ROCKHURRAH視察団/かっぱ橋道具街編

【かっぱ橋道具街のシンボル、かっぱ河太郎にございやす!】

SNAKEPIPE WROTE:

先週の記事である「アンチヴァイラル鑑賞」の時、友人Mとランチを食べたのは、タイ料理のチャンパーだった。
本当は映画を鑑賞した渋谷のチャンパーを目指していたのであるが、いつの間にか渋谷店がなくなっていたとはね!
最近こういうこと多いんだよねー。
前はここにこんな店があったのに、と発言した後から
「確かあれは15年くらい前だったよね」
と付け足し、我ながら情けなくなってしまうのである。 (とほほ)
チャンパーのレッドカレー食べたいね、と軽く言ったつもりが「どうしてもチャンパーでなければ」という切実な思いへとチェンジし、新宿まで出ることになった。
伊勢丹会館の中で念願のレッドカレーを食べ大満足!
ふとスープ用のレンゲに目をやり、あっと声をあげるSNAKEPIPE。
「これっ!このレンゲが欲しいのっ!」

ものすごく小さな話で恐縮だが、ラーメンやうどんを食べる時に使用するレンゲを自宅に所持している人は多いと思う。
レンゲと聞いてパッと思い浮かべるのは、恐らくラーメン屋ならプラスチックや陶磁器素材の白くてどんぶりの縁にひっかけられるように少し細工がされているタイプだったり、うどん屋なら天然素材を使用したラーメンタイプと同型の物やお玉を小ぶりにしたようなタイプが多いのではないだろうか。
実際にレンゲを買おうと思って探しても上の写真のタイプに近い物が多いよね。
SNAKEPIPEはその手のレンゲではなくて、アルミかステンレスのレンゲを探していたのである。

チャンパーで見たレンゲはシルバー色にピカピカ光る、なんとも軽いステンレス製、見事なフォルムと実用性を兼ね備えた、まさに理想的なデザイン!(大げさ)
「お店で売ってるかもしれないからお会計の時に聞いてみようよ」
友人Mの提案の通り、会計時に男性従業員に聞いてみることにする。
「スプーン類の販売はやっていません。かっぱ橋辺りにあるんじゃないですか」
というものすごくそっけない返答が返ってきただけ!
よし、それならば「かっぱ橋」に行って探し出してみようじゃないか!(笑)

テレビでも見かけるし、業務用の食器なら「かっぱ橋」だよね、など会話の中にも頻繁に登場する「かっぱ橋」という地名だけれど、この年になるまで一度も縁がなかった場所である。
そもそも「かっぱ橋」ってどこにあるの?と調べてみるとちゃーんとHPあるんだよね!(笑)
正式名称を「かっぱ橋道具街」という料理関係の道具ならなんでもござれの問屋街は台東区にあり、東京メトロ銀座線の田原町や東京メトロ日比谷線の入谷から徒歩5分程度らしい。
ROCKHURRAH視察団、いざ出陣!(笑)

とは言っても今回ROCKHURRAHの参加はなかったため、友人MとSNAKEPIPEが「かっぱ橋道具街」を探索してみた。
目的はステンレス製のレンゲ!(笑)
入谷駅で待ち合わた2人は、よくテレビで見かける大きなおじさんの像を探そうとしていた。(右の写真のおじさん)
方向音痴のSNAKEPIPEは、友人Mに連れられるように進んで行く。
「多分こっちだと思うんだけど」
方向感覚バッチリの友人Mの「多分」はかなり頼りになる。(笑)
ほどなくしてかっぱの絵が描いてある看板が見えてきて、道具街の文字が見えてきた。
「かっぱ橋道具街」というのは一本の道を挟んで両側にたくさんの店舗が営業しているストリートだったんだね!
「レンゲ」の探索のために、両側共歩くことにする。
右側の一番外れまで歩いたところで上のおじさんを発見!
駅からはとても見えない場所だったんだね。(笑)

片方の道側にある目ぼしい店舗でレンゲを探すけれど、全く見当たらない。
反対側も探してみることにする。
「いらっしゃいませ」
大抵のお店の人は店の奥深い場所にいることが多かったけれど、あるお店では店員さんが店先に出て呼び込みをやっていた。
片方の道沿いの店舗では見つけることができなかったので、ここは一つ店員さんに聞いてみよう!
「ステンレス製のレンゲありますか?」
「こんな感じかな?」
と言って持ってきてくれたのは、まさに探していたステンレス製レンゲ!
ただしチャンパーで見かけたレンゲより若干小ぶりのタイプ。
一つの店舗にあったならば、もしかしたら違う店舗での扱いもあるかも?
店員さんにお礼を言い、更なる探索に出る。
ここで丁度正午。
ランチタイムだ。

情報収集能力に長けている友人Mは、ランチの情報まで仕入れてきたらしい。
「気になるカレー屋さんがあるから行ってみない?」
友人Mはカレーと韓国料理、タイ料理だったら毎日食べても良いと豪語するほど、その手の店に関してのチェックを怠らないのである。

外見は元倉庫だったところをほとんど改造せずにおりますので良くないですが、勇気を出して一歩入ってみてください(笑)

という説明を後から調べて知ったけれど、 「ここだよ」と言われた瞬間に見えたのはとても「気になるお店」とは思えない外観だった。
お店の名前は「パスカレッソ」という。

お昼時だったせいか、女性客ばかり5人程度入っている。
メニューはカレーとパスタ。
カレーならチキンかポークを選べるようになっており900円。
サラダと飲み物がセットになると1300円、ケーキがセットで1600円である。
初めて入るお店の場合は単品を注文することが多いので、今回もチキンカレーをチョイス。
「口コミですごく評判が良いから食べてみたかったんだ」
という友人Mの話を聞きながらカレーを待っていると
「はい、どうぞ」
女主人がにこやかにサラダを置いていく。
「あれ?単品の注文だよね?」
顔を見合わせているSNAKPEPIPEと友人Mに
「ちょっとだからね、食べて~」
と言いながら、もう去っていく女主人。
すごいサービスだね、と言いながらサラダをつついているとカレー登場。
真っ黒いカレーに2かけのチキンが浮かんでいる。
ほとんどスープ状態のツーツーカレーだ。
一口食べてびっくり!
「おいしーーー!」
スパイスが効いた辛めの、コクと旨味が凝縮された抜群のカレーである。
「こんなカレーは初めて食べた!ここにして良かった」
今まで様々なカレーを食べてきた友人Mも満足気だ。

カレーを食べ終わり、そろそろ探索を続けようかと思った頃、
「少しだけど食べてみて~」
とまたもや女主人が何種類かのシフォンケーキを切り分けた皿を持って登場。
「さっきサラダもご馳走になってしまったので、そんな!」
「あら、いいわよ~。召し上がれ!」
という押し問答の末、とまどいながらも嬉しいサービスを頂くことにする。
「んまーーーい!」
シフォンケーキはふわふわで、口に入れた瞬間とろけるほどの柔らかさ。
「このケーキ買って帰ろうね」
と打ち合わせている時に、またもや女主人登場!
「良かったら、お茶いかが?暖かいのと冷たいのどっちがいい?」
ええーーー?!
SNAKEPIPEと友人Mは単品のカレーしか注文してないのに!
また遠慮する言葉を言いかけると
「あら、いいじゃない、お茶くらい!ゆっくりしていって!」
とお茶までご馳走してもらうことになってしまった。
当然のように初めからケーキ付きセットを注文している人とは違うだろうけど、オマケがいっぱいでびっくりしてしまった。
とてもにこやかで、おいしいとお客さんから言われてコミュニケーションを取ることが何よりも嬉しいといった雰囲気の女主人は客商売のプロだと思った。
また「かっぱ橋道具街」に行く時には、必ず寄りたい店だね!

