ROCKHURRAH紋章学 ミルク・パッケージ編

【ミルクといえば『時計じかけのオレンジ』でのコロヴァ・ミルク・バーだね!】

SNAKEPIPE WROTE:

世界中の食卓でお目にかかる飲料といえば、ミルク!
家庭によって牛だったりヤギだったり、もしくは豆だったりと元となる動植物に違いはあるけれど、老若男女・人種問わず誰もが日常的に口にすることが多いと思う。
日本ではほとんど1リットル入りのありふれた四角い紙パッケージしか見覚えがないけれど、世界にはどんなデザインがあるのかな?
今回の「ROCKHURRAH紋章学」では、世界各国のミルク・パッケージ・デザインについて特集してみよう!

食料品のパッケージでモノクロームというのは、あまり目にしたことがないSNAKEPIPE。
一体何が入っているのか判らないよね?
ロシアのDepot WPF Branding Agencyがデザインしたミルク・パッケージなんだけど、HPがロシア語なので読解不可能!
今までのデザインをまとめたページでは、見たことがあるロゴやパッケージがたくさんあったので、有名なデザイン会社みたいだね!
このミルク・パッケージは自然農法と手製の生産工程を強調するために、鉛筆により手描きしたらしい。
ヨーロッパのすぐれた広告作品を表彰する2010年の「エピカ・アワード」において、Package of the Future Contestでトップ10入りを果たしたらしい。
シンプルだけれど、目を引くデザインだよね!

次も「milk」って書いてなかったら、中に何が入っているのか判らないパッケージだよね?
記号や図形が描いてあると、スポーツドリンクとか薬のように感じちゃうよね?

デザインしたのはAudrée Lapierreというカナダのクリエイティブ・ディレクター。
データの可視化を得意としているようで、とても女性の作品とは思わなかった!
カロリーの比率、栄養バランスなどの重要で有用な情報を与えるためのデザインらしい。

未来的な雰囲気はとても好きだけど、ミルクだと思うとあまり美味しそうに感じないのはSNAKEPIPEだけだろうか?(笑)

続いては白とグリーンが印象的な不思議な形のパッケージ。
コロンとしていてとてもカワイイよね!
「soy mamelle」と書いてあるから、もしかして豆乳なのかしら?
KIANというロシアのブランドエージェンシーがデザインしたらしい。
おお、またもやロシア!
そして上述したDepot WPFと同じように、KIANも2012年の「エピカ・アワード」の何かを受賞したとHPに出てるね。
こちらもロシア語だから読めないんだよね!(笑)
KIANは豆乳の栄養価は牛乳と変わらないけれど、コレステロール値は低いということを、牛の乳房に似たパッケージで表現し、更に緑色を使用することで製品が植物性で健康的であるというメッセージも込めたとのこと。
六波羅家も最近牛乳から豆乳に変えて、グリーンスムージー作ってるんだけど、大型の冷蔵庫じゃないとこのパッケージは入らないかもね?(笑)

YANKO DESIGNによるパッケージにはちょっと説明が必要だね。
賞味期限が近づいてくると、どんどん色が付いてくるという画期的なパッケージなんだよね。(笑)
紫外線が当たると色が変わる紙があることは調べて確認したんだけど、このパッケージにはどんな仕掛けがされているのか不明!
コストや素材が気になるね。(笑)
例えば1日で飲んでしまうような場合には、こんな色の変化をみることはできないってことか。
それにしても、一目瞭然という言葉通りの視覚化は面白いよね!
それにしてもこのYANKO DESIGNの代表者がTakashi Yamadaという日本生まれでカナダ育ちの男性なんだよね。
日本とカナダを往復している、なんて書いてあったよ。
ちょっと羨ましい生活スタイルだね!

最後はこちら!
なんともインパクトのあるこのミルク・パッケージはThe Guernsey Dairyが2010年にデザインしたもの。
「より温和で、より無害な時代を喚起すること」を考え、デザインチームがレトロで奇妙なデザインを模索するために、広範囲な研究まで行ったらしい。
その結果、飢饉やファシスト体制の下であっても、すべて過去のほうが現代より良い時代だったと回答する人が多かったらしい!
そして「それは玄関の鍵をかけなかった古き良き時代、共同体意識と虐殺の記憶を蘇らせるもの」としてこのマークを使用したパッケージにした、というのだ。
解るような、解らないような説明だよね?(笑)

ガーンジーというのはイギリス海峡のチャンネル諸島に位置するイギリス王室属領で、フランスに近い場所の島々とのこと。
酪農が有名なようで、ミルクの色が金色に近く、ゴールデンミルクと呼ばれているらしい。
輸出もしているようで、フランス、ベルギー、ポーランドでもこのパッケージで発売します、なんて書いてあったよ。
かなりドキリとさせられるに違いないね!

デザイン関係を検索していると毎回同じ感想を持つけれど、世界にはユニークな物がたくさんあるよね。
コンセプトの構築と共に商品の方向性が決定され、商品名やパッケージデザインまで首尾一貫している点が良く解るよね。
今回はミルク・パッケージについてまとめてみたけれど、改めてスーパーで牛乳コーナー見てガッカリしちゃうね。
牛と牧場の絵とか文字だけ、とか味気ないパッケージばかりだもんね。
日本には根付いていない文化なのかな。

好き好きアーツ!#25 Pedro Almodóvar part4

【今回特集した5本の映画のポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

前回の予告通り、ペドロ・アルモドバル監督特集第4弾!
宅配レンタルにて鑑賞することができた初期の作品5本について、簡単な感想をまとめてみたいと思う。
アルモドバル監督の処女作は1980年の「Pepi, Luci, Bom y otras chicas del montón」とのことだけれど、この作品は日本未公開であり、DVDも発売されていないらしい。
続く1982年の「セクシリア」(原題:Laberinto de pasiones)も残念ながら入手できなかった。
1983年の「バチ当たり修道院の最期」(原題:Entre tinieblas)は鑑賞できたので、この作品からまとめていこう。
※鑑賞していない方はネタバレの可能性がありますので、ご注意下さい。

