写真家ソール・ライター展 鑑賞

20170618 top
【Bunkamuraの会場前でポスターを撮影。歪んだポスターが良い感じ】

SNAKEPIPE WROTE:

今年の4月に「これぞ暁斎!」を鑑賞したBunkamuraザ・ミュージアム の予告に、とても気になる写真展があった。
写真家ソール・ライター展」である。
SNAKEPIPEはかつて写真に夢中になったことがあるけれど、全てのジャンルについて勉強したわけではない。
例えば写真家といっても商業写真家なのかアート作品を撮る写真家なのか、のような違いがあるからね。
それはきっと音楽でも絵画でも、どの世界でも同じだろうね。
「音楽好きですか?」
と質問されたことがある。
「はい」と答えても、質問者と話が合うとは限らないからね。(笑)
ちなみにその時の質問者の意図した「音楽」とはクラシック音楽を指していたようで、パンクなどのロックを「音楽」と考えるSNAKEPIPEとは完全に違っていたんだよね。
もちろん全く話はできなかったよ。

何故こんな話をしたのかというと、今回鑑賞したソール・ライターという写真家の名前を一度も聞いたことがなかったから!
SNAKEPIPEが知らないジャンルの写真家なんだろう、と予想した通りファッションフォトからスタートした人みたいなんだよね。
これはとても面白そう!
ソール・ライター展観に行こうね、と長年来の友人Mと約束する。

ここで簡単にソール・ライターの年表をまとめてみよう。(BunkamuraのHPより抜粋)

1923年 12月3日、ペンシルバニア州ピッツバーグに生まれる。
1930年代 ニューヨークのタルマディカル・アカデミーで学ぶ。
1935年頃 初めてのカメラ・デトロラを母親に買ってもらい、写真を撮りはじめる。
1946年 画家を志し移住したニューヨークで、表現主義の画家、リチャード・プセット・ダートと出会ったことで写真への関心が芽生える。
1951年 「ライフ」誌にモノクロ写真のフォトエッセイ<The Wedding as a Funeral>が掲載される。
1958年 「ハーパーズ・バザー」誌でカメラマンとして仕事を始める。
1960年代- 「エル」「ショウ」「ヴォーグ(英国版)」各誌のためにファッション写真を撮影。その後1980年代まで続く。
2006年 ミルウォーキー美術館でカラー写真による初の個展「In Living Color: Photographs of Saul Leiter」開催。
2008年 パリ、アンリ・カルティエ=ブレッソン財団で「Saul Leiter」展開催。
2013年 11月26日、ニューヨークにて死去。享年89歳。

「ライフ」「ハーパーズ・バザー」「エル」「ヴォーグ」など、世界的に有名な雑誌で活躍していたフォトグラファーだったんだね!
ファッション・フォトで有名な写真家といえば、例えばリチャード・アベドンヘルムート・ニュートンくらいしか思い出せなかったSNAKEPIPEなので、前述したようにソール・ライターは初耳じゃった。(笑)
商業写真というのは「作り込む」タイプの写真なので、構図もピントもバッチリ、ビューティフルなモデルの化粧も衣装もバッチリ決めた上でシャッターを切る、という印象がある。
色彩と構図のバランス感覚に優れているのがファッション写真家だと思うので、ソール・ライター展を非常に楽しみにしていたんだよね!

あともう少しで終了というところで、ついに約束を果たすことができた。
友人Mはしっかりとソール・ライター展の割引券まで用意してくれていたよ。(笑)
会期終了間際だったからなのか、いつでもそうだったのかは不明だけど、意外とお客さんは入っていたね。
先日の河鍋暁斎ほどではないけれど。 

それでは早速印象に残った作品を紹介していこうか。
展示はモノクローム写真から始まっていた。
実は載せた写真は展覧会には展示されていなかった作品だと思うんだけど、モノクローム写真にソール・ライターらしさがよく出ていたように感じる。
この作品もそうなんだけど、人間と対峙して撮るのではなく、人を風景の一部としてとらえてるんだよね。
目を見ないで話す人がいるけれど、SNAKEPIPEはきっとソール・ライターはそんなタイプだったんじゃないかと想像する。
面と向かって 「撮らせて欲しい」なんて言わない。
物陰からこっそりと盗み撮る。
人が写っている写真はほとんどの場合、相手が気付いていない状態で撮っているし、正面から写しているのは腰辺りで構えたノーファインダー。
その撮影スタイルが変わるのがファッションフォトなんだよね。

モデルとカメラマンという関係がはっきりするとソール・ライターのカメラの位置が変化していることが分かる。
きちんと目の高さにカメラがあるんだよね。
ソール・ライターにとって重要だったのが、「明確な立場」なのではないか。
モデルは撮られることを前提にソール・ライターの前にいるわけだからね。
スナップの場合は、単なる通行人だからソール・ライターとの関係性が見い出せない。
「撮って良い」にはならないんだろうね。
それでも密かに撮るわけだけど。(笑)
それにしてもファッションフォトとして観た場合、この写真は変わってるなあ。
ソール・ライターはモデルをスタジオの照明当てた状態ではなくて、街に連れ出してスナップ写真を撮るように撮影している。
こんな写真が当時の雑誌に掲載されていたとしたら、かなり衝撃的だったんじゃないかな。

元々は画家を目指していたソール・ライターにとって、ファッションフォトに手を染めたのは、生活費を稼ぐためだったらしい。
その割には(?)成功した人になると思うんだけどね。
仕事を離れて本来の自分らしさを表現したのが、カラー写真だと思う。
今回の展覧会のポスターにもなっている作品は、遠目で見たら写真に見えないよね。
これもまた相手に気付かれない窓ガラス越しの撮影。
結露した水滴と構図のバランスの良さ。
背景の黄色も効いている。
この写真を観て展覧会を鑑賞したいと思ったSNAKEPIPE。
これはきっと画家的な色彩感覚とファッションフォトを経験し、更に盗み撮りに優れたソール・ライターだからこその作品だよね。
盗み撮り、と書くと褒め言葉に聞こえないかな?(笑)

