
毎回楽しみにしちゃうよ。(笑)

事件解決のヒントが鏡に写ったみかんというのが面白かったよ。
相変わらず、相手に不審がられないちょっと間延びしたような口調で、必要な情報を集めていく金田一耕助。
強烈な事件現場とは対照的に、安心感や時に笑いをもたらす金田一耕助の存在を象徴するようなシーンだったね。

コン・タッチは当然のように「悪魔の手毬唄」でも健在だよ。 
唐突に右のようなコンマ何秒かの映像が挟み込まれる。
思考する金田一耕助を表していると思うんだけど、この短い映像があるのとないのとでは全然印象が違うだろうね。
Wikipediaによれば、市川崑監督というのは非常に感覚的な人だったらしい。
こういうアイデアも突発的に浮かんで採用したんだろうね。
オープニングのクレジットにおけるタイポグラフィは真似て使った人がいるけれど、映像はどうだったんだろうね。
影響受けて、コン・タッチを真似た監督いたのかな?

「悪魔の手毬唄」には、上に書いてきたように記憶に残るシーンはたくさんあるけれど、このシーンが最強かな。
夕暮れ時の峠で、金田一耕助は腰が曲がった老婆に出会う。
「おりんでござりやす。かわいがってやってつかあさい」
ぶつぶつ喋りながら通り過ぎて行く、あの場面ね!
全体的に色調が暗めの「悪魔の手毬唄」だけど、夕暮れ時だから更に暗くて、左の画像でもほとんどシルエットにしかみえないよね。
いつかこんな峠を歩くことがあったら、「おりんごっこ」してみたいよね。(笑)
たまたま知ったけど、どうやら岡山県倉敷市に「おりん像」が建っているとのこと!
このシーンがいかに強い印象を残したのか、わかるエピソードだよね。

「犬神家の一族」に続いて制作された「悪魔の手毬唄」も、石坂浩二が主演だったため、金田一耕助像が「あの姿」で定着したよね。
他の俳優が演じた場合には、石坂浩二版金田一を踏襲してるからね。
脇を固める加藤武や大滝秀治といった俳優も、毎回出演することが決定的になったのがこの2作目だろうね。
40年以上前の作品なのに、改めて鑑賞しても展開にハラハラしながら引き込まれるよ!
市川崑監督の横溝正史シリーズは制作順に特集するので、次回は「獄門島」だね。
どうぞお楽しみに!(笑)

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