「デヴィッド ・ リンチ_精神的辺境の帝国」展 鑑賞

                   

20190505 top
【GYREビルの中央吹き抜けにオブジェと化した大量のリンチ・ポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

元号が変わった矢先、不幸なニュースが飛び込んできた。
遠藤ミチロウの訃報である。
教えてくれたのは長年来の友人M。
遠藤ミチロウは少女時代のSNAKEPIPEに影響を与えた人!
2014年に「ふたりのイエスタデイ chapter02 / The Stalin」という記事で思いを綴っているよ。

ザ・スターリンの解散ライブ以降、ミチロウ本人のライブに参戦したこともない。
それでもやっぱり応援しているし、ずっと頑張ってもらいたいと思っている。
ザ・スターリンは今でも、SNAKEPIPEの核となる存在だからね!

そんな文章を載せているSNAKEPIPE。
訃報を耳にした途端、急に力が抜けてしまった。
実際に亡くなったのは4月25日、膵臓がんのためだという。
すぐにザ・スターリンを聴き直す。
きっとこれからも、何度も聴くだろう。
SNAKEPIPEの心と記憶の中では、ずっとミチロウは生き続けてるからね!

悲しい気分を払拭するためではないけれど、ROCKHURRAHと共に表参道に向かったのは「デヴィッド ・ リンチ_精神的辺境の帝国」展のため。
今年のGWは例年とは違い、スカッと晴れた日が少なかったよね。
この日も家を出た途端に雨が降り出し、肌寒いのか思うと急に晴れ間が見えて汗ばむ陽気に変化。
一番服装に困る気候なんだよね。

GW中はもっとたくさんの人が表参道〜原宿界隈を闊歩しているのかと思いきや、予想よりも少ない人出だったのが意外だった。
おかげでスムーズな移動ができて良かったよ。
今回の展覧会が開かれている「GYRE GALLERY」 、今まで行ったことがないかも?
そもそも読み方が分からないし。(笑)
「ジャイル・ギャラリー」で良いみたいなんだけど、場所は一体どこ?
調べてみるとMomaのショップが入っている、あのビルだったんだね。
何度か訪れているはずだけど、ギャラリーがあったことは覚えてないよ。

ビルの1階からエスカレーターで3階を目指す。
中央の吹き抜け部分に、なにやらオブジェのような物体が。
じっくり見ていると「LYNCH」の文字が読める。
あっ、リンチの展覧会のためのオブジェだったんだ!
まずはその様子を写真に撮ってから、会場に向かう。

3階には非常に多くの行列ができている。
まさかリンチの展覧会を鑑賞するための行列?
ひとまず行列の先を見極めようと歩き始める。
「ナニ?ドコイク?」
タキシードを着た黒人に呼び止められる。
「ギャラリー、アッチ」
なんと、行列はPLAY COMME des GARÇONSのためのものだったみたいで。
服買うために並ぶんだ!
しかも用心棒役にあえて黒人雇ってるとは!
その昔、裏原系のショップで同じようにガタイが良い男を用心棒として入り口に配置しているのを見たことあったけど、ギャルソンも同じようなことをしているとはね。
その行為に驚きながら黒人に指さされた方角に目をやると、ギャラリーは薄暗くて開館していないかのようにひっそりしている。 
黒人にお礼を言い、ギャラリーに足を踏み入れる。

受付に若い女性が座っていて、しっかりした紙質のフライヤーを手渡してくれる。
あまりにもシーンとしているので、かなり密やかな声で
「こちらは撮影オッケーですか」
と質問すると、大丈夫との答え。
受付の女性まで小声になっているのがおかしい。(笑)
オッケーと聞けばバシバシ撮影するのみよっ!
ほんの数人しか入っていない会場も好都合!
ROCKHURRAHと鑑賞を始めたのである。 
今回は「ペインティング7点、ドローイング3点、工業地帯の写真22点、水彩画12点」という合計44作品の展示と映像作品が上映されていた。
気になった作品を紹介していこう!

