CULT映画ア・ラ・カルト!【13】The Holy Mountain

【フランス版のポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

毎年開催されているカンヌ国際映画祭は、多少ニュースで知るくらいでほとんど注目したことはない。
1990年に敬愛するデヴィッド・リンチ監督が「ワイルド・アット・ハート」でパルムドールを受賞した時は、さすがに興奮したっけ。
まさかリンチがカンヌでグランプリとは!ってね。(笑)

あれから22年の時を経て、今年のカンヌにはSNAKEPIEPが興奮するネタがあったのだ!
それは「藁の楯」じゃなくて(笑)、アレハンドロ・ホドロフスキー監督のニュース!
今年の2月に入手したホドロフスキー監督の自伝「リアリティのダンス」が映画化されることは知っていたけれど、実際に映画が完成していてカンヌで上映されたと聞いて小躍りしたのである!
観たい!観たい!絶対観たい!!!うおぉーーーーっ!
そのニュースを知り、トレイラーを発見して鑑賞した夜には、「リアリティのダンス」の夢まで見てしまった!
強い気持ちは夢に現れやすいなあ。
えっ、じゃあこの前夢の中でコバルヒンを一緒に食べた小倉智昭に対しても強い気持ちがあったのか!(笑)

「リアリティのダンス」を読んで、ホドロフスキーに対する興味は益々増すばかり。
ホドロフスキー原作のバンド・デシネまで購入してしまった。(笑)
それについてはまた別の機会にブログでまとめてみたいと思っている。
本日は84歳にしてまだまだ現役バリバリの映画監督、アレハンドロ・ホドロフスキーの「ホーリー・マウンテン」について書いてみよう。

「ホーリー・マウンテン」(原題:The Holy Mountain)は、メキシコとアメリカの合作映画で1973年に製作されている。
日本公開は1988年とのこと。
当然ながら観に行ってるSNAKEPIPEなんだけど、1回目の鑑賞ではストーリーについていくのが精一杯だったように思う。
それから何度繰り返し観たことだろう。
そしてホドロフスキーの自伝である「リアリティのダンス」を読んで、今回再び「ホーリー・マウンテン」を鑑賞したSNAKEPIPE。
「ホーリー・マウンテン」を撮影していた頃の話も所々に登場するし、なんといってもホドロフスキーの生き様や信念を知ることによって、より一層映画の理解が深まるように思う、たぶん。(笑)
では早速「ホーリー・マウンテン」の感想をまとめてみようかな。

※ネタバレを含みますので、映画を観ていない方はご注意下さい。

とても有難いことにトレイラーがあったので、載せておこう。
なんとも摩訶不思議で残酷な美しい映像にウットリしちゃう。
ところが単なる映像の羅列じゃなくて、ちゃんとしたストーリーが展開されてるんだよね。
Wikipediaにはものすごく簡単に

錬金術師は、不老不死の秘法を知る賢者達から秘法を奪う為に、修行の末、賢者達が住む聖なる山(ホーリー・マウンテン)に至るが…。

と一行で書かれているけど、ここではもう少し詳しく書いていこうか。
「ホーリー・マウンテン」は3つのパートに分かれている。
一番初めはキリストに似た風貌の男の話。


何故だか分からないけれど、地べたに寝ていた男、役柄は盗賊とされている。
第1部の主人公はこの盗賊ね。
そして盗賊にいたずらを仕掛けるが、次第に仲良くなる両手両足のないフリークスも登場する。
ホドロフスキー映画には欠かせない(?)タイプの役者さんといえるかな。
盗賊はフリークスを抱きかかえ、町を散策する。
そこで様々な出来事に遭遇するのである。

軍隊による民衆の虐殺。
皮をはいだ動物を十字架に磔にし行進する軍隊。
それらを笑いながらカメラに収める観光客。
「エル・トポ」に出てきた街に近い雰囲気だね。
「ヒキガエルとカメレオンのサーカス団」は動物を使って戦争ごっこを見せる。
爆発で吹き飛ぶカエルやカメレオンの映像は、少しグロい。 


キリスト像を製造し、安売り(!)販売している太っちょ達に酒を飲まされ、呑んだくれた盗賊は眠っている間に型取りをされてしまう。
見た目がキリストを思わせるから、というのが理由だろう。
1000体もの自分と同じ姿をしたハリボテの中で目覚め、気が狂ったように叫ぶ盗賊。
見事としかいいようのない異様な光景だ。
実際に作ったんだろうけど、この一枚写真だけでも迫力あるよね!
盗賊は自分に似たハリボテ一体だけを抱え、再び歩き始める。


次に出会うのが娼婦の集団。
黒いシースルーのトップスに黒い短パンに白いベルト、腿まである白いブーツという全員が同じ服装をしている。
年齢も少女からミドルまで幅広い。
その中でチンパンジーを連れている、目に力がある女性が盗賊に惹かれ、あとを付いて行く。

ハリボテを教会に預けようとすると、本物のキリスト像を抱いて眠っている司祭がいる。
こっちが本物だから偽物のハリボテは持って帰れ!と盗賊を追い返してしまう。
そして何故だか盗賊は、ハリボテの顔を食べ始めるのである。
モリモリ食べてるんだけど、このシーンはかなりウエップな状態。
多分実際には食べられる素材でできてるんだろうけどね。(笑)

次に遭遇するのは上をじっと見上げている人々。
一体何を見つめているのかと思うと、高い塔から金色の錨のような形のオブジェがスルスルと降りてくる。
錨には袋に入ったゴールドが入っていた。
盗賊は目ざとくゴールドに目をやると、その錨に乗って一人だけ塔の中に入ってしまう。
このシーン、まるで「蜘蛛の糸」なんだけど、今回は一人だけが招待されるってことで良いみたい。(笑)
ここで盗賊は錬金術師に出会うのである。


ここからが第2部の始まり。
この錬金術師こそ、我らがアレハンドロ・ホドロフスキーご本人!
「エル・トポ」の時と同じように、監督・脚本と更に俳優までこなしてるスーパーなお方だよね。(笑)
錬金術師だけに、誰もが持っているモノを素材にしてゴールドを創りだしてしまうのだ。
盗賊も「ゴールドが欲しい」と答えたばかりに、かなり苦しみながらも、本来自分が持っているモノを使用してゴールド獲得!
実はこれ、排泄物なんだよね。
まさかと思うけど、本気にして試した人いないよね?(笑)
「己自身もゴールドになれるのだ」
というものすごく説得力のある言葉を受け、盗賊は錬金術師の弟子になる。
「錬金術を学びたいのなら、この連中と組め」と権力のある実業家や政治家達を紹介する錬金術師。
ここで出てくるそれぞれの権力者達の説明が、「ホーリー・マウンテン」の中で、SNAKEPIPEが一番好きな部分なんだよね!(笑)

