時に忘れられた人々【15】◯◯になりたい編2

【一段低い扱いのせいか、たぶんまだいなさそうな半魚人バンド。】

ROCKHURRAH WROTE:

前に予告した通り、今回も色んなものになりきったバンドたちを紹介してみようか。

近年は狼のかぶりものをしたバンドとかもいるくらいだから昔に比べるとずっとなりきりバンドも多いのかも知れない。しかしROCKHURRAHの場合はあくまでも70〜80年代のパンクやニュー・ウェイブに焦点を絞った記事ばかりしか書かない事で一部有名なので、コスプレ・バンドのルーツも未来も全然見据えてないのは間違いない。要するに考察とか総括とかには無縁だと思っててけれ。

パンクやニュー・ウェイブ以降の時代は音楽と同様に見た目に対するこだわりを持ったバンドが数多く出現した。すぐに飽きられてしまう危険性はあるものの、話題になりやすいというメリットもあったのは事実。 確かに80年代あたり、すごく派手だったのに全く話題にもならなかったバンドは少ないからね。しかし考えてみたら全く話題にならなかったらこちらが知る事もないのか? ROCKHURRAHが特に見た目を重視してるわけじゃないが、今回のブログの趣旨が見た目なので、その辺の事情は何となくわかってね。 では第二部、行ってみようか。

Visage / Mind Of A Toy

色んなものになりきったという点では忘れちゃならないのが、1980年代初頭にブームとなったニュー・ロマンティックスというムーブメントだ。これはグラム・ロックの80年代ヴァージョンとも言えるが、特定の音楽ではなく、男性が化粧をしたり着飾ったバンド達の総称だと言える。
主流は当時の先端だったダンサブルなエレクトロニクス・ポップなんだが、シンセサイザーなどをほとんど使わないアダム&ジ・アンツのような音楽までニュー・ロマンティックスの一極にあり、要するに着飾ってさえいれば何でもこのジャンル呼ばわりされていた。 ほんの一時期で廃れるかと思いきや、後の時代まで語り継がれるようなバンドまでここから出現して、案外層が厚いのが特色。80年代にはいかに化粧バンドが多かったかがわかるね。 具体的に何かの扮装をしたバンドは少なかったけど、仮装バンドの総本山がニュー・ロマンティックスだったのは間違いない。
ヴィサージはそういうムーブメントの元祖的存在で、リッチ・キッズやマガジン、ウルトラヴォックスなどが合体したメンバーも一流、まさに音楽のブランド品みたいなもんか。

これはなりたい願望と言えるのかどうか、中心人物のスティーブ・ストレンジが操り人形という難しい役どころに果敢に挑戦している。 「あいつを操り人形にしたい」と思う人はいるだろうが、その逆だからね。
と思ったら、操り糸を切って自由になった、でいいのか?歌詞がわからないから映像で推測してるだけなんだが、野坂昭如が作詞の「おもちゃのチャチャチャ」の英国版という感じだね。
こんな少年のような映像が残ってるスティーブ・ストレンジももはや50代の美壮年。かつて同時代をくぐり抜けてきたアダム・アントもボーイ・ジョージもピート・バーンズも見る影もないおっさんになってしまったなあ。全盛期がきれいだったから余計にやりきれないね。 ROCKHURRAHやSNAKEPIPEはかっこいい爺ちゃん婆ちゃんになりたいものだ。

The Residents / Constantinople

どこから由来のものなのかは全く不明だが、日本人だったら間違いなく「ゲゲゲの鬼太郎」における目玉おやじをすぐに連想するだろう。
レジデンツは1960年代から音楽活動を続ける(デビューは70年代半ば)アメリカの実験的、前衛的な音楽集団で、そのトレードマークがこの目玉おやじのコスチュームなのだ。
ジャケット写真だけではなく本当に常にかぶりものをしていたらしく、目玉以外でもクー・クラックス・クラン(KKK=白人至上主義の秘密結社)のような三角形のずきんをかぶったり、さらに奇妙な宇宙人のようなマスクをしたり、得体の知れなさではトップクラスのバンドだと言える。◯◯になりたい!という願望とは趣旨が違うのかも知れないが、コスプレ・バンド特集でこのバンドをすっ飛ばすわけにもいかないから書いておく。