「BOB’S STRING THEORY」(2000年) からスタート。
リンチがボブという名前を使う場合、最初に思い出すのは「ツイン・ピークス(原題:Twin Peaks 1990年-1991年)に登場したボブのことになってしまうよね。(笑)
「ツイン・ピークス」のパイロット版は1989年に公開されているので、それから約10年後のボブということか。
タイトルを翻訳すると「ボブのヒモ原理」? 
A地点からB地点までを結ぶ線と、まるで血痕が流れ落ちたような怪しいシミ。
ROCKHURRAH RECORDSでリンチ・フォントと命名した、リンチの文字が無邪気に見えるだけに余計恐ろしく感じてしまうんだよね。 
リンチが何を言わんとしているのかは不明だけど、不吉な印象を持ってしまう。

「WHEN SOMEBODY LOVES YOU」(2000年)も上と同じ年に制作され、同じような土色をバックにしている作品。
ぎごちなくマス目に区切られたキャンパスに、タイトルが書かれている。
「誰かがあなたを愛する時」という、ロマンチックに捉えることも可能なタイトルにも関わらず、なんでしょうこの不気味さは!(笑)
絵の具をチューブのままひねり出したかのような厚みを持った中央の物体。 
変に光沢が残っているため、ぬめぬめしたいや〜な雰囲気なのよ。
横から見たところの画像も載せておこうか。
ほら、分厚さがよく分かるでしょ?
リンチの頭の中にはどんなビジョンがあったのか、想像してみようかな。

同じような「ぬめぬめ」が描かれている「GARDEN IN THE CITY OF INDUSTRY」(1990年)。
「工業都市のガーデン」というタイトルも、 色調も非常に好みの作品だよ。
かつて表参道にあった東高現代美術館にて1991年に開催された「デヴィッド・リンチ展」でも鑑賞しているSNAKEPIPE。
リンチ本人が会場入りし、初期の映像作品を鑑賞する会に抽選で当たり、至福の時を過ごしたっけ。(遠い目)
うっひゃー、今から29年も前のことになるとは!
実はその時にも長年来の友人Mが一緒だったので、これまた長い付き合いだこと。(笑)
そして今から思えば、小さく切り刻まれキャンパスに貼り付けられたアルファベットは、「ツイン・ピークス」で爪の中から出てきた「R」などの切り文字のヒントだよね。
今頃気付くのは遅いけど!

「DEAD SQUIRREL」(1988年)も東高現代美術館で鑑賞していた作品。
「死んだ栗鼠」という文字が5行に渡って貼り付けられているんだよね。
まるでお経を唱えてるようじゃない?
リンチはTMと呼ばれる超瞑想法を実践し、学校で教えるための資金集めとして財団まで設立するほど熱心なんだよね。
怒りっぽい性格が瞑想を行ううちに直っていったというエピソードを読んだことがあるよ。
ツイン・ピークスにも「チベット死者の書」を彷彿させるセリフも出て来たので、リンチと精神世界は切っても切れない関係にあることが分かる。
そんなことを思い出しながら、この作品を観たため、マントラを唱えているように錯覚してしまったのかもしれない。
マントラにしては不吉な言葉だけどね。

2012年にラフォーレ原宿で開催された「好き好きアーツ!#18 DAVID LYNCH—CHAOS THEORY OF VIOLENCE AND SILENCE」でも鑑賞した三幅対。
「DOG BITE」(2012年)である。
油絵で三幅対といえば、当然のように思い出すのがフランシス・ベーコンだよね!
そのベーコンさんの作品が「好き」と公言しているリンチなので、影響を受けるのも納得。
横向きの少女(?)が犬に噛みつかれ、顔が崩れるという経過を表しているように見えるんだけど違うかな?
あまり意味を考えなくても良いように思うけど、不思議な作品であることは間違いない。(笑)

水彩画は全てモノクロームの作品だった。
「MAN VISITOR」(2008-2009年)は展示作品の中で黒が強く、好みだったよ。
「男の訪問者」というタイトルから、リンチの映像作品に出てくる異形の男たちが浮かんでくる。
 「ツイン・ピークス」のボブ、「ブルー・ベルベット(原題:Blue Velvet 1986年)」のフランク、「ロスト・ハイウェイ(原題:Lost Highway 1997年)」のミステリー・マンとかね。
不穏な空気を纏った、なるべくなら関わりたくないタイプの男たち。
そんな彼らを黒い影で表現したように見える魅力的な作品だよね。