守護星が金星のフォンは肉体にやすらぎと美を与える仕事に就いている。
実際に何をやっているかというと、ベッドやマットレス、織物、洋服や化粧品の製造販売を行なっている。
人間は中身よりも外見を大事にする、ということから人造的な筋肉や面も製造する。
その面は死ぬまで使用可能とのこと!
これがあったら美容整形必要なしだね。(笑)

棺桶に関するビジネスもあり、死体に電子装置の仕掛けをして、死体が動くようにするというかなりブラックな商売まで手がけているようだ。
創業者である父親が会社の中での絶対的存在であり、その父親が会社経営に関する意見をミイラ化した母親の陰部に触れることによって決定するエピソードや、フォンには何十人ものワイフが存在しているところも面白い。

次は守護星が火星のイスラである。
男装の麗人といった感じで、女性2人とベッドを共にしているので、恐らくレズビアンという設定だと思われる。
イスラが行なっているのは、兵器の製造販売である。
爆撃機、水素爆弾、光線銃、細菌兵器、反物質波、発癌性ガスなどのかなり物騒なものだ。
誇大妄想狂にするための薬や、善良な人間を獰猛にする薬なども作り、実験も行なっている。
若者用の武器としてサイケデリックなショットガンや手榴弾でできたサイケなネックレス、ギターの形をしたロックンロール銃、仏教徒用の銃、ユダヤ教徒用、キリスト教徒用など様々なバリエーションの銃を見せてくれるんだよね。
よくもまあ、作ったもんだと感心しちゃうよ。(笑)
イスラが寝ていた部屋にあった絵画も興味深く観ていたSNAKEPIPE。
あれは誰かの作品なのかな?

クレンの守護星は木星、そして現代美術のアーティストである。
立派な屋敷に住み、運転手付の車で愛人を伴ってアトリエに向かう。
専用のアトリエではクレンの奇妙な作品が制作、展示されている。
ボディ・ペインティングした生身の女体をオブジェとして実際に触れる作品や、絵の具を臀部に塗り紙の上に座らせて一点物に仕上げるアクション・ペインティングだったり。
クレンは人体をテーマにしたアートを展開しているようだ。
最後に登場するのは「ラブ・マシーン」という機械式の女体マシーンだ。
男根をイメージした長い棒をうまく操ることで、「ラブ・マシーン」に様々な変化を起こさせるという、なんだか本当にありそうだけどバカバカしい作品である。
触れる作品というとつい思い出してしまうのが、江戸川乱歩の「盲獣」だな。
乱歩だったらクレンの作品を評価するかもしれないね?

セルの守護星は土星だ。
子供相手の商売をしている。
サーカス団を持っており、自らピエロに扮して象に乗り町を練り歩く。
向かった先はセルのおもちゃ工場。
その工場に入る前にピエロから女社長の服装に着替え、まるで別人になってしまうのだ。
そして工場内を視察する。
ここはただのおもちゃ工場ではない。
政府の政策を取り入れ、戦争や革命を想定し子供を軍事教育するためのおもちゃを開発しているのである。
ペルーとの戦争を望んだ場合、敵対心を高めるためにペルー人を悪者に設定した人形や漫画を作ったり、強烈な臭いの下剤を作り商品名をペルーの首都にし、悪=ペルーというイメージを植え付けるのだ。
15年先を見越してというから、なんとも壮大な計画だよね。
実際にこういったことが行われた場合には、まんまと計画通りに喜んで戦争に行く人間に育つだろうね。
なんとも恐ろしいね!

バーグの守護星は天王星だ。
母親なのか妻なのかよく分からない立場の、まるでジョン・ウォーターズ監督の映画でお馴染みのディバインみたいな女性と同居している。
「私達のベイビー」としてベッドに寝かされているのは大蛇!
哺乳瓶でミルクをあげたり、蛇用ロンパースのような編み物までしているほどの可愛がりよう。
バーグは大統領の財政顧問をやっている。
大統領からの呼び出しを受け、財政に関する報告をする。
「赤字対策のため今後5年間に400万人の口減らしが必要です」
というヒドイ内容!
それを聞いていた大統領はすぐに電話をかけ
「ガス室の準備をしろ」
と命じるんだよね。
学校、図書館、博物館、ダンスホール、売春宿で使用せよ、と人が大勢集まりそうな場所をチョイスする大統領!
「ホーリー・マウンテン」には民衆を虐殺するようなシーンがたくさん登場するので、この大統領の発言は「いかにもありそう」と思ってしまうね。

アクソンの守護星は海王星。
モヒカンの警視総監である。
なんとこの警視総監、睾丸コレクションをしていて、今回めでたく1000組を集めたというのだ。
「今日がおまえの最良の日だ。その勇気を讃えよう」
コレクションに寄贈した若者に向けて言葉をかけるアクソン。
このコレクション、一体何の意味があるんだろうね?(笑)
このアクソン役の俳優は、ホドロフスキーに「スタッフになりたい」と電話をしたらしい。
実際に会った時ホドロフスキーから「役者として出演してみないか」と言われ「本当は役者になりたかったけど、勇気がなくてスタッフとして応募した」というやりとりがあった話が「リアリティのダンス」の中にあった。
ホドロフスキーは素人を使うことで知られているので、こんなことは日常茶飯事なのかもしれないね?
でも演技が初めてという感じはなくて、堂々と見事に警視総監を演じていたと思うよ、アクソン!

ルートの守護星は冥王星だ。
建築家である。
着物のような衣装に身を包み、ミッキーマウスを思わせる衣装の子供達とかくれんぼ。
そういえば「ホーリー・マウンテン」の冒頭で頭を丸刈りにされる女性2人はマリリン・モンローみたいな白いドレスと髪型だったね。
ドレスを剥ぎ、頭を丸める行為はマリリン・モンローを別人にし、そのイコンそのものを剥奪するようなことなんだろうかね?
対アメリカってことなのかしら?
あまり深く考えなくても良いのかもしれないけど?
ルートは棺桶型のシェルターを提案する。
食事や風呂は別の施設で供給し、シェルターはただの寝床として活用するという計画だ。
「家や家庭のない街!人間よ自由であれ!」をスローガンにこの計画のプレゼンテーションするんだけど、まるでそれは以前鑑賞した「メタボリズムの未来都市展」に似ていて興味深かったな。

そして第2部の初めから登場していた錬金術師の一番弟子のような女性も、一行の中に入ってるんだよね。
この女性に関しては名前も出てこないし、エピソードを示すような映像もないので勝手に想像するしかないね。
当然のように守護星がどれ、なんて話もない。
頭にピッタリしたヘルメットのような帽子をかぶっているだけで、他は全裸状態。
首輪やイヤリング、付け爪などのアクセサリーを大量に装着していて、とてもカッコ良い。
体中に梵字のような刺青が入っていて、背中にはケーリュケイオンが彫られている。
どうやらギリシャ神話に出てくる杖のことらしいんだけど、詳しくないので意味を知りたい方はご自分でお願いします!(笑)