お腹もいっぱいになったところでレンゲの探索開始!
店員さんにレンゲがあるかどうかを聞いてしまったほうが手っ取り早いということに気付いたため、片っ端から店員さんに商品の有無を聞いて回る。
するとあるわ、あるわ!(笑)
午前中に歩いていた時には、自力で探そうと躍起になっていたため全く見当たらなかったのに、午後になってからは複数の店舗でレンゲを発見することができた。
そして気付いたのが値段の違い。
午前に見つけた店舗でのレンゲ価格は370円。
午後になってからは410円、295円、290円とお店によって値段がまちまちだと判る。
本当に欲しかったチャンパータイプではなかったけれど、SNAKEPIPEは295円でレンゲを購入。
最安値の290円は購入後気付いたので仕方あるまい。(笑)
一応ステンレス製のレンゲの探索ということでは目的は達成されたね!
チャンパーのレンゲと同じ物は、また別の機会に探してみたいと思っている。


かなり歩き回り、目的も達成したのでお茶でも飲もうと入ったのがオシャレなカフェ。
「かっぱ橋道具街」の下町的な雰囲気とは一線を画した、「ここはどこ?」と思ってしまうようなガランとしたガレージを思わせる広い空間。
高い天井と、非常に少ない座席数も好みである。
気を利かせた友人Mが、2階に上がっても良いのか、写真を撮っても良いかなどを店員さんに確認している。
店員さんの説明によると、どうやらそこはSturdy Style Tokyoという建築士事務所で、カフェの奥が建築事務所になっていて、2階は事務所の方が商談のために使用するスペースとのこと。
トイレは2階にあるので、上がることができるし写真撮影も構わないという。
友人MはSNAKEPIPEが撮りたがることを知って、予め聞いてくれたんだね!

「ここに住みたい」
と思ってしまったほど、素敵な空間だった。
2階に上がってみると、そこには商談用の(?)テーブルがいくつか置かれていたり、仕切られた部屋が点在していたり、30名くらいが鑑賞できるようなシアターも完備されていた。
プレゼンテーションをやる時に使うのかな?
恐らく2階の部屋にある一つ一つも、1階のカフェもその会社のデザインで、Sturdy Styleはこんなデザインやってるんですよという宣伝なのかなと思った。
家を建てようとか店舗運営を考えている人には、実際に目で見て体験できるデザインという画期的なアイデアだよね。
それにしても奥の事務所で仕事するのは、お客さんの視線とか気にならないのかしら?(笑)

初めての「かっぱ橋道具街」は、テレビで見たままの食玩の店を実際に見ることができて感激したり、一番最後に紹介した下町らしくないオシャレカフェを発見したりで、とても面白かった。
品物を探す時の教訓は「店員さんに聞くこと」だね。(笑)
同じ商品でも値段が違っていたのも発見だったので、すぐに決めないでいくつかの店舗を回ることも必要ということも判った。
そしてやっぱり一番印象に残ったのは「パスカレッソ」の女主人さん!
本当にご馳走様でした!
また伺います!(笑)

アンチヴァイラル鑑賞

【アンチヴァイラルのトレイラー】

SNAKEPIPE WROTE:

今年の4月中旬にデヴィッド・クローネンバーグ監督の最新作「コズモポリス」を観に行った。
主人公が所有するキャデラックに、複数の人が交代で乗車し、そこで繰り広げられる会話や行為を描いた映画だった。
一緒に観に行った友人Mは途中から爆睡していたというほど、淡々として動きがなく単調で、SNAKEPIPEもブログのネタにすることができなかったんだよね!
あとから解説や他の人の感想を読み、多少は理解できたけれど、風刺と言われてもねえ?
結局のところは好みじゃなかったんだろうね。(笑)

そのクローネンバーグ監督の息子が初監督した映画が公開されるというニュースを持ち込んだのは、またもや友人Mだった。
「面白そうだから観に行こうよ!」
「コズモポリス」の時も同じセリフを言ってなかったか?(笑)
トレイラーを確認すると、確かにちょっと面白そうである。
公開する劇場を調べてみると、関東地方で埼玉、千葉、東京、神奈川のそれぞれ1館でのみ上映とされている。
SNAKEPIPEと友人Mが近いのは渋谷シネマライズだった。
そしてびっくりなことに上映期間はたったの3週間のみ!
無名監督の作品上映って、最近はこんなもんなの?

いくら初監督作品とはいっても、お父さんは有名な監督だから、2世監督なわけだよね?
2世タレントとか2世俳優とは違って、あんまり話題にならないのかな?
2世監督としてパッと思い付くのは、フランシス・コッポラ監督の娘、ソフィア・コッポラデヴィッド・リンチの娘、ジェニファー・リンチかな。
上の話とは関係ないけれど、デヴィッド・リンチのサイトにセカンド・アルバムに関するニュースがあったよ!
なんと7月15日に発売予定らしい。
もしかしたら今は、映画制作より音楽に興味があるのかしら?(笑)
話を元に戻して。
そして今回2世監督として追加されることになったのが、デヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグである。
1985年生まれというから、28歳の若手ですな!(笑)

3週間しか上映していないので、慌てて予定を合わせ渋谷に向かう。
シネマライズ、随分久しぶりだなあ。
前に何を観に行ったのか、思い出せないほど。
もしかしたらフランシス・ベーコンを描いた「愛の悪魔」だったかもしれないな。
長らくご無沙汰だったシネマライズに向かい、当日のチケットを買うために販売開始時間前に待っていたのは、なんとSNAKEPIPE1人だけ!
もしかしたら行列しているかもという予想は大きく外れた。(笑)
館内に入って更にびっくり。
約200人が入れる劇場に、お客さんはたったの15人のみ!
SNAKEPIPEと友人Mを含めての数である。
これで経営が成り立つんだろうか、と余計な心配までしてしまう。
ゆったり鑑賞できるのは有難いけど、大丈夫か、シネマライズ?(笑)

ではあらすじに感想を加えながら書き進めてみよう!