赤い傘が印象的な作品も、上に書いた感想と全く同じなんだけどね。
構図と色彩の素晴らしさ。
この作品は、デザインに近い感覚だろうね。
絵画で言えば、日本画の空間を意識した雰囲気になるのかな。
ソール・ライターの作品は動より静。
作品だけ見ていると、ソール・ライターがアメリカ人という気がしないんだよね。
寒そうな写真が多いせいもあるけど、ヨーロッパの写真家のように感じてしまう。
自分を売りこむのは美意識が許さず、作品について語るのも苦手だったというから、最小限の人間関係の中で、自分の楽しみのためだけに撮影していたようだね。
それにしてもたまたまだけど、選んだ写真が全て縦位置だ。
SNAKEPIPEも縦位置で撮影するのが好きだったから、無意識にチョイスしちゃったのかも。

今回の展覧会でSNAKEPIPEが一番気に入ったのがこれ!
「white circle」という1958年の作品である。
50年代にこんな抽象的な写真を撮っているとは。
まるで現代アートだよ。
得意の窓ガラス越し、赤・黒・白という3色を使用するのも赤い傘の作品と同じなんだけど。
抽象画家のマーク・ロスコが写真を撮ったら、こんな感じになるんじゃないか?と思ってしまうような作品。
非常に気に入ってしまったよ。
スマートフォンの待ち受け画面にしようかな。
うーん、SNAKEPIPEもこんな写真を撮ってみたい!
久しぶりにジェラシーを感じる作品に出会ってしまったな。
そしてまたもや縦位置写真だったね。(笑)

ソール・ライターは自分で撮影した写真に着色した作品も制作してるんだよね。
あれっ?この手法は2015年の「Gerhard Richter Painting展 鑑賞」でゲルハルト・リヒターが「オーバー・ペインテッド・フォト」と命名していた手法では?
2016年のROCKHURRAH RECORDSの年賀状制作でも取り入れたっけ。(笑)
リヒターとソール・ライター、手法は同じでもそれぞれ全然雰囲気違う作品になっているよね。
ソール・ライターの作品は絵画に近く完成されている。
リヒターはむしろ写真を潰してしまい、別物に見せる色の使い方だったからね。
ソール・ライターは水彩絵の具を使っているようなので、言ってみれば「塗り絵」みたいな感じになるのかな。

水彩画も展示されていて、その色使いの美しさに驚いてしまう。
不調和と不調和を重ねると調和になるような色彩。
マイナスとマイナスでプラスになるって感じ?(笑)
色の選択が独特で、友人Mは「すごーくきれい!」とうっとりしていたよ。
ほとんどがA4くらいの小さいサイズの絵画だった。
写真を撮りながら絵も描いていたのかな。
絵を描きながら色彩感覚を研ぎ澄ましていたのかもしれないね。 
絵画もアメリカ人を感じないなあ。(笑) 

1940年代後半から1950年代に撮影されたソール・ライターのカラー写真は、長い間現像されずに保管されていたという。
これは当時カラーの現像にお金がかかったこと、カラーの色味をコントロールするのが難しかったことなどが理由のようだ。
そして1994年頃に写真用品メーカー・イルフォード社が補助金を提供し、およそ50年の歳月を経て初めて写真が世に出ることになったというのだ。
そしてその写真が衝撃を与え、ソール・ライターの評価につながったのだという。
この時ソール・ライター71歳なのかな。
写真家として認知されるには、かなり遅咲きの人生だったんだね。
SNAKEPIPEがソール・ライターの名前を知らなかったのは、こんな事情があったことも原因していたのかも。

先日鑑賞した「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」(原題:Finding Vivian Maier 2013年)という映画を思い出した。
これはたまたまオークションで落札したモノクロフィルムのネガから撮影者を追うドキュメンタリー映画で、撮影した女性ヴィヴィアン・マイヤーは一枚の写真も発表することなくこの世を去っていたのである。
人から評価されること、認めてもらうことなんて関係なく、純粋に撮りたいから撮っていたんだよね。
結局ヴィヴィアン・マイヤーの写真は死後、世に出て人々を驚愕させることになる。
ソール・ライターは生きているうちに写真が日の目を見たわけだけど、ちょっと似てるなと感じたよ。

一枚の写真を観て、気になった展覧会に足を運べて良かったと思う。
最近はあまり写真に興味がなくなっていたので、今まで知らなった写真家の、ジェラシーを感じるような作品に出会えたことは大きな収穫だった。
写真家 ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」(原題:In No Great Hurry: 13 Lessons in Life with Saul Leiter 2012年)というドキュメンタリー映画があったそうで、それを鑑賞したらもっとソール・ライターを知ることができるだろうね。
いつか観てみたいと思う。 

収集狂時代 第7巻 Chanel編


【シャネルといえばマリリン・モンロー。No.5は有名だよね】

SNAKEPIPE WROTE:

2016年10月にまとめた「収集狂時代 第6巻 Louis Vuitton編」がとても好評だったので、また別のブランドでコレクターズアイテムを探してみることにした。
今回特集するのはなんとシャネル
そう、あの「おシャネル」である。(笑)

SNAKEPIPEとシャネルの思い出は、ほとんどないなあ。
昔昔、ありとあらゆるお稽古事に飽きてしまい働くことにした、という社長夫人と一緒の職場になったことがあり、その女性からシャネル製品をプレゼントされたことがある。
「C」が組み合わさった、シャネルのロゴマークのイヤリングだった。 
せっかくプレゼントもらったのに大変申し訳ないけれど、SNAKEPIPEには全く似合わなかったんだよね!
一度も着けないまま、人に譲ってしまったっけ。 
SNAKEPIPEの中では、シャネルというのは上品で洗練された大人の女性が好み、当然目ん玉が飛び出るくらいの高額品なので、相当なお金持ちが買うことができるブランドというイメージ。
メンズライクな服装や装飾品を好むSNAKEPIPEとは正反対だもんね!(笑)

そんな気品あふれる世界的に有名なブランドであるシャネルに、前回特集したヴィトンに匹敵するようなコレクターズアイテムなんてあるのかしら?
半ば期待せずに検索を始めたSNAKEPIPE。
予想に反してすぐに目を疑うような画像が次々と現れる。
え?うそ?本当にシャネル?
シャネルにもコレクターズアイテム、あるんだ!(笑)
早速紹介していこうか!