音楽性は通常のロックやポップ・ミュージックとは大きくかけ離れているグニャグニャなものだが、前衛的とは言ってもそこまで聴きにくいという部類ではない。
同じアメリカで数年遅れにデビューしたDEVOはレジデンツの路線をより大衆的にわかりやすく展開したと言えるだろう。
個人的に好きだったのはアヒルの首を持ったイラストが不気味な「Duck Stab」やナチス風刺漫画のような「Third Reich ‘N’ Roll」だった。この頃は情報も少なくてジャケット買いで失敗した事も多数だったけど、レジデンツは知って良かったバンドだったなあ。

The Damned / Love Song
ホラー映画ではなく大昔の怪奇映画の中でも、フランケンシュタインの怪物と並んで大スターなのが吸血鬼ドラキュラなのは間違いない。
そして70年代パンクの幕開けと共に登場したダムドこそが後の化粧バンド、仮装バンドの直接的な元祖なのは間違いない。 その前の時代のグラム・ロックや「ロッキー・ホラー・ショー」なども化粧で仮装だったけど、ダムドの場合は曲と見た目のインパクトが桁違いにカッコ良かったからね。まあこれは個人の好みの問題もあるけどな。
そのダムドのデイヴ・ヴァニアンは時代によって少しずつ変わってはいるけど、ずっとドラキュラ風というスタイルを貫き通している。 好きなもの、似合うものがずっと変わらないという生き方自体が偉業だと思えるが、そんな彼の代表的な映像が下のものだ。

誰が見てもドラキュラ・ルックの典型的なもの。常人がマネしようと思っても到底出来ないほどの美学だな。
これはテレビ出演の映像で楽器演奏してるフリだけだが、初期パンク・バンドの中でも最も演奏力は高いし、ライブのメチャクチャ度合いも素晴らしい野郎どもだ。横のキャプテン・センシブルのモコモコ衣装もすごいね。こんなモコモコ着てもパンクだったのはキャプテンだけだよ。 ドラキュラと言えばこの少し後のバウハウス、ピーター・マーフィーも同じ路線だったけど、全員のアグレッシブさ、派手さでダムドの方に軍配が上がるな。

The Mummies / Uncontrollable Urge
「マンスターズ」や「アダムス・ファミリー」「怪物くん」の例を出すまでもなく、ドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男などの花形モンスターに比べ、一段低い扱いを受けているのがミイラ男や半魚人といったモンスター達だ(上記の例に出てたかどうか全然覚えてないが)。
見た目のインパクトはあるもののどう考えても顔出し一切なしだもんな。顔を売るのが仕事の俳優が好んでやる役とは言いがたい。大昔のプロレスラーにザ・マミーなるミイラ男がいたが、あれはハナから顔を隠した覆面レスラーだから正体不明な方が効果的。
というわけでショウビズの世界ではミイラ男=
①正体は大物だが顔を隠す事情があった人
②自分自身では人気になれないから素顔を捨てた人
③何となく
という事になるのか?ん、ならない? そんな損なミイラ男に果敢に挑んだのが80年代アメリカのガレージ・パンク・バンド、マミーズだ。
メンバー全員が包帯グルグル巻にしてミイラ男なんだが、特に有名バンドが覆面でやってたわけではなさそう。こういうかぶりものは誰でも考える思いつきで、そのインパクトも一瞬だね。 宴会芸みたいなもんだ。

映像ではDEVOの有名な曲を割と誰でも考えそうなアレンジでカヴァーしている。 もうこのバンド名でこの見た目だったらガレージかサイコビリーくらいしか考えられないでしょう、という音楽。見る前から想像ついてたよ。
しかし一発芸で終わるはずのこのコスチュームをずっと続けていて、レコードのアートワークなどもいかにもこだわった50年代風。あゝ永遠のB級。 これはこれでROCKHURRAHの好きな世界だよ。