近未来の話。
この世界ではセレブリティとの究極の繋がりを求めて、様々な病気に感染したセレブリティのウイルスが売買されている。
セレブリティのウイルスをマニアに注射する「ルーカス・クリニック」に勤務する注射技師シド・マーチが主人公。
シドは巧妙なセールストークで、ウイルスの販売に貢献する。
「熱狂的なファンのあなたには、こちらのウイルスはいかがでしょう?」
高いお金を払って、セレブリティと同じ病気になりたいと思う客がいることが不思議だけど、この世界ではその行為が成立するみたいだよ。(笑)
自分のウイルスを売るセレブリティにも疑問を感じるけどね?


「ルーカス・クリニック」では真面目そうな社員ということで通ってるシドだけど、実は希少価値の高いウイルスを外部に持ち出し、闇マーケットに横流しするという違法行為を行なっている。
客に注射した後の残りを自分に注射して、自宅でウイルスだけを取り出すんだよね。
そんなことができる装置まで隠し持ってるし、闇販売ルートまで確保してるんだから恐れ入る。
そして闇ルートが確立されているほど、たくさんの人がセレブのウイルスに関心があるということも判るよね。


ある日、大人気のセレブリティで究極の美の持ち主ハンナが原因不明の重病に冒されて突然死亡。
映画の中では「中国で原因不明のウイルスに感染」と言われていたよ。
なんだか本当にありそうだよね。(笑)
ハンナの死の直前、ハンナから直接採取したウイルスを自らの肉体に注射していたシドも、異様な幻覚症状に見舞われる。
ハンナを死に至らしめた特殊なウイルスの唯一の宿主となったシドは、何者かに追われ始める。
そしてウイルスをめぐる巨大な陰謀の真相究明に乗り出すのだが…。
というところで、あらすじに関しては終わりにしておこうかな。
本当はラストを知ろうが知るまいが、どっちでも良いタイプの映画だと思うんだけどね。

SNAKEPIPEがこの映画で一番面白いと感じたのは、上に書いたそのまま「ウイルスの売買」って行為だったから。
熱狂的なファンが、憧れの人に少しでも近付きたいと思い、その人が身に付けていた物と同じ物を購入する、オークションで縁のある物を多額のお金で手に入れる、似た顔に整形する、なんていうのは今でも行なっている人が多い行為だよね。
それをもっと突き進めていくと、病気を共有したい、細胞が欲しいというレベルになっても不思議ではないなあと思うのである。
SNAKPIPEはいくらファンだとしても、「同じ病気になりたい!」とか「うつされたい!」とは思わないけどね。(笑)

ブランドン・クローネンバーグのインタビューによれば、この映画は細胞からステーキ肉を作るというような、実際の技術から着想を得たという。
そして誰かに夢中になり過ぎると、それは一種の狂気になるというのがテーマとのことらしい。
着想から8年かけて完成させたというから、かなり強い思いがある作品なんだね!

それ以外のSNAKPEIPEの感想は、と言うと。
主人公シドを演じるケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、この役柄を非常にうまく演じていたんだけど、顔や腕とか背中のそばかすが物凄いんだよね。
役作りのために描いたのかな?と思ってしまうほど。
手が血だらけの上の写真でも判るよね。
この映画が108分みたいだけど、恐らく90分くらいは具合が悪い状態だったよ! 主人公がここまで具合が悪い映画っていうのも珍しいよね。(笑)


お父上であるデヴィッド・クローネンバーグ監督と同じように「ボディ・ホラー」というジャンルで括られている映画なので、細胞科学の知識が全くないSNAKPIPEには
「今、彼は一体何をやってるんだろう?」
と思うような場面があったんだよね。
シドが自分にウイルスを注射しているのは、てっきりセレブへの憧れのためだと勘違いしていたから尚更かもしれない。
そして自分の血液からウイルスだけを取り出す作業も、観ている時には意味不明だった。
鑑賞前には解説を全く読まなかったので、帰宅後に調べてみてやっと意味が理解できたような次第。

病気のウイルスに顔があり映像化できるとか、ウイルスをコピーされないようにガードをかける、もしくはコピーガードを外すといったような、まるでパソコンで使うような言い方がされているのはは面白かった。
病気のウイルスとして出てくるのが、歪んだ顔の画像。(上の写真)
その歪みによって不調が判るとされてるんだけど、この画像ってまるでフランシス・ベーコンだよね。(笑)
悪いウイルスの画像コレクション、あったら欲しいな!
と書いてからまた調べてみたら、ベーコンからの影響を受けていることが載っていたよ。
ああ、やっぱり!って感じだね。

もう一つ気になったこと。
SNAKEPIPEは、欧米諸国の人達の考え方として「私は私」というような、個性とか個人としての自立や確立を尊重し、自己顕示欲が強い人種だと思ってるんだよね。
この映画の中では、ほんの数人のセレブだけを対象に、その人達に近付きたいと誰もが思っているというところが理解し難かったな。
もう少しマニアックなファンが登場しても良かったかもしれないよね?(笑)
元々SNAKEPIPE自身が特定の誰かに憧れるということがないから、余計解らなかったのかもしれないけどね。
熱烈に支持する誰かがいる人には、共感できるのかな?

「この前のお父さんの映画よりは面白かったかな」
とは友人Mの感想。
冒頭に書いた「コズモポリス」と比べて、ということだけど、そうは言いながらもまた少し寝ていたらしいので、本気の発言かどうかは不明である。(笑)

残念ながら、SNAKEPIPEはデヴィッド・クローネンバーグ監督の初期の傑作と言われている「ラビッド」や「ヴィデオドローム」を観てないんだよね。
どうやらROCKHURRAHはかなり早い段階からクローネンバーグ作品に触れていたらしく、「ラビッド」も「ヴィデオドローム」も「スキャナーズ」も鑑賞済とのこと。
さすがホラー好きだね!(笑)
「アンチヴァイラル」には、それらとの関連を指摘するような解説が載っていたけれど、考察できないのが悔しいな。

そういえば「コズモポリス」では主人公の婚約者の役どころだった女優が、「アンチヴァイラル」ではセレブリティ役で登場していたね。
親子で同じ女優を採用するとは。
やっぱり好みが似ているのかしらね?

