劇的ビフォ→アフターpart4

【セーラーパンツのビフォ→アフター写真。バックはもちろん海軍マークね!】

SNAKEPIPE WROTE:

調べてみてびっくり。
「劇的ビフォ→アフター」を最後に書いたのがなんと2009年の2月だったとは!
そして更に「劇的ビフォ→アフター」はムートンをリフォームした記事しか書いていなかったことも判明。
自分で書いておきながらすっかり忘れてるなんてオメデタイSNAKEPIPEだね。
今回はなんと約4年ぶりにリフォーム記事を書いてみたいと思う。

かつての服飾関連の制作意欲が少し薄れているのだろうか。
大好きだったバンド・ROBINが解散してしまい、ライブに行く機会を失ってしまったのも原因だろう。
「ライブに行くために作る」というような目的と期限の目標を立て易かったのは事実だからね。
最近はパンク系というよりはミリタリー系の服装に偏向しているせいもある。
ミリタリー系服飾は、こちらが手を加える必要のない、完成された状態でデザインされていることがほとんどだからね。
SNAKEPIPEがいじることがあるとすれば、例えばサイズを小さくすることやボタンの位置を変えるなどの修理程度かな。
大幅なデザイン変更を加えたことは今までなかったのである。

先日古着屋で見かけたのは海軍で使用されたデッドストック品。
セーラーカラーの水兵さんルックの時に穿くセーラーパンツである。
このパンツの特徴は腹部に並んだ14個のボタン!
なんだかオムツをする時みたいな、右から左から、そして最後に真ん中をボタンで留め付けて穿くんだよね。
14個もボタンをかけるのは非常に面倒だし、効率悪い気がするけど?
ただ、そのデザインがとってもカワイイ!と思って購入したのである。

ボンタンよりも太く、丈も長いのでサイドを細くして、丈を詰めてみようか。
鏡でシルエットを確認してみると…ただのフェルト素材の紺色のパンツにしか見えない!
せっかくのボタンが生かされてなくて、全然オシャレに見えない。
丈だけ詰めるのはどうか、と再び鏡で確認する。
なんだか短足でどうにもバランスが悪い。
これは困った、と頭を抱えていると
「スカートにしてみれば?」
とROCKHURRAHが提案してくれる。
そうか!その手があったか!
目の前が急にパッと明るくなり、作業にとりかかることにする。

長かった丈をロングスカート丈に切った余りを継ぎ足し、スカートにする。
かつて、ジーンズを壊してスカートを作ったことがあるけれど、その時は真ん中にレザーを付け足しアクセントにしていた。
今回は全てがフェルトで制作しているため、見方によっては非常に地味。
何かアクセントを、ということでSNAKEPIPEは考えた。
完成写真(右)に斜めに走っている直線はジッパーなのである。
なかなか良い飾りになったわい。(笑)
穿いてみると、なんだか初めからこんなデザインだったような仕上がり!
なかなかやるなあSNAKEPIPE!と自画自賛。(笑)

ミリタリー系素材を使って、大胆なデザイン変更をしたのはこれが初めて。
ちょっといい気になって、次も制作してみたのである。


「劇的ビフォ→アフター」第2弾はベレー帽。
ミリタリー・ベレー帽に何か飾りを付けてみよう、と思ったのである。
早速ミリタリー・ベレーを購入。
ここは以前も同じ帽子を買ったことがあり、そのベレーをとても気に入っているため同じタイプを…のはずがっ!
いつの間にか同じメーカーの商品が変更になっているのね。
毎年デザインを少しずつ変える場合があるから、定番商品でも別物になることってあるからね。
今回SNAKEPIPEはまんまと引っかかってしまった。
前回とは似ても似つかない帽子。
素材はもちろんのこと、パターンも違う!
サイズを調整できるように付いていたリボンもなくなってるし!
うーん、これは困った。
てっぺん辺りに装飾を加えるだけの予定だったのに、とてもそれだけでは済まないなあ。

ここでふと思い出したのが、昨年9月に訪れた福岡のSWATで購入を迷ったベレー帽!
通常ミリタリー・ベレーの素材はフェルトがほとんどだと思うけれど、SWATで見たのはタイガー・ストライプを使用したコットン素材のベレーだったんだよね。
そのたタイプはほとんど見たことがないので、すっかり気に入り試着してみたSNAKEPIPE。
かぶって正解。全然似合わなかったの。(笑)
ベレーがとても浅くて、頭の上にチョコンと乗せてるようにしかならなかったんだよね。
きっとベトナムが暑いから、フェルトをやめてコットンにしたんだろうなあ。
確かあの時「いつかコットン素材でベレー作ってみよう」と思っていなかったか?