一番最初に目に入ったのが、このギター!
「CHANEL VINTAGE GUITAR」と名付けられたギターなんだよね。
ギターのヘッドとボディの裏側にシャネルのロゴがある。
ロゴ入りピックと調整可能なギターストラップ、ギターケースもセット。
ヴィンテージなだけあって、新しくシャネルがどこかの楽器メーカーとコラボして作った商品じゃないんだね。
だからこそ限定コレクション!
これはコレクターにはたまらないんじゃないかな?(笑)
さて気になるお値段は?
実際に販売していたサイトに書いてあったのは$27,500、日本円にすると約300万円!
アクセサリー代わりに下げて歩く?
オブジェとして部屋に飾っておく?
実際に演奏して見せびらかす?(笑)

これもシャネル商品なんだよね。 
そう、自転車ね!
世界でなんと50台しか作られていないという限定コレクション。
ハンドルやサドル、チェーンカバーにレザーが施されているのが分かるよね。 
いかにもシャネルというレザーのキルティングは手作業で加工された模様。
更に荷台部分には両サイドにシャネルのロゴ入りバッグが配されている。
これは取り外してショルダーバッグとして使用可能とのこと。
自転車そのものには特徴ないけど、「シャネルの自転車」というだけでいいんです!
これはコレクター魂に火をつけるだろうなあ。(笑)
さて、気になるお値段は?
MSRP of $17,000、 ということは希望小売価格日本円で約188万円!
世界の50人のうちの一人になるんだから、この値段も納得だよね。
この自転車乗って買い物に行く時は、盗難に注意だね。(笑)

♫ブーメラン、ブーメランきっとあなたは戻ってくるだろお〜ぉ〜♫
えっ?この曲知らない?
西城秀樹の「ブーメランストリート」 (1977年)よ!
この画像を見て、一番最初に頭に浮かんだのがこの曲。
同じように思った人、多いんじゃないかな?(笑)
他に思い出すのは、任天堂のゲーム「ゼルダの伝説」で主人公リンクが使用する武器としてのブーメランね。
ROCKHURRAHが苦労しながら操作してたっけ。(笑)
そして、この画像のブーメラン、しっかりシャネルのロゴ入りなのよね。
シャネルがブーメラン!
ブーメランとは本来は狩猟や儀式で使用されていたという記述なんだけど、何故エレガントなシャネルで販売しているんだろうね? 
シャネルはアボリジニの文化を流用して利益を得ている、などと非難されている記事も発見したけれど、ブーメランってアボリジニ固有のデザインなの?
最近は非難や批判をネット上で繰り広げる様子が多く見受けられて辟易しちゃうね。
ネットだから言うんだろうなあ。
本気で考えてるなら、全財産投げ打って寄付でもしたらよかろうもん?(使い方がおかしい)
さてさて、シャネルのブーメランね。
お値段は$1,325、日本円で約15万円也!
さあ「ブーメランストリート」歌いながら、シャネルのブーメラン投げて遊ぼう!(笑)

これはもしや買い物カゴでは?
2014年、シャネルのコレクションはショッピングセンターをテーマにしていたそうで、こんな商品も販売されていたんだね。
カゴは5円玉と同じ素材である黄銅製、巻きつけてあるのはカーフスキンレザーだという。
実はこの画像のカゴの中身もシャネルの商品なんだよね。
「lait de Coco」と文字の入った牛乳パック型のバッグ($4,800、日本円で約53万円)とお肉のトレイにラッピングされたピンクのバッグ($3,600、日本円で約40万円)。 
そして買い物カゴは$12,500、日本円で約138万円也!
うひゃー!このセットだけで230万を超えてるんだね。(笑)
こんな買い物カゴを「マイバッグ」で持ち歩いて、イオンとかイトーヨーカドーで実際に使う人もいるのかなあ。
本当のお金持ちは自分で食材買うことないか。(笑)
それにしてもシャネルの遊び心には感心してしまうね。
エレガントで上品なイメージだけじゃないんだね。

これは物騒アイテム!
ヒールの形がピストルになってるよ。(笑)
画像検索したら、この靴を履いてポーズを決めてるマドンナの写真が出てきた。
そうね、マドンナのイメージにピッタリだもんね!
「Miami Vice Gun Heels」と名付けられたこの靴だけど、「マイアミ・バイス」を観たことがないSNAKEPIPEにはいまいちピンと来ないよ。
素材がサテンでソールはラバーだという。
ピストル部分は、本物なのかなあ?(笑)
もしそうだったら「マイアミ・バイス」よりは「007」の女性スパイ(毒針入りの靴履いてた人)に履いてもらいたいよね!
ロバート・ロドリゲスの「プラネット・テラー in グラインドハウス」(原題:Planet Terror 2007年)での片足マシン・ガールも似た設定だったっけ。
ロドリゲスの映画ではブラジャー型のガンもあったけど、世界的に有名なファッションブランドが物騒アイテムを使用した商品を実際に販売するとは驚いちゃうよね。
お値段は$2,800、日本円で約30万円。
思ったよりはお買い得だと感じてしまったけど、中古品の値段だったのかな?
この値段ならコレクターは必ず購入するだろうね!(笑)