渋谷のシネマライズでは6月14日まで上映しているようなので、気になる方はご鑑賞あれ!
シネマライズのトイレ、ものすごく80年代っぽくて、なかなか良かったよ!(笑)

CULT映画ア・ラ・カルト!【13】The Holy Mountain

【フランス版のポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

毎年開催されているカンヌ国際映画祭は、多少ニュースで知るくらいでほとんど注目したことはない。
1990年に敬愛するデヴィッド・リンチ監督が「ワイルド・アット・ハート」でパルムドールを受賞した時は、さすがに興奮したっけ。
まさかリンチがカンヌでグランプリとは!ってね。(笑)

あれから22年の時を経て、今年のカンヌにはSNAKEPIEPが興奮するネタがあったのだ!
それは「藁の楯」じゃなくて(笑)、アレハンドロ・ホドロフスキー監督のニュース!
今年の2月に入手したホドロフスキー監督の自伝「リアリティのダンス」が映画化されることは知っていたけれど、実際に映画が完成していてカンヌで上映されたと聞いて小躍りしたのである!
観たい!観たい!絶対観たい!!!うおぉーーーーっ!
そのニュースを知り、トレイラーを発見して鑑賞した夜には、「リアリティのダンス」の夢まで見てしまった!
強い気持ちは夢に現れやすいなあ。
えっ、じゃあこの前夢の中でコバルヒンを一緒に食べた小倉智昭に対しても強い気持ちがあったのか!(笑)

「リアリティのダンス」を読んで、ホドロフスキーに対する興味は益々増すばかり。
ホドロフスキー原作のバンド・デシネまで購入してしまった。(笑)
それについてはまた別の機会にブログでまとめてみたいと思っている。
本日は84歳にしてまだまだ現役バリバリの映画監督、アレハンドロ・ホドロフスキーの「ホーリー・マウンテン」について書いてみよう。

「ホーリー・マウンテン」(原題:The Holy Mountain)は、メキシコとアメリカの合作映画で1973年に製作されている。
日本公開は1988年とのこと。
当然ながら観に行ってるSNAKEPIPEなんだけど、1回目の鑑賞ではストーリーについていくのが精一杯だったように思う。
それから何度繰り返し観たことだろう。
そしてホドロフスキーの自伝である「リアリティのダンス」を読んで、今回再び「ホーリー・マウンテン」を鑑賞したSNAKEPIPE。
「ホーリー・マウンテン」を撮影していた頃の話も所々に登場するし、なんといってもホドロフスキーの生き様や信念を知ることによって、より一層映画の理解が深まるように思う、たぶん。(笑)
では早速「ホーリー・マウンテン」の感想をまとめてみようかな。

※ネタバレを含みますので、映画を観ていない方はご注意下さい。

とても有難いことにトレイラーがあったので、載せておこう。
なんとも摩訶不思議で残酷な美しい映像にウットリしちゃう。
ところが単なる映像の羅列じゃなくて、ちゃんとしたストーリーが展開されてるんだよね。
Wikipediaにはものすごく簡単に

錬金術師は、不老不死の秘法を知る賢者達から秘法を奪う為に、修行の末、賢者達が住む聖なる山(ホーリー・マウンテン)に至るが…。

と一行で書かれているけど、ここではもう少し詳しく書いていこうか。
「ホーリー・マウンテン」は3つのパートに分かれている。
一番初めはキリストに似た風貌の男の話。


何故だか分からないけれど、地べたに寝ていた男、役柄は盗賊とされている。
第1部の主人公はこの盗賊ね。
そして盗賊にいたずらを仕掛けるが、次第に仲良くなる両手両足のないフリークスも登場する。
ホドロフスキー映画には欠かせない(?)タイプの役者さんといえるかな。
盗賊はフリークスを抱きかかえ、町を散策する。
そこで様々な出来事に遭遇するのである。

軍隊による民衆の虐殺。
皮をはいだ動物を十字架に磔にし行進する軍隊。
それらを笑いながらカメラに収める観光客。
「エル・トポ」に出てきた街に近い雰囲気だね。
「ヒキガエルとカメレオンのサーカス団」は動物を使って戦争ごっこを見せる。
爆発で吹き飛ぶカエルやカメレオンの映像は、少しグロい。 


キリスト像を製造し、安売り(!)販売している太っちょ達に酒を飲まされ、呑んだくれた盗賊は眠っている間に型取りをされてしまう。
見た目がキリストを思わせるから、というのが理由だろう。
1000体もの自分と同じ姿をしたハリボテの中で目覚め、気が狂ったように叫ぶ盗賊。
見事としかいいようのない異様な光景だ。
実際に作ったんだろうけど、この一枚写真だけでも迫力あるよね!
盗賊は自分に似たハリボテ一体だけを抱え、再び歩き始める。


次に出会うのが娼婦の集団。
黒いシースルーのトップスに黒い短パンに白いベルト、腿まである白いブーツという全員が同じ服装をしている。
年齢も少女からミドルまで幅広い。
その中でチンパンジーを連れている、目に力がある女性が盗賊に惹かれ、あとを付いて行く。

ハリボテを教会に預けようとすると、本物のキリスト像を抱いて眠っている司祭がいる。
こっちが本物だから偽物のハリボテは持って帰れ!と盗賊を追い返してしまう。
そして何故だか盗賊は、ハリボテの顔を食べ始めるのである。
モリモリ食べてるんだけど、このシーンはかなりウエップな状態。
多分実際には食べられる素材でできてるんだろうけどね。(笑)

次に遭遇するのは上をじっと見上げている人々。
一体何を見つめているのかと思うと、高い塔から金色の錨のような形のオブジェがスルスルと降りてくる。
錨には袋に入ったゴールドが入っていた。
盗賊は目ざとくゴールドに目をやると、その錨に乗って一人だけ塔の中に入ってしまう。
このシーン、まるで「蜘蛛の糸」なんだけど、今回は一人だけが招待されるってことで良いみたい。(笑)
ここで盗賊は錬金術師に出会うのである。


ここからが第2部の始まり。
この錬金術師こそ、我らがアレハンドロ・ホドロフスキーご本人!
「エル・トポ」の時と同じように、監督・脚本と更に俳優までこなしてるスーパーなお方だよね。(笑)
錬金術師だけに、誰もが持っているモノを素材にしてゴールドを創りだしてしまうのだ。
盗賊も「ゴールドが欲しい」と答えたばかりに、かなり苦しみながらも、本来自分が持っているモノを使用してゴールド獲得!
実はこれ、排泄物なんだよね。
まさかと思うけど、本気にして試した人いないよね?(笑)
「己自身もゴールドになれるのだ」
というものすごく説得力のある言葉を受け、盗賊は錬金術師の弟子になる。
「錬金術を学びたいのなら、この連中と組め」と権力のある実業家や政治家達を紹介する錬金術師。
ここで出てくるそれぞれの権力者達の説明が、「ホーリー・マウンテン」の中で、SNAKEPIPEが一番好きな部分なんだよね!(笑)

守護星が金星のフォンは肉体にやすらぎと美を与える仕事に就いている。
実際に何をやっているかというと、ベッドやマットレス、織物、洋服や化粧品の製造販売を行なっている。
人間は中身よりも外見を大事にする、ということから人造的な筋肉や面も製造する。
その面は死ぬまで使用可能とのこと!
これがあったら美容整形必要なしだね。(笑)