そして今回の制作が始まったのである。
元になる素材としてフェルトのベレーを使用。
そして以前購入していたタイガー・ストライプのBDUジャケットを使い、上からかぶせることにする。
コットンだけでも良かったかもしれないけれど、フエルトをかぶり慣れているSNAKEPIPEには少しだけ心もとない感じがしたからね。
フェルトの上にコットンだからちょっと厚手になったけれど、保温性がアップして良いか?

せっかく自分で作るんだから「Binary Army」的要素を入れたいな、とてっぺん部分にはアナーキーなAをレザーで表現!
いやあ、レザーを丸く縫い付けるの、苦労したよ。(笑)
久しぶりの帽子制作は難しかったけれど、思った通りの逸品に仕上がって大満足である。

今回の「劇的ビフォ→アフター」はフェルト編になったね。(笑)
やっぱりミシンを踏むのは楽しいな。
またリフォームも、制作も続けていこうと思う。

会田誠展~天才でごめんなさい~

【会田誠展:天才でごめんなさい トレイラー映像】

SNAKEPIPE WROTE:

どんな展覧会があるのかを検索している時に、森美術館にて会田誠展が開催されていることは知っていた。
だけどSNAKPIPEがモグリ(古い)だったため、実は会田誠というアーティストについては何も知らなかったんだよね。
美術館HPにある会田誠展の詳細を見ようとする前に出てくるのは、冒頭にも載せた水着姿の少女達の絵。
「スクール水着?ロリコン系?」
と思ってあまり興味を示さなかったのである。

「会田誠、観に行こうよ」
と長年来の友人Mから誘いがあったのは、それからしばらくしてからのことである。
「えっ、あのロリコンの?ちょっと好みと違うんじゃない?」
と誘いを断ろうとしていたSNAKEPIPEだったけれど、
「実際に観てから物を言おう」
とMの誘いに応じることを決断!
行って、観てから初めて感想が言えることになると思ってね。
ここらへんが最近少し変化してきたところ。
SNAKEPIPEも成長しているのだ。(笑)
そして年末に近い、夕方からは雨になる予報の寒い空を見ながら六本木に出かけたのである。

開催から少し時間が経過しているためか、普段ならもっと混雑している森美術館の客数はそれほど多くなかった。
できればじっくり時間をかけて作品と向き合って鑑賞したいと望んでいるSNAKEPIPEとMには好都合!
客が少なめ、というだけでは好都合とは言い切れないかな。
最近は作品解説をする音声ガイドサービスを利用する人が増えていて、通常の3倍近い時間を費やして鑑賞する人もいっぱいいる。
そういう観客をうまく避けながら鑑賞していく技は、いつの間にか身につけた。
誰だって自分の好きなように作品と対峙したいもんね?
あとは子連れの客も避けたいね。
本当に子供に観せて良い作品なのか、親が理解して連れてきてるのかなあ。
今回の会田誠展にも何組か子供連れを発見したけど、大丈夫なのかしらん?
それぞれのご家庭によって事情が違うだろうから、SNAKEPIPEがあれこれ言う問題じゃないけどね。(笑)

会場に入って一番初めに展示されていたのが「切腹女子高生」(2002年)である。
まさにタイトル通りに、切腹する女子高生を描いているもの。
内臓出てるわ、首はチョンパされてるわで「一番初めからこれか!」とちょっと驚いてしまう。
制服姿に日本刀と言うとタランティーノ監督の「キル・ビル」はもちろんのこと、タランティーノに影響を与えた「BLOOD THE LAST VAMPIRE」を思い浮かべるよね。
ちなみに「キル・ビル」は2003年公開、「BLOOD THE LAST VAMPIRE」は2000年とのこと。
もしかしたら会田誠氏もプロダクションIGのファンなのかも?(笑)
まるでビックリマンチョコのシールのようにキラキラした仕上がりは、日本古来からの責任の取り方=切腹という重さや覚悟を全く感じさせない。
このままステッカーにでもなりそうな明るい雰囲気こそが作品の狙いなんだろうね。
他にも風俗店のピンクチラシを一面に貼り付けた上に桜を描いた作品や、畑で育ったルイ・ヴィトンのバッグを「今年も豊作じゃー!」と農夫が掘り起こしてるような油絵などがあり、「パロディの人?」と思いながら歩を進める。