こっ、これは!
ロボットなのかな?
2017年の春夏コレクションで登場したバッグとのこと。
そのためまだ商品化されていない段階なので、「お値段についてはシャネルのカスタマーセンターへお問い合わせ下さい」と書かれているよ。
どうやらこのシーズンのシャネルのテーマが宇宙だったようで、未来的なSF要素の強いデザインを多く取り入れていたみたいなんだけど、、、。
このロボット型のバッグはなんとも可愛らしい。(笑)
グルグルの目にちょっと笑ったように見える口。
肩(?)の部分にはしっかりとシャネルのロゴが入り、腕はスパナ型。
まるで「攻殻機動隊」の少佐みたいなモデルさんがカッコ良くポーズ取ってるけど、どうしても笑いがこみ上げてきてしまう。
だって本当にカワイイんだもんね。(笑)
勝手にシャネ坊と名前付けちゃおう!
ところが本当の名前は「minaudière」君(読めない)、素材は樹脂やルテニウムとのこと。
実際に物を入れるためというよりは、アクセサリー感覚で持つんだろうね。
以前にもシャネルは「Chanel Russian Doll Clutch」というマトリョーシカをモデルにしたクラッチバックを販売していて、大人気だった様子。
きっと今回のシャネ坊も人気になるだろうね。
SNAKEPIPEですら気に入ってしまったくらいだから。(笑) 

SNAKEPIPEが持っていたシャネルのイメージが一変した!
こんなに個性的なデザインが展開されていたとは知らなかったね。
シーズン毎にトレンドが入れ替わるファッションには興味がないし、全く詳しくないSNAKEPIPEでもカール・ラガーフェルドの名前は知っているし、顔や特徴を覚えている。
カール・ラガーフェルドがシャネルのデザインを担当して、低迷していたシャネルが復活したそうだ。
これだけ個性的な路線を打ち出して成功してるとは、やるねカール!(笑)

今回の収集狂時代、シャネル編も面白かったね!
また別のハイ・ブランドで特集を組んでみたいな。

ニッチ用美術館 第2回

【TV番組風のタイトルバック。BGMはまだない】

ROCKHURRAH WROTE:

ちょっと前に始めたシリーズ企画「ニッチ用美術館」だが、本日はその2回目にしてみよう。

ニッチ用と検索するとインテリア通販サイトなどでよく使われている言葉なのがわかる。
家具を配置した隙間、デッドスペースを有効利用するための家具などがニッチ用に分類されてるらしい。
Nicheとは生態学でよく使われる用語らしいが、日常で使われているのは第1回にも書いた通り、大資本がなかなか手を出さないような小さな市場(隙間)を狙った「ニッチ産業」「ニッチ市場」などの言葉。そういうビジネス用語として知られているみたいだね。

どこかの会社員が会議の席などで「我が社としてはそういうニッチな部分に着目して・・・」などと言ってるかも知れないが、ROCKHURRAHとしては「今どきあまり人が語る事のないレコードのジャケット・アートワークについて」割といいかげんに語ってゆこうというつもりでこのタイトルにした。
あまり人が語らないような分野を拾い集めてROCKHURRAHが語ってゆけたら、というのがウチの目標。Webの隙間狙いという意味合いだ。
そうは言っても本当に誰も語らないマイナー路線ばかりはさすがに難しいから、その辺の統一感のなさも特色だと思ってね(また言い訳)。
もちろん、70年代のパンクや80年代のニュー・ウェイブという狭い範囲だけを好みにしているROCKHURRAHだから、語ってる内容も大体ニッチに違いないよ。

SNAKEPIPEがやっている別の企画「SNAKEPIPE MUSEUM」も自分だけの仮想美術館という設定でコレクションを続けている。ROCKHURRAHが目指すのはあくまでレコードのジャケットについてのみなので、方向性は似ているがかぶる事がない。いい関係だね。

TV番組風のオープニング映像も用意して、ジャケットも美術館の展示品風にするといった凝りようで、ROCKHURRAHの意気込みもわかってもらえるかな?

では2回目の展示を順路沿いに鑑賞してみようか。

ROOM 1 捩りの美学
この漢字を書けない人も、こんな字初めて見たよって人も多かろう。子供の時から難しい漢字や当て字の多い小説を読破していたROCKHURRAHだが、自分で今書けと言われても無理だな。パソコンに頼りすぎて漢字を忘れてしまった日本人の一人だと痛切に思うよ。
これは「もじり」と読む。ねじるでも同じ字を使う場合もあるらしいけど。
そこでモディリアーニっぽいジャケットを用意出来たら気が利いてたんだが、不覚にも違う路線にしてしまったよ。

一般的にはこのジャケットのようなのはパロディと呼べば済むシロモノだけど、第1回から全部日本語でチャプターを「○○の美学」と書いてきたから日本語、しかも漢字に置き換えて無知を晒してしまったというわけ。

マネの有名な作品である「草上の昼食」はその後の著名な画家による同じ題材の作品を生み出した、パロディの元ネタとしては大変にポピュラーなものだが、オリジナルは当時のフランスではセンセーショナルなものだったらしい。格別に美術に詳しくないROCKHURRAHなどは「何が?」と思ってしまうが、その当時は女神とか神話の裸婦以外は猥褻扱いされてたとの事。ふーん、西洋絵画なんて石を投げれば裸婦に当たると思ってたんだが、これは意外。
まあ今の日本でも全裸ピクニックは禁止されてるから当たり前なのかねえ。

