好き好きアーツ!#12 鳥飼否宇 part3 –物の怪–

【観察者シリーズを並べて撮影!圧巻ですな!】

SNAKEPIPE WROTE:

今回のブログは「好き好きアーツ!#8 鳥飼否宇 part3」!
大ファンの作家、鳥飼先生の新作「物の怪」出版記念として第3弾を書いてみたいと思う。
「物の怪」は鳥飼先生の「観察者シリーズ」に分類される最新刊。
鳥飼先生は「~シリーズ」と、幾つかのシリーズを持っているのである。
今まで刊行されている「観察者シリーズ」については、また別の機会に特集してみたい。
今回は「物の怪」に焦点を当てた記事にしようと思っている。

ここで簡単な「観察者シリーズ」についてのご説明をしてみよう。
「観察者シリーズ」は大学の野生生物研究会というサークルに所属していたことが縁で、学校を卒業してからも15年以上(最新作ではすでに20年くらいになってるのかも)の付き合いがある4人が登場するシリーズである。
人里離れた場所でこのメンバーが遭遇する事件、というパターンがほとんど。
彼らの活躍する物語は、上の写真にある著作で知ることができる。

1人目は現在、植物写真家として活躍するネコこと猫田夏海。
メンバーの紅一点。
ただしあまり女性として扱われていない様子で、恐らく猫田自身もちょっと不満に感じているように見受けられる。
猫田の目線で物語が進むことが多く、その女性心理に共感するSNAKEPIPE。
男性作家が女性を描く場合、「んな女、いるわけないじゃん」とツッコミを入れたくなることが多い中、猫田のキャラクター設定はとても良く理解できる。
すぐに旅立てる身軽さを持つ活動的な猫田。
3人の男性との良い友人関係も羨ましいね。

2人目は猫田の大学時代の3学年上の先輩、現在は自称「観察者(ウォッチャー)」の鳶さんこと鳶山久志。
鳥や虫、植物など人間以外の生物全般に幅広い知識を持つ「生物オタク」である。
「観察者シリーズ」の由来はこの鳶さんから来てるんだよね。
このシリーズで(最終的に)謎解きをするのは、いつも鳶さん。
鋭い観察力と洞察力、豊富な知識から結論を導き出すのが得意。
生物に関する薀蓄を語り出すと止まらず、珍しい生物を観るためには一切を厭わないほどの熱中ぶりには驚かされる。
それで生活が成り立つのが羨ましいね。(笑)
猫田にはちょっと厳しい気がするのはSNAKEPIPEだけだろうか。
自分と同じくらい知識豊富になってくれよ、という先輩からの叱咤なのかもね?
「鳶さんのキャラクターは鳥飼否宇の分身かな、と勝手に想像するSNAKEPIPE。ひょうきんでちょっととぼけたインテリで、いい味出してるんだよね。」
と以前ブログに書いたことがあるが、実際鳶さんと鳥飼先生には共通点が多いのである。
東京の出版社に10年以上も勤務した後、鹿児島に移住。
移住後は野鳥や昆虫観察をしている。
ビール好き。
3月生まれ。
などなど。
あんまり羅列すると「ミザリー」みたいになるから、ここらへんでやめておくか。(笑)
恐らく同じような感想を持つ人が多かったためか、「物の怪」の表紙・折り返し部分に
「鳶山久志は分身ではない」
という趣旨の文言が書かれていて笑ってしまった。(笑)

3人目は猫田と同学年だった、現在はイラストレーター、ジンベーこと高階甚平。
昆虫や爬虫類を描くのが得意で、個展を開くと絵が完売するほど売れっ子という設定である。
このジンベーはスキンヘッドで小太り、けれどいつも奇抜なカラフルファッション、というかなり特徴のある風貌!
毎回ジンベーのファッションについては楽しみにしているSNAKEPIPE。
今回はスキンヘッド部分にサソリのタトゥー、蛍光グリーンのボアコートという出で立ち!(笑)
「観察者シリーズ」の中で、SNAKEPIPEが一番お友達になりたいのがジンベーなんだよね!
本当は佐賀県生まれなのに、何故だかベタベタの博多弁を使うところも気に入っている。
ジンベーの喋ってる箇所を声に出して読み
「博多弁ってこんな感じなの?」
と九州出身のROCKHURRAHに尋ねても
「博多弁のことはよく知らない」
と標準語で言われてしまった。(笑)