会田誠という美術家を評する場合に「現代美術界の奇才」や 「奇想天外」と共に「タブー」という単語も加わることが多いようだ。
作品を途中まで鑑賞していくうちに
「斜めから物を見る人」
「シニカルでブラックな笑い」
という感想を持ち始め、どんどん興味が湧いてくる。
こんなこと言ってもいいの?こんなことやっていいの?というような禁忌に触れるような作品まで登場する。
「18禁部屋」まで用意されているとはびっくり!
DVDレンタルショップの「アダルトコーナー」みたいだね。
入り口がカーテンになってるところも似てるかも。(笑)

「18禁部屋」には更にキワドイ作品が展示されていた。
とてもキレイな仕上がりの日本画と思いきや、描かれているのは手足を切断され首輪をされた全裸少女達を描いた「犬シリーズ」である。
「家畜人ヤプー」「孤島の鬼」にも登場した奇形人間の製造や永井豪の「バイオレンスジャック」を彷彿とさせるモチーフ。
確かこの手の「人間犬」は石井聰互だったか三池崇史の映画にも出てきたのを思い出す。
美少女を手に入れたい、ペットみたいに飼ってみたいという密かな願望は、絶対に口にしてはいけないし、やってはいけないタブーだろう。
少女のヌードだけでも禁止事項だしね。
それを堂々と描き、展示してしまうとは!
「18禁部屋」には他にも少女を食材に見立てた「食用人造少女・美味ちゃん」シリーズや、 「美少女」とだけ書かれた壁に向かって、全裸でひたすら自慰行為を続ける作者を撮影したビデオなども作品として展示されていてエロとグロが盛りだくさん!
ジョン・ウォーターズの「モンドトラッショ」を彷彿とさせる写真もあったね。
ウォーターズは巨大ザリガニだったけどね!(笑)
一応カーテンで仕切りはされていたにしても、これらの作品を含めた展示にGOサインを出した森美術館の決断に拍手を贈ろう!(笑)

会田誠の作品には屏風絵が多いな、と思った。
もちろん「いわゆる日本の伝統的な屏風絵」とは全く違う。
本来なら鈴虫だったり、セミやカエルを描くところをゴキブリにする。
牡丹や菊を描くところを雑草にしてみる。
上の作品は「電信柱、カラス、その他」(2012年)で、タイトルそのままに電信柱とカラスを描いた作品である。
ブログ内では見えないけれど、左のカラスはセーラー服の一部を、真ん中のカラスは人間の指をくわえていて、不吉な予感を孕んでいる。
この屏風、欲しいなー!家に飾りたいなー!(笑)
SNAKEPIPEが今回の展覧会で一番気に入った作品である。

「自分のオリジナルタッチがない、一種のパロディ的な作家」と作者本人が語るように、作品のほとんどがパロディといって良いだろう。
前述したように伝統的な日本画は題材にしなかったであろうモチーフを描く。
巻物には2チャンネルからの転用文を、意味ありげな達筆で記す。(顔文字までご丁寧に縦書になっていた!)
現代アートにありがちな「ふざけて作ってない?」と聞きたくなるような意味不明の立体作品に似た作品を作る。
これもまた現代アートでお馴染みの「結局なにが言いたいの?」と訳が解らないまま、途中で鑑賞するのをやめるビデオ作品風の映像を撮る。
アートを知らない人が鑑賞しても面白いけれど、知っている人ならばその「ヒネり」に思わずニヤリとするだろうね。