スペインのある修道院は、資金難で閉鎖寸前だった。
そこの修道女たちは、なんとか修道院を維持しようと努力する。
そこへナイトクラブの歌手・ヨランダがやってきた。

カルメン・マウラチュス・ランブレアベマリサ・パレデスら、すでにお馴染みになった女優陣が揃ってるだけで嬉しい!
当たり前だけど、みんな若いなあ!(笑)
それぞれ尼僧の格好をしていて、顔しか出ていないため映画の中の名前で識別するのがちょっと難しい。
特に「バチ当たり修道院の最期」ではニックネームのような「○○尼」とお互いを呼び合っているから尚更だ。
墜落尼、ドブネズミ尼、肥溜尼ってひどい呼び方だよね。(笑)

ナイトクラブの歌手ヨランダの服装がいかにも80年代で良い感じ!
歌手の楽屋でのシーンは「オール・アバウト・マイ・マザー」を彷彿とさせるね。
尼長がレズビアンでヤク漬け、なんて設定もアルモドバル監督らしい。
修道院内にトラが飼われている、ミスマッチも効果的だね。

1984年の作品「グロリアの憂鬱」(原題:¿Qué he hecho yo para merecer esto?)。

家事や仕事に追われ、その日一日をなんとか終えることに奔走する平凡な主婦グロリア。
家政婦のようにしか思っていない夫や反抗する息子たち、そして義母の小言を聞かされながら毎日を過ごしている。
そんなある日、グロリアは人生が変わってしまうような事件を起こしてしまう。

主演はカルメン・マウラ!
お金のやりくりに疲れた主婦役を好演している。
グロリアが最初に登場するのは剣道場なんだよね。
このシーンがちょっと謎!
掃除の仕事をしてたってことで良いんだろうか?
生活に追われた主婦という設定は、「ボルベール」でのライムンダと同じだね。
展開も非常に良く似ているので、グロリアは多分元ネタなんだろうな。

義母の役でチュス・ランブレアベも登場。
この時点ですでにお祖母ちゃん役なんだけど、実際には52,3歳くらいだったはず。
「ボルベール」でのパウラ伯母さんと変わらない感じだったから、老け役の人は逆に年を取らないんだろうね。

グロリアの隣に住んでいたのがヴェロニカ・フォルケ演じるクリスタル。
そう、「キカ」の主役であるスペイン版うつみ宮土理ね!(笑)
クリスタルは自宅で風俗店を営業している。
もちろんクリスタルがオーナー兼従業員なので、来たお客さんを相手にするのも全てクリスタルである。
「キカ」で大笑いした、ヴェロニカ・フォルケが喋りまくるシーンがここにもあり、きっとこれが元ネタだろうと感じる。

グロリアが生活に困っているからという理由で、簡単に次男坊を養子に出すシーンは呆気にとられてしまった。
次男坊も母親との生活よりも電化製品が揃っているお金持ちの家の子になるほうが良い、と養子になることに賛成したのもびっくり!
この話の展開がさすが、アルモドバル!(笑)

アルモドバル監督自身も映画内でのテレビドラマ(?)で登場しているんだよね。
真っ赤な貴族っぽい衣装着てる監督はトレイラーの中でも鑑賞できるよ!
女装した男と一緒に演じてるんだけど、このドラマの内容は不明。(笑)

もう一点すごく気になったのが、薬局にいる店員の女性。
まるでディバインみたいな化粧したおばちゃんなんだよね。
スペインには本当にあんな店員、いるんだろうか?(笑)

この女優さんはこの時以外登場してないんだけど、かなりインパクトがあるから、是非他の作品も観てみたいよね!

1986年の作品「マタドール」(原題:Matador)と1987年の「欲望の法則」(原題:La Ley del deseo)は未鑑賞!
どっちも面白そうな作品なのに、手に入らなかったんだよね。残念!
1988年、世界的に話題になった「神経衰弱ぎりぎりの女たち」(原題:Mujeres al borde de un ataque de nervios)はタイトルを覚えているので、きっと当時鑑賞していたに違いないね。

女優のペパは突然留守番電話で恋人イヴァンに別れを告げられ、旅行の荷造りを頼まれる。
ペパは彼の旅行には、昔のイヴァンの恋人・ルシアが同伴するものだと思い彼女の家を訪ねるが、ルシアも旅行にはペパが同伴するのだと思っており、お互い疑心暗鬼に陥る。
精神的に参ってしまいそうな彼女のところに、ペパの友人のカンデラ、イヴァンとルシアの息子・カルロス、カルロスの許嫁マリサがやってくる。

主演はまたもやカルメン・マウラ。
初期の作品からの常連との情報通りだね!
今回は女優のペパという役なので、キリッとして化粧もバッチリ。
恋人であるイヴァンに未練タラタラなんだけど、強い一面も垣間見せる。
有名な女優という役どころなのに、一人で街を歩きまわっても、誰にも騒がれないんだよね。(笑)

ペパが登場する洗剤のCMがとても印象的!
あんなコマーシャルがあったら大評判だと思うよ。(笑)

ペパが呼び止める度に登場するマンボ・タクシーも良い味出してるんだよね。
音楽は乗る時によって違うけれど、あんなに個性的なタクシーだったら人気が出るんじゃないかな。(笑)

ペパが恋しいけれど憎いイヴァンに飲ませようと、睡眠薬を入れたガスパチョを作るシーンは「抱擁のかけら」での「謎の鞄と女たち」にも出てきたエピソード。
ちなみにガスパチョとはスペイン料理で冷製スープのことね。
セリフにも近いところがあったし、部屋のベッドを燃やすシーンも同じだよね。
アルモドバル監督はセルフパロディじゃないけど、自分のネタをもう一度使うことが多いんだね。

元恋人の息子として登場したのがアントニオ・バンデラス演じるカルロス。
バンデラス、ものすごく若いね!
そしてその恋人がロッシ・デ・パルマ演じるマリサ。
バンデラスとロッシのカップルってどうなんだろう?(笑)
「私のこと愛してる?」
と問うマリサに「その話はあとで」とはぐらかすカルロス。
もうこの会話だけで関係が良く解るよね。

元恋人でカルロスの母親ルシアは「バチ当たり修道院の最期」でレズビアンの尼長だったフリエタ・セラーノ
まぶたにはみ出すようにまつげを描いているような、派手な化粧にびっくり。
尼僧だったのに!(笑)

ピストルでバイクの男を脅して、スカート姿でバイクの後ろにまたがるようなアクションを見せるとは驚き!