4人目は鳶さんと同学年、ということでネコやジンベーより3学年上の先輩であり、現在は西荻窪で「ネオフォビア」というバーを経営している神野先輩こと神野良。
資産家だった父親の遺産を相続し、賃貸マンション経営のかたわら趣味のバーも経営している、この人もまた羨ましいご身分の方。
バーの経営は損得勘定抜きの、完全なる趣味の世界を展開している。
置いてある酒はシングルモルトのスコッチだけ。
BGMは70年代ブリティッシュ・ロックを大音響で流すという、ほとんど神野良本人の居心地の良さだけを追求したバーなのである。
これで「ネオフォビア」(新奇恐怖)の意味が少し解った気がするね。
神野先輩の好きな世界についてはほとんど良く知らないSNAKEPIPEだけれど、そんな隠れ家的なバーにはとても興味があるなあ。
前述した元サークル仲間がバーに集まってくるのもうなずけるよね。
神野先輩だけは、事件に直接関わることがなくバー「ネオフォビア」を拠点とした連絡係のような役割を担っているようだ。
そういう意味ではもしかしたら神野先輩こそが「観察者」とも言えるよね。(笑)
そして鳥飼先生の新作「物の怪」はバー「ネオフォビア」から始まるのである。

※細心の注意を払って書いているつもりですが、万が一ネタバレになるような記載があった場合はお許し下さい。特に未読の方は注意願います。

「物の怪」には3つの短編が収録されている。
SNAKEPIPEの非常に個人的な感想をそれぞれのお話ごとに書いていこうかな!

1:眼の池
第1話に登場する物の怪は河童である。
バー「ネオフォビア」に見かけぬ客が来店し、その客が話した内容から河童に絡んだ事件について考察する話である。
河童の正体は一体何か、という鳶さんの解説が大変面白い。
そしてその博識を利用して30年前の謎もスルスルと簡単に解いてしまう。
とは言っても、その謎解きに必要な材料集めをネコにやらせる鳶さん。
突然翌日に山口県に行くことができるネコもすごいけどね!
たまにネコを褒めてくれる鳶さんの言葉があると、SNAKEPIPEまで嬉しくなってしまう。
やっぱりネコに感情移入してるのかもしれないね。(笑)
鳥飼先生の小説には自然を破壊する人間の行動や人間自体に対する怒りや悲しみを含んでいることがあるが(激しく同意!)、「眼の池」にも身勝手な人間に対する警告のような内容が入っていた。
「責任持てないならペットを飼うな!動植物はオモチャじゃないんだ!」
というメッセージを強く感じたSNAKEPIPEである。
それにしても豚って怖い動物なんだね?
トマス・ハリスの著作やパゾリーニ監督の「豚小屋」を思い出してしまったよ。(笑)

2:天の狗
第2話の舞台は立山連峰。
鳶さんとネコが天狗の謎を追う話である。
「天狗の高鼻」と呼ばれる、ロッククライミング界では有名な岩登りに挑戦しようとする大学生と、登るのをやめさせようとする山小屋主人と修験者の会話を聞くところから話が始まる。
「天狗の高鼻」には天狗がいるから危険、と聞いて鳶さんが興味を示すのだ。
修験者の持ち物についての説明が興味深い。
役行者についての本を読んだことがあったけれど、詳しくは覚えていない!(笑)
また読み返してみようかな。
この話の中でSNAKEPIPEが一番驚いたのが「タカとワシには明確な区別がない」というところ。
イーグルとホークなのに、体の大きさで呼び方が変わっていたとは知らなかった。
勉強になりました!(笑)
そしてまたトマス・ハリスを思い出してしまったよ。
ううっ、怖い!
SNAKEPIPEには犯人の動機がイマイチ解らなかったなあ。
やっぱりそういうことでいいのかしら?(←この言い回しが更に謎かも)

3:洞の鬼
第3話は瀬戸内海の小島・悪餌(おえ)島が舞台である。
悪餌島にある悪餌神社に伝わる追儺式—節分祭についての取材に訪れたネコに、やっとお待ちかねのジンベーと鳶さんが同行する。
節分、ということで今回登場する物の怪は鬼!
この小島の廃墟にアーティストが住み着いている、という本当にありそうな設定が面白い。
そしてそのアーティストの一人が行っているパフォーマンスアートについての説明の中に飴屋法水の名前を発見!
先々週のブログで丸尾末広を特集し、その中で「東京グランギニョル」について書いたSNAKEPIPEには嬉しい驚きだった。
飴屋法水が「東京グランギニョル」の主催者だったからね!
遠い過去の記憶に基づいて書いた記事と鳥飼先生の小説がリンクしているみたいだもんね!
それにしてもその手のパフォーマンスアートは非常に解り辛い。
結局は行為そのものよりも、思想を理解しないといけないアートだからね。
アーティスト本人、もしくは評論家みたいな誰かに説明を受けないと解らないアートって難しいよね。
説明聞いてもさっぱり理解できないことも多いし。(笑)
そうは言ってもアートとミステリーを