棺桶に関するビジネスもあり、死体に電子装置の仕掛けをして、死体が動くようにするというかなりブラックな商売まで手がけているようだ。
創業者である父親が会社の中での絶対的存在であり、その父親が会社経営に関する意見をミイラ化した母親の陰部に触れることによって決定するエピソードや、フォンには何十人ものワイフが存在しているところも面白い。

次は守護星が火星のイスラである。
男装の麗人といった感じで、女性2人とベッドを共にしているので、恐らくレズビアンという設定だと思われる。
イスラが行なっているのは、兵器の製造販売である。
爆撃機、水素爆弾、光線銃、細菌兵器、反物質波、発癌性ガスなどのかなり物騒なものだ。
誇大妄想狂にするための薬や、善良な人間を獰猛にする薬なども作り、実験も行なっている。
若者用の武器としてサイケデリックなショットガンや手榴弾でできたサイケなネックレス、ギターの形をしたロックンロール銃、仏教徒用の銃、ユダヤ教徒用、キリスト教徒用など様々なバリエーションの銃を見せてくれるんだよね。
よくもまあ、作ったもんだと感心しちゃうよ。(笑)
イスラが寝ていた部屋にあった絵画も興味深く観ていたSNAKEPIPE。
あれは誰かの作品なのかな?

クレンの守護星は木星、そして現代美術のアーティストである。
立派な屋敷に住み、運転手付の車で愛人を伴ってアトリエに向かう。
専用のアトリエではクレンの奇妙な作品が制作、展示されている。
ボディ・ペインティングした生身の女体をオブジェとして実際に触れる作品や、絵の具を臀部に塗り紙の上に座らせて一点物に仕上げるアクション・ペインティングだったり。
クレンは人体をテーマにしたアートを展開しているようだ。
最後に登場するのは「ラブ・マシーン」という機械式の女体マシーンだ。
男根をイメージした長い棒をうまく操ることで、「ラブ・マシーン」に様々な変化を起こさせるという、なんだか本当にありそうだけどバカバカしい作品である。
触れる作品というとつい思い出してしまうのが、江戸川乱歩の「盲獣」だな。
乱歩だったらクレンの作品を評価するかもしれないね?

セルの守護星は土星だ。
子供相手の商売をしている。
サーカス団を持っており、自らピエロに扮して象に乗り町を練り歩く。
向かった先はセルのおもちゃ工場。
その工場に入る前にピエロから女社長の服装に着替え、まるで別人になってしまうのだ。
そして工場内を視察する。
ここはただのおもちゃ工場ではない。
政府の政策を取り入れ、戦争や革命を想定し子供を軍事教育するためのおもちゃを開発しているのである。
ペルーとの戦争を望んだ場合、敵対心を高めるためにペルー人を悪者に設定した人形や漫画を作ったり、強烈な臭いの下剤を作り商品名をペルーの首都にし、悪=ペルーというイメージを植え付けるのだ。
15年先を見越してというから、なんとも壮大な計画だよね。
実際にこういったことが行われた場合には、まんまと計画通りに喜んで戦争に行く人間に育つだろうね。
なんとも恐ろしいね!

バーグの守護星は天王星だ。
母親なのか妻なのかよく分からない立場の、まるでジョン・ウォーターズ監督の映画でお馴染みのディバインみたいな女性と同居している。
「私達のベイビー」としてベッドに寝かされているのは大蛇!
哺乳瓶でミルクをあげたり、蛇用ロンパースのような編み物までしているほどの可愛がりよう。
バーグは大統領の財政顧問をやっている。
大統領からの呼び出しを受け、財政に関する報告をする。
「赤字対策のため今後5年間に400万人の口減らしが必要です」
というヒドイ内容!
それを聞いていた大統領はすぐに電話をかけ
「ガス室の準備をしろ」
と命じるんだよね。
学校、図書館、博物館、ダンスホール、売春宿で使用せよ、と人が大勢集まりそうな場所をチョイスする大統領!
「ホーリー・マウンテン」には民衆を虐殺するようなシーンがたくさん登場するので、この大統領の発言は「いかにもありそう」と思ってしまうね。

アクソンの守護星は海王星。
モヒカンの警視総監である。
なんとこの警視総監、睾丸コレクションをしていて、今回めでたく1000組を集めたというのだ。
「今日がおまえの最良の日だ。その勇気を讃えよう」
コレクションに寄贈した若者に向けて言葉をかけるアクソン。
このコレクション、一体何の意味があるんだろうね?(笑)
このアクソン役の俳優は、ホドロフスキーに「スタッフになりたい」と電話をしたらしい。
実際に会った時ホドロフスキーから「役者として出演してみないか」と言われ「本当は役者になりたかったけど、勇気がなくてスタッフとして応募した」というやりとりがあった話が「リアリティのダンス」の中にあった。
ホドロフスキーは素人を使うことで知られているので、こんなことは日常茶飯事なのかもしれないね?
でも演技が初めてという感じはなくて、堂々と見事に警視総監を演じていたと思うよ、アクソン!

ルートの守護星は冥王星だ。
建築家である。
着物のような衣装に身を包み、ミッキーマウスを思わせる衣装の子供達とかくれんぼ。
そういえば「ホーリー・マウンテン」の冒頭で頭を丸刈りにされる女性2人はマリリン・モンローみたいな白いドレスと髪型だったね。
ドレスを剥ぎ、頭を丸める行為はマリリン・モンローを別人にし、そのイコンそのものを剥奪するようなことなんだろうかね?
対アメリカってことなのかしら?
あまり深く考えなくても良いのかもしれないけど?
ルートは棺桶型のシェルターを提案する。
食事や風呂は別の施設で供給し、シェルターはただの寝床として活用するという計画だ。
「家や家庭のない街!人間よ自由であれ!」をスローガンにこの計画のプレゼンテーションするんだけど、まるでそれは以前鑑賞した「メタボリズムの未来都市展」に似ていて興味深かったな。

そして第2部の初めから登場していた錬金術師の一番弟子のような女性も、一行の中に入ってるんだよね。
この女性に関しては名前も出てこないし、エピソードを示すような映像もないので勝手に想像するしかないね。
当然のように守護星がどれ、なんて話もない。
頭にピッタリしたヘルメットのような帽子をかぶっているだけで、他は全裸状態。
首輪やイヤリング、付け爪などのアクセサリーを大量に装着していて、とてもカッコ良い。
体中に梵字のような刺青が入っていて、背中にはケーリュケイオンが彫られている。
どうやらギリシャ神話に出てくる杖のことらしいんだけど、詳しくないので意味を知りたい方はご自分でお願いします!(笑)