そんなマネの真似ジャケットとしてニュー・ウェイブ界で名高いのがバウ・ワウ・ワウのこのアルバム「ジャングルでファンファンファン(1981年)」だ。
「あまり人が語らないような分野」などと偉そうに語った割にはいきなりメジャーで申し訳ない。

その後にCDの時代が長く続いたから考えられないけど、レコードはもう古臭いから、これからはカセットテープの時代が来る、などと予見し、1stアルバムをカセットのみで発表した変わり種のバンドだったな。
1979年に発売されて大ヒット商品となったウォークマン。ヘッドフォン付きカセット・プレイヤーの元祖だね。しかし持ってた全員が自宅でレコードを録音出来る環境じゃなかったはずだから、このように録音済みのカセットテープは案外有難かったのかも知れないね。買ったその場で聴けるし。その後、アイワが録音出来るカセットボーイを発売したが、自分で録音するのも面倒って人も多かったんじゃなかろうか?
あるいはその対極にある大型ラジカセ。これを持って街中で踊ったりするヒップホップが流行ったりしたのも80年代だ。
バウ・ワウ・ワウのカセットはそういう人狙いの商法だとは思ったけど、上記のような流行りがその当時のイギリスでもあったのかどうかは不明。
カセットテープの時代が来るってほど普及はしなかったような記憶はある。1984年くらいにはすでにCDウォークマンの元となるような携帯型が開発されて、そっちの方が進化していったからね。

で、このジャケットは2ndアルバム。カセット作戦が売れたのかコピーされまくったのかは知らないが、ちゃんとレコードでリリースされた。

ニューヨーク・ドールズ、セックス・ピストルズなどパンクの仕掛け人として名高いマルコム・マクラーレンが、初期アダム&ジ・アンツからメンバーを引き抜き作ったのがバウ・ワウ・ワウだった。
このジャケットに全裸で挑んだのがこの当時まだミドル・ティーンだったアナベラ嬢。これが母親の訴えにより問題となり発禁・・・ではなく発売延期になったらしい。日本では普通に売ってたような記憶があるが、それ以外の記憶はない。金で解決したわけじゃないのかね?
まあマネのオリジナルもこちらのパロディ・ジャケットも世間で問題になったという点では同じだろうか。

悪名高い詐欺師マルコム・マクラーレンの操り人形みたいにバンドを演じていただけという悪評もあるけど、モヒカンのギターにモヒカンのビルマ系少女がヴォーカルというインパクトの強いヴィジュアルにアフリカンっぽいビート、チョッパー・ベースという音楽性はとても個性的で他にはない魅力を持っていたと思うよ。楽器メンバーがやたらと達者なんだよね。

褒めてはみたものの、メンバーを引き抜かれたアダム・アントがまたもや凄腕を集めて新生アダム&ジ・アンツを大ヒットさせ時の人になった、その不屈の根性(詳細はまるで知らないが)に比べるとセンセーショナルで個性的だったバウ・ワウ・ワウは意外なほどはじけなかったな、という印象がある。
この曲のイントロ部分のビデオは「I Want Candy」とほぼ同じ撮影だと思われるし、結構使いまわしてるなあ。
MTVを最大限に利用し、面白い映像とヴィジュアルで人気を得たアダム&ジ・アンツと比べるとその辺がおざなりな感じがするんだよね。

ROOM 2 西班牙の美学
これまたあまりなじみのない漢字になってしまったが漢字クイズをしているわけではない。昔の本に慣れ親しんだ人にはすぐにわかるだろうけど、これはスペインを漢字で表したもの。
「スペインの血」というタイトルがついた絵画のジャケット。
簡素な線だが土のような色合いと赤が印象的な絵だね。頬杖をついた女性はデビュー当時の原田知世を思わせる(古い・・)が、今の世代だとまた違った少女を思い浮かべる人もいるだろうな。裾から顔を出してるのは傷つき倒れた闘牛士だろうか?
絵柄はまるで違うけど色彩はちょっとロートレックを思わせるね。え?全然?

ジャケットだけを見るとニュー・ウェイブのレコードとは思えないが、これはスペインで1980年代初頭から活動していたGabinete Caligariというバンドのもの。
バンド名は傑作サイレント映画「カリガリ博士(Das Kabinett des Doktor Caligari)」のスペイン語だと思われる。
しかし見た目はロカビリーっぽくて音楽はそういうのともちょっと違う雰囲気。哀愁の漂うスペイン風ウェスタン歌謡曲とでも言うようなもの。うーん、ドイツ表現主義とは全然結びつかないなあ。
なんかやってる事とバンド名との繋がりがよくわからんが、デビュー曲もスペインのポジパン/ゴシック系バンド、Paralisis Permanenteとのカップリングでますます活動範囲が不可解。

ちなみにこのParalisis Permanenteの方はラモーンズを暗くしたような音楽と派手な見た目で結構好きな感じ。非常にマイナーな例で大半の人にはよくわからんだろうが、カッコイイのを通り越して笑えるポジパンとして一部で有名なフランスのJad Wioと似た感じなんだよね。うん、今は全然関係ない話だったね。

この「ニッチ用美術館」の第一回でもスペインのエスプレンドール・ゲオメトリコについて書いたが、80年代初頭のスペインのニュー・ウェイブは日本ではほとんど紹介されてなかった。
だから勝手にこちらが「あまりニュー・ウェイブ的な文化がなかった」と勘違いしていたが、意外と奥が深くてやっぱりアートな感性も豊かな民族だなと思ったよ。
このバンドについてはニュー・ウェイブというニュアンスとはちょっと違うんだろうけど、時代としてはモロに当てはまるからね。

