好き好きアーツ!#19 DAVID LYNCH—LOST HIGHWAY

【ロスト・ハイウェイのトレイラー】

SNAKEPIPE WROTE:

2000年より前のこと、自分でHPを制作し、例えば写真作品を発表したり、観た映画の感想を書き連ねていたことがある。
あの頃はまだホームページビルダーを使ってたりして、恥ずかしいページだったんだよね。(笑)
もうどこにも残っていないことを望むなあ。
その時にも当然のように敬愛するデヴィッド・リンチ監督の映画について書いた。 「ブルーベルベット」について、かなり真剣に感想をまとめたっけ。(遠い目)
ROCKHURRAH RECORDSのブログを開始してから、リンチの様々な話題を取り上げているけれど、映画についてはほとんど書いていないことに気付いたよ!
こんなに長い間リンチの作品に触れていながら、なんたる失態!
これから少しずつ、リンチ作品を振り返って紹介していきたいと思う。

ロスト・ハイウェイ」(原題:Lost Highway 1997年)
マルホランド・ドライブ」(原題:Mulholland Drive 2001年)
インランド・エンパイア」(原題:Inland Empire 2006年)

上記の3本は「こっち」と「あっち」というような複数の世界を行き来する映画だ。
リンチは「イレイザーヘッド」より前から夢想シーンを織り交ぜた映像作りをしているし、シュールな映画は特にこの3本だけということはないけれど、ここ最近の3部作として扱っていきたいと思う。
今回は3部作の1番目「ロスト・ハイウェイ」について書いていくことにする。
1997年というと16年前になるんだねー。
割と最近観たと思ってたのに。(トホホ)

「ロスト・ハイウェイ」についてのあらすじは必要ないだろう。
妻の浮気を疑った夫が、挙句の果てに妻を殺す、という話だからね。
えっ、乱暴過ぎ?(笑)
Wikipediaに冒頭部分などの記載があるので、そちらを参考にされるとよろしい。
SNAKEPIPEは気になった部分だけを紹介していくつもり。
自分のためのメモみたいな感じかな。
それでもネタバレになることもあるので、観てない方は注意して下さい


リンチの映画には必ずといって良い程登場するのが異形の役者。
「ロスト・ハイウェイ」ではロバート・ブレイクがミステリーマンを演じている。
白塗りメイクでまばたきしないまま話をする、かなり不気味な存在!(写真左)
そのままでも充分異形なのに、逆光で見えない妻・レネエの顔が、いつの間にかミステリーマンになっているシーンがあるんだよね!
右の写真なんだけど、ロン毛のヅラを被って、女装よ!
旦那であるフレッドが「ヒィッ!」と声を上げるんだけど、これはかなり怖いよね。
どう、こんな人が隣に寝てたら?(笑)

ミステリーマンの正体は、人によって解釈があると思うけれど、やっぱりフレッドの妄想とか想像の産物ということで良いように思う。
ラスト近くでミステリーマンがフレッドに何やらゴニョゴニョと耳打ちする。
この耳打ちっていうのは、リンチファンにはお馴染みだよね。
ツイン・ピークス」でローラ・パーマーがクーパー捜査官に耳打ちする、あのシーンね。
今、Wikipedia読んで初めて知ったけど、クーパー捜査官のフルネームって
「デイル・バーソロミュー・クーパー」っていうんだね?
バーソロミューといえば、バーソロミュー・くま!
もしかしてクーパー捜査官の名前をもじったのかな?
話が脱線してしまった。(笑)

ミステリーマンは耳打ちしたあと、すっかり画面から消えちゃうんだよね。
直前まで持ってたピストルも、いつの間にかフレッドの手に渡ってるし。
それ以降は登場しない。(この表現で良いのかは疑問だけど)
「自分なりの解釈で記憶する」と話していた、フレッドの記憶にはもう出てこない、ということで良いのかしらね。


解釈が人それぞれ違ってくるだろうと思われる、もう一つはビデオテープ。
何者かによって届けられる謎のビデオ・テープは、最初はフレッド宅の外観だけを写した「不動産屋よ、きっと」レベルの軽いものだった。
一番最後に出てきたのは、上の画像のような凄惨な殺害現場。
サブリミナルのように、パッパッと画像が移り変わるので、何度も静止させながら確認すると、完全に上半身と下半身を真っ二つにされ、手足がバラバラに切断された現場を観ることができる。
カメラに向かって泣きながら大声を上げる血まみれのフレッド。
どうあがいても、このビデオが証拠で有罪判決間違いないでしょう。
ところで、このビデオテープは本当に実在してたんだろうか?