「これはダメです」という社会的な規制やルールに対抗することで成り立っている作品が多い点が特徴でもあり、ちょっと弱い印象を受ける。
元となる常識や基準が作品着想の出発点だからだ。
それが作者の言う「オリジナルタッチがない」ということなんだろうけど。
時代と共に社会の基準やルールは変わることってあるよね。
10年後、20年後にも、これらの作品は「シニカルでブラックな笑い」を持って鑑賞することができるのだろうか?
益々規制が厳しくなって、作品展示そのものが不可能なんてこともあるかもしれないよね。
実際今は手に入らなくなってしまった本などもあるくらいだから。

森美術館のトレイラーの中にも出てくるビデオ作品「日本に潜伏中のビン・ラディンと名乗る男からのビデオ」(2005年)では会田誠自身がビン・ラディンに扮して片言の日本語を喋っている。
ビン・ラディンに似ていると言われたことから、おフザケで作ったビデオみたいだけど、本当に良く似ていて笑ってしまう。
東京藝術大学美術学部絵画油画専攻卒業、東京藝術大学大学院美術研究科修了という華々しい肩書きを持つ会田誠。
ビデオの中の偽ビン・ラディンではなく、美術界の過激派としてこれからもブラック・ジョークで笑わせて欲しいと思う。
そしてパロディだけではない、エリートならではの大真面目な作品も鑑賞してみたいとも思うのだ。
過激派でエリートな会田誠がパロディをパロディに仕上げたら巡り巡って真面目になってしまった、なんてパラドックスを観てみたいね!(笑)

2013年元旦

【2013年の年賀状】

SNAKEPIPE WROTE:

あけましておめでとうございます!
2012年最後のブログにも書いたように、あんまり正月気分になっていないけどね。(笑)
そして毎年恒例の年賀状も、またまた全然年賀状っぽくなく制作してみたよ!
画像の周りが白くなっているのは、ミスではなくてポストカード仕立てにしているため。
そしてカード内に買いてある文字はキリル文字ね。
2013~と続いている部分はROCKHURRAH RECORDSをキリル文字のアルファベットに当てはめて書いたものなので、ロシア人でも解らないかな。(笑)

今回は一応テーマのようなものは設定していたんだけど、その設定からは逸脱しているので当初の計画については内緒。
ウキウキとお散歩に出かけようとする、バタフライ・ヘッドの謎の生物ということだけで良いか?
ROCKHURRAHは「お蝶夫人」と勝手に命名していたらしいよ。(笑)

「ああ、あの二人は相変わらず生きてるのね」
と感じて頂ければ良いな、と思っている。
それがROCKHURRAHとSNAKEPIPEが年賀状を作って、お送りする理由だからね。

相変わらずに、健康で一年を過ごせますように!
欲を言えば、2012年よりも良い年にしたいな、とも願っている。

いつもROCKHURRAHブログを読んで下さっている皆様!
2013年もROCKHURRAHとSNAKEPIPEは、力を合わせてブログの更新を続けていくことをここに誓います!(大げさ)
どうぞ今年もよろしくお願い申し上げます!

ベン・シャーン展 —線の魔術師—

【埼玉県立近代美術館入り口にあった公園前の看板を撮影。光が良い感じ!】

SNAKEPIPE WROTE:

現在埼玉県立近代美術館で「ベン・シャーン展 線の魔術師」が開催されている。 ベン・シャーンと聞いて一体何をやっていた人なのか即答できる人はどれくらいいるだろうか。
例えばSNAKEPIPEだったら一番初めに思い浮かべるのは写真家としてのベン・シャーンである。
次に画家、と答えると思う。
高校の美術の教科書に載っていた絵を未だに覚えているからね。(笑)
この回答とは違うことを答える人もいるだろう。
ベン・シャーンは単なる画家としてだけではなく壁画、ポスター、挿絵、写真などグラフィックアートのあらゆる分野を手がけたマルチアーティストだからね。
戦争、貧困、差別などの社会派リアリズムをテーマにしている点がベン・シャーン最大の特徴なんだよね。