Demented Are Go! / Lucky Charm
「◯◯になりたい」という願望の中には現実世界で見かける職業や制服といったものよりも、やはりどうあがいてもなれないシロモノに対する願望の方が多いような気がする。
中でもゾンビや死体といった系列は誰でも将来的にはなれるという気はするが、生きている今、自分の目では見れないというジレンマがあり、コスプレで願望を満たすしかないのは確か。
そういうゾンビ願望(?)はサイコビリーという音楽の世界ではかなりポピュラーなもので、見た目もゾンビ映画の影響(を受けたバンドが多数)、音楽の方も歪んだエグいロカビリー。なぜかやってるカヴァー曲とかもみんな似通ってしまうという特異な音楽ジャンルなのだ。
みんなもう少しオリジナリティに頭を使おうよ、と思ってしまうが、同じテーマに挑戦する競作みたいなものなのかね?
そんなサイコビリーの世界でゾンビ・メイクの元祖と言えばやっぱりディメンテッド・アー・ゴー!、このバンドを挙げないわけにはいかない。
このバンドの主人公マーク・フィリップスはいかにもワル顔で人目を引くイケメン(1980年代初頭は)だったが、選んだ世界が暴力的で病的なサイコビリー畑。地獄の底からの咆哮のようなダミ声と、他のサイコビリー・バンドよりも一歩抜きん出たゾンビ・メイクのセンスで一躍有名となった。本当に一度聴いたら忘れないだけのインパクトを持ったヴォーカルで好き嫌いは抜きにしても強烈な個性があるのは間違いなし。
さらにそんな美形を台無しにする血みどろメイクや敢えてやるか?と思える傴僂コスチューム。サイコビリーの世界でやりたい放題が流行ったのは何と言っても彼らの影響が大きいはず。

映像は初期ではなく、今年のプロモ映像だとの事。もう随分老けてしまったはずだが、今でもやっぱりこんな事やってるのか。死体メイクでの撮影の模様をコミカルに表現した面白いPVだな。単なるゾンビではなくて頭に五寸釘だよ。並の神経ではマネ出来ないね。
彼らがデビューした80年代前半と比べると特殊メイクも随分と進歩してる、と言うよりは彼ら自身のなりきりぶりが進化してるのかも知れないね。

というわけでちょっと衣装を買い揃えればなれる程度の仮装、そうとう無理しないとなれない気合の入ったコスプレまで、秋葉原文化とは全く無縁のROCKHURRAHが書いてみた。

こういったバンドはいくらでも存在してるとは思うけど、とりあえず自分の気が済んだので、今回はこれでおしまいにしよう。 ROCKHURRAH自身は何になりたいかと聞かれれば、見た目ではなく、ヒマで余裕のある趣味人になりたい。

ではまた次の登場の機会まで。

時に忘れられた人々【15】◯◯になりたい編

20121014【憧れのパンク有名人をフォトモンタージュしてみたよ】

ROCKHURRAH WROTE:

世界の旬じゃない人々に焦点を当てた「時に忘れられた人々」シリーズ。こういう企画自体は悪くないとは思うが、ROCKHURRAHの表現方法がヘタなのか、毎回ワンパターン化してるのは本人にもわかりきっている。 80年代ニュー・ウェイブ・ネタばっかりだしね。 が、週末に1日か2日くらいで何とかまとめるというペースなので「新しい展開」などは期待出来ない状態だな。あまり深く考えずにやってゆくか。

さて、今回は自分以外の何かになりたいという変身願望のようなものについて語ってみよう。コスプレとかに近いのかも知れないが、何かのマネをするというよりは、自分の好きな世界観の主人公になりきるという感覚ね。ん?言ってる事大して変わらないか?

Adam & The Ants / Stand And Deliver
「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「ワンピース」の例を出すまでもなく、物語になる海賊というのはいつの時代でも人気のアウトローだが、この海賊の衣装を自身のスタイルに取り入れて大成功したのが1980年代はじめに一世を風靡したアダム&ジ・アンツだ。 60年代にジョニー・キッド&ザ・パイレーツという眼帯男が中心となったバンドによる海賊ルックが存在しているが、アダム・アントの場合は70年代グラム・ロックの世界で大成したギンギラ男、ゲイリー・グリッターの影響が最も強い。 実際の海賊がこんな衣装だったのかは知らないが、誰にでもわかりやすいド派手な金ピカ衣装にインディアンなどの要素を加えたメイク、そして2人のドラマーによるズンドコなリズムはこの時代には唯一無二の個性だったのは間違いない。子供だましのようにバカにする人も多いが、ROCKHURRAHは彼らのこけおどしのような音楽がずっと大好きだ。後の時代はさておき、この時代のアダム・アントは本当にカッコ良かったと思っているよ。

アダム・アントはデレク・ジャーマンのパンク映画「ジュビリー」にも出演していたし、大ヒットする前も個性的なパンク・バンドをやっていた。早くから才能を認められてたという事だね。 他にもロキシー・ミュージックやヴァイブレーターズでも活躍したベースのゲイリー・ティブス、 数多くのバンドのドラマー、プロデューサーとして活躍したメーリックことクリス・ヒューズなど、優れたミュージシャンが参加していて、音楽的に見てもかなり刺激的。