SNAKEPIPEが大好きなシーンは、ミスター・エディことディック・ロラントが交通ルールを守らないヤツをコテンパンにやっつけるところ。
後ろから来た車が煽ってきた、というのが怒りの理由。
更に追い越して行く時に、中指立てるポーズで挑発してきたところで、キレ・モードにスイッチオン!
スピード上げて前の車を追いかけ、後ろから追突すること数回。
銃を突きつけ、運転手を引きずり出し、殴る蹴るの暴行を加える。
これだけなら普通なんだけど、ここで説教するのが面白い。
「おまえみたいなバカのせいで昨年は5万人事故で死んでるんだ!」
なんて非常にマトモな演説を、強面の人が言うパラドックス的な感覚。
ここらへんがリンチの言う「ハッピー・バイオレンス」なのかもしれないね?
キレるキャラクターは、「ブルーベルベット」のフランク・ブースこと、デニス・ホッパーが秀逸だったよね。
ディック・ロラント役のロバート・ロッジアも、かなり良い味出してたね。


フレッドの妻であるレネエ(もしくはアリス)は、ポルノ女優だった!
そのポルノ映像が上の写真なんだけど、ここだけカットしてみると、マドンナに見えてしまうのはSNAKEPIPEだけかしら?
ディック・ロラントと、いかにも不健全な商売してます風の男・アンディは、ポルノ映画やスナッフ系のビデオを制作・販売していたようだ。
そこにレネエも加わり、結婚後も彼らとの関係を断ち切らなかった。
クラブで演奏をするのが生業の夫が外出すると、レネエはかつての男達に会いに出かける。
レネエの本来の姿は、フレッドの妻ではなかったのかもしれないね。
夫婦間の冷めた会話や態度、視線の動かし方は、全然フレッドを愛してるようには見えないからね。
どうしてフレッドとレネエが結婚したのか、馴れ初めを聞いてみたいよね!(笑)


ディック・ロラントとアンディが制作していたビデオを、皆で酒を飲みながら鑑賞しているシーンがある。
そのビデオは、今だったらR指定がされてしまうような内容なんだけど、その中にマリリン・マンソンが出てるんだよね。
それが上の写真!
マリリン・マンソンはこの映画のサントラにも「I Put A Spell On You」で参加していて、「アイラブユーーー」とヒステリックに叫んでる。
そんな風に愛してると言われたら、相手は逃げるわ!って感じね。(笑)
多分これはスナッフ系のビデオだと思うので、リンチファンからみると羨ましい限り!
リンチの映画に死体で出られる、もしくは殺される役をやるっていうのは憧れだもんね。(←解ってくれる人はいると思う)


上はラスト近く、フレッドが逃走を図ってる時の映像の静止画像。
流して観てる時には、フレッドの顔がカクカクしてたり、歪んでいたり、目が素早くあらぬ方向を見たりして精神や肉体が崩壊していく様を見ている気分になる。
実際、その時のフレッドは妻殺しのみならず、他に2人を殺し追われている身だから、壊れていくのは仕方ないのかもしれない。
静止画にして気になったのは、上の写真の口と、またまた登場のフランシス・ベーコン!
左の絵は口だけの部分なんだけど、良く似てるよね。
「ツイン・ピークス」の時にも、叫ぶ口を映像として取り入れていたリンチだけど、今回は歯がガタガタになってるよね。
これはもうフレッドではない、他の何者か、だね。
「Who are you?」ってミステリーマンにも尋ねられてたもんね、フレッド。

フレッド/ピート、レネエ/アリスの入れ替わりや、「ドグラ・マグラ形式」の作り、そしてミステリーマンやビデオテープの存在については、例えばリンチ評論家の滝本誠氏などが詳しく論じてくれてるから、SNAKEPIPEみたいな素人が発言することもないだろう。
「謎は謎のままでいい」
というリンチの言葉通り、シークエンスの羅列として楽しめば良いと思っている。
2007年5月の記事「かもめはかもめ、リンチはリンチ」に、少しだけ「ロスト・ハイウェイ」について書いていたSNAKEPIPE。

リンチは実際に瞑想をしているし、夢と現実の境がないような映像が得意なので、支離滅裂で筋が通ってないストーリーでも何の問題もなく提示してくる。
リンチの夢想の世界をすべて理解なんてできないのは当然だろう。