最後の全裸・梵字の女性以外の紹介した7人は、それぞれ守護星を持っている。 ホドロフスキーがタロットに造詣が深いということもあって、「ホーリー・マウンテン」のあちらこちらにタロットが散りばめられているのだ。
この守護星に関する部分も恐らくタロットと深い関わりがあるものと思われるけれど、SNAKEPIPEがタロットに詳しくないので意味については割愛。(笑)
一応守護星ということについてだけ調べてみたら、太陽、月、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星が守護星ということになるらしい。
上記の7人以外の星ということになると太陽、月、地球が残るんだけど、錬金術師と盗賊と全裸の女性の守護星はどれなんだろうね?
こうして錬金術師を師として、弟子の9人が錬金術を極め、不老不死の知恵を求め聖なる山に登るのである。

ここからが第3部。
金や権力があっても人は必ず死ぬ、と錬金術師は言う。
インドのメルー山、道教のコンロン山、ヒマラヤのカラコルム、哲学の山、薔薇十字会の山、聖ヨハネのカバラ山などの伝説で語られている不老不死に関する記述は全て同じで

9人の不死の賢者が頂上に住み、そこから現世を支配している
彼らは死を超越する術を持っていて4万年も生き続けている

という内容らしい。
彼らにできたのだから、我々にもできるはずだというのが錬金術師の言い分である。
薔薇十字会の古文書により、9人の賢者の居場所がロータス島の聖なる山であることが判明。
賢者から術を奪うためには、我々も賢者にならなければというもっともな理屈を披露され、弟子達は賢者になり悟りを開くべく修行を開始する。


まずは儲けたそれぞれの金を燃やし、執着を捨てる修行。
権力のある連中は金持ちだから、かなりの大金が燃やされる。
続いては自己の意識を捨てる修行。
弟子達は自分にそっくりの蝋人形を火で燃やす。
今までの自分にさようなら、ということなんだろうね。
こうしてようやく聖なる山に向けて旅立つのである。

旅の途中で何人かの「その道の達人」に出会い、修行を重ねる弟子達。
圧力を利用し体から毒素を排除する、野生の植物からできた青汁を飲み、裸でお花畑を駆け回り、坐禅を組み瞑想する。
このような修行を続けていくうちに、自分自身が自然の一部となり、今まで見過ごしたり聴き過ごしてきた事柄に気付くようになるという、かなり宗教的な内容になっている。
実際にホドロフスキーが禅の修行をしていたことも影響してるんだろうね。
更には自分の葬式の体験。
今まで自分が生きてきたことの全てを捨て去り、無になろうというもの。
これもかなり色濃く東洋思想が反映されているようだね。
そして新しく生まれ変わり、ここでやっと賢者として認められたようだ。

小型の船でロータス島に向かう。
島に上陸した時に全員が頭を丸め、坊主になってしまう。
そして服装も全員同じだから、途中から誰が誰なのか判らなくなっちゃうんだよね。(笑)
悟りや知恵を求めてやってくる人が多いロータス島だけど、皆が途中で挫折して現世での楽しみに心を奪われてしまうようだ。
似非宗教家も台頭し、ロータス島はまるで観光地のようになっている。
それらの誘惑にも負けず、聖なる山を目指し登山する一行。
指が凍傷になったという一人に「肉体への執着が残っているせいで、頂上に辿り着けない」という理由から指を切断し捧げ物にさせる。

そうしてやっと頂上付近に到着。
ここでは高さゆえに死の幻影を見るであろう、と錬金術師が妙な予言をした通りに弟子達を襲う恐怖体験。
これは自分が恐れを感じているものが夢に出るのと同じだね。
埋められて走れない馬、降ってくる金貨で顔中が血だらけになる男、闘犬に興奮する男、顔をゲンコツで殴られ大量の白い液体を浴びせられる女、
老婆に去勢される男、大量の毒グモに全身を這われる男、巨大な乳房のある初老の男性からミルクをかけられる男。
このシュールなシーンも大好きなんだよね!

こうしていくつもの難題に立ち向かい、やっと9人の賢者がいる場所まで辿り着くことができた。
白装束の賢者達はもう目の前に見えている。
あとは賢者から術を奪い、自分達が賢者に成り変われば良い、というところまで到達したわけだ。
ここまで来れば師は必要ないだろう、と錬金術師は盗賊に「私の頭を切り落としなさい」と命じ、盗賊は実行する。
ところが実際に切っていたのは、ヤギの首だった。
「ハハハハ」と笑いながら、錬金術師は「教えることがある」と言う。
旅の途中から一行の後を付いてきたチンパンジーを連れた娼婦を盗賊に引きあわせ、「このまま山を降りて幸せに暮らせ」と言うのである。
修行の段階では様々な執着を捨てることを学ばせた後で、「愛が一番」と説く錬金術師に少し疑問を感じちゃうけどね?(笑)

こうして盗賊は頂上を極め、賢者になることはなく現世へと戻っていくのである。
残りの弟子達は瞑想の後、白装束の賢者達を襲うために近づくが…。
えっ、うそ?という展開が待っているので、ここは書かないでおこう。
このラストについては賛否両論あるみたいだけど、SNAKEPIPEはアリだと思った。
だってラストがどうのという映画じゃないからね、「ホーリー・マウンテン」は!
場面ごとの描写を楽しむことができれば、それだけで充分だと思う。
意味とか解釈は、SNAKEPIPEには必要ないなあ。

たくさんの動物が、実際にはあり得ない場所や状況で登場する。
多用されるシンメトリーの構図。
ちょっと稚拙な感じのする残酷で不思議な絵。
和洋折衷な雰囲気の衣装。
どのシーンを切り取っても写真集が出来上がるほどの完成度の高い美意識には脱帽してしまう。
SNAKEPIPEは前作の「エル・トポ」をまとめたブログでも全く同じことを言ってるんだけど、ホドロフスキーの美学に完全ノックアウトされてるから許してちょ!(笑)

ブログで記事にするためという大義名分を得たおかげで、何日間も繰り返し「ホーリー・マウンテン」を目にすることができた喜びったら!
何度でも何度でも観ていたいと思う、中毒性のある映像世界にどっぷり浸かることができて幸せだった。
「リアリティのダンス」を鑑賞する前までには、もう一つ「サンタ・サングレ」についての記事もまとめておきたいと思っている。
そうして一度キチンと整理した上で「リアリティのダンス」に臨みたいものだ。

果たして日本公開はされるんだろうか?
非常に気になるところだ。

Naonシャッフル 第3夜

【本文には書ききれなかったゴシック娘(当時)たち】
ROCKHURRAH WROTE:

何とこの「Naonシャッフル」のシリーズも一年も書いてなかった事に気付いてしまった。企画考えるのに力を使い果たして、その後はどうでも良くなるのがお家芸というわけか? しかも「飽き」が書いてる途中で訪れて後半がだんだんぞんざいになってゆくのもROCKHURRAHの得意技。いかに勢いだけで書いてるかって事だね。