では簡単にベン・シャーンの経歴について書いてみようか。
1898年リトアニア生まれのユダヤ人。
迫害を恐れ、8歳の時に家族と共にニューヨークに移住。
石版画職人として生計を立てながら、美術学校や生物学などを学ぶ。
30歳の頃から労働者や事件をテーマにした絵を描き始める。
1935年から38年にかけて、再入植局(RA)と農業安定局(FSA)が行ったプロジェクトに写真家として参加する。
1942年から戦時情報局グラフィック部門(OWI)、1945年からは産業別労働組合グラフィック・アート部門(CIO-PAC)に所属し、ポスターを制作。
1969年に死去。

今回の展覧会の副題が「線の魔術師」だったのと、美術館のHPに載っていた紹介文の中に
「初公開の絵画・ドローイングを含むおよそ300点によって、ベン・シャーンの魅力を紹介していきます」
と書いてあったので、もしかしたらドローイングが中心の展覧会なのかも、とある程度の予想はしていたんだけどね。
それでも行ってみないと判らないから、と大雨の中ROCKHURRAHと二人で埼玉まで出かけたのである。

実はSNAKEPIPEが埼玉県に足を踏み入れるのはこれが2度目。
1度目は確か20歳くらいの頃にバイトで行ったことあるんだよね。
どうやら2007年に閉店してるみたいだけど、丸井所沢店に!
あの時は遠かったなー!(笑)
ROCKHURRAHは埼玉には今まで一度も縁がなかったと言う。
今回の埼玉県立近代美術館は「北浦和」という京浜東北線の駅から徒歩3分とのこと。
そこまで遠くはないかな?と軽い気持ちで出かけたけれど、やっぱり埼玉は侮れないね。
どうやら最高気温が千葉や東京とは違っているらしく、埼玉着いた途端に寒くてガタガタ震えてしまったほど!
「夏の最高気温も埼玉はいつでも2℃くらい高かったよね」
「きっと冬は2℃低いんだろうね」
などと固まりかけた唇をなんとか動かし、会話するROCKHURRAHとSNAKEPIPE。(大げさ)
何かお腹に温かい物を入れないと凍えてしまう、とまずは腹ごしらえ。
何故だか一人で来店する女性客ばかりのイタリアン・レストランでホッと一息。
都内でも、ここまで一人客ばかりって珍しいような気がする。
なんでだろうね?謎だな。

美術館は北浦和公園の中にあるので、公園を散歩しながら向かう。
このシチュエーション、木場にある現代美術館と同じ構造だよね。
あっちはMOMA、こっちはMOMAS?
うりゃ、思った通りにThe Museum Of Modern Art, Saitamaだったよ。
だからMOMAに付け足してSがあるんだね。ダサっ…。(笑)
千葉にあったらMOMACなのか。うーん、良い勝負だね!

11月から開催されているためもあるのか、美術館内はそれほど混雑していない。
走り回るような子供もいなくて良いね。
1階の常設展を鑑賞した後、いよいよ2階のベン・シャーン展へ向かう。

前述したSNAKEPIPEの予想は的中してしまった。
今回の展覧会はドローイングが中心で、最も関心を持っていた写真はなんと3点のみの展示という残念な結果にガッカリ。
色々な分野の仕事をしてきたアーティストの場合には、こういうことがあり得るんだよね。
ある特定の分野に焦点を当てるような企画ね。
ROCKHURRAHも退屈だったようで、途中で眠くなる始末。
わざわざ遠出したのに、大変申し訳ないことをしてしまった。済みません。
ということで今回のブログは以前のジェームス・アンソール方式
「こんな絵や写真を鑑賞したかった」という特集にしてみたいと思う。
これからまた同じようなブログの時には、アンソール方式と呼ぶことにしよう。
うん、それが良い!(笑)

SNAKEPIPEが高校の美術の教科書で観たのはこの絵。
バルトロメオ・ヴァンゼッティとニコラ・サッコ(1931-1932)である。
1920年代にアメリカで偏見による冤罪疑惑により大問題となったサッコ・ヴァンゼッティ事件で死刑執行された2人を描いた作品である。
容疑者の2人がイタリア系の移民であり、徴兵を拒否したアナーキストだったという理由から、警察は明確な物的証拠がないまま二人を検挙、さらにニセの目撃者まででっち上げる始末。
知識人や当時のイタリア首相まで有罪判決に抗議するほど、社会的な大問題になった事件だったなんてことは女子高生だったSNAKEPIPEは知らなかった。
ただ、この絵のインパクトはずっと覚えていたんだよね。

インパクト、という点では今回の展示の中で最大級だったのはポスターだね。
上は「This is Nazi brutality」(これがナチスの残虐だ) という1942年の作品である。
ポスターはどれも主題がはっきりしていて、ズバッと大きく描いているのが特徴的である。
ポスター本来の目的を果たしながらも、アート的である点が重要だね。

ポスターには採用されていなかったけれど、ベン・シャーンの作品でもうひとつ気になったのはフォント。
絵本や挿絵などの作品もたくさん制作しているベン・シャーン。
解説には自身の子供のために作ったと書いてあり、優しい作風に納得する。
左の作品はちょっと小さくて解り難いかもしれないけれど、独特のフォントが採用されている。
リンチ・フォントの時と同じようにシャーン・フォントと名付けたくなるね。(笑)
どうやら石版画職人だった頃に、レタリングの技術を習得したらしい。
確かにこの字体は素人じゃないよね。
今回の展覧会での主要な展示であるドローイングには、最小限の線だけでそっくりな人物画を描き切っている作品が多くあり、その見事さに驚かされた。
なるほど、展覧会の副題が線の魔術師なのもうなずけるね!

今回の展覧会には3枚しか展示されていなかったベン・シャーンの写真。
こんな作品群が観たかったー!という4枚を選んでみたよ。
1935年から1938年にかけて撮りためた写真はおよそ6000枚とのこと。
再入植局と農業安定局のプロジェクトによる撮影ということで、人物を中心に撮られtレいることが多いみたい。

恐らくSNAKEPIPEが選んだ上の写真は街中なので、ベン・シャーンの個人的な趣味のための写真なのかもしれないけどね?
どの写真を観ても、対象と写真家の距離が近い。
相手が警戒しないで被写体となっていることが判るので、ベン・シャーンはコミュニティやその街に同化して撮影を行なっていたんだろうね。
ドキュメンタリー・フォトとしても、スナップ写真としても優れた写真群だと思う。
写真展があったら観たいなー!写真集でも良いな!(笑)

ベン・シャーンは自分で撮影した写真を元にして、絵を描いていたようだ。
人物を描く際にも使用していたみたいだね。
上の作品「Handball」(1939年)も極めて写真的な絵画だよね。
いや、もう写真そのものと言って良いんじゃないかな?
恐らく写真で鑑賞しても充分カッコ良い作品だったと思うよ。
そう、ベン・シャーンは社会派に目覚める前から、まるで写真のような絵を描いていた。
絵の人なら中心を主題だけに置くような場合でも、ベン・シャーンはまるで広角レンズを覗いた時のような構図にしているのだ。
きっと写真家的な目を持った画家だったからこそ、グラフィックも手がけたマルチアーティストに成り得たんだろうなあ。

日本のリアリズムや社会派などと呼ばれるような、人間の苦悩や時事問題を扱うような文学、写真、映画、その他諸々の表現世界には、ほとんど興味がない。
今でも「しわが刻まれた老人の顔」や「農村で働く人達」をモノクロームで撮影し、「これぞリアリズム!」と叫ぶ人もいるだろう。
その手法が古いとか新しいとか、良いとか悪いの問題ではなく、単なるSNAKEPIPEの好みだからね。
それなのに何故だろう、1920年代や1930年代のアメリカやヨーロッパの写真となると、「カッコ良い!」と思い、更には「懐かしい」とまで思ってしまう。
これは以前SNAKEPIPE MUSEUMでStephen Shore について書いた時にも似たようなことを言ってるな。
一言で言ってしまうと「憧れ」になるのかもしれないね。

さて、今年は今回のブログが最終回ということになるんだね。
夏が長くて暑い日々が続いていたら、急に寒くなって。
あんまり師走だ、クリスマスだ、と感じないまま正月とは!トホホ。

今年もブログを一回も欠かさずに書き連ねることができて良かった!
来年もまたROCKHURRAHと二人で「次のブログはどうしようか?」と頭を抱えながら、何かしらの記事を書いていきたいと思っている。
ROCKHURRAHブログ・ファンの皆様!来年もよろしくお願いいたします。
どうぞ良いお年を!