すでに6年前、なんとも簡潔に感想を要約して書いてたね。(笑)
それをもう少し掘り下げて書くことができて、良かった。
また日を改めて「好き好きアーツ!」の特集として、リンチの迷宮系3部作第2弾「マルホランド・ドライブ」を書く予定である。
今からとても楽しみだ。

SNAKEPIPE MUSEUM #20 Germaine Richier


【Germaine Richier 1946年の作品:La Mante。人?未確認生物?】

SNAKEPIPE WROTE:

先日久しぶりにIKEAに行ってきた。
今まで一度も行ったことがない長年来の友人Mのお付き合いである。
当然ながら前回行った時とはディスプレイが変わっていて、2DKの50m2用といった具合に、見る人が自宅を想像し易い商品紹介をしていたのが面白かった。
相変わらず上手い戦略立ててますな!(笑)
あんなにスッキリ部屋がまとまることはないのに、IKEAに行くと整然として清潔感溢れる、豊かな生活が実現できそうな気分になっちゃうから不思議だ。
リビングはテーブルと椅子、写真集を置くための理想的な本棚があり、ゆっくりお茶を飲みながら鑑賞できる。
そして背面には大きな壁があるから、そこには絵画や写真をドーンと飾れる。
こんな素晴らしい環境だったら、どんなに素敵かしら?
と、妄想を膨らませるSNAKEPIPE。
まんまとIKEA戦法にやられてるね。(笑)

帰宅後妄想の中での部屋のディスプレイを開始!
壁に飾る絵や写真、棚に置く良い彫刻はないかな、と探してみたのである。
ここで発見したのが上の作品。
なんとも不気味で存在感のある奇妙な形!
ものすごくSNAKEPIPEの好みである。(笑)
この作品を制作したのは誰だろう?

調べてみるとこれはGermaine Richierというフランス人の作品だった。
フランス人の名前の読み方はよく分からないんだけど、多分ジャーメイン・リシエで良いと思う。(違ってるかもしれないけど)
そしてなんとジャーメイン・リシエは女性だったんだよね!
ジャーメインといえば、パッと思い付くのがジャクソン・ファミリーのジャーメイン・ジャクソンだったから、勝手に男性だと思ってたよ。(笑)
日本でも男性なのか女性なのか判らない名前はあるもんね。
そしてジャーメイン・リシエは、日本ではほとんど知られていないアーティストのようなので、またもや(!)SNAKEPIPEが翻訳して紹介致しまする。
誤訳があったらごめんなさい。

ジャーメイン・リシエは1902年アルル近くのグランで生まれる。
モンペリエの美術学校において、ロダンの元助手だったルイス=ジャック・グイグエの元で、1929年にグイグエが亡くなるまで勉強をする。
その後パリへ。
この間にアルベルト・ジャコメッティと知り合う。
この時期にセザール・バルダッチーニとも知り合っているらしい。
二人共彫刻界での巨匠だよね!
きっと物凄い高尚な話題で盛り上がってたんだろうな。(笑)
1936年にPrix Blumenthalを獲得する。
これは若いフランス人アーティストを発掘し援助する目的で開催されていた、期間限定のパトロン企画みたいな感じなのかな。
Franco-American Florence Blumenthall財団が2年間で約10000フランの資金提供をしてくれたらしい。
お金よりも、世間的に認められたという実績のほうが大きい感じなのかな?
1951年にはサンパウロ・ビエンナーレにて彫刻賞を受賞。
1959年に死去。
リシエの作品はペギー・グッゲンハイム・コレクション(マックス・エルンストの元妻)やテートなどに所蔵されているらしい。

有名彫刻家の名前はゴロゴロ出てくるわ、所蔵されている美術館も有名所はたくさんあるわ、でお見事だよね!
こんな女流彫刻家なのに、日本語で検索しても出てこないのが不思議。
名前の日本語読みが間違っているのかしら?(笑)

ジャーメイン・リシエは、コウモリ、ヒキガエル、クモや人間と動物のハイブリッドのような創造物を彫刻として作品にする。
SNAKEPIPEが一目惚れした作品も、タイトルでは「La Mante」、英語で「The Mantis」と書いてあるのでカマキリだろうけど、人間との融合に見えないかな?
例えば古代エジプトやギリシャ神話の中に出てくる神にも人間と動物の融合体を見かけるけど、昆虫と人間のハイブリッドは珍しいよね?(笑)

上の作品は「la chauve-souris」(1946年)で、これはどうやらコウモリと人間が混ざっているように見えるよね。
「コウモリ人間」といえば「バットマン」。(笑)
「バットマン」はコミックとして初めて登場したのが1939年というから、丁度年代的には同じくらいの時期になるね。
リシエが「バットマン」に影響を受けて制作したのかどうかは謎!