ドタバタしていながらも、ペパが自立する様を描いている作品なので、女性賛歌作品へとつながる主題だったといえるだろうね!

1990年の作品「アタメ」(原題:¡Átame!)。

食事と休息を得るために、精神病院に入退院を繰り返す男リッキー。
彼は結婚して、まともな生活に戻ることを決意する。
彼が相手に選んだのは、ポルノ女優のマリーナだった。

リッキーを演じているのが、またもや若いアントニオ・バンデラス。
本当におかしいのか、作戦として演じているのか判らない奇妙な男の役を好演している。
平気で物を盗み、撮影所にあった長髪のカツラをかぶって歩くヘンなヤツ。
思い込んだら命懸け、を実践するのはかなりアブナイよね。
病院内で受けた職業訓練が役立って良かったね、リッキー!(笑)

ポルノ女優マリーナはビクトリア・アブリルが演じていた。
「キカ」の時にはゴルチェの衣装を着て、「今日の最悪事件」というテレビ番組の取材から司会進行まで一人で担当していた、あの女性である。
一方的に思いを寄せられ、いつの間にか心変わりしているのは、やっぱり「ストックホルム症候群」なんだろうね。
wikipediaの「ストックホルム症候群を題材にした映画」のリストに「アタメ」を加えてもらいたいね!

「アタメ」の中にも映画を撮影しているシーンが出てくる。
マリーナはその映画内映画でも主演女優を演じているんだけど、この映画の監督が無神経な発言をするので驚いてしまう。
マリーナの姉に向かって「キミはブスだけど胸と尻はなかなか良い」と言うのだ。
セクハラどころじゃないよね?
妹思いのハキハキした、ちょっと磯野貴理子似の良いお姉さんなのにね!
監督の妻役は「神経衰弱ぎりぎりの女たち」でルシアを演じたフリエタ・セラーノだったよ。
ポルノ映像を食い入るように見つめる夫にしかめっ面。
うーん、やっぱりイヤな男だ。(笑)

ストリートでたむろしているドラッグの売人役でロッシ・デ・パルマが登場。
子分を従えた姉御の役で、やっぱりインパクトあるなあ。
リッキーに対して殴る蹴るの暴行を働く、かなり危険な女を演じていた。
「神経衰弱ぎりぎりの女たち」では、アントニオ・バンデラスに裏切られる役だったので、この映画の中で仕返ししてるようにも見えちゃうね。(笑)

「アタメ」もラストに驚愕してしまう映画だった。
現実はこんなことにはならないだろうから、決してマネをしないようにね!(笑)

翌年1991年の「ハイヒール」(原題:Tacones lejanos)は未鑑賞。
ビクトリア・アブリルとマリサ・パレデスが出演しているみたいで、興味ある内容だけに残念だなあ!
1993年の「キカ」についてはアルモドバル監督part1にまとめてあるね。

1995年の「私の秘密の花」(原題:La flor de mi secreto)。

ロマンス小説の覆面作家として活躍するレオ。
しかし現実は小説のようにうまくいかず、愛する夫に冷たくされ、寂しい毎日を送っていた。
ある日とうとう我慢できなくなった彼女は、心理カウンセラーである親友ベティに助けを求める。
取り乱すレオを心配したベティが気分転換にと彼女に新聞記者のアンヘルを紹介したところ、彼はレオにひと目惚れしてしまう。

ロマンス小説家レオを演じたのはマリサ・パレデス。
知的で雰囲気のある美人なので、小説家が良く似合っているね!
「神経衰弱ぎりぎりの女たち」でのカルメン・マウラ演じるペパと同じように、夫の愛情に飢え、相手の反応で一喜一憂する女性である。
社会的には成功しているように見えても、芯の部分は男性に依存しているような設定がアルモドバル監督の好みなのかも?

レオの母親役をチュス・ランプレアヴェが演じて、妹役がロッシ・デ・パルマというすごい家族構成!
チュスとロッシの罵り合いのシーンは、どこの国の家庭でもありそうで非常にリアルだったね。
身内というのは、血がつながっているだけに容赦がなくて、言いたいことを言う間柄だからこその口喧嘩なんだろうけど。
ウマが合わない母娘というのは、意外と多いよね。

レオの家で働く家政婦にマヌエラ・ヴァルガス、その息子としてホアキン・コルテスが出演している。
2人共有名なフラメンコ・ダンサーとのこと。
映画の中でも2人のフラメンコを観ることができるよ!
ダンサーなのに、役者としても通用する演技をみせているのがさすがだね。
アルモドバル監督の作品には、今までも様々なアーティストが登場しているけれど、全く知らない世界を少しでも垣間見せてくれるのが嬉しいね!

レオに一目惚れする新聞記者のアンヘルを演じていたのが、フアン・エチャノヴェ
太めで人が良さそうな風貌は、我らがハビエル・カマラに通じる雰囲気ね。
はっ、いつの間にか「我らがハビエル・カマラ」って書いてるよ!(笑)
広場でくるくる回って、ぱったり倒れるシーンは大笑いしてしまった。(笑)

傷ついた心を癒やすために、母親と一緒に田舎に帰ったレオはゆったりした時間を過ごし、少しずつ自分を取り戻していく。
「ボルベール」に出てきたラ・マンチャの景色や家に良く似てたんだけど、同じ場所だったのかな?
初老の女性達が地方に伝わる方法で編み物しながら、声を揃えて歌うシーンは、平凡だけど穏やな気持ちになれた。
優しい人間関係がレオを癒してくれたんだろうね!