そんなわけで久々に「 Naonシャッフル」の記事でも書いてみるか。
世の中にユニークな音楽をやっている(あるいはやっていた)女性アーティストはたくさん存在していたが、そういう究極を目指す記事ではなくて、単にたまたま思いついたものを連ねてゆくだけというのがこのシリーズのスタイルだ。だからむしろ一般的には何の変哲もないバンドやあまり取り柄のないバンドも混じっているだろうけど、そっちの方が後世に残った音楽よりも知る機会も思い出す機会も少ないのは確か。
そう考えるとちょっとは80年代ニュー・ウェイブの歴史学(そんな学問あるのか?)に貢献してるに違いないし、誰かが少しでもこの記事に興味を持ってくれればそれでいいのだ。

今日の括りは何だかわからんが、翳りのある曲調を得意とするバンド達について。なぜだかパンク、ニュー・ウェイブの時代と言えば明るくてキャピキャピ(たぶん完璧なる死語)女のバンドよりもこういう暗めの路線の方が目立っていたし個人的に記憶に残っているものが多い。気のせいかな?

この手の音楽を世間的にはポジティブ・パンクとかゴシックとかダーク・サイケとか呼んでいた時代があった。これについては格別詳しい事も書いてはいないが拙作記事「時に忘れられた人々【04】Positive Punk」に少し書いたか?

元祖とも言えるスージー&ザ・バンシーズは1978年頃のデビュー直後からすでにダークに沈み込む曲調でそういう音楽のルーツと言えるが、ポジティブ・パンクが栄えたのは大体1982年くらいから1985年くらいの期間だった。まだそういう名称は付けられてなくても、潜在的には1979年くらいから同じ傾向のバンドは存在していた。
すぐに新しい流行りが生まれてあっという間に廃れてゆく80年代ニュー・ウェイブの中では6年という月日はかなりの長期間であり、いかにイギリスの若者がこの手の音楽を支持していたかという証でもある。表でエレポップ(テクノ・ポップ)とかニュー・ロマンティックとかファンカ・ラティーナとか流行ってた裏側ではこういう音楽が脈々と受け継がれてきたわけだ。
この時代のイギリスに行ったわけでもないROCKHURRAHだが、日本で細々と陰鬱な音楽を買い漁っていた情景を思い出しながら書いてみよう。

Skeletal Family

イギリス北部、ヨークシャー出身のスケルタル・ファミリーは1982年にデビューしたバンドだ。バンド名はデヴィッド・ボウイの異様な名曲「永遠に周り続ける骸骨家族の歌」が由来との事。
ヨークシャーと聞いてROCKHURRAHが即座に思い出すのはビル・ネルソンのバンド、ビー・バップ・デラックスだが、単に同郷なだけで全然関係ない話。書く必要性は全くなかったな。
どうやら鉱山とか工業とかで栄えた土地らしいが、だだっ広い野原が広がってるという勝手な印象がある。プロモの背景もそんな感じだし。
アン・マリー・ハーストという女性ヴォーカルをメインに成り立っていたバンドだが、この人以外の男メンバーは地味で特徴があまりないなあ。紅一点のアン・マリーは赤い髪をちょいとモヒカン風にした、ケバいと言えばそうだが、もっとすごいのがウヨウヨいたこの時代としては割と普通で際立った個性はないかも。やってる音楽はスージー&ザ・バンシーズ直系の暗くて直線的、割と雑な楽曲が多いけど同時代のネオ・サイケとかよりは攻撃的で、やはりポジパンの部類に入るんだろう。
このビデオで注目すべきはやはりアン・マリーのヴォーカル、というよりは「困ったような、泣いたような、でも笑ったような」表情。日本の能とか狂言の世界ではこういう微妙な表現が重要な要素らしいが、まさか遠く離れた英国で相通じるものを見つけるとは。
もしかしたらスッピンは単なるタレ目なだけかも知れないが、この表情だけは素晴らしい個性だと思うよ。曲もWah!のピート・ワイリーのようなギターで(というか「Seven Minutes To Midnight」のパクリのように聴こえる)なかなか良し。

Ghost Dance

ポジパンもこの時代の音楽も疎いという人が見れば「上のバンドと全然区別つかないよ」という意見が出そうだが、ROCKHURRAHにもあまり区別はついておらぬから心配せずとも良い(笑)。
ゴースト・ダンスは上のスケルタル・ファミリーのアン・マリーが元シスターズ・オブ・マーシーのゲイリー・マークスと共に始めたバンドで、1985年にデビューした。この時期が微妙で、すでに意外と長く続いたポジパンもダーク・サイケも終わろうかという頃。 だからなのか知らないが、このゴースト・ダンスよりもポジパン真っ只中だったスケルタル・ファミリーの方が個人的な好みには合ってる。
こちらの方が成功したようで楽曲もさすがシスターズ・オブ・マーシーのオリジナル・メンバーがやってるだけあってスケールがでかい、音楽的な完成度も高いんだろうけどね。ネタ切れというわけでもなかろうが、ヤードバーズやスージー・クアトロ、ロキシー・ミュージックなどのカヴァー曲も目立つ。
問題のアン・マリーはスケルタル・ファミリー時代と比べて特別な変化もなく、ずっと同じスタイルのまんまだね。演奏が変わっただけじゃ揺らぎもしないという強い個性のわけでもないのに、相変わらず何とも言えない表情(切ないけど笑ってるようにも見える)のヴォーカル。ファンにとってはそこがたまらん魅力なのかも知れないけど「大丈夫?」と思ってしまうよ。

