好き好きアーツ!#28 鳥飼否宇 part7–死と砂時計–

                   

【ROCKHURRAHがジャリーミスタン刑務所を盗撮か?!】

SNAKEPIPE WROTE:

ベストオブ2014の記事でも予告していたように、今年に入ってすぐに嬉しいニュースがあった。
ROCKHURRAH RECORDSが大ファンの作家、鳥飼否宇先生の新刊が出版されたのである。
タイトルは「死と砂時計」。
タイトルだけでもワクワクしちゃうよね、と「好き好きアーツ!#27 鳥飼否宇 part6–迷走女刑事–」で書いていたことを思い出す。

発売日とされていたのは1月10日。
もしかしたらフライングで前日に店頭に並んでいるかもしれない、と新宿の紀伊国屋書店で探してみた。
見当たらない!
検索機で調べてみても「死と砂時計」の情報は出てこなかった。
うーん、残念!
やっぱり10日が発売日なんだね、と当日地元の本屋へ。
ここは割と広い本屋で、種類も豊富に揃っているため、探すのが大変!
ところがさすがは元本屋のROCKHURRAH、なんなく見つけ出してくれたのである。
こうして鳥飼先生の新刊を入手!
通常は先にSNAKEPIPEが読み、その後ROCKHURRAHが読むという順番だけれど、今回はROCKHURRAHが先陣を切った。
読み進めているROCKHURRAHは、面白い!面白いよ!を連発する。
まだ読んでいないSNAKEPIPEには、拷問のような時間だった。
今までROCKHURRAHも、後から読んでたから同じような心境だったんだろうな、と反省。
相手の立場になって初めて解ることって多いよね。

ついにSNAKEPIPEの順番になり、読み始めることとなった。
なんと!今回の作品は鳥飼先生には珍しく、外国が舞台になっているじゃないの!
ジャリーミスタン首長国という架空の国が舞台である。
具体的な場所は記されていないけれど、中東にある小国らしい。
周りは砂漠で、その砂漠にぽつんと死刑囚専用の刑務所が建っている。
何人か脱獄に挑戦した囚人がいたらしいけれど、1人の成功以外は全て未遂に終わっているという。
ほぼ脱獄不可能な刑務所、ということで良いかな?
もし脱獄に成功しても、囚人には身体のどこかにチップが埋め込まれているため、GPSで所在の確認ができてしまう仕組み。
身体のどこにチップが埋め込まれているのかが不明なので、自分で取り出すこともできないのである。

ジャリーミスタン首長国は人権擁護を叫び、死刑を良しとしない国が増えていることに目を付けた。
死刑は廃止したいけれど、凶悪犯は排除したい。
最高刑を終身刑にした場合、その囚人を死ぬまで刑務所内で養っていかなければならないことになる。
その経費は国が賄うことになるわけだよね。
なんならウチで囚人引き取って、死刑やりましょか、ダンナ?と持ちかけ、商売にしたのがジャリーミスタン首長国なのである。
死ぬまでかかる経費よりも、引き取り料金のほうが安上がり、更に凶悪犯を国外に移送できるという一粒で二度美味しい話に飛びつく国が跡を絶たないのは想像に難くない。
なるほど、人が嫌がる仕事を引き受け、喜ばれながら金儲けするとは、なかなかジャリーミスタン首長国は商売上手だよね!(笑)
この設定が非常に面白いよね。
本当にありそうな話なんだもん。

刑務所の中にいる囚人は全員が死刑囚のため、一定の就労とジャリーミスタン語の習得の義務以外には、ある程度の自由が与えられているというのも特殊な状態なんだよね。
ジャリーミスタン首長国の首長である、サリフ・アリ・ファヒールの一存で執行日が決定するまでは、という期限付きだけど。
名前を呼ばれてしまうと、4日後には死刑執行。
執行前には15分だけ広場で告解の時間を与えられ、好きなことを喋って良いことになっている。
当然だけれどジャリーミスタン語でね!
鳥飼先生の新作は、その刑務所の中で起こる事件を、同じ刑務所内の囚人が解決していく前代未聞の連作短編なのである。
それぞれの短編ごとに感想を書いていこうかな!