ジャーメイン・リシエについての解説には一言も出てきていない単語だけれど、モチーフや作品を観る限り、SNAKEPIPEにはシュルレアリスムの影響を受けているアーティストに見えるな。

上の写真はブラッサイが1955年に撮影したジャーメイン・リシエとその作品。
ブラッサイ!
SNAKEPIPEはもちろん、ブラッサイが写真家だってことは知ってるし、写真の勉強していた時には、必ず出てくる名前だったはずなのに代表作を思い出せないよ!(笑)
ブラッサイについて書いてあるWikipediaによれば「同時代の芸術家達と親交があった」って書いてあるから、アーティストの撮影をしていたのは納得だね。

鏡を使って作品をダブルに、本人の顔を鏡の中に見せておきながら、リシエの手はこちらにあるという、なかなか凝った構図で撮影してるよね。
これもやっぱりシュールな感じでとても好き!
魅力的なポートレート写真に仕上がってるよね。
さすが、ブラッサイ!(←知ったかぶり)

ジャーメイン・リシエは彫刻以外にエッチングも手がけていたようだ。
上の作品は1948年から1951年にかけて制作された「Chauve-souris」、英語名は「Bat」である。
前述した彫刻作品と同じタイトルで、モチーフも全く同じだよね。
リシエにとって「コウモリ人間」は、かなり重要な意味を持っていたのかな。
それにしてもこの絵の雰囲気、どこかで観た気がする。

ウィリアム・ブレイクの「The Great Red Dragon and the Woman clothed with the Sun」(大いなる赤き竜と日をまとう女 1803年–1805年頃)に似てるよね?
縦位置と横位置の違いはあるけど、構図も近い。
どうやらこの作品は「ヨハネの黙示録」(新改訳:第12章:1-5)のシーンを描いたものらしく、「聖母マリアとキリストの象徴と竜との戦い」らしい。
上にいる「火のような赤い大きな竜」が下にいる妊婦が産む子供を食らうために待ち構えている図とは知らなかった。
「赤い竜」とはサタン、邪悪そのものを表しているらしい。
トマス・ハリスの「レッド・ドラゴン」にも、ここまで詳しい説明はなかったかな?
リシエが「コウモリ人間」を「赤い竜」になぞらえてモチーフにしていたとすれば、「コウモリ人間」もサタンだったり、邪悪な存在を表現していたのかもしれないね。

1940年代から1950年代に、フランスでどんな文化が流行していたのか、SNAKEPIPEはあまり詳しくない。
パッと思いつくアーティストは、ほとんどが男性だしね。
そんな中ジャーメイン・リシエは、異形モチーフを作品にする特異な存在だっただろうね。
光より闇、正義よりも悪を好んで制作していたように思われるリシエの作風は、現代でも充分通用すると思う。

また好きなタイプのアーティストに出会えて良かった。
実際に作品を鑑賞してみたくなったよ。
まさかの2週連続同じ締めくくりだけど、やっぱりロンドンのテート行かないとダメかしら?(笑)

フランシス・ベーコン展鑑賞

【フランシス・ベーコン展の看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

SNAKEPIPE MUSEUM #7 Francis Bacon」を書いたのは2011年1月のこと。

「どこかで展覧会やってくれないかなあ。
大量の現物を目の前で観たいものである。」

という文章で締めくくったSNAKEPIPEの希望を叶えてくれることが判ったのは去年のことだった。
情報収集能力に長けた長年来の友人Mから電話があり、
「ベーコンさん、個展やるよ!」
とまるで知人であるかのような口ぶりで教えてもらったのである。
狂喜乱舞するSNAKEPIPE!
展覧会開始の3月を心待ちにしていたのである。

東京国立近代美術館に向かったのは、開催されてから1週間を過ぎた、少し桜が咲きかけた頃である。
コートを着るには暑く、薄手のジャケットでは寒い難しい春の陽気。
SNAKEPIPEもROCKHURRAHも得意のレザージャケットを着用し、待ち合わせ場所へと向かう。
なんと友人Mも同じくレザー着用!
レザー・トリオになってしまった。(笑)
なんとなく怪しい3人組、会場へと急ぐのである。

開催されてまだ日が浅いにも関わらず、そこまでの混雑は感じられない。
押し合いへし合いで、人の頭と頭の間から絵をやっと覗き見る、なんてことにはならなかった。
SNAKEPIPE命名の「国立系」がわんさかいるかと思っていたけど。
良かった、と胸を撫で下ろすSNAKEPIPE。
待ち望んだ展覧会だもん、じっくり鑑賞したいからね!