2000年頃に廃工場を写した作品群。
2012年に鑑賞したラフォーレ原宿の時はポーランドの工場の写真が展示されていたっけ。
今回はアメリカなのかな。
インダストリアル好きのSNAKEPIPEも大好きな工場地帯。
撮りたくなる気持ちがよく解るよね。
これは配電盤なのかな。
鉄材の雰囲気もさることながら、上から突き出しているパイプ状のもの、後ろの崩れた壁も全て最高!(笑)
こんな場所に遭遇したらフィルム1本くらい撮ってたな。
写真になると硬質になるのに、絵画ではぐんにゃり曲がったフォルムを多く描くことが多いリンチ。
別々に鑑賞したら、同じ作者とは思えないんじゃないかな。

この画像はSNAKEPIPEがGYREギャラリーで撮影したものなんだけどね。
シルバー色でピカピカ光る物体が分かるよね?
この写真は、こんな感じで横位置で展示されていて、その時は特別不思議に感じていなかったんだけど…。
帰宅後調べていたら、同じ画像の縦位置バージョンを発見!
これってどう見てもこの位置が正解じゃない?(笑)
ほとんどの写真が横位置だったから、展示する人が気付かなかったのかもしれないけど。
実際鑑賞している時には、SNAKEPIPEもなんとも思わず通り過ぎてしまったくらいだからね。
まさかの展示ミス?(笑)
これって誰も指摘してないのかな。
教えてあげたほうが良いのかしら?

会場中央に鎮座していたのは、なんとブラック・ロッジ!
小さな小屋になっていて、その中で映像が上映されていた。
およそ9分の映像なので、人が入れ替わりロッジに入って鑑賞する。
前の人を待って、中に入ると床の模様がっ!
この小屋を制作したのは日本人3人組のようだけど、粋な計らいだよね。(笑)
気分はツイン・ピークスの中だもん。
そしてリンチの映像が流れる。
「POZAR」(2015年)である。
ポーランド語で火を表すらしい。
映画「インランド・エンパイア(原題:Inland Empire 2006年)にも登場し、2012年の展覧会でも写真が展示されていたポーランド。
きっと何かリンチにインスピレーションを与える国なんだろうね。
そういえば「インランド・エンパイア」について感想をまとめてなかったよ。
いつかブログにアップしたいな!

リニューアル記念としてリンチの展覧会を企画してくれたGYREギャラリーに感謝だね!
無料でここまでの展示をみせてくれるなんて、素晴らしい限り。
冒頭に載せた画像にあるリンチのポスターも、無料で配布してくれるサービスにも感激したよ。
ちなみにこのポスター、非常に分厚い紙質なので持って帰るのに一苦労。
髪の毛を結ぶような太いゴムがないと丸めることが難しいんだよね。
持って帰ってくれてありがとう、ROCKHURRAH!(笑)

気分はすっかりリンチになってしまったSNAKEPIPEは、帰宅後リンチに関連した映画を所望する。 
「狂気の行方(原題:My Son, My Son, What Have Ye Done 2009年)」の存在は前から知っていたのに、何故だか観るのをためらっていた作品なんだよね。
監督は「アギーレ/神の怒り」で有名なヴェルナー・ヘルツォーク。
ヘルツォーク作品って実はそんなに知らなくて。
つい最近観たのが「カスパー・ハウザーの謎(原題:Jeder für sich und Gott gegen alle 1974年)」かな。 
TSUTAYAの発掘良品コーナーに並んでいたからね。
ヘルツォークへの特別な思い入れはなく、「狂気の行方」もリンチの名前につられているだけの話。
ヘルツォーク監督ファンの皆様、ごめんなさい!
リンチの肩書は「製作総指揮」。
いわゆるエグゼクティブ・プロデューサーなんだけど、映画権を持っていて監督よりも偉い人、ということで良いのかな。
名前は出てきたけど、映画との関わり方はよく分からないよね。
まずはトレイラー(英語版)を載せておこうか。 