1983年のこの曲「Sangre Espanola」はスペインの伝説的な闘牛士フアン・ベルモンテについて歌ったものらしい(推測)。
その手の文化やお国柄が全く違うので日本人が闘牛について理解するのは難しいが、「トーク・トゥ・ハー」や「ブランカ・ニエベス」「マノレテ 情熱のマタドール」など、スペイン映画では闘牛シーンが割と出て来るので、かなりポピュラーなものなんだろうな。
日本で闘牛士について歌ったのはCharくらいのものか。
まあアメフトやクリケットに熱中している日本人があまりいないのと同じようなもんかね。
ビデオは見ての通り、特に語る事もないが、70年代に「悪魔のパンク・シティ」が日本ではまるで流行らなかったモミアゲ男ウィリー・デヴィル率いる、ミンク・デヴィルにちょっと似たルックスだな。

ROOM 3  諧謔の美学
何かわざと日常的でない漢字を使ってないか?と言われそうだがこれまた一般的にはあまり使わない言葉。「かいぎゃく」と読んで、意味はジョークとかユーモアと同じようなもの。
英語で言っても大半の日本人に意味がわかる言葉だから、あえて難しい言葉を使わなくなったという事かな?

ミラン・クンツ(またはクン)というチェコ人アーティストによるポップ・アートなんだが、ちょっとシュールで可愛くもあり時々不気味、漫画っぽいモチーフが印象的な作品を発表している。同じチェコ出身でミラン・クンデラ(「存在の耐えられない軽さ」で知られる)という作家もいたので、チェコではミラン君が割とポピュラーなのかな?

このステキなジャケットはドイツが誇るアタタック・レーベルの中心バンド、デア・プランのもの。ジャケットについて語る人がいないしメンバーに友達もいないので、記載されているクレジットでしか書けないのがもどかしいが、上記のミラン・クンツとデア・プランのメンバーでもあるMoritz Rによるジャケットとの事で、どこからどこまでが誰の分担なのかはよくわからなかったよ。ちなみにMoritz Rもドイツ人の名前なので読めん。確かモーリッツ・ルルルとかそんな名前じゃなかったかな?

デア・プランはDAFの初期ともメンバーが一部かぶっていて、ROCKHURRAH RECORDSでも何度もしつこいくらいに書いているノイエ・ドイッチェ・ヴェレ(ドイツのニュー・ウェイブ)の大御所バンドだった。大御所バンドなどと書いたものの、曲はチープなシンセ音だし奇妙なかぶりものをしたルックスだし、大御所感はまるでないけどね。
かぶりもの、と言えばアメリカのレジデンツがさらに有名だが、デア・プランの初期もレジデンツをもう少し電子的にポップにしたようなものだった。前衛的ではあるけど難解さを感じさせないところが好きだったよ。
そう言えばミラン・クンツもノーマル・グループという変な絵描き三人組でデア・プランと同じようなかぶりものしてたようだ。この辺がルーツなのかな?

83年くらいからは明らかにポップ路線になって「グミツイスト」など世界でも通用しそうな曲をリリースしたが、日本ではもちろん発売されずヒットもしなかった。
熱狂的な勘違いコンピューター信者をおちょくったような曲で当時の最先端だったIT用語が続々と呪文のように飛び出す、最後にコンピューターの事などよくわかりませんと言うハエが電灯の周りをグルグルしてるだけ、というようなシニカルな歌詞も素晴らしかったんだが。

このジャケットは1981年に出た「Normalette Surprise」という2ndアルバムのもの。片面が33回転、片面が45回転というLPと12インチ・シングルの中間のようなシロモノだったが、この頃はまだ明らかなポップ路線にはなってなくて、エレクトロニクスの実験的な曲が多い。
上のビデオは何年のものか知らないが、その中に収録されている「Lebdoch」のかなり珍しいライブ映像(?)だ。と言っても楽器持って演奏するわけでもなく、変な格好でウラウラしてるだけでさっぱり意味不明。こんな映像見せつけられても大半の人は無言になってしまうね。

ROOM 4 鐵板の美学
何だか前に当ブログでやった「読めん!編」みたいになってきたが、これは何となく読める人も多かろう。そう、鉄板を旧字体で書いただけ。
個人的には小栗虫太郎の奇妙な通俗探偵小説「二十世紀鐵仮面」とか読んでたから当たり前に読めたな。

工場地帯みたいなところをバックに記念写真を撮っている二人。工場からの煙なのか蒸気なのか雲の上なのか、白いもので覆われていて全景は見えない。あたりには他の人の気配はなく、置かれた三脚だけが寂しくシャッターを切る・・・。
などとどうでもいい情景描写を書いてしまったが、往年のシュールレアリスム絵画を彷彿とさせるような幻想的な作風だね。

ROCKHURRAHの大好きなこの絵を描いたのはディック・ポラックというオランダ人だ。そして彼が率いていたのがこのメカノというバンド。これはビックリ。画家かバンドかでバンド選んでる場合じゃないでしょ、というくらいのレベルの絵だよ(個人的感想)。詳しく知りはしないので画家がバンドもやってるというなら別だが。

メカノというのは20世紀のはじめにイギリスで生まれた知育玩具で穴の開いた金属板パーツをボルトとナットで締めて自由な形を作ってゆくもの。
デンマーク生まれのレゴとも似たようなものだが、レゴよりもはるかにメカニカルな感じの出来上がりになって好みが分かれるところ。
パーツが安く普及しやすいというのもあるし、ポップな色彩とメタルじゃ子供はやっぱりカラフルな方を選ぶんだろうな。映画やテーマパークにまでなってるレゴの方が圧倒的に人気だけれど。
SNAKEPIPEの意見は聞いてないがROCKHURRAHと同じで絶対メカノの方を選ぶに決まってる。ちなみに便宜上、鐵板の美学などと書いたが材質は洋銀、ニッケルだとの事。