いつものブログ通り、展覧会の進行に合わせた感想をまとめていこうか。
今回のフランシス・ベーコン展は「身体」をテーマにして年代別に括られていた。

Chapter1 うつりゆく身体 1940s―1950s

「うつりゆく身体」とはA地点からB地点への移行の状態に見えることから名付けられたタイトルとのこと。
A→Bだけではなく、B→Aの移行にも見えることが特徴だと言う。

この章の中で気になった作品が「走る犬のための習作」(1954年)。

一本の線だけで何かを表現するのはベーコン得意の技法である。
簡単に引かれたように見える線なのに、これが舗装された道で脇に側溝があると解り、きちんと情報を提供しているのがすごいよね。
SNAKEPIPEが勉強不足なのか、ベーコンが描く動物の絵を鑑賞するのは、これが初めてである。

まさに犬が走っている!
左の絵は小さいので詳細までは確認できないと思うけれど、ピンク色の舌を出して犬が走っている映像を一時停止させたみたいな絵。
犬が完全にブレているため、より動きが感じられるのである。
この絵をモノクロームにして、コントラストやや強めに、ちょっと粒子を荒くしたら大道さんみたいじゃない?(笑)

「叫ぶ教皇の頭部のための習作」(1952年)の元ネタがエイゼンシュタイン監督の「戦艦ポチョムキン」(1925年)だというので、2枚を並べてみたよ。
「戦艦ポチョムキン」、懐かしいなあ!
もう何年も前に観ているので詳細は忘れているけれど、やっぱりあの階段のシーンは見事だよね。
もちろんこの乳母の顔もしっかり覚えている。
ベーコンのアトリエには、「戦艦ポチョムキン」のスチール写真の切り抜きがあったというから、かなり重要なモチーフと考えていたようだね。
上の作品は斜めになったメガネと共に、ベーコン最大の特徴である叫ぶ口が描かれていて、まさに乳母そのもの!
このベーコンの叫ぶ口にインスパイアされたのが、デヴィッド・リンチである。
エイゼンシュタイン→ベーコン→リンチと、映画→絵画→映画の順番だよね。
この先はまだ続いていくのかな?
後継者は…難しいかもね?(笑)

Chapter 2 捧げられた身体 1960s

無神論者であったベーコンは「磔刑図」をどのように考えて制作していたのか、ということに焦点を当てる。
キリスト教とは別の原始的な宗教においては、神に捧げられた「人間の生贄」としての犠牲的な行為とも言えるのではないだろうか。
なーんて解説文を要約して書いてみたけど、キリスト教についても、原始的な宗教についても詳しくないSNAKEPIPEがあれこれ言える立場じゃないよ。(笑)
解説抜きで好きな絵ってことで良いのだ!(笑)
ところがなんとも驚いたことに、ここまで「磔刑」について書いているのに、ベーコンの磔刑関連の絵は一枚もなし!
難解な解説書いておきながら、全く意味不明だね。

この章の中で気になった作品は「ジョージ・ダイアの三習作」(1969年)かな。
空き巣だと思ってベーコン宅へ泥棒に入ったジョージ・ダイアが、制作中のベーコンにバッタリ遭遇。
そのまま居付いて、ベーコンの愛人になってしまう話はベーコンの伝記映画「愛の悪魔」で観たSNAKEPIPE。
上は、その愛人であったジョージ・ダイアを描いた作品なんだけどね。
解説には「顔面中央に弾丸を打ち込まれたかのような黒い円形」と書いてある。
SNAKEPIPEも「鼻の穴にしては大きいかも」と思って観た。
しばらくじっと観ているうちに、思い付いた。
「これは…穴だ!」
ベーコンは同性愛者だったからね。
考え過ぎだったらゴメンナサイ!(笑)

Chapter 3 物語らない身体 1970s―1992

この章では、ベーコンの特徴である3枚1組みセット(三幅対というらしい)を多く展示していた。
何故「物語らない身体」というタイトルになっているか、というのは複数の空間と人物を描いているのにストーリーの発生を忌避しているから、とのこと。
そう言われても、SNAKEPIPEは勝手にお話作ってたけどね?(笑)

今回の展覧会で鑑賞できて最も嬉しかったのが「3つの人物像と肖像」(1975年)である。
この絵はポストカードを持っていて、ずっと部屋に飾っていた作品だった。
その実物を観ることができるなんて!