この映像からリンチっぽさが垣間見えたでしょ?
大きくうなずいた、そこのあなたっ!
さすがはよく分かってらっしゃる!(笑)
ウィレム・デフォーとグレイス・ザブリスキーが出演しているんだよね。
ウィレム・デフォーは「ワイルド・アット・ハート(原題:Wild at Heart 1990年)」でボビー役だったし、グレイス・ザブリスキーは「ツイン・ピークス」でのローラのお母さん役、「ワイルド・アット・ハート」「インランド・エンパイア」にも登場しているリンチ組といって良い女優さんだよね。
この2人の出演によりリンチ色を感じたSNAKEPIPEだったよ。
映画について書いてみようか。
まずはあらすじを。 

サンディエゴの住宅街で殺人事件が発生。
母親を殺害したブラッド・マッカラムは、人質を取って自宅に立てこもっている。
事件を仕切るヘイヴンハースト刑事たちは、ブラッドの説得に当たる一方で、ブラッドの周辺人物から聞き込みを開始。
過干渉な母親と2人で暮らしていたマザコンのブラッドは、南米に旅行に行った後に人格が変わったようになってしまい、異常な行動を繰り返していたという。
婚約者のイングリッド、舞台演出家のリー・マイヤーズ、向かいの家のロバーツ母娘たちが語るブラッドの姿とは。
そして、事件の真相とは。(allcinemaより)

1979年にアメリカで起きた実際の事件(実母殺害事件)から着想を得たサイコスリラー作品とのこと。
この文章にヘルツォークとリンチの名前が加わったら、気になるよね?
気分はリンチ、というSNAKEPIPEにぴったりの映画!(笑)

主役であるブラッドを演じたのはマイケル・シャノン。(画像中央)
ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター(原題:The Shape of Water 2017年)」で、高圧的な軍人役を演じていたシャノン。
そのせいか「嫌な人」というイメージがついてしまっている。(笑)
「狂気の行方」ではマザコン男なんだけど、精神世界を求めて南米で修行するというシーンもあり、理想と現実の間でもがいている様子が分かる。
勝ち気で頑固なくせに脆さもある、言ってしまえばワガママなヤツ。
そんな男にも婚約者がいるんだよね。
イングリッド(画像右)は、人が変わってしまったブラッドに辛抱強く付き合っている。
ブラッドと別れて、他の人と幸せになったほうが良かっただろうに、と思ってしまうSNAKEPIPE。
ブラッドの母親役が、我らがザブリスキーなんだよね!(笑)
ワガママ息子に手取り足取り、成人しているのにまだ小さな子供に接するような干渉ぶり。
そしてザブリスキー得意の「固まり笑い」とでも名付けたくなる、怖い笑顔を見せる。

映画としては実に単純な話だけれど、そこにブラッドの内面を忍ばせるようなエピソードが加わることで「どうしてこんな事件が起こったのか」を伝えようとしているようだ。
どうして「ようだ」と書いたかというと、そのエピソードを知ってもSNAKEPIPEにはブラッドみたいな男の心の動きを理解できなかったから。
結局のところ、最初で最後の母親への反抗が殺害だったのかな、と思ったくらいで。
いい年こいて、母親に甘えてる男のことなんてあまり知りたくもないんだよね。(笑)
この映画をリンチが監督してたらどうなってただろう?
もっと心の暗闇に焦点を当てて、共感せずとも印象的なシーンを映像化していたかもしれないよね。
結局、エグゼクティブ・プロデューサーとしてどんな形で関わったのか分からないままだったけれど、リンチの名前がクレジットされた映画はなるべく観ていきたいと思う。
他にもまだ未鑑賞の映画あるからね!

今回は敬愛するデヴィッド・リンチ特集にしてみたよ。
映画、絵画、写真に音楽と幅広い活動を行っているリンチは、真のアーティスト!
次はどんな形でアートを見せてくれるのか楽しみだ。

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