そう、上の絵の三脚だと思ってたのはそのメカノで作ったロボット(?)の足だったというわけ。ディック・ポラックはメカノのジャケット絵画を描き続けて数十年、身も心もメカノに捧げてきたと言える。
オランダのニュー・ウェイブと言えばファクトリー・ベネルクス、そう、ジョイ・ディヴィジョンで有名なファクトリー・レーベルのベネルクス三国支部をまず思い出すが、日本ではほとんど知られてなかったミニー・ポップスとかね。それ以外にもこのメカノや弟分のフリュー、ミック・ネスなど、初期ニュー・ウェイブの重要バンドを生み出した知られざる先進国なのだ。

メカノは1978年にデビューしたオランダのパンク・バンドだったが、80年代にはもうすでに音楽性を変えて、ジョイ・ディヴィジョンのようなダークな音作りをするようになった。それだけならフォロワーの一種でしかなかったんだろうが、ヴァイオリンやアコーディオンを取り入れた哀愁のヨーロッパ歌謡みたいな路線もやってて、むしろそちらを好む大人層に人気があった。

ROCKHURRAHがこのバンドを知った頃にはすでに再発盤が出回っていて、オリジナルは入手困難になってたな。ジャケットが違っていてオリジナルにはディック・ポラックの絵が使われていたから探したんだけどね。さらに「Untitled」とか「Entitled」とか違いがイマイチわからんタイトルに似たようなジャケットばかりだったから、どれを買えばいいのかわからん初心者泣かせのバンドだったな。
しかしやっている音楽は思ったよりも骨太で、曲によっては眠くなるようなのもあるけど、目の覚めるような豪快なフレーズとかもあって衝撃を受けた記憶があるよ。長い長いイントロで嫌気がさした頃に突如ベンチャーズ風のリフが心地良い「Meccano」やこの曲「Escape the Human Myth」などは文句なくカッコイイ。
当時の映像が皆無なので年寄りになってしまった近年のライブ映像しかないが、これでも元はニュー・ウェイブやってたんだよ、という想像をしながら聴いてね。え?無理?

ROOM 5 谺の美学
一般的には木霊と書くが谺でも「こだま」と読む。樹木に宿る精霊だとの事だが、生まれてから自分の文章にこの字を使ったのはたぶん初めてだな。山の中を生活の拠点にしてるような人だともしかしたら日常的に使うんだろうか?

樹木に閉じ込められ一体化した女性の横顔。ギリシャ神話にはドリュアスという樹木の精霊が出て来るらしいが、そういうのを原典としてるのかな?不気味だけど美しい、抗えない魅力を持った象徴なんだろうね。
「エクソシスト」で有名なウィリアム・フリードキンによるホラー映画で樹木の精霊が出て来るようなのがあるんだけど、このジャケットよりもずっと後の作品。
何にしても、森でも沼でも人を引き込み犠牲にするようなのは定番だよね。

この幻想的なジャケットに挑戦したのはゴシック/ポジティブ・パンクの聖地バットケイヴ(というナイトクラブがあった)で活躍していた女性シンガー、ダニエル・ダックスだ。
撮ったのはこの手の題材を大得意にしている女流写真家ホリー・ワーバートンという人。
ダニエル・ダックス以外にもオール・アバウト・イヴ(美女シンガーで評判だったイギリスのバンド)のジャケットなどでも有名なので、見たことある人も多かろう。大体いつもこういうタイプのジャケット写真を撮ってるんだけど、このジャケットが(モデルも含めて)一番いいと思ったから今回取り上げてみたよ。

ダニエル・ダックスは元々実験音楽人カール・ブレイクと共にレモン・キトゥンズというバンドでアヴァンギャルドな音楽をやってたんだが、解散後にソロになる。
どういう経緯でかは知らないがそのバッドケイヴでは他のポジパンの連中と同じように、不気味な死体のような白塗り化粧で歌を歌っていた。
かなりグロな人体パーツ福笑いのようなジャケットのアルバムを1983年に出して、ソロ2作目が樹木妖精になった上のレコードとなる。
割と童顔で可愛い顔立ちなのに、やってる事は結構先鋭的というアンバランスさが良かったよね。
その後再びメディアに注目された時(1987年の3rdアルバムの頃)は、今度は竹の子族のようなキンキラ衣装で派手なメイクという姿。短期間で随分健康的になって印象が違ってたのに驚いたもんだ。

やってた音楽はいわゆるポジパンとは違っていて、ガムランや中東っぽい旋律だったりスワンプ・ロックっぽいものだったり、それらのごちゃ混ぜにアヴァンギャルドやサイケデリックな風味も合わせたユニークなもの。すごい低音から高音まで自在に操る歌唱力も文句なし、オルタナティブ界を代表するヘンな歌姫として評価も高く、日本では大してヒットもしなかったにも関わらず、来日公演までしている。
上のジャケットの2ndアルバムではほとんどの楽器を自分でこなし、大きなスタジオに入らず(たぶん)宅録にこだわった作品。はじめて「Evil Honky Stomp」を聴いた時にはレコードの回転数間違ったかと思ったほど低音が印象的だったよ。

その「Evil Honky Stomp」は残念ながら動画がなさそうなので、同じアルバムに収録されてるこちらの曲「Pariah」より。
パーリアとはインドの最下層民とか社会の除け者というような意味らしいが、まるでミュージカル「Cats」から抜け出てきたようなメイク。
どこが認められたかは不明だが(おそらく顔)、この時期は「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」などで知られるニール・ジョーダン監督の初期作品「狼の血族」にも狼少女役で出演しているから、その延長線上のビデオだと思われる。
そしてバックのペインティングと一体感のある衣装で、とても美貌を売り物にしてるアーティストとは思えないところが素晴らしい。

もっと色々書きたい事もあったような気がするが、そろそろ第2回も終わりの時間となってしまったよ。ジャケットについて語れる事がまとまったらまたこの続きも書いてみたい。