この絵の解説には「複数の人物のあいだに物語を発生するような視線のやり取りや、身振りの連関を見出すことはできません」ってきっぱり言い切られちゃってるんだけどね。
左のくねってる男性が恋人のダイア、真ん中がギリシャ神話で神の裁きを伝える復讐の女神、というところまで聞くといろいろと想像をしちゃうけどな。
そして右側は円形部分に組み合う男性とその下の部分には下半身ヌード。
恋人のジョージ・ダイアが自殺してしまった後に描いた作品らしい。
思い出と懺悔がテーマなのかな。

何故ジョージ・ダイアが自殺してしまったのか。
これは前述したベーコンの伝記映画「愛の悪魔」がbased on a true storyだった場合には、自殺の原因はベーコンにあると思うから。
SNAKEPIPEは自殺というよりも「ベーコンに殺された」と言ってもおかしくないんじゃないか、と思っているくらいだからね。
失って初めてその重要性に気付いた感じがするけど、どうだろう?
Chapter 4 ベーコンに基づく身体

最後の章では、 ベーコンからの影響を身体で表現しているアーティストを紹介していた。
日本からは我らが土方巽が登場!
本当にベーコンからインスパイアされ作品を作っていたんだって。
舞踏公演「疱瘡譚」のDVD映像と共に土方巽のスクラップブックを展示していた。
ペーター・ヴェルツとウィリアム・フォーサイスはベーコンの絶筆である未完の肖像を元にその線をなぞるようなダンスを披露していた。
巨大なスクリーンがいくつも並び、ダンスする人物のアップを鑑賞しても何も感じ取ることができなかったなあ。

Chapter1の中にインタビュアーと話をするベーコンの映像が流れていた。
とても興味深いことを語っていたので、書いてみようかな。
ベーコンにはいくつかのシリーズがあって、その中の一つに「教皇シリーズ」があるが、描くきっかけになったのはベラスケスであるという。
ベラスケス?
その昔、日曜美術館でベラスケス作「ラス・メニーナス」 の解読と解説をやっているのを見たことあるけど、それほど詳しくはない画家である。
ベーコンはベラスケス作「教皇インノケンティウス10世」を「人間の感じることができる最も偉大で深遠な事象を開放する最高の肖像画」と評していたとのこと。
だからこそこの絵画から着想を得て、「教皇シリーズ」を作成したらしい。
どうやらベーコンは、「教皇インノケンティウス10世」に、恐れながらも性的に魅了された父親を投影していたようである。
ベーコンが描く教皇は、半狂乱で叫び声をあげている。
恐れながら愛し、突き落とすようなネジれたベーコンの感情が表れてるね。
評論家の中にはベーコンの「教皇シリーズ」を「父殺し」と評する人もいるらしい。 更にベーコンは「ベラスケスの作品は怖くて観られない」と続け、インタビュアーに訳を尋ねられると
「冒涜しているから」
と答えるのである。

愛と憎しみ、恐れと冒涜といった感情が、複雑に絡まって対象に向かっていることがインタビューから解る。
ベーコンにとっての愛情表現は、相手にとっては愛情とは感じられない類だったのかもしれないな、と推測できるね。
自殺してしまった愛人、ジョージ・ダイアへの態度も、思いやりを持っているようには見えなかったベーコン。
ベラスケスの絵も「最高」と言っておきながら「冒涜」し、その冒涜している行為を自覚している人物なので、愛人ダイアのことを虐めているように見えたのも愛情表現だったのかもしれないね?

もしかしてこれは、小学生くらいの男の子が好きな女の子をからかったり、イジメたりするような図式と同じなのかしら?
そう考えるとベーコンについて解り易いかもしれないね。
SNAKEPIPEが高校時代に愛読していたのがオーストリアの精神分析学者であるジークムント・フロイトの著書である。
小児から大人に至るまでの5つの性的発達段階について言及されている文章を読んだ時には、衝撃を受けたものだ。

■口唇期 出生~2歳まで 口は最初に経験する快楽の源である。
■肛門期 2歳~4歳頃まで 小児性欲の中心は肛門になる。

乳児のうちから快楽を得ようしている、という説に驚いた女子学生だったSNAKEPIPEだけれど、この2つの段階をベーコンに当てはめるとしっくりくるんだよね。
ベーコンには口だけしか描かれていない作品が多数存在する。
口に非常に強い興味を示しているよね。
そしてベーコンは同性愛者だった。
上に載せた「ジョージ・ダイアの三習作」について書いた文章の中に「肛門期」に関する記述をしているSNAKEPIPE。
解ってもらえるかしら?(笑)
ベーコンは口唇期と肛門期のまま大人になってしまった画家だったのかもしれないね。
ベーコンの伝記を読んだことがないので、単なるSNAKEPIPEの推測だから信用しないでね。(笑)