最後の全裸・梵字の女性以外の紹介した7人は、それぞれ守護星を持っている。 ホドロフスキーがタロットに造詣が深いということもあって、「ホーリー・マウンテン」のあちらこちらにタロットが散りばめられているのだ。
この守護星に関する部分も恐らくタロットと深い関わりがあるものと思われるけれど、SNAKEPIPEがタロットに詳しくないので意味については割愛。(笑)
一応守護星ということについてだけ調べてみたら、太陽、月、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星が守護星ということになるらしい。
上記の7人以外の星ということになると太陽、月、地球が残るんだけど、錬金術師と盗賊と全裸の女性の守護星はどれなんだろうね?
こうして錬金術師を師として、弟子の9人が錬金術を極め、不老不死の知恵を求め聖なる山に登るのである。

ここからが第3部。
金や権力があっても人は必ず死ぬ、と錬金術師は言う。
インドのメルー山、道教のコンロン山、ヒマラヤのカラコルム、哲学の山、薔薇十字会の山、聖ヨハネのカバラ山などの伝説で語られている不老不死に関する記述は全て同じで

9人の不死の賢者が頂上に住み、そこから現世を支配している
彼らは死を超越する術を持っていて4万年も生き続けている

という内容らしい。
彼らにできたのだから、我々にもできるはずだというのが錬金術師の言い分である。
薔薇十字会の古文書により、9人の賢者の居場所がロータス島の聖なる山であることが判明。
賢者から術を奪うためには、我々も賢者にならなければというもっともな理屈を披露され、弟子達は賢者になり悟りを開くべく修行を開始する。


まずは儲けたそれぞれの金を燃やし、執着を捨てる修行。
権力のある連中は金持ちだから、かなりの大金が燃やされる。
続いては自己の意識を捨てる修行。
弟子達は自分にそっくりの蝋人形を火で燃やす。
今までの自分にさようなら、ということなんだろうね。
こうしてようやく聖なる山に向けて旅立つのである。

旅の途中で何人かの「その道の達人」に出会い、修行を重ねる弟子達。
圧力を利用し体から毒素を排除する、野生の植物からできた青汁を飲み、裸でお花畑を駆け回り、坐禅を組み瞑想する。
このような修行を続けていくうちに、自分自身が自然の一部となり、今まで見過ごしたり聴き過ごしてきた事柄に気付くようになるという、かなり宗教的な内容になっている。
実際にホドロフスキーが禅の修行をしていたことも影響してるんだろうね。
更には自分の葬式の体験。
今まで自分が生きてきたことの全てを捨て去り、無になろうというもの。
これもかなり色濃く東洋思想が反映されているようだね。
そして新しく生まれ変わり、ここでやっと賢者として認められたようだ。

小型の船でロータス島に向かう。
島に上陸した時に全員が頭を丸め、坊主になってしまう。
そして服装も全員同じだから、途中から誰が誰なのか判らなくなっちゃうんだよね。(笑)
悟りや知恵を求めてやってくる人が多いロータス島だけど、皆が途中で挫折して現世での楽しみに心を奪われてしまうようだ。
似非宗教家も台頭し、ロータス島はまるで観光地のようになっている。
それらの誘惑にも負けず、聖なる山を目指し登山する一行。
指が凍傷になったという一人に「肉体への執着が残っているせいで、頂上に辿り着けない」という理由から指を切断し捧げ物にさせる。

そうしてやっと頂上付近に到着。
ここでは高さゆえに死の幻影を見るであろう、と錬金術師が妙な予言をした通りに弟子達を襲う恐怖体験。
これは自分が恐れを感じているものが夢に出るのと同じだね。
埋められて走れない馬、降ってくる金貨で顔中が血だらけになる男、闘犬に興奮する男、顔をゲンコツで殴られ大量の白い液体を浴びせられる女、
老婆に去勢される男、大量の毒グモに全身を這われる男、巨大な乳房のある初老の男性からミルクをかけられる男。
このシュールなシーンも大好きなんだよね!

こうしていくつもの難題に立ち向かい、やっと9人の賢者がいる場所まで辿り着くことができた。
白装束の賢者達はもう目の前に見えている。
あとは賢者から術を奪い、自分達が賢者に成り変われば良い、というところまで到達したわけだ。
ここまで来れば師は必要ないだろう、と錬金術師は盗賊に「私の頭を切り落としなさい」と命じ、盗賊は実行する。
ところが実際に切っていたのは、ヤギの首だった。
「ハハハハ」と笑いながら、錬金術師は「教えることがある」と言う。
旅の途中から一行の後を付いてきたチンパンジーを連れた娼婦を盗賊に引きあわせ、「このまま山を降りて幸せに暮らせ」と言うのである。
修行の段階では様々な執着を捨てることを学ばせた後で、「愛が一番」と説く錬金術師に少し疑問を感じちゃうけどね?(笑)

こうして盗賊は頂上を極め、賢者になることはなく現世へと戻っていくのである。
残りの弟子達は瞑想の後、白装束の賢者達を襲うために近づくが…。
えっ、うそ?という展開が待っているので、ここは書かないでおこう。
このラストについては賛否両論あるみたいだけど、SNAKEPIPEはアリだと思った。
だってラストがどうのという映画じゃないからね、「ホーリー・マウンテン」は!
場面ごとの描写を楽しむことができれば、それだけで充分だと思う。
意味とか解釈は、SNAKEPIPEには必要ないなあ。

たくさんの動物が、実際にはあり得ない場所や状況で登場する。
多用されるシンメトリーの構図。
ちょっと稚拙な感じのする残酷で不思議な絵。
和洋折衷な雰囲気の衣装。
どのシーンを切り取っても写真集が出来上がるほどの完成度の高い美意識には脱帽してしまう。
SNAKEPIPEは前作の「エル・トポ」をまとめたブログでも全く同じことを言ってるんだけど、ホドロフスキーの美学に完全ノックアウトされてるから許してちょ!(笑)

ブログで記事にするためという大義名分を得たおかげで、何日間も繰り返し「ホーリー・マウンテン」を目にすることができた喜びったら!
何度でも何度でも観ていたいと思う、中毒性のある映像世界にどっぷり浸かることができて幸せだった。
「リアリティのダンス」を鑑賞する前までには、もう一つ「サンタ・サングレ」についての記事もまとめておきたいと思っている。
そうして一度キチンと整理した上で「リアリティのダンス」に臨みたいものだ。

果たして日本公開はされるんだろうか?
非常に気になるところだ。

Naonシャッフル 第3夜

【本文には書ききれなかったゴシック娘(当時)たち】
ROCKHURRAH WROTE:

何とこの「Naonシャッフル」のシリーズも一年も書いてなかった事に気付いてしまった。企画考えるのに力を使い果たして、その後はどうでも良くなるのがお家芸というわけか? しかも「飽き」が書いてる途中で訪れて後半がだんだんぞんざいになってゆくのもROCKHURRAHの得意技。いかに勢いだけで書いてるかって事だね。

そんなわけで久々に「 Naonシャッフル」の記事でも書いてみるか。
世の中にユニークな音楽をやっている(あるいはやっていた)女性アーティストはたくさん存在していたが、そういう究極を目指す記事ではなくて、単にたまたま思いついたものを連ねてゆくだけというのがこのシリーズのスタイルだ。だからむしろ一般的には何の変哲もないバンドやあまり取り柄のないバンドも混じっているだろうけど、そっちの方が後世に残った音楽よりも知る機会も思い出す機会も少ないのは確か。
そう考えるとちょっとは80年代ニュー・ウェイブの歴史学(そんな学問あるのか?)に貢献してるに違いないし、誰かが少しでもこの記事に興味を持ってくれればそれでいいのだ。

今日の括りは何だかわからんが、翳りのある曲調を得意とするバンド達について。なぜだかパンク、ニュー・ウェイブの時代と言えば明るくてキャピキャピ(たぶん完璧なる死語)女のバンドよりもこういう暗めの路線の方が目立っていたし個人的に記憶に残っているものが多い。気のせいかな?

この手の音楽を世間的にはポジティブ・パンクとかゴシックとかダーク・サイケとか呼んでいた時代があった。これについては格別詳しい事も書いてはいないが拙作記事「時に忘れられた人々【04】Positive Punk」に少し書いたか?

元祖とも言えるスージー&ザ・バンシーズは1978年頃のデビュー直後からすでにダークに沈み込む曲調でそういう音楽のルーツと言えるが、ポジティブ・パンクが栄えたのは大体1982年くらいから1985年くらいの期間だった。まだそういう名称は付けられてなくても、潜在的には1979年くらいから同じ傾向のバンドは存在していた。
すぐに新しい流行りが生まれてあっという間に廃れてゆく80年代ニュー・ウェイブの中では6年という月日はかなりの長期間であり、いかにイギリスの若者がこの手の音楽を支持していたかという証でもある。表でエレポップ(テクノ・ポップ)とかニュー・ロマンティックとかファンカ・ラティーナとか流行ってた裏側ではこういう音楽が脈々と受け継がれてきたわけだ。
この時代のイギリスに行ったわけでもないROCKHURRAHだが、日本で細々と陰鬱な音楽を買い漁っていた情景を思い出しながら書いてみよう。

Skeletal Family

イギリス北部、ヨークシャー出身のスケルタル・ファミリーは1982年にデビューしたバンドだ。バンド名はデヴィッド・ボウイの異様な名曲「永遠に周り続ける骸骨家族の歌」が由来との事。
ヨークシャーと聞いてROCKHURRAHが即座に思い出すのはビル・ネルソンのバンド、ビー・バップ・デラックスだが、単に同郷なだけで全然関係ない話。書く必要性は全くなかったな。
どうやら鉱山とか工業とかで栄えた土地らしいが、だだっ広い野原が広がってるという勝手な印象がある。プロモの背景もそんな感じだし。
アン・マリー・ハーストという女性ヴォーカルをメインに成り立っていたバンドだが、この人以外の男メンバーは地味で特徴があまりないなあ。紅一点のアン・マリーは赤い髪をちょいとモヒカン風にした、ケバいと言えばそうだが、もっとすごいのがウヨウヨいたこの時代としては割と普通で際立った個性はないかも。やってる音楽はスージー&ザ・バンシーズ直系の暗くて直線的、割と雑な楽曲が多いけど同時代のネオ・サイケとかよりは攻撃的で、やはりポジパンの部類に入るんだろう。
このビデオで注目すべきはやはりアン・マリーのヴォーカル、というよりは「困ったような、泣いたような、でも笑ったような」表情。日本の能とか狂言の世界ではこういう微妙な表現が重要な要素らしいが、まさか遠く離れた英国で相通じるものを見つけるとは。
もしかしたらスッピンは単なるタレ目なだけかも知れないが、この表情だけは素晴らしい個性だと思うよ。曲もWah!のピート・ワイリーのようなギターで(というか「Seven Minutes To Midnight」のパクリのように聴こえる)なかなか良し。

Ghost Dance

ポジパンもこの時代の音楽も疎いという人が見れば「上のバンドと全然区別つかないよ」という意見が出そうだが、ROCKHURRAHにもあまり区別はついておらぬから心配せずとも良い(笑)。
ゴースト・ダンスは上のスケルタル・ファミリーのアン・マリーが元シスターズ・オブ・マーシーのゲイリー・マークスと共に始めたバンドで、1985年にデビューした。この時期が微妙で、すでに意外と長く続いたポジパンもダーク・サイケも終わろうかという頃。 だからなのか知らないが、このゴースト・ダンスよりもポジパン真っ只中だったスケルタル・ファミリーの方が個人的な好みには合ってる。
こちらの方が成功したようで楽曲もさすがシスターズ・オブ・マーシーのオリジナル・メンバーがやってるだけあってスケールがでかい、音楽的な完成度も高いんだろうけどね。ネタ切れというわけでもなかろうが、ヤードバーズやスージー・クアトロ、ロキシー・ミュージックなどのカヴァー曲も目立つ。
問題のアン・マリーはスケルタル・ファミリー時代と比べて特別な変化もなく、ずっと同じスタイルのまんまだね。演奏が変わっただけじゃ揺らぎもしないという強い個性のわけでもないのに、相変わらず何とも言えない表情(切ないけど笑ってるようにも見える)のヴォーカル。ファンにとってはそこがたまらん魅力なのかも知れないけど「大丈夫?」と思ってしまうよ。