それではまた、スラマッ・ティンガル(マレー語で「さようなら」)。

SNAKEPIPE MUSEUM #42 Wael Shawky

【NYのMOMAで2015年に開催された個展の映像。人形の動きがすごい!】

SNAKEPIPE WROTE:

「SNAKEPIPE MUSEUM」は、SNAKEPIPEがアート作品をコレクションしているという仮想美術館である。
英語にするとバーチャル・ミュージアム、略すとバチャミか。
別に略さなくていいか。(笑)
今までかなりのアート作品を収集してきて、様々な国のアーティストを紹介してきたと思うけれど、この国はお初だね。
今回紹介するのはエジプトのアーティストだから!
エジプトというと、真っ先に思い出すのはピラミッドやツタンカーメン、ミイラなどの古代エジプト文明だよね。
古代エジプトについてもそこまで詳しくないけれど、現代のエジプトについてはもっと知らないなあ。

たまたま目にした画像は、今まで観たことがないタイプの人形だった。
キャプションに書かれているのはEgyptian Artist Wael Shawky。
エジプトのアーティスト?
ワエル・シャウキーと読んでいいのかな。

分かる範囲でシャウキーの経歴をまとめてみよう。
1971年エジプト、アレクサンドリア生まれ。
2000年にアメリカのペンシルバニア大学でMFA(修士号)取得。
映像の中でインタビューに答えるシャウキーが、とても流暢な英語を喋っている理由が分かったね。
恐らく20代前半からアメリカに留学してたことになるもんね。
その後エジプトにあるアレクサンドリア大学でBFAを完了しているというから、30代を越えても学生でいたってことかな? 
これは単なるSNAKEPIPEの推測だけど、エジプトのお金持ちというと、桁外れの大金持ちじゃないかと思うんだよね。
きっとシャウキーはお金持ちのボンボンに違いないよ。(笑)
2004年にはアメリカ・センター財団助成金も授与され、2005年以降は数々の賞をもらっているみたい。
世界中で作品を展示する機会にも恵まれているようだね。
そして冒頭に載せたように、2015年にはニューヨークのMOMAで個展を開催している。
2017年の横浜トリエンナーレにも出品予定という情報もあったので、まさに国際的に活躍している新進気鋭のアーティストなんだね!

シャウキーの作品はパペットの制作と、そのパペットを使った映像になるみたいね。
パペットと書いたけど、いわゆる操り人形のこと。
ガラスや粘土を素材にした人形なんだけど、かなり不気味な印象。
人の顔になっていないように見えるものもあるし。
どうやら設定を十字軍の遠征の時代にしているとのことなので、第1回十字軍の1095年から第9回十字軍の1272年までの間ということかな。
そのため人形の服装や装備が、当時のものを模しているんだね。
うーむ、十字軍なんて世界史の授業で聞いたことがあるくらいで、あまり詳しく分からないなあ。

Wikipediaで調べてみると

十字軍とは、中世に西ヨーロッパのキリスト教、主にカトリック教会の諸国が、聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍のことである

とのこと。
結局のところ宗教絡みのお話だったんだね。
シャウキーの映像は、その十字軍の戦いを描いているらしいんだよね。
だから右の画像の字幕が「神からのお告げを賜った」なんだね。
宗教について詳しくないSNAKEPIPEが語ることは難しいなあ。
しかも映像を観てないし!(笑)
意味について理解しなくても、人形を使ったアートという見方で良いんじゃないかな?
もちろん理解するほうが良いんだろうけど…。

人形劇というと、日本では例えば辻村ジュサブローの「新八犬伝」を思い出すけど、あの人形は顔が固定で目や口が動くわけじゃないんだよね。
目や口が動く人形といえば、やっぱり「サンダーバード」か!
操り人形だし、シャウキーと全く同じ条件だよね。
シャウキーの人形も負けないくらい良い出来で、動いている人形の表情の豊かさは見事!
「教えてくれ!真の十字架はいずこに?」
と問いかけているこの男性もさることながら、背景も素晴らしいよね?
どこからどこまでがシャウキーの手によるものなのか不明だけど、この映像は観てみたいなあ。

戦いということで、こういったシーンも登場するんだろうね。
血糊の表現や人形の表情に、残虐さがよく出ていると思う。
バービー人形を使った「SNAKEPIPE MUSEUM #40 Mariel Clayton」や、まるで犯行の戦利品として人体パーツ収集しているような作品を制作した「SNAKEPIPE MUSEUM #30 David Altmejd」などに比べると「常識的な範囲」の殺戮現場になるけどね。

どうやらシャウキーの映像作品は今まで3作作られているみたい。 
・The Horror Show  2010年 
・The Path to Cairo 2013年 
・The Secrets of Karbala  2015年 
3作ともに十字軍の話なのかは不明だけど、左は3作目からの画像のようなので
「我慢なさい、明日こそが裁きの日になるのだから」
と予言めいた字幕がついているところからみても、宗教絡みの話に間違いなさそうだね。
それにしてもこれは人間の顔なんだろうか?(笑)
十字軍や宗教関連の映像、という断片的な情報だけを仕入れて書いているけれど、シャウキーのテーマは何だろう?
実際に鑑賞しないと分からないよね。
観ても分からないかもしれないし。(笑)

冒頭のMOMAの映像の中で、生き生きとした人形たちを観ることができる。
かなり細やかな動きや表情を確認してびっくりしてしまうほど。
エジプトでは古代から彫刻技術が発達していて得意分野だとは知っていたけど、日本の人形浄瑠璃みたいな丁寧なこともできるとは!
映像は起承転結のあるストーリーではないようだけど、動いている人形を観てみたいよね。
横浜トリエンナーレでは映像作品も鑑賞できるのだろうか?
今からとても楽しみだ!(笑)