ではここで突然だけど、ベーコンの絵画にちなんだそっくりさん劇場開幕!
ベーコンの絵のモチーフに良く似ているな、とSNAKEPIPEが思った物を紹介するコーナーだよ!(笑)

左はご存知モンスターハンターに登場するフルフル。
右はベーコンの作品「ある磔刑の基部にいる人物像のための三習作」(1944年)のうちの一枚である。
モンスターハンターでフルフル見た時に、即座にベーコンを思い出したんだよね。(笑)
これはどちらも男性器をモチーフにしているから、似てしまうのは仕方ないことなのかな。
ベーコンのほうもフルフルと同じように火属性に弱いかどうかは不明!

続いては「千と千尋の神隠し」より「カオナシ」に登場してもらいましょう!
対して右側はベーコンの「人物像習作II」(1945-46年)である。
変な形に曲がった体と、顔に入った縦2本の線と顔色などが酷似しているように感じたのはSNAKEPIPEだけかしら?
ちょっと苦しい?(笑)
ではそっくりさん劇場、これにて閉幕!

今回の展覧会では33点の作品をまとめて観ることができた。
これはベーコン没後アジアでは初めてのことらしいけど?
でもね、以前からベーコン個展を切望していたSNAKEPIPEにはまだ物足りないんだよね!
解説によれば、日本国内にはなんと5点だけしかベーコンの絵が所蔵されていないとのこと。
これにはびっくりしたSNAKEPIPE!
ベーコンは日本で知名度低いのね。
だから「国立系」の客が少なかったのか、と納得してしまった。
作品来ないなら自分から行けってことかな。
ロンドンのテート・ギャラリー行かないとダメかしら?(笑)

映画の殿 創刊号 レヴォリューション6

【こんな雑誌あったの覚えてるだろうか?】

ROCKHURRAH WROTE:

何と三ヶ月以上もブログをサボってしまったよ。
前は月イチくらいでは一応ROCKHURRAHも書いてたのに情けない。
この三ヶ月間、ROCKHURRAHの身にのっぴきならぬ出来事が降り掛かって、そのためやむなくSNAKEPIPEに毎回登板してもらっていた・・・なんて事は全然ないんだけどね。

久々のブログだけど、今後も全く変わる予感はしないので、今年も相変わらずよろしく。←今年初登場なので抱負、遅すぎ?

タイトルでもわかる通り一応、新境地としてシリーズ化が予定されてる記事を書いてみようか。
ROCKHURRAHとSNAKEPIPEはDVDなどで毎週末にいつも映画を観ている。SNAKEPIPEだけは友人Mと一緒に映画館に行ったりはするけど、ROCKHURRAHはSNAKEPIPEとだけしか映画館に行かない。
だから観た映画もほとんどは共有していて、SNAKEPIPEの方が少し多くの新作映画を観ているという状況。観てきて書けそうなものは大抵ブログに書いてくれてるし、SNAKEPIPEは「CULT映画ア・ラ・カルト」という自分の特集記事も持っている。
ん?しばらく文章書いてないうちに、何だかヘタな散文風になってないか?気のせい?
ROCKHURRAHはSNAKEPIPEのようにうまく感想を書けない体質なので、映画の事を何か書くにしても少しは違った視点でやってみようかと思いついたのが今回からのこの企画、というわけだ。

創刊号だからROCKHURRAHならではという視点、つまり映画の中で使われた音楽について少し語ってみようか。ちなみに毎回こうするという方針は現時点で決めてないから、次は全然違うテーマかもよ。

まずは2002年のドイツ映画「レヴォリューション6」について。
この映画を観たのはまるっきりの偶然。
映画通でも何でもないROCKHURRAHは公開時には当然全く知らなかったし、まだ京都に住んでた頃だな。当時、話題になったのかどうかさえ知らない。観たのは去年くらい、家の近くのTSUTAYAの「発掘良品」コーナーで偶然手に取ったのが出会いだ。
5枚で1000円とかやってて、最後の1枚が決まらないからテキトウに決めた中の1枚だと思う。