Brigandage

続いては初期パンクの頃から活動をしていたらしいブリガンデージ。日本での知名度はたぶんほとんどないように思えるし、ROCKHURRAHもこのバンドについて知ってる事は少ないけど、とにかくカッコイイし書いてる人も滅多にいないから、アムンゼン(南極に最初にたどり着いた人)状態で書かせて頂こう。
このバンドについて知ったのはポジパン全盛期の頃出ていた「The Whip」というコンピレーション・アルバムに収録されていたから。ブリガンデージは曲も見た目もパンクでポジパン専門のバンドよりは明らかに線も太くアグレッシブな音楽なんだが、ちょうど聴いてた時はポジパン寄りの音楽だった。「The Whip」はセックスギャング・チルドレンやマーク・アーモンドが中心となったポジパンの名盤コンピレーションと言われていた。たぶん結構入手困難だったように記憶する。
ブリガンデージはNMEやFACEなどイギリスの音楽系雑誌とかでポジパン特集やってる時に顔は見かけたもんだが、レコードがバンドの全盛期に出なかったもんだから実際のその音楽についてはあまり知られていなかったというパターンね。
その後、ブリガンデージを探してやっとレコードを入手したんだが、ジャケットがガッカリ仕様だったのだけは覚えてる。先に書いた雑誌に載ってた顔立ちではなく、ちょっとぽっちゃりした顔のぼんやり写真だったから。曲は良くて名盤だと思うんだけど、これをジャケット買いする人間はそうそういないだろうなあ。雑誌で見たのはたぶん初期の頃だと思うけど、かなり派手なヴィジュアルとおしゃれなパンク・ガールといった雰囲気がこのレコード・ジャケットにはなくて「写真で見た時は美人だったけど会ってみたら大した事なかった」という騙された感の漂うものだったなあ。曲はいいんだけど。
なぜかレコードではなくカセットテープでリリースされたような粗悪な音のものまで持ってたけど、その頃にはもうポジパン聴いてなかったんじゃなかろうか?あまり記憶に残ってないんだよな。
このバンドはミッシェル・ブリガンデージという女性が中心になって70年代後半から活動していたらしいが、何と9回もメンバー・チェンジしていて最後の方はいつ頃なのかよくわからん。
ライブ映像見てもらえればわかるけど演奏も歌い方もふてぶてしくて声が良く出てる。かなり場馴れしたバンドだという事がわかるね。特に映像2曲目の「Horsey Horsey」が大好きな曲だ。ライブは違うけどスタジオ盤ではちょっとアコースティックな感じで哀愁ある中東風のフレーズが印象的な名曲だった。この時は普通の金髪だが、最初の頃はモヒカンでもっと過激だった印象がある。
しかし最近のものと違って革パンの股上が異常に深いハイウェスト仕様。80年代は確かにこうだったよねぇ。
この手のバンドを幾多も持ってて(今どきそんな人いるのか?)「もっとパンチのあるヤツが聴きたいよね」などと思ってる人がいたらオススメ出来るので、もし見つけたらROCKHURRAHの言葉を信じて買ってみてね。

Baroque Bordello

続いてはは1981年から活動していたらしいフランスのバンド、バロック・ボールデロだ。
ROCKHURRAHがネオ・サイケとかポジティブ・パンクを聴いていた時代にフランスではオルケストル・ルージュとかレ・プロヴィソワールとか素晴らしいバンドがいて、勝手に「フランス、すごい」と思い、フランス物のニュー・ウェイブばかりを探していた時期があった。このバンドはその頃にタイトル忘れたがフランスのバンドによるカヴァー・ヴァージョンばかりを集めたコンピレーションで知ったもの。このアルバムでピンク・フロイドの初期の名曲「See Emily Play」をカヴァーしていたのが印象的で、ずっと気になっていた。
この時代、フランスにはインヴィタシオン・オゥ・スーサイド(自殺への招待)という暗黒なレコード・レーベルがあって、クリスチャン・デスとか前述のレ・プレヴィソワールとかジャド・ウィオとかなかなかレベルの高い音楽をリリースしていた。が、このバロック・ボールデロはそういう系列とは違っていてガレージ・レーベルというところを中心に活動していた模様。先に書いたカヴァー曲ばかりのコンピレーションもこのレーベルだったように思ったが、バロック・ボールデロのレコードも確か1枚持ってたかな?
正直言って参考文献はフランス語だし時代は古いし、この現代に調べようと思ってもなかなか難しい。昔はネットとかもなかったから。よりいっそう情報を仕入れるのに苦労したもんだ。
つまりこのバンドについてはワガママそうでちょっと怖い見た目の女性ヴォーカルという以外はよくわかってないという事だ。
歌っている動画も見当たらなかったのでどういうバンドなのか不明だろうが、この曲はデビュー曲で元キュアーのローレンス・トルハーストがプロデュースしたそうだ。どこかで聴いたような歌声とメロディで、興味ない人から見れば違いもよくわからんだろうな。顔はワガママそうだが声はそうでもないから、根はいい子に違いない。

Malaria

4つしか書いてないけどあまり違いもないし早くも飽きてきたので、この5つ目で一旦終わるつもりだ。

最後に書くのはポジティブ・パンクとかのジャンルではあまり語られる事がないであろう、ドイツのバンド、マラリアについて。
英語力が極めて低いROCKHURRAHなのでドイツ語力はなおさら、あるはずもない。だからメンバーの名前を見てもどうカタカナ表記していいかわからず途方に暮れてしまう事もしばしば。ノイエ・ドイッチェ・ヴェレの事をなかなか書かない理由のひとつでもあるね。このバンドも「読めん!」と唸ってしまう名前のメンバーばかりで構成されている。
マラリアはドイツのニュー・ウェイブが始まったくらいから活動していたマニアDというバンドを母体とした、全員女性のバンドだ。
このマニアDはニュー・ウェイブ初期のガールズ・バンドと言えば誰もが連想するようなド派手なファッションや髪型で、元ニュー・ウェイブ少女だった(現在の年齢は秘密)方々は写真を見ただけで「懐かしいわぁ」と涙するくらいに80年代そのもののルックスだった。マラリアになってからはカラフルさがなくなり、当時はカラス族などと呼ばれたような漆黒のファッションだった。コム・デ・ギャルソンやニコル、コムサ・デ・モードにY’sなどなど、今はどうか全然知らないが、80年代初期にはみんな真っ黒だったな。とにかく全員がモデル並みのルックスでヴィジュアル的にはドイツでもトップクラス。
おっと、音楽について全く書いてなかったよ。
ノイエ・ドイッチェ・ヴェレとはドイツのニュー・ウェイブの事だが、そのいくつかの有名バンドに関わっていた人材を擁していたのがマラリアだ。何だか具体性がない発言で申し訳ないが、書くと長くなってしまうし横道にそれてしまうのがわかりきってるからテキトーにしか書かないのだ(断言)。
このバンドは本来はDAFのようなエレクトロニクスによる単調なビートにドイツ語の巻き舌ヴォーカルがかぶさってゆくというパターンが多いのかな。たまたま今回紹介したPVの方が上に書いたようなバンドと相通じるだけで、本当は違った感じなので誤解しないように。
ポジパンとかそういう範疇には入らないんだろうけど、ただ暗い曲調を得意としていて、ビデオとかは結構ゴシックな雰囲気を漂わせてるね。

大して面白くもなく興味深い記事でもない割に長々と書いてしまって失礼つかまつった。
この手のバンドを書く時に必ず誰もが言及するだろう4AD系列のコクトー・ツインズとかデッド・カン・ダンスとか見事にすっ飛ばしてるところがROCKHURRAHの王道嫌いを物語っているかも。

最近ブログをあまり書いてないけど、この手の過去ニュー・ウェイブ記事を書かせればまだまだその辺のオタクよりは深遠だね。ではまたこのサイトで会いまちょう。