1: 魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室 

死刑が確定した囚人は、執行までの4日間は独房に入れられることになっているのも、ジャリーミスタン刑務所のルールである。
その独房にいる2人の死刑囚が死刑執行の前日に殺されてしまう、という事件が発生する。
困った刑務官はある囚人の元に相談しに行くのである。
ここで探偵となる囚人の紹介をしようか。

ドイツ系ルーマニア人で、刑務所内での最長老とされるトリスタン・シュルツである。
シュルツはジャリーミスタン刑務所の第二収容棟の棟長で、齡80を越えているように見えるのにも関わらず、足腰が丈夫で頭脳明晰なため、何か起こると頼りにされる存在なのである。
シュルツは事件解決のために、助手として新入りのアラン・イシダを指名する。
アラン・イシダは日系アメリカ人。
30歳くらいの、線が細く知性的な、ジャリーミスタン刑務所では珍しいタイプの囚人とのこと。
こうして探偵と助手のコンビが結成される。
そしてシュルツはあっさりと事件を解決してしまうのである。

後から聞いたところでは、ROCKHURRAHは読んでいる途中でトリックに気付いたらしい。
もちろん事件の真相までは分からなかったはずだけど!(笑)
SNAKEPIPEは全然トリックにも気付かなかったよ。
まさかあんな話だったとはね!(笑)

SNAKEPIPEは第1話で登場した、スグル・ナンジョウという日本人が怖かったなあ!
ナンジョウもジャリーミスタン刑務所の囚人で、その刑務所にいるのが当然だと誰もが感じる、正真正銘のサイコパスなんだよね。
犯罪者に関する本をかなり多く読んでいたSNAKEPIPEだけど、ナンジョウは日本人には珍しいタイプ!
この種類は白人男性が多い、と読んだ記憶があるけれど、最近は少し変わってきてるかもしれないね?

第1話の登場人物の中で、少し気になる名前があったね。
アメリカ人のクリス・コベインという囚人は、もしかしたらニルヴァーナのカート・コバーンとクリス・ノヴォセリックの名前を使用しているのでは?
コバーンとコベインだからカタカナ表記に違いはあるけど、スペルがCobainだとしたら同じかな、と。
鳥飼先生の著作には、名前遊び(といったら良いのか)があるので、勘ぐってしまうね。(笑)

第1話からグイグイ内容に引き込まれる。
刑務所内の情景がはっきり脳内で映像化されているのである。
ROCKHURRAHじゃないけど、面白い!面白いよ!だね、ほんとに!

2: 英雄チェン・ウェイツの失踪

唯一ジャリーミスタン刑務所から脱獄に成功した、チェン・ウェイツという囚人を捜索することを命じられるシュルツとアラン。
今回は看守長直々のご指名を受けるのである。
シュルツの賢さが刑務所全体に知れ渡っている証拠だよね!
ジャリーミスタン刑務所では刑務官と囚人との垣根が低いと感じてしまうのは、シュルツが関係している場合に限るのかもしれないな。

調査に際して度肝を抜かれるのが、捜索のために外出を許可されること!
いくら手枷足枷されているにしても、死刑囚が塀の外に出るなんて聞いたことないよね!
チップが埋め込まれているのも、安心材料なんだろうけど。
様々なことが常識外れのジャリーミスタン刑務所、と改めて思うね。

この話の途中で、今度はSNAKEPIPEももしかしたら?と予想をしていた。
そしてその予想は当っていたけれど、もちろん動機や方法は分からなかった!(笑)

シュルツはここでも難なく課題をクリア!
事件があったらシュルツに頼もうと考える人が増えるのも納得だよね。

この話で国枝史郎の「神州纐纈城」の中のエピソードを思い出したSNAKEPIPE。
伴源之丞と園女が月子の元を訪れる、あのシーンね!

3: 監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦

刑務所内の治安を守るために監察官がいるらしい。
何か困ったことはないか?と聞いてくれるのは、死刑囚にとって有難い存在だろうね。
ジャリーミスタン刑務所では、監察官が調査のために囚人から話を聞く期間が決まっているという。
今回は監察官が囚人に話を聞いている期間に起きた事件の話である。

ジャリーミスタン刑務所は、死刑囚しかいないので、囚人も看守も、全ての人が荒れた人種なのかと思うと、意外にも道徳的で常識があり驚いてしまう。
なんで死刑囚になってしまったのか。
運命の悪戯としか言いようがないような、やむにやまれぬ理由があるんだろうね。
ジャリーミスタンでは死刑囚=凶悪犯として整合しない場合もあるようだね。