心理カウンセラーの親友ベティを訪ねた時に臓器提供に関する話題が出てくる。
息子の臓器について思い悩む女性の名前がマヌエラ!
「オール・アバウト・マイ・マザー」の元ネタは、これだね。(笑)

1997年の「ライブ・フレッシュ」(原題:Carne trémula)も残念ながら未鑑賞。
ハビエル・バルデムとペネロペ・クルス夫婦共演の映画、観たいなあ。
処女作はDVD未発売とのことなので、仕方がないけど。

セクシリア
マタドール
欲望の法則
ハイヒール
ライブ・フレッシュ

この5本はいつか是非鑑賞してみたいなあ!

ペドロ・アルモドバル監督の作品は原色の使い方が特徴的と言われているけれど、室内の装飾が素晴らしく色彩も鮮なので、本気でスペイン移住を考えちゃうほど憧れてしまうね!(笑)
どうして学生の時にスペイン語を専攻しなかったのか、と今更ながら悔やむよ。

他にも気になったアルモドバル監督の特徴といえば。
鏡を使い、複数の人物を画面に入れ込む構図や女性が下着をおろしてトイレに座るシーンかな。(笑)
トイレの後に何かしら事件が起きるので「あ!流してない!」と叫んでしまうSNAKEPIPE。
使用後は水を流そうね。(笑)

自分でも驚きの4回連続のペドロ・アルモドバル監督特集!(笑)
最近ここまで集中して鑑賞し、大好きになった映画監督がいなかったので、熱がこもってしまうのは仕方ないかな。
アルモドバル監督の次回作「I’m so Exciited!」も楽しみ!
いつ日本公開されるのか、今から待ち遠しいね!

好き好きアーツ!#24 Pedro Almodóvar part3

【特集した2本の映画のポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

3回連続のペドロ・アルモドバル監督特集!
こんなに長く書き続けるのは珍しいかも?
すっかりお気に入りになってしまい、集中して鑑賞したため、自分が忘れないようにという備忘録的な意味もあるので、たまには良いか?(笑)
では早速いってみよう!

2009年の作品「抱擁のかけら」(原題:los abrazos rotos)。

14年前の事故で失明し過去を封印した脚本家のハリー・ケインは、かつてマテオ・ブランコという新進気鋭の映画監督だった。
ハリーは主演女優のレナと激しい恋に落ちるが、レナは権力のある、エルネスト・マルテルの愛人だった。
ある日、逃避行先の島で、二人を悲劇が襲う。
「抱擁のかけら」にはアルモドバル監督お得意の、映画の中で映画を撮影しているシーンが多く出てくる。
ペネロペ・クルス演じるレナは、その映画内映画「謎の鞄と女たち」の主役でもある。
いくつものウィッグを試し、カメラに向かってポーズを取るシーンが上の写真ね。
オードリー・ヘップバーン風にしたり、マダムっぽく決めたり。
まるでプロモーション・ビデオと言っても良いほど、様々なペネロペ・クルスの表情を鑑賞することができるんだよね!
ラ・ブーム」でソフィー・マルソーがデートに何を着ていこうかと、いろんな着せ替えやってたことを思い出す。
えっ、例えが古過ぎ?(笑)

映画内映画「謎の鞄と女たち」は、いかにもアルモドバル監督らしいブラック・コメディの作品でとても面白そうなんだよね。
その作品の中で恋人の元妻役でロッシ・デ・パルマも登場していたね!

14年前は映画監督マテオ・ブランコ、現在は脚本家ハリー・ケインと改名している役を演じるのはルイス・オマール
有名なスペイン人俳優で、実は書いていなかったけれど前回まとめた「バッド・エデュケーション」にも出演していたんだよね!
「バッド・エデュケーション」では元神父で、現在は出版社に勤める編集者で、愛に生きる役だった。
「抱擁のかけら」でも監督から脚本家になり、やっぱり愛に生きる役どころ。
映像世界では致命傷といえる失明というハンデを乗り越え、道を渡らせてくれた若い女性を家に連れて来るという離れ業まで身に付けているのはさすが!
杖をついて歩いていると、女性が近寄ってきて助けるシーンは他にも出てきたので、余程女性ウケが良い男性なんだろうね。(笑)

マテオ・ブランコ/ハリー・ケインを20年来公私共に支えているのがブランカ・ポルティーヨ演じるジュディット。
ブランカ・ポルティーヨは「ボルベール」で5分刈りの印象的な役で出演していたね!
「ボルベール」ではほとんど化粧っけのない女性だったけれど、「抱擁のかけら」では映画製作会社でバリバリ働く女性という役なので、バッチリ化粧をして別人のようになっていたよ。
14年間事実を封印し、ずっと心の中に重たい塊を抱えながら辛い時間を過ごしていたジュディットを上手に演じていた。
ブランカ・ポルティーヨの笑顔が素晴らしいんだよね。
他の出演作品も観てみたいな!