Brigandage

続いては初期パンクの頃から活動をしていたらしいブリガンデージ。日本での知名度はたぶんほとんどないように思えるし、ROCKHURRAHもこのバンドについて知ってる事は少ないけど、とにかくカッコイイし書いてる人も滅多にいないから、アムンゼン(南極に最初にたどり着いた人)状態で書かせて頂こう。
このバンドについて知ったのはポジパン全盛期の頃出ていた「The Whip」というコンピレーション・アルバムに収録されていたから。ブリガンデージは曲も見た目もパンクでポジパン専門のバンドよりは明らかに線も太くアグレッシブな音楽なんだが、ちょうど聴いてた時はポジパン寄りの音楽だった。「The Whip」はセックスギャング・チルドレンやマーク・アーモンドが中心となったポジパンの名盤コンピレーションと言われていた。たぶん結構入手困難だったように記憶する。
ブリガンデージはNMEやFACEなどイギリスの音楽系雑誌とかでポジパン特集やってる時に顔は見かけたもんだが、レコードがバンドの全盛期に出なかったもんだから実際のその音楽についてはあまり知られていなかったというパターンね。
その後、ブリガンデージを探してやっとレコードを入手したんだが、ジャケットがガッカリ仕様だったのだけは覚えてる。先に書いた雑誌に載ってた顔立ちではなく、ちょっとぽっちゃりした顔のぼんやり写真だったから。曲は良くて名盤だと思うんだけど、これをジャケット買いする人間はそうそういないだろうなあ。雑誌で見たのはたぶん初期の頃だと思うけど、かなり派手なヴィジュアルとおしゃれなパンク・ガールといった雰囲気がこのレコード・ジャケットにはなくて「写真で見た時は美人だったけど会ってみたら大した事なかった」という騙された感の漂うものだったなあ。曲はいいんだけど。
なぜかレコードではなくカセットテープでリリースされたような粗悪な音のものまで持ってたけど、その頃にはもうポジパン聴いてなかったんじゃなかろうか?あまり記憶に残ってないんだよな。
このバンドはミッシェル・ブリガンデージという女性が中心になって70年代後半から活動していたらしいが、何と9回もメンバー・チェンジしていて最後の方はいつ頃なのかよくわからん。
ライブ映像見てもらえればわかるけど演奏も歌い方もふてぶてしくて声が良く出てる。かなり場馴れしたバンドだという事がわかるね。特に映像2曲目の「Horsey Horsey」が大好きな曲だ。ライブは違うけどスタジオ盤ではちょっとアコースティックな感じで哀愁ある中東風のフレーズが印象的な名曲だった。この時は普通の金髪だが、最初の頃はモヒカンでもっと過激だった印象がある。
しかし最近のものと違って革パンの股上が異常に深いハイウェスト仕様。80年代は確かにこうだったよねぇ。
この手のバンドを幾多も持ってて(今どきそんな人いるのか?)「もっとパンチのあるヤツが聴きたいよね」などと思ってる人がいたらオススメ出来るので、もし見つけたらROCKHURRAHの言葉を信じて買ってみてね。

Baroque Bordello

続いてはは1981年から活動していたらしいフランスのバンド、バロック・ボールデロだ。
ROCKHURRAHがネオ・サイケとかポジティブ・パンクを聴いていた時代にフランスではオルケストル・ルージュとかレ・プロヴィソワールとか素晴らしいバンドがいて、勝手に「フランス、すごい」と思い、フランス物のニュー・ウェイブばかりを探していた時期があった。このバンドはその頃にタイトル忘れたがフランスのバンドによるカヴァー・ヴァージョンばかりを集めたコンピレーションで知ったもの。このアルバムでピンク・フロイドの初期の名曲「See Emily Play」をカヴァーしていたのが印象的で、ずっと気になっていた。
この時代、フランスにはインヴィタシオン・オゥ・スーサイド(自殺への招待)という暗黒なレコード・レーベルがあって、クリスチャン・デスとか前述のレ・プレヴィソワールとかジャド・ウィオとかなかなかレベルの高い音楽をリリースしていた。が、このバロック・ボールデロはそういう系列とは違っていてガレージ・レーベルというところを中心に活動していた模様。先に書いたカヴァー曲ばかりのコンピレーションもこのレーベルだったように思ったが、バロック・ボールデロのレコードも確か1枚持ってたかな?
正直言って参考文献はフランス語だし時代は古いし、この現代に調べようと思ってもなかなか難しい。昔はネットとかもなかったから。よりいっそう情報を仕入れるのに苦労したもんだ。
つまりこのバンドについてはワガママそうでちょっと怖い見た目の女性ヴォーカルという以外はよくわかってないという事だ。
歌っている動画も見当たらなかったのでどういうバンドなのか不明だろうが、この曲はデビュー曲で元キュアーのローレンス・トルハーストがプロデュースしたそうだ。どこかで聴いたような歌声とメロディで、興味ない人から見れば違いもよくわからんだろうな。顔はワガママそうだが声はそうでもないから、根はいい子に違いない。

Malaria

4つしか書いてないけどあまり違いもないし早くも飽きてきたので、この5つ目で一旦終わるつもりだ。

最後に書くのはポジティブ・パンクとかのジャンルではあまり語られる事がないであろう、ドイツのバンド、マラリアについて。
英語力が極めて低いROCKHURRAHなのでドイツ語力はなおさら、あるはずもない。だからメンバーの名前を見てもどうカタカナ表記していいかわからず途方に暮れてしまう事もしばしば。ノイエ・ドイッチェ・ヴェレの事をなかなか書かない理由のひとつでもあるね。このバンドも「読めん!」と唸ってしまう名前のメンバーばかりで構成されている。
マラリアはドイツのニュー・ウェイブが始まったくらいから活動していたマニアDというバンドを母体とした、全員女性のバンドだ。
このマニアDはニュー・ウェイブ初期のガールズ・バンドと言えば誰もが連想するようなド派手なファッションや髪型で、元ニュー・ウェイブ少女だった(現在の年齢は秘密)方々は写真を見ただけで「懐かしいわぁ」と涙するくらいに80年代そのもののルックスだった。マラリアになってからはカラフルさがなくなり、当時はカラス族などと呼ばれたような漆黒のファッションだった。コム・デ・ギャルソンやニコル、コムサ・デ・モードにY’sなどなど、今はどうか全然知らないが、80年代初期にはみんな真っ黒だったな。とにかく全員がモデル並みのルックスでヴィジュアル的にはドイツでもトップクラス。
おっと、音楽について全く書いてなかったよ。
ノイエ・ドイッチェ・ヴェレとはドイツのニュー・ウェイブの事だが、そのいくつかの有名バンドに関わっていた人材を擁していたのがマラリアだ。何だか具体性がない発言で申し訳ないが、書くと長くなってしまうし横道にそれてしまうのがわかりきってるからテキトーにしか書かないのだ(断言)。
このバンドは本来はDAFのようなエレクトロニクスによる単調なビートにドイツ語の巻き舌ヴォーカルがかぶさってゆくというパターンが多いのかな。たまたま今回紹介したPVの方が上に書いたようなバンドと相通じるだけで、本当は違った感じなので誤解しないように。
ポジパンとかそういう範疇には入らないんだろうけど、ただ暗い曲調を得意としていて、ビデオとかは結構ゴシックな雰囲気を漂わせてるね。

大して面白くもなく興味深い記事でもない割に長々と書いてしまって失礼つかまつった。
この手のバンドを書く時に必ず誰もが言及するだろう4AD系列のコクトー・ツインズとかデッド・カン・ダンスとか見事にすっ飛ばしてるところがROCKHURRAHの王道嫌いを物語っているかも。

最近ブログをあまり書いてないけど、この手の過去ニュー・ウェイブ記事を書かせればまだまだその辺のオタクよりは深遠だね。ではまたこのサイトで会いまちょう。

好き好きアーツ!#20 鳥飼否宇 part5–憑き物–

【いくつかの画像をアレンジして作ってみたよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

大ファンの作家、鳥飼否宇先生の「観察者シリーズ」「物の怪」が発売されたのは2011年9月のこと。
興奮しながら読み、拙い感想は「好き好きアーツ!#12 鳥飼否宇 part3 –物の怪–」としてまとめさせて頂いている。
「観察者シリーズ」とは何かということに関しても、説明させて頂いているので、ご存知ない方はご参照下さいませ!
この時にも鳥飼先生から直々にコメントを頂戴してるんだよね。(笑)
鳥飼先生、いつも当ブログを読んで頂きありがとうございます!