イギリスで70年代後半に起こったパンクの映像を見ると必ず若者のデモ集団と警察の小競り合い、といった(反)社会的な面を強調した場面が出てくるが、この映画の発端は80年代のドイツでのお話。GRUPPE36(グループのドイツ語)なるパンク集団のデモンストレーション・フィルムがそのままタイトルバックとなっていて、これがなかなかスタイリッシュで良い。パンクの捉え方がイギリスでも他の国でも違ってくるのは当たり前だが、ドイツの場合は何となく、より政治的な側面が強いという印象を持つ。このGRUPPE36の場合もそういうことを目指した団体のようでもあり、単なるお祭り騒ぎのデモ行為よりは少しだけ過激派のように見える。やってる事はチャチいけど、パンクはテロ組織ではないから、このくらいのイキがりがリアルなところ。
そんな若者6人組は廃墟ビルのようなところをおそらく不法占拠、アジトとしているところが羨ましい。ROCKHURRAHもこういう若者時代を過ごしたかったよ。
このまま話が進めばパンク青春映画となったんだろうが、舞台は彼らが暴れていた15年後の現代(公開時の2001年頃)となる。かつて仕掛けられたまま不発に終わった時限爆弾装置があるきっかけで再起動し、家がまるごと吹っ飛ぶような大事件となってしまう。 犯人はこのGRUPPE36達なんだが、メンバーはもう40代くらいのいい大人になってしまっている。それぞれ違う道を歩いているわけだが、それぞれがちょっとした問題を抱えていたり、成功した者もいたりイマイチのもいたり、この辺は映画的にはよくあるパターン。ところが今でも二人でつるんで、いい歳こいてまだデモ行為やスプレーによる落書きなどをやってるのもいて、これが本作の主人公。ROCKHURRAHもいまだにパンクだし(見た目は若干変わったがな)、成功もしてないし、やってる事や考え方は80年代と変わってないし進歩しない。大まかに言えば同類という事になるのかな?
時限爆弾テロ事件は大きなニュースになっているし、警察の押収物の中には当時の彼らの犯行だとバッチリわかってしまうものが含まれているらしい。こりゃヤバイという事で、バラバラになった昔の仲間がイヤイヤながらまた集結し、警察に潜入して証拠品を取り返そうという計画がこの映画の本題となる。
狙いはいいし、面白くなって当然というような話なんだが、その後があまり盛り上がらなかったりで評価しない感想も多く見受けられる。
ROCKHURRAHはこういう話は好きなんだが、もっとスリリングに出来る話を敢えてそうしなかったというような意見もあるなあ。まあ人はどうでもいいから、個人的に面白ければそれでいいか。

この映画のテーマ曲に使われていたのがROCKHURRAHも好きだったドイツのニュー・ウェイブ・バンド、フェールファーベンの「Ein Jahr (Es geht voran)」・・・と思ってビックリしたら、どうやらJan Plewkaなる人のカヴァーらしい。まさかメジャーな映画でノイエ・ドイッチェ・ヴェレ(何度もしつこいがドイツのニュー・ウェイブの事)の曲がかかるとは思わなかったから、という意味のビックリだ。
フェールファーベンはドイツでも最も早くから活動してたローファイなパンク・バンド、Mittagspauseを母体とするバンドだ。このバンドはDAFの母体でもあるからノイエ・ドイッチェ・ヴェレのファンならばその名を知っていよう。そこから派生したフェールファーベン自体はドイツでは割と国民的人気を誇るビッグネームらしく、最近でもおそらく活動してるようだ。しかしそれはドイツ国内のみの話。遠く離れた日本ではどう考えてもフェールラーベン(キツネのマークでおなじみの北欧アウトドア・ブランド)の知名度以下なのは間違いない。
しかしこのバンドのヴォーカルは大好きで、巻き舌べらんめえ口調の歌い方はドイツ屈指の実力だと思う。 こちらが元歌。

この映画の感想を色々調べていたが、フェールファーベンについて言及した記事が見当たらなかったので、この辺がROCKHURRAHならではという事かな。単にここが書きたかっただけでよくぞここまで引っ張れたなあ。

この映画の原題は「Was tun, wenn’s brennt?」ということだが、「レヴォリューション6」というのは邦題だったのか。調べようと思って検索したらネコのノミ取り薬レヴォリューション6%などが出てきて、いきなりやる気をなくしてしまったニャン。タイトル付けた人は事前に調べなかったんかね?

本当はもう一作書こうと思ってたが、今回は疲れたのでちょっと短いけどここまで。シリーズ化予定しておきながら次はあるのかな?
それでは続きを乞うご期待。