この曲は彼らの大ヒット曲で英語力がないROCKHURRAHにはよくわからんが「身ぐるみ置いてゆけ」というような意味の盗賊用語?しかしプロモ映像見る限り、海賊というよりは山賊に近い設定なのかな?という疑惑が残るがまあいいか。

Yip Yip Coyote / Pioneer Girl
「カウガールになりたい」と思う日本人女性はあまりいないと思われるが、アメリカの田舎町には必ずウェスタン酒場があり、トラック野郎とカウガールが酒を酌み交わすという勝手な印象がある。前に観た映画「テルマ&ルイーズ」もその辺が舞台だったな。 というようにウェスタンなスタイルはモードの世界では時代によって廃れる事もあるけど、自信を持って着ればどんな時代でもカッコイイのは間違いない。 そんなカウガール願望の夢を叶えたのがこのイップ・イップ・コヨーテだ。80年代に流行ったカウ・パンクというジャンルで語られるが、それにダンス・ミュージックをミックスした点がこのバンドの個性と言えるのか。彼らが活躍した80年代半ばより前にマルコム・マクラーレンがすでに実践していたスタイルなんだけどね。

このバンドについては不明な点が多く、手元にレコードも所持してないが、ちゃんと日本盤も出ていたように(シングルだったか?)記憶する。まあアルバム・ジャケットといい映像といい、完璧なまでのウェスタンなルックス。

女性がフロントの(あるいは女性だけの)カウ・パンク・バンドはいくつか存在してるんだが、イップ・イップ・コヨーテほどウェスタンな格好が似合っていたバンドは他にないんじゃなかろうか? 男のカウパンク、あるいはラスティックの場合は例えるならばクリーンで正義な感じのハリウッド映画のウェスタンではなく、どちらかと言うとルーズでダーティなマカロニ・ウェスタンの方が主流だが、女子の場合はやっぱり正統派ウェスタンをきっちり着こなしていた方が見栄えもいいね。相変わらずROCKHURRAHのセンテンスも長いね。

Crime / Piss On Your Dog
水野晴郎の例を出すまでもなく、警官あるいはポリスマンのコスプレが大好きな人は世の中に案外いそうだが(あの人の場合は単なるマニアではなく半分本職だったが)、これをロックの世界で取り入れたのがサンフランシスコのパンク・バンド、クライムだ。

このバンドは1970年代当時のアメリカのバンドにしては見た目に非常にこだわっていて、まるでギャング映画から抜け出たような決まりすぎな格好をしてみたり「乱暴者」のマーロン・ブランドのようにロッカーズ風だったり、ルックスだけでも惚れぼれするものがあった。そしてメンバーも札付きの不良っぽい顔立ちでバンド名もズバリ「犯罪」。反体制的で権力とかが嫌いそうなパンクとなぜかポリス・ルックという逆説的な結びつきがインパクトありますなあ。

この映像はそんな警官ルックで行った刑務所ライブの模様。本物の看守と受刑者が見守る中のライブでこのスタイルとは恐れいったよ。

The Adicts / Viva La Revolustion
スタンリー・キューブリックの傑作映画「時計じかけのオレンジ」に出てくる不良少年グループで有名になった、あのボーラーハットにステッキ(でいいのか?)、白いパンツとドクターマーチンのような編上げ靴といった独特のスタイル。これをそのまま真似るんじゃなくてピエロ、もしくは「バットマン」のジョーカーのような白塗り化粧をプラスして出来上がったのがアディクツの個性的なファッションだ。

去年くらいボーラーハットが流行した事があったけど、それを着用した人々のどれくらいがこの映画やこのバンドの事を知っていたんだろうか?まあこれらがボーラーハットの唯一の元ネタというわけじゃなかろうが、もし知らなくてかぶってる人がいたら是非知ってもらいたいものだ。

このアディクツのユニークなスタイルは日本でもハット・トリッカーズに影響を与えたな。同じような見た目だったらやっぱりアディクツの方が断然曲もいいけどな。

まだいくつか書く予定だったけど、意外と長くなってしまったので今回はこの辺で一旦やめるとしよう。本当はアレもコレも書きたかったんだけどね。まだ他にも「なりきったバンドども」は色々登場するので乞うご期待。