待ちに待った「観察者シリーズ」次回作の刊行を知り、早速予約注文をしたSNAKEPIPEとROCKHURRAH。
そして鳥飼先生の最新作「憑き物」は無事に到着!
タイトルのおどろおどろしさが気になるね。
京極夏彦坂東眞砂子の小説にも出てきた題材だけど、まずは初めに≪憑き物≫の意味について調べてみようか。

人に乗り移って、その人に災いをなすと信じられている動物霊や生霊・死霊。
これに取りつかれると,精神に変調をきたすといわれる。
狐憑き・犬神(狗神)憑き。物の怪。(大辞林より)

≪憑き物≫は家系によって起こるとされ、その一家は≪憑き物筋≫と呼ばれたそうだ。
≪憑き物筋≫は憑いた霊を使役し呪う能力があると恐れられ敬遠されながらも、他人に憑いた霊を払い落とすことができるという評判もあり、民間宗教として成立していたという。
「狐憑き」に関する最古の記述が「今昔物語」にあるというから驚いちゃうよね!
憑依する動物はキツネの他にも「人狐(にんこ)」、「クダ」、「ヤコ(野狐)」、「ゲドウ(外道)」、「犬神(狗神)」、「オサキ」、「イヅナ(飯綱)」など、聞いたことがない名前もたくさん登場してバラエティ豊富!(笑)
それらの伝承は日本各地に残っているようだ。

動物霊が憑く以外に、トランス状態に入って「霊」との交信をするシャーマニズムも≪憑き物≫といえるよね。
パッと思いつくのは青森のイタコや、 映画で観たブードゥー教の儀式で卒倒するような憑依シーン、他には映画「エクソシスト」で悪魔に取り憑かれた少女も有名だよね。
死者の言葉や神霊・精霊の代弁者としての役割を果たす霊媒師。
シャーマニズムにも種類がたくさんあって、世界中で行われ認知されている宗教現象ということがわかる。
どのタイプの≪憑き物≫にしても、信じる信じないを個人に託すような、ちょっと胡散臭いオカルト的な存在と言っていいのかもしれない。
付け焼刃で説明文を書いたので、もっと詳しい説明が必要な方は専門書を読んでね。(笑)

調べたら余計におどろおどろしさが増してしまった≪憑き物≫という言葉。
鳥飼先生は一体どんなお話を展開されているんだろう?
さあ、勇気を出してページをめくってみようか。(笑)
「憑き物」は4つの短編で構成されている。
いつもと同じようにそれぞれについて感想を書き進めてみようかな!
※細心の注意を払って書いているつもりですが、万が一ネタバレになるような記載があった場合はお許し下さい。特に未読の方は注意願います。

1:幽き声

植物写真家のネコこと猫田夏海が登場!
なんだか旧友に会ったような気分でホッとしてしまう。
「久しぶり~!元気?」
って感じかな。(笑)
写真好きな女性というだけでもネコとは共通点があるけれど、やっぱりネコも人が多いのが苦手だったとは!
ネコとは仲良くなれると思う。(笑)
そのネコが岩手県の早池峰山に行くところから話が始まる。
山麓最奥部のひっそりとした民宿に泊まり、そこで偶然惨劇に遭遇するのである。
美少女の出現。
地元限定のシャーマニズム。
物理的・地理的な密室状態。
怪しげな要素満載ね。(笑)
事件のあらましについて、神野先輩の店「ネオフォビア」で語るネコの横で話を聞いてきたのが「観察者」(ウォッチャー)鳶さんこと鳶山久志。
読んでいた「逆光」を閉じる、と書いてある。
確か「中空」の時には「重力の虹」だったよね。(笑)

それにしても鳶さん、またネコに厳し過ぎ!
上の画像の動物達についての違いが判る人ってあんまりいないよね?(笑)
鳶さんが羅列した動物達を並べてみたんだけど、顔のアップだけだと余計に難しいかも。
「嘆かわしい」とまで言われてしまって、ネコがかわいそうになってしまう。
生物に関しての妥協は一切許さないけれど、ネコが遭遇した事件に興味を持った鳶さんは、ネコと謎解きの旅に出るのである。
あれよ、あれよという間に謎を解いてしまった鳶さん。
なるほど、そういうことだったのねえ。

年齢を重ねると、聞き分けることのできる周波数に変化が生じることを知ってびっくり!
気付かないうちに蚊に刺されていたのは加齢のせいだったのね。(笑)
大変勉強になりました!

2:呻き淵

中国地方・大山での撮影を終えたネコは、山間部の農村でしばらくオフタイムを過ごすことにした。
たまたま知り合った土地の有力者の家に居候するのである。
仕事のためとはいえ、日本全国を飛び回り、時間的にかなりの余裕のあるネコの暮らしぶりは羨ましいね。
毎日の通勤ラッシュなんて無縁だろうからね。(笑)
散歩しながら写真を撮り、ゆったりした時間を過ごすネコ。
そしてある日ネコは、見るはずのないものを見てしまうのだった・・・。

この「呻き淵」が「憑き物」の中で一番怖かった!
昔から伝わる伝承。
集落から離れた廃屋。
そして怪奇現象。
ネコが体験したシーンは、SNAKEPIPEの頭の中で完璧に映像化され、ぞわぞわと恐怖が全身を包み込む!
もうこれはホラーだよっ!
生物系オタク・ミステリーホラー!(意味不明)
昔よく一人で撮影に行き、無人の場所を歩いた経験があるSNAKEPIPEには想像しやすかったのかもしれないね。
またもや合流した鳶さんの出現で、謎は一気に解明されていく。
ははあ、なるほどねえ。

「呻き淵」の中でとても気になったのは、土地の有力者の奥さん。
この奥さん、語尾を濁して喋るクセがあるんだよね。
濁していながら、意外と重要な事を言ってるところが面白かった。(笑)
きっとモヤモヤさせられるんだろうなー!
本当にこういう人、いそうだよね。

3:冥き森

3つめのお話の舞台は鳥飼先生がお住まいの奄美大島である。
絶滅危惧種の野生ランを撮影をするためにネコが訪れた奄美大島には、ネコの高校時代のクラスメイトが嫁いでいたのだった。
しばらくぶりの再会シーンは、読んでる妙齢の女性にはキツいなあ。
「全然変わってないねー!」
はSNAKEPIPEも使う言葉だし、よく聞く言葉でもある。
何割かはサービスだったのか。(しょぼーん)
相手に本気で言ってもらえるように努力しないと。(笑)