またしてもシュルツとアランのコンビは事件を解決してしまうのである。
この話ではなんとも言えない気持ちにさせられたSNAKEPIPE。
ここまでしなくても、と思ってしまうのはSNAKEPIPEがワーカホリックじゃないせいかな?(笑)

4: 墓守ラクパ・ギャルポの誉れ

ジャリーミスタン刑務所では一定の就労とジャリーミスタン語の習得だけが義務である、と冒頭でも書いたよね。
ジャリーミスタン語だけが世界各国から集められた死刑囚の共通言語であり、通達を知るためにも自分の意志を伝えるためにもジャリーミスタン語は必要不可欠だからね!
ただしアラビア語に近い言語のため、人によっては全く覚えることができないという。
学校で英語の授業を6年間習っているはずの一般的な日本人のほとんどが、英語をマスターしていないくらいだから。(笑)
アラビア語に近い言語では、更に難易度アップだろうね!

この話の主人公であるチベット人、ラクパ・ギャルポは6年もの間収監されていたのにも関わらず、一言もジャリーミスタン語を話していないという。
刑務所内での共通語であるジャリーミスタン語を話さなくても、生活できていたところは驚嘆してしまうね!
今回は、そのラクパ・ギャルポにかけられた、ある疑惑に関する調査をする話である。

ラクパ・ギャルポ本人から話を聞きたいと思っても、ジャリーミスタン語を話さないので無理なんだよね。
このもどかしさったら!
それなのにシュルツはまたしても謎を解いてしまうのである。
シュルツの話を聞けば大いに納得!
人それぞれ慣例や考え方があるからね。
理解するしないは別として、様々な思想が存在することは事実だもんね!

5: 女囚マリア・スコフォールドの懐胎

今まで出てきていなかったけれど、ジャリーミスタン刑務所には女囚専門の居住区があるらしい。
その女囚居住区に13ヶ月間収容されている女囚が妊娠した、という。
その謎を解くべくシュルツとアランが女囚居住区に向かうのである。

「女囚」と聞くと、続けて出てくる単語は「さそり」になってしまうね。(笑)
そして女囚居住区の担当医であるライラを、「イルザ」のダイアン・ソーンに見立ててしまったSNAKEPIPE。
うーん、勝手に想像しまっくてるね!(笑)

そんな想像に拍車をかけるような、マリア・スコフォールドの驚くような秘密!
えっ、マリアって「そういう」人だったの?
「そういう」人だと「そういう」ことができるの?
などと「そういう」を3回も書いてしまったけれど、かなり衝撃的なお話なんだよね。
「そういう」人が実際に存在していることは知っているけれど、詳細は良く知らないからなあ。
果たしてシュルツはこの難問を解くことができるのだろうか?

SNAKEPIPEの心配をよそに、シュルツはちゃーんと説明してくれていたので安心した。
そしてまさかの展開がっ!
本当にこれで良いのか、アラン?

6: 確定囚アラン・イシダの真実

今までシュルツの助手として活躍してきたアラン・イシダに、死刑執行の日が確定してしまう。
執行日が確定するとアランは独房に入れられ、残された時間は4日のみとなる。
この期間を人生の振り返りにしてはどうか、と面会に来たシュルツから勧められたアランは、ジャリーミスタン刑務所に来ることになった親殺しの事件を語り始めるのである。

アラン・イシダの母親マーガレットは遺伝子工学を、アランは生物学を学び、進化生態学を志したと書かれている。
進化生態学って聞いたことのない言葉だよ。

生物の生態や行動を、進化の結果として形成され
維持されてきた秩序であると考え、
その過程における自然淘汰の働き方を考察することで
解明しようとする学問

ネットで調べてみたらこんな説明がされていた。
最適制御理論、統計的決定理論、ゲーム理論などに基づいて解析されると説明が続いているので、数学にも強くないとダメみたいね。
更に野外での実験や観察データによって検証されるということは、体も動かしてデータの収集も行うってことだよね。
アランの話は、もしかしたら鳥飼先生そのものなのでは?(笑)

ハーバード大学の大学院で学んでいたアランに悲劇が起こってしまう。
偶然が重なるとこんなことになってしまうのか、とアランを気の毒に思ってしまうよね。
容疑者となり、警察で取り調べを受けるアラン。
クリーブランド市警察のスコット・マイモーン警部とデヴィッド・ハーマン刑事がアランを担当している。
この箇所を読んでいたROCKHURRAHが
「あっ!判った!」
と叫んでいたことを思い出す。
あの時の叫びはなんだったの?と聞いてみた。
ペル・ユビュに間違いないんだよ!」
ん?一体何の話なの?