ジュディットの息子ディエゴ。
マテオ・ブランコ/ハリー・ケインの手伝いをしながら、夜はクラブでDJのバイトもしている。
母子家庭で育ち、母親思いの優しい性格である。
ハリーの脚本の手伝いをしているうちに、面白いストーリーを考え出し、ディエゴの作品として完成させて良いと許可される。
その時の脚本がB級のドラキュラ映画で、いかにもアルモドバル監督らしいコメディ要素満載なんだよね。(笑)
ハリーとやりとりしながらストーリーを決めていくシーンは、もしかしたらアルモドバル監督自身が実際に誰かと話ながら脚本を書いている過程と重なるのかもしれないね。
演じていたのはタマル・ノバス
最近はスペインのテレビで活躍しているようだ。
それにしてもディエゴ、出生の秘密を明かされて驚いてたけどさ。
もっと早く気付かないかね?(笑)

実業家エルネスト・マルテルの嫉妬深さと所有欲は、見ていてゾッとするほどである。
お金持ちなので、金に物を言わせて、なんでも自分の思い通りになると信じているのだろうか。
ビートルズじゃないけど「can’t buy me love」なんだよねえ!(笑)
ペネロペ・クルス演じるレナを秘書として雇っていた時から、きっと狙ってたんだろうなあ。
レナの父親を助け、恩を感じさせ利用し、愛人にしたのだろう。
その部分はキチンと描かれていなかったので、予想だけどね。
「おまえを抱けるなら死んでも良い」
なんて言われたレナが余計に引いちゃうのも納得だよね。(笑)
本物の愛に出会えないかわいそうな役を演じたのはホセ・ルイス・ゴメス
スペインのベテラン俳優のようで、いくつもの賞を受賞しているみたい。
初老の、嫌らしい役を成り切って演じていたのはさすがだね!

エルネスト・マルテルの息子エルネスト・マルテル・ジュニア。
金持ちの息子なのに、どうしてこんなにオタクっぽい雰囲気にしたんだろうね。(笑)
父親からの命令は絶対だったようで、映画撮影に行く愛人レナの様子を一部始終記録する役目である。
映画関係者から邪魔者扱いされながらも、全く気にすることなく撮影を続ける根性の持ち主。
14年後にはまるで別人になり、名前も変えて登場するんだけど、インパクトがあるのはこのオタク姿なので、こっちの写真だけ採用してみたよ!(笑)
演じていたのはスペインの俳優で監督でもあるルーベン・オチャンディアーノ
他の作品でのルーベンは知らないけれど、ここまで変態っぽい役はあんまりないんじゃないかな?
事故現場を発見した時の女の子っぽいしぐさが忘れられない。(笑)

スペイン版室井滋と呼びたいロラ・ドゥエニャスも「ボルベール」に引き続き出演していたよ!
エルネスト・マルテル・ジュニアが記録してきたフィルムは無音声映像だったため、何を喋っているのか解らない。
そのためエルネスト・マルテルは唇の動きから会話を再現するために、技術を持つ女性を自宅に招き愛人レナの状況を理解しようとするのである。
映像だけではなく、全てを掌握しておきたいという強い所有欲の表れだよね!
この読唇術を行う女性がロラ・ドゥエニャス。
レナと監督の会話をメモを元に映像に合わせて吹き替えるシーンは、会話が生々しいだけに非常に面白かった。
吹き替えながら隣で硬直するエルネスト・マルテルをチラチラ気にしながらも、再現していく場面はロラの演技力が光るね!

失明したハリー・ケインの現在と、14年前の映画監督だったマテオ・ブランコを2つの時代で描き、更に映画内映画のシーンも登場する時間軸が絡まった映画である。
14年前の情熱的な愛から現在の穏やかな愛への変化に安堵したのはSNAKEPIPEだけではないだろう。
ヘアメイクのオネエキャラや脚本を構想するシーン、「謎の鞄と女たち」などにアルモドバル色は充分出ていたけれど、鑑賞した中では毒があまり強くない映画だなと思った。
アルモドバル監督、ちょっと落ち着いたのかな?
すっかり油断していたためか、次の「私が、生きる肌」でまたもや仰天させられてしまったのである。

私が、生きる肌」(原題:La piel que habito)は2011年の映画である。

最愛の妻を亡くして以来、完璧な肌の開発研究に打ち込む天才形成外科医のロベル・レガルは、ある人物を監禁して禁断の実験に取り掛かる。
幽閉されているのは一体何者なのか?
どのような宿命のもとでロベルと巡り合ったのか…。

「私が、生きる肌」の主役である形成外科医のロベル・レガル。
広い邸宅はそのまま病院としても機能しているので、自宅で手術を行うことができる。
まるでブラックジャックだよね。(笑)
そして実際手掛けているのもブラックジャック並にびっくりするような高い技術力を要求される手術である。
遺伝子操作をする倫理的に問題がある実験も、目的のためには実施する。
禁断の実験に足を踏み入れるのに躊躇しないのも納得できてしまうね。

ロベル・レガルが学会で実験結果を発表するシーンで、学会の会長として登場していたのは、「抱擁のかけら」で実業家として出演していたホセ・ルイス・ゴメス。
やっぱり地位のある役柄が似合うなあ! (笑)

ロベル・レガルを演じていたのはアントニオ・バンデラス
一番初めにバンデラスを知ったのはロバート・ロドリゲス監督の「デスペラード」かな。
あの映画の馬鹿馬鹿しいアクションシーンが大好き!(笑)
バンデラスはペドロ・アルモドバル監督作品で俳優業をスタートさせ、初期のアルモドバル監督作品の常連だったことは今まで知らなかったよ。
バンデラスにとっては久しぶりに古巣に帰ったような気分という感じかな?

ロベル・レガル邸に幽閉されているベラ・クルス。
どうして監禁状態にあるのか、ベラ・クルスの正体は誰なのかということについては映画の核心部分なので、謎のままにしておこうね!
ベラ・クルスは白を基調とした広い部屋の中で、ヨガをしたり布を使った作品を作ったり、本を読んで一日を過ごしている。
作品を作るために参考にしていたのがルイーズ・ブルジョワの作品集だった。
何故この名前に聴き覚えがあるんだろうと調べてみると、六本木ヒルズにある巨大な蜘蛛の彫刻の作者だったんだね!
彼女の布を使った作品は、かなり不気味な雰囲気で興味あるな!

ベラ・クルスを演じていたのはエレナ・アナヤ
「トーク・トゥ・ハー」にも出演していたようだけど、どのシーンだったんだろう?
アルモドバル監督作品に出る女優は体当たりの演技が要求されることが多いけれど、エレナも本当に手術された人物のように見えたよ。
映画の中でのほとんどを全身タイツ姿でいるってすごいよね!(笑)
そしてこの全身タイツのデザインがジャン・ポール・ゴルチェだったとはびっくりだよね!

ロベル・レガル邸での家政婦、マリリア。
ロベルのことを赤ん坊の頃から育てているため、ほとんと家族と同じ扱いである。
マリリアの料理こそがロベルにとって、母の味といったところか。
ロベルのことを全て知り尽くしているので、使用人といえども忠告を与えることもある。
「女には注意しなさい」
ロベル、ちゃんと聞いておけば良かったのにね!

マリリアを演じていたのは、「オール・アバウト・マイ・マザー」ですっかりお馴染みのマリサ・パレデス
あの時は大女優の役だったのに、今回は家政婦!
お手伝いさんの制服もマリサ・パレデスが着るとファッショナブルに見えちゃうのは、さすがだよね!(笑)

家政婦マリリアの息子、セカ。
幼少の頃から悪事に染まり、強盗を働き警察に追われる身になっている。
カーニバルの衣装で変装し、正体を暴かれないようにして母親であるマリリアがいるロベル・レガル邸にやってくるのである。
警察に追われた身内が匿って欲しいと訪ねてくるシチュエーションは「キカ」にも出てきたよね!
その後の展開もほとんど同じ!(笑)
セカの登場により、平穏だったはずのロベル邸は変化してしまうのである。

セカを演じていたのはロベルト・アラモ
多くの映画に出演しているみたいだけど、トラの変装しか知らないと、他の作品でロベルトを発見するのは難しいかも?(笑)

ペドロ・アルモドバル監督特集part1に書いたけれど、一番初めに鑑賞したのが「私が、生きる肌」だったんだよね。
「なんだ、この話は?!」
と展開に仰天してしまったROCKHURRAHとSNAKEPIPE。
これは本当に復讐なんだろうか?
ロベル・レガルのねじ曲がった倫理観は理解し難いなあ!

yahoo映画に載っているリンチ評論家滝本誠氏の解説によれば

原作を未読であれば幸い、これは観てから読むべき典型例だ。
ラストは小説の方がドス黒くキメている。

 

とのこと。
もしかしたら仰天するのは原作のほうなのかもしれないね?
フランス人作家ティエリー・ジョンケの「蜘蛛の微笑」 も読んでみたいね!(笑)

3回に分けて特集してきた7本のペドロ・アルモドバル監督の作品だけれど、やっぱりどうしても初期の作品も観たい!と熱望してしまう。
近所のレンタルDVD屋には見当たらないのが残念でならない。
と思っていたら、宅配レンタルの中に発見することができたんだよね!(笑)
5本レンタルして、すでに鑑賞済。
せっかくなので、鑑賞できた5本についても簡単にまとめてみたいと思う。
次回のアルモドバル監督特集もお楽しみに!

好き好きアーツ!#23 Pedro Almodóvar part2

【赤色が目に焼き付く2本の映画のポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

ROCKHURRAH RECORDSがこよなく愛する80年代、同性愛をテーマにした映画が話題になっていたことを思い出す。
1983年公開の「戦場のメリークリスマス」、坂本龍一作曲の有名なテーマソングも懐かしいねえ!
「戦メリ」って言ってたよね。(笑)
1984年に公開された「アナザー・カントリー」は、略して「アナカン」などと呼ばれてたっけ。(笑)
1987年公開の「モーリス」も同様に男性の同性愛をテーマにした作品だった。
パッと思いついた80年代の作品を挙げてみたけど、それ以降の年代にも似たテーマの映画はたくさんあるよね。
少女漫画の世界では、例えば竹宮 惠子の「風と木の詩」などが代表的だと思うけれど、少年達の同性愛の世界が美しいものとして描かれているのを読んだ経験のある女性は多いと思う。
SNAKEPIPEの子供時代から、意外と慣れ親しんでいる同性愛というテーマ。
ペドロ・アルモドバル監督の2004年の作品「バッド・エデュケーション」(原題:La Mala Educación)も、前置きと同じように同性愛がテーマになっているのである。
※鑑賞していない方はネタバレしてますので、ご注意下さい。

まずはあらすじから書いていこうか。

若き映画監督エンリケのもとに、かつての親友・イグナシオを名乗る男がやって来る。
舞台俳優だというその男は、自らがしたためた脚本を手渡して去っていった。
幼い頃の面影が全くないイグナシオに、エンリケはとまどいながらも脚本を読み進める。
そこには、エンリケが少年時代を過ごした神学校での悲しい記憶が描かれていた。

この映画はかつて保守的な神学校で少年時代を送ったペドロ・アルモドバル監督の自伝的映画と称されているらしい。
映画の舞台は1980年のマドリードで監督役のエンリケの年齢が27歳、そして16年前には神学校にいた設定になっているので、 1964年に10歳の少年だった計算だね。
ペドロ・アルモドバル監督は1951年生まれとのことなので、1964年には12、3歳だったのかな。
完全に一致はしていないけれど、ほぼ体験した年代と同じ時代を舞台にしていると言って良いだろうね。

「バッド・エデュケーション」の見どころの一つは主役のイグナシオを演じるガエル・ガルシア・ベルナルの七変化だと思う。
ガエル・ガルシア・ベルナルは「アモーレス・ペロス」や「ブラインドネス」で観たことのある俳優だけれど、今回の変身ぶりには驚かされる。
上の3枚の写真はいずれもガエル・ガルシア・ベルナル。
一番左は女装して、クラブでショーを行っているシーン。
言われなければ分からないほど、本当に女性に見えてしまう完成度の高さ!(笑)
真ん中も女装で、ハイヒールを見事に履きこなしているのがすごい!
SNAKEPIPEはヒールの靴って履かないから、感心してしまったよ。(笑)
後ろ姿は完全に女性そのものだけど、正面からだとちょっとゴツいかな?
一番右は学生役なので、少年っぽさを残したような雰囲気に変えている。
本当はもうひとつスッピンの(?)青年役があるんだけど、それは普段通りなので写真掲載にはしなかった。
よくもここまで1本の映画の中でスタイルを変えて演技したよね!
ガエル、頑張ったで賞って感じだね。(笑)

もう一人の主演は映画監督のエンリケ。
この設定は前述したように、ペドロ・アルモドバル監督の分身的な存在だと思われる。
3本の映画により成功している27歳の映画監督という役柄。
最近引っ越したという自宅が素晴らしいのよ!
プール付きの一軒家で、一人で住むには広すぎる程の贅沢な空間が羨ましかった。
演じていたのはフェレ・マルティネスというゴヤ賞新人賞を獲ったことのあるスペインの俳優である。
この俳優がノン気なのか、そうじゃないのかは不明だけど、映画の中では目つきやしぐさがそっち系になっていて、本物の同性愛者に見えたよ!
ペドロ・アルモドバル監督の前作「トーク・トゥ・ハー」にも出演してたみたいだけど、どのシーンに出演してたんだろうね?

本筋にはほとんど関係ない役だけれど、SNAKEPIPEが最も注目してしまったのが、パキートという役を演じていたハビエル・カマラ
「トーク・トゥ・ハー」では療養士の役だったのに、今回は女装姿で登場よ!(笑)
アラブっぽい音楽に乗ってダンスしてるんだけど、全然リズム感がなくて、ショーとはいえない出来栄えなのに拍手を強要するパキート。
そのムチムチした肉体を強調するように、ピチピチした服を着ているところも素晴らしい!
ニューハーフのお姉さん達がいるクラブに、必ず存在するお笑い担当みたいな感じね。
さすがはハビエル・カマラ、おネエ役も上手に演じていたよね!
こっそりと応援してます!(笑)

「バッド・エデュケーション」は16年前の神学校での出来事が発端となっている映画なので、過去に遡った映像も出てくる。
写真左が少年時代のイグナシオ。
ボーイソプラノの美しい歌声を披露する。
色白でお目目パッチリの少年で、おとなしい性格である。
神学校の神父から思いを告白されてしまう、という役である。
写真右がエンリケの少年時代。
ワンパクで元気な男の子らしい少年である。
27歳のエンリケは「イグナシオは初恋の相手」と語っていたので、目と目で通じ合い、一目で恋に落ちたようだ。

「バッド・エデュケーション」は1980年の現在、新学校時代、フィクションのシーンと、それぞれの映像がバラバラに組み合わされているので、ちょっと戸惑うこともある。
何が本当なのか解らなくなっちゃう感じなんだよね。
サスペンス的な要素も含まれている映画なので、ネタバレしないようにここまでしか書かないことにしよう。(笑)

最後にもう1点だけ。
「バッド・エデュケーション」はオープニングのタイトルバックがとてもカッコ良いの!
いくつかのシーンを切り取って、少し細工したのが上の画像。
赤と黒と白の3色だけを使った、印象的な映像でうっとりしてしまうよ!(笑)

続いては2006年の「ボルベール(帰郷)」(原題:Volver)について書いてみよう。

スペイン中部に位置する乾燥していて東風が強いラ・マンチャで、火事により両親を失ってしまったライムンダ。
普段はマドリードで生活しているライムンダは姉ソーレと娘のパウラとともに、両親のお墓の掃除のため定期的に地元に戻り、伯母の家に立ち寄るのが習慣になっている。
里帰り以外の日は、夫と娘のために日々忙しく働いている。
ある日、失業してしまったライムンダの夫パコは、情緒不安定になり事件を引き起こすきっかけを作ってしまう。
一方そのころ、ライムンダの姉ソーレの元には伯母の急死の報が届く。
葬式のため亡き伯母の家に到着したソーレは、信じられない光景を目の当たりにするのだった…。

「ボルベール」は主演のライムンダ役を演じたペネロペ・クルスを含む女優6名に対してカンヌ国際映画祭女優賞が贈られた映画だという。
1950年代には1本の映画に出演した女優複数人が女優賞を受賞したこともあるみたいだけど、60年代以降にはなかったみたい。
それぞれの女性を演じ切った賜物だろうね!
それでは、その6名の女性にスポットを当ててまとめていこう。

「ボルベール」の顔、主演のライムンダ。
気性が激しく自己中心的な性格。
家族のために空港で掃除を一生懸命やるようながんばり屋でもある。
もし本当にペネロペ・クルスが空港で掃除してたり、食堂で働いてたらびっくりしちゃうだろうね。(笑)

夫と娘との3人暮らしだけれど、夫への愛情は薄い。
ラ・マンチャで一人暮らしをしている、母親の姉である伯母のパウラを引き取って面倒をみたいとまで思っているような優しい一面も併せ持つ。
「そのためには夫が邪魔だわ」
なんてセリフもあったしね!

ご近所付き合いも良好で、気軽に頼み事ができる女性達が何人もいる。
買い物してきたばかりの食材を譲ってもらうエピソードが面白かった。
事後処理もご近所さんの協力で一件落着!(笑)
観ているほうがハラハラしてずさんに感じたんだけど、スペインではアリなのかな?(笑)

演じていたのはペネロペ・クルス。
「オール・アバウト・マイ・マザー」でのほとんどすっぴんだった役とは違い、ライムンダ役は化粧や胸の谷間バッチリの女っぷりを意識してまるで別人だね!
映画の中でタンゴの「Mi Buenos Aires querido(ボルベール)」を歌うシーンがあるんだけど、ちょっとハスキーなペネロペ・クルスの歌声はなかなか良いね!

ライムンダの姉、ソーレ。
「隠れ美容室」を自宅で行っている。
そのため様々な人の出入りがある家で、またここでもペドロ・アルモドバル監督お得意の女同士の他愛のない会話を聞くことができるんだよね。(笑)
ソーレは温和で責任感が強く、いわゆるお姉さんタイプの性格である。
妹であるライムンダの我儘も充分知った上で、うまく付き合っているんだよね。
どうしてこんなに良い女性なのに、夫に逃げられてしまったのか不思議!
この女優は、「トーク・トゥ・ハー」でも夫に逃げられた看護士の役だったんだよね。(笑)
ソーレを演じていたのはロラ・ドゥエニャス
たまに室井滋に似て見えてしまうのはSNAKEPIPEだけかな?(笑)
ロラ・ドゥエニャスは他にもペドロ・アルモドバル監督作品に出演していて、新作「I’m So Exiited」にも登場しているみたいだね。

ライムンダの娘、パウラ。
15歳の女の子なので、携帯電話を手放さないイマドキの子である。
反抗期でも母親のライムンダになついていて、手伝いもするし、お墓の掃除も一緒に行く良い子である。
もしかしたら母親よりも常識人かもしれないと思うほど、大人びてもいる時もある。
それなのに、まさか人生が変わってしまうほどの大事件を起こすことになろうとはね!

演じていたのはヨアナ・コボ
1985年生まれとのことなので、「ボルベール」の時には実際は19歳か20歳だったみたいよ。(笑)
確かにそう言われてみれば、落ち着いていて、あまり少女らしくなかったような気もしてくるよね。

ライムンダとソーレの母親、イレーネ。
ライムンダの娘パウラからみたらお祖母ちゃん。
「お母さんはお父さんの腕の中で死ねたんだから、幸せだったのよ」
とライムンダが墓参りの時に言ったセリフである。
夫婦のことは夫婦にしか分からない、というのは世間で言われることだけど、母イレーネの本心はどうだったんだろう?

演じていたのはカルメン・マウラ
ペドロ・アルモドバル監督作品の常連とのこと。
残念ながらアルモドバル監督の初期の作品は今のところ未鑑賞のため、今回が初カルメン・マウラとなった。
目鼻立ちがハッキリしていて、舞台でも映えそうな顔立ちだね。

イレーネの姉、パウラ。
ライムンダとソーレにとっては伯母である。
若い頃のライムンダと一緒に暮らしたことがある。
そのためライムンダのことだけは認識できるけれど、ソーレや娘のパウラのことは忘れてしまうほど、認知症が進行している。
目もほとんど見えず、杖をついても歩くのが困難なほどに体調も悪い。
墓参りに来た姪を迎え、お菓子のお土産を用意している。
「パウラ伯母さん、見えない目でどうやって作ったの?」
ライムンダが疑問に感じるのも無理はないよね。

演じていたのはチュス・ランプレアベ
1930年生まれというから「ボルベール」の時に76歳くらいなのかな。
初期の頃からのアルモドバル監督作品の常連で、「トーク・トゥ・ハー」にも出演していたみたいだよ?
どのシーンだったんだろう?

パウラ伯母さんの家の向かいに住んでいるアグスティナ。
6人の中でアグスティナだけが血縁者ではないけれど、ずっと同じ土地に住んでいて、親戚以上にお互いを知り尽くしている関係である。
一番初めに墓掃除のシーンでアグスティナが登場した時には「5分刈りの女性!」とびっくりして、目が釘付けになってしまった。
いやあ、憧れるなあ!
一度はやってみたい髪型なんだよね。(笑)

アグスティナは、母親が村で唯一のヒッピーで高級プラスチックでできたアクセサリーを身に付けていたことを自慢する。
プラスチックに高級ってあるのかな?(笑)
そしてアグスティナ自身も、自宅で大麻を栽培しマリファナを吸ってるんだよね。
マリファナ吸うと食欲が出るらしく、アグスティナにとっては健康法らしい。
もっと特徴的なのは、挨拶として頬をよせると、
「チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、チュッ」
って大きな音を出しながらキスをするところ!
熱烈さを表現しているのかもしれないけれど、びっくりしちゃうよね!(笑)

なんとも印象的なアグスティナを演じていたのはブランカ・ポルティーヨ
次回取り上げる「抱擁のかけら」でも重要な役を演じている女優である。

以上の6名がカンヌ国際映画祭女優賞を受賞した女優陣である。
祖母、母、娘という3代に渡る女達の歴史を、日常的な視線でみせながらも人間ドラマに仕上げた作品という感じかな。
どうやらラ・マンチャというのは田舎なので、昔から迷信が信じられてきたような土地らしい。
迷信深い田舎で起こる不可解な事件といえば、横溝正史などが有名だけど、閉鎖的な土地での人間の行いというのは、世界各国共通なのかもしれないね。

憎しみや愛情は特に血縁関係者だからこそ余計に強く感じるのかもしれない。
近親憎悪という言葉もあるくらいだからね。
その憎しみが溶解した時、感情はいっぺんに愛情へと向かうようだ。
今まで理解し合えなかった、空白の時間を取り戻そうとするのかのように。

アレハンドロ・ホドロフスキーの著書「リアリティのダンス」の中にサイコ・セラピーを行う時、悩みを抱えている人の家系図を描かせると記述されている。
自分の両親、またその両親や兄弟について名前や性格など分かる範囲の、できるだけ細かい情報を持ってくるようにと言うらしいのだ。
これは、その家系で代々伝わっている(意識・無意識両方共の)信念や教育方針などを知り、それらを分析することで悩みの解決につながるというものだった。

家庭内暴力を繰り返す父親を持った娘が、同じ傾向の男性と結婚してしまうような話はよく耳にする。
家族の環境、習慣や教育が子供の成長過程に重大な影響を及ぼしている結果、ということになるのかな。
そういった血縁同士の濃い因果関係を、性と生と死を通して描いたのが「ボルベール」なんだね。
女性の強さやたくましさが充分に表現されていたと思う。
「ボルベール」もまた「女性賛歌」の作品だね!

ペドロ・アルモドバル監督の第2回目は以上の2本にしておこう。
残り2本はまた次回に特集する予定。
どうぞお楽しみに!