女同士の近況報告というのは、とりとめもなく長時間続くものだ。
話があちこちに飛んだり、また戻ったりしながら、なんとなく自分なりに話を解釈し、納得することも多い。
元クラスメイトとネコも、明るいうちから酒を飲みながら、そんな時間を過ごしていたのだろう。
その話の流れの中に霊媒師の話が登場する。
病気の夫を占ってもらうために、霊媒師を呼ぶのだという。
そしてその祈祷の席にネコと、たまたまその家に立ち寄った鳶さんも同席することになるのである。

この霊媒師のインパクトがすごい!
白装束で車椅子に乗った、100歳を越えているようなヨボヨボの老人。
勾玉のネックレスを首から下げ、枯れた樹の皮で編んだ冠をかぶっているなんて、まさに宗教的な正装って感じ。
SNAKEPIPEには、この霊媒師の姿が草間彌生と重なっちゃうんだよね。(笑)
草間彌生が本の中で、離人症だったことや幻覚や幻聴に襲われた経験について語っていたことや、村上龍原作・監督の映画「トパーズ」で占い師役を演じていたことも由来しているのかもしれない。
そういえば、CMでオカッパのヅラをかぶった樹木希林を草間彌生と間違えてしまったんだけど、似てると思った人も多いと思う。
SNAKEPIPEは、霊媒師のイメージを草間彌生(もしくは樹木希林)に固定したまま読み進めてしまったよ。 (笑)

「冥き森」は「観察者シリーズ」の中でも特殊な部類に入る物語じゃないかな。
鳶さんが謎解きをして事件を解決する、という基本的な流れは同じなんだけど、○○が×××××××××じゃないこと、△△△が○○を××していなかったこと、などが特殊だと感じた理由なんだよね。
詳しく語れないから山口百恵の「美・サイレント」風に記述してみたよ。(笑)
鳶さんの博識と考察力や観察力による種明かしは、毎度のことながらスッキリするね!

ところが!
最後のページで再び疑問が湧いてしまう。
鳶さんの顔が蒼白になった?
えー!意味が解らないよー!

4:憑き物

そうだった。
もう一つ話が残っているんだった、と安堵するSNAKEPIPE。
4つ目のお話は、奄美大島での事件から3ヶ月が経過し、事件について神野先輩の店「ネオフォビア」でネコが語るシーンから始まる。
時系列になっていることから、「冥き森」のラストの意味も解明されるのではと期待しちゃうね。(笑)
神野先輩とネコに、自分に憑き物が憑いている、と言い出す鳶さん。
その憑き物の正体を暴くべく、再びネコと一緒に謎解きの旅に出るのである。

「冥き森」と「憑き物」は、映画での題材にもなっているし、実際にニュースにもなっているような問題が扱われている。
核心に触れる部分なので詳しくは語らないけれど、毎年のように新たな脅威が発見されるのは、とても怖いと思う。

最後の謎解きも完了して、鳶さんに憑いていた物も落ちたようだ。
その代わりまた、最後のネコの言葉に謎を感じてしまったSNAKEPIPE。
でももしかしたらそれは、鳶さんに限ったことじゃないのでは?(笑)

約1年半ぶりの「観察者シリーズ」である「憑き物」を、短時間で一気に読み切ってしまった。
ページをめくるのがもどかしいほどのスピード。(笑)
とても面白くて、大満足だった!
ひとつだけSNAKEPIPEが物足りなさを感じたのは、ジンベーが登場しなかったことかな。
きっと個展の準備で忙しかったんだったんだろう、と勝手に想像する。(笑)

それにしてもネコの事件遭遇率の高いこと!
「こういう場面には比較的慣れてます」
と発言した場面では笑ってしまった。
そして待ち合わせてもいないのに鳶さんとバッタリ出くわすのは、やっぱり縁があるんだろうね。
憎まれ口を叩きながらも、仲の良いネコと鳶さんコンビは微笑ましい。
今度はどんな事件に遭遇するんだろう?
次回作も楽しみにお待ちしております! (笑)

Bad Ass 鑑賞

【Bad Assのトレイラー】

SNAKEPIPE WROTE:

2013年2月に書いた「ROCKHURRAH紋章学 ワイン・ラベル編」の中で「BADD ASS」というアメコミを使用したワインについて紹介した。
そのワインについて調べようとしても、映画「Bad Ass」ばかりがヒットしてワインについての詳細は不明だった。
そのかわり我らがヒーロー、ダニー・トレホ主演の映画があることを知り、日本公開はいつになるのかと期待してずっと待っていたSNAKEPIPE。
結局日本公開の知らせはないまま時は過ぎ、先日ふと
「そういえばダニー・トレホの映画ってどうなったんだろう?」
と再び検索してみたのである。
すると!なんという幸運!
2013年5月2日に日本未公開のままDVD化されることを知るのである。
飛び上がって喜ぶSNAKEPIPE!
そしてレンタル開始当日、TSUTAYA前で開店を待つのである。

新作コーナーにまっすぐ向かい、アクション映画の棚を探す。
見つからない!
心を落ち着けてよーく見てもない!
おかしいな、と違う棚のほうに目を向けると、びっくりしたことに「Bad Ass」だけで15本も揃っていて、しかもそのうちの9本が貸出中になっている!
店舗によってルールが違うのかもしれないけれど、レンタル開始と表記された当日の開店と同時に行って、既に貸出中ということは前日に出してるんだろうね?
例えば24時を過ぎたら並べる、という暗黙の了解があるのかしら。
24時間営業なのか、そうじゃないのかによっても違いがあるのかもしれない。
「Bad Ass」は残り6本あったので良かったけれど、もし1本しかないDVDがレンタル開始当日の朝一番に貸し出されてたらショックだろうな。(笑)
こうしてSNAKEPIPEは無事に当日中に鑑賞することができたのである。

ここでダニー・トレホへの想いについて少し書いてみたい。
2010年8月の「CULT映画ア・ラ・カルト!【08】Robert Rodriguez」で映画「デスペラード」について書いた時、

この映画の中で一番興味を持ったのは刺青を入れたナイフ投げの男。
一言もセリフがない役だったけれど、非常に存在感があった。

と紹介していたのが、ダニー・トレホのことだったんだよね。
「デスペラード」を観た1995年当時には全く情報を得ていなかったけれど、特徴のある顔や刺青、マッチョな肉体は一度見たら忘れらない独特の雰囲気を持った俳優なので、別の映画で発見した時にも、
「あ、あのナイフ投げの男!」
と名前を知らなくても認識できたのである。
随分あとになってWikipediaなどで情報収集できるようになり、やっと名前や経歴を知る。
ロバート・ロドリゲス監督の従兄弟だったことから、同監督の作品への出演が多いこと、そして実際にダニー・トレホが長い期間刑務所に入っていたことも知るのである。
強烈な個性は、本物の凄みのせいだったのね!(笑)
以前より注目していた俳優が、偽の映画予告編だったはずの映画「マチェーテ」で実際に主演すると知り、大喜びしたSNAKEPIPEとROCKHURRAH。
ダニー・トレホは2010年に「みうらじゅん賞」をもらっていたことを知り、大きくうなずいてしまった。
みうらじゅんもグッと来たんだろうね!(笑)
かつてはチョイ役が多かったダニー・トレホが、60歳を越えてから主役の座に座っているところも応援したくなる要因だよね。