ペル・ユビュの初期のメンバー名が
・デヴィッド・トーマス
・トム・ハーマン
・スコット・クラウス
・トニー・マイモーン
・アレン・ラヴィンスティン
だと教えてくれた。
確かに、名前を入れ替えると警部と刑事の名前になるよね!これに気付いたROCKHURRAHが大興奮してたってわけか。
鳥飼先生の小説のファンの中でも、こんなところに気付いて叫ぶのはマニアックなROCKHURRAHくらいじゃないかね?(笑)

マニアックと言えば、アランの死刑執行の日が3月6日で、この日は鳥飼先生の誕生日だということに気付いた人、いるかな?
SNAKEPIPEはすぐに分かったんだよね!(笑)

独房で面会に来てくれるシュルツに、今までの人生を語っていたアランは、幼い頃から疑問に感じていた問題を解決する糸口を見つける。
シュルツのくれたヒントで全てのピースがカチッと収まったアランは、告解の場で解決した問題と、今までの人生について語り始めるのである。

ここからはびっくり仰天のオンパレード!
アランの推理もさることながら、それから続く展開はスピード感満載!
早く次のページを読みたくて、焦って一気に読んでしまった。
もしかしたら息をしていなかったかもしれない。(笑)
ラストまでの約10ページは、またもやSNAKEPIPEの脳内で完全に映像が出来上がっていて、その情景を目の当たりにしているようだった。

読了して、大満足!(笑)
なんて魅力的な人物設定と舞台背景!
架空の国ではないのかも、と真剣にGoogleで検索してしまったほどである。
「死と砂時計」の続きがあったら読んでみたいよね!

鳥飼先生は2014年11月に「迷走女刑事」を発売し、2015年1月に「死と砂時計」が刊行されているよね。
この期間の短さに驚いていたROCKHURRAH RECORDSだったけれど、なんと2015年2月26日には「絶望的――寄生クラブ」が発売されるという!
そしてなんとこの物語は…SNAKEPIPEが大好きな増田米尊が主人公!
わーい、やったー!増田米尊だー!(笑)
と喜んでいると
「あれ?あれれれ?」
ROCKHURRAHが驚いた顔をしている。
なんと!2015年3月5日には観察者シリーズ「生け贄」が発売されるというのである!
えーーーーっ!
鳥飼先生の新作が毎月刊行されるなんて、ビッグサプライズだよ!
2014年はホドロフスキーYEARだったけれど、2015年は鳥飼先生YEARになりそうだね!

そうそう。
ホドロフスキーといえば、「リアリティのダンス」の続編の製作が発表されたことも書いておきたいな!
ホドロフスキーの青年時代を映画化する「エンドレス・ポエトリー」は2016年2月完成予定とのこと!

待ち遠しいニュースがたくさんあって、ウキウキしちゃうよね!
まずは増田米尊との再会を楽しみにしていよう。(笑)

2 Comments

  1.  鳥飼否宇

    いつも詳細に読んでいただき、ありがとうございます。PERE UBUにお気づきになったのはさすがですね。ちなみにデヴィッド・トーマスは一時期、クロウカス・ベヒモスと名乗っていたので、ハマーン刑事を巨体の悪魔ベヒモスのようだと形容しました。クリス・コベインも正解です。あと研究所のマザーズボウとキャセールはDEVOの主力メンバーですね。
    どういうわけか、『迷走女刑事』から『生け贄』まで、5か月で4冊の新作ラッシュになってしまいました。そのあとは少し間が空きますが、引き続きよろしくお願いいたします。

  2. ROCKHURRAH

    鳥飼先生、こちらこそ毎回コメントを頂き、本当にありがたく思っています。
    今回の「死と砂時計」では各話の主要登場人物が音楽関係の人名に由来してるのではないかと思って苦戦(?)しました。解明出来たと思われる人物だけをブログに書きましたが、DEVOは気が付きませんでした。
    種明かしして頂き、ありがとうございます。

    次回作のどちらもシリーズ物の続きなので、期待はふくらむばかりです。楽しみにしています!

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