「Bad Ass」について簡単に書いてみようか。
これはアメリカで実際に起こった出来事をモチーフにしている、最近はやりの「Based On a True Story」、もしくは「Inspired By***」の類である。
バスの中で暴言を吐き暴力を振るった若者を、67歳の初老の男性Tom Brusoが怒り叩きのめしてしまった、という事件が元ネタ。
動画サイトYouTubeでかなりのアクセス数を獲ったことで、事件が話題になったようだ。
この事件で有名になったTom Brusoはベトナム戦争経験者。
Tom Brusoがインタビューに答えている映像も観ることができるけれど、本当にM65を着てるんだよね。(笑)

※ネタバレしないように用心して書いているつもりですが、鑑賞前の方はご注意下さい。

映画はバス事件が起こる前、ダニー・トレホ演じる主人公、フランク・ベガの半生を描き出す。
高校卒業後軍隊に入隊。
1967年にはベトナム戦争へと向かい7年間従軍する。
負傷し、復員兵となる。
待っていてくれるはずの高校時代の恋人はいつの間にか結婚し、母親になっている。
警察学校に志願しても、負傷した者は入学できないとの通知が来る。
社会人になるため就職活動をするが、大学を出ていない、職歴がないなどの理由でことごとく断られる。
左の写真が、フランク・ベガが会社訪問をして面接を受けているところ。
ベトナム帰り、ということを象徴して髪型とかヒゲにしたんだろうけど、いかがなものでしょう?(笑)
そして右がダニー・トレホの若い頃の写真なんだけど、雰囲気どうかな?
フランク・ベガはそれから先40年間、ホットドッグ屋として生きていくのである。


そしてある日、事件が起きる。
いつも乗っているバスの中で、2人組のスキンヘッドが高齢の黒人男性にいちゃもんをつけている。
MA-1に、編み上げブーツにパンツの裾をINという完全なOi!のスタイルである。
黒人男性は気丈で、2人の脅しに耳を貸さない。
まるで「公民権運動の母」ローザ・パークスみたいだね!
その様子を見ていたフランク・ベガが、2人組に着席するよう呼びかける。
すると次に2人組が標的にしたのが、フランク・ベガだった。
騒ぎにならないように、と若者を諌めていたのにも関わらず調子に乗ったOi!の連中。
殴ろうとして、反対にフランク・ベガにボコボコにされてしまう。
この様子を携帯で撮影していた観客達もビックリするほどの鮮やかさ!
そしてフランク・ベガはバスから降りていく。
この時にTシャツのバックプリントが判るんだけど、なんとこのTシャツも、モデルとなっているTom Brusoが着ていたのと全く同じ!
「I AM A MOTHERFUCKER」
って書いてあるよ。(笑)
黒いキャップをかぶり、Tシャツに短パン、腰にはウエストポーチ、そして白いソックスでスニーカーというスタイル、更にヒゲまでモジャモジャに生やしちゃって、もうその姿はTom Brusoそのものだよ!(笑)
乗客が撮影した映像がYouTubeで評判になり、フランク・ベガは一躍有名人になってしまうのである。


壁に似顔絵が描かれたり、地元のヒーローとしてテレビに出演したり、Tシャツが作られたり、「Bad Ass」というニックネームも付けられて、フランク・ベガ・フィーバーは続く。
上の写真がテレビ番組に母親と一緒に出演した時のものなんだけど、年齢差があまり感じられなくて、母親と息子には見えないんだよね。(笑)
そしてこの年齢になるまで、母親から「my son」(坊や)と呼ばれていることにも驚いてしまう。
母親も息子が注目を集めていることが得意な様子だ。
ところがその幸運は長くは続かない。
最愛の母親が亡くなり、更に親友であるクロンダイクが殺害されてしまうのである。
警察が親友殺しの捜査のために動いていないことを知ったフランク・ベガは、自らの手で犯人を探し出すことを決意する…。
というのが、少しだけ詳しく書いたあらすじね。

ところでそもそも「Bad Ass」ってどんな意味なんだろうね?
直訳してしまうと「悪いお尻」になっちゃうから、ちゃんと調べようね。(笑)
映画の中に出てきた訳には「イカした英雄」って書いてあったよ。
1つ1つは悪い意味の単語でも2つつなげると褒め言葉になってしまう、という英語の摩訶不思議な使用法。
かなりカジュアルな言い方らしいけど、面白いよね!(笑)

SNAKEPIPEが非常に気に入ったのは、フランク・ベガのテーマ曲のようなkid frost and big tankの「I’m a Bad Ass」である。
ラップやヒップホップが大好きだった時代に聴いていた雰囲気なんだよね。(笑)
「へーい!」と叫ぶあたりが、DJ Jazzy Jeff & The Fresh PrinceとかNaughty By Natureを思い出すね。

曲調はデニス・ホッパーが監督した映画「カラーズ」(原題:Colors 1988年)の主題歌だったIce-Tの「COLORS」に似てるように思う。
結局SNAKEPIPEが懐かしいと感じる、約25年前の音楽に近いってことね。(笑)
この手のラップが好きだった人にはお薦めの曲だね!


「Bad Ass」は、いつものマッチョな雰囲気だけではなくて、お茶目なダニー・トレホも見せてくれる。
上の写真は女性と食事をするために支度をしているところ。
ウキウキしながら、ルンルン気分のダニー・トレホ!
こんなに嬉しそうなダニー・トレホの顔を見るのは、もしかしたら初めてかも?
笑顔は前に「スパイ・キッズ」の中で見た記憶があるけどね!
ダニー・トレホ、歯がとてもキレイなのね!新発見!(笑)

「Bad Ass」はダニー・トレホ・ファンはもちろんのこと、アクション映画が好きな人にもお薦めである。
「若いもんには負けやせん!」
なんて気骨のある高齢者にも、是非観てもらいたいよね。(笑)
ストーリーが単純で、解り易いところも良い。
鑑賞後にスッキリすること間違いなし、である。
そしてどうやら「Bad Ass 2」が制作されているらしい!
facebookにアカウントがあり、その中で語られているので間違いないだろう。
「Bad Ass」は日本で公開されなかったから、きっと「Bad Ass 2」も無理かな?
どうかせめてDVDだけでも発売お願いします!
そしてダニー・トレホといえば、「マチェーテ」。
この続編「Machete Kills」はアメリカで2013年9月13日公開予定とのこと。
日本ではいつになるんだろう?
それにしても毎年のように主演作がある68歳のアクション俳優ってあんまりいないよね?
まだまだダニー・トレホから目が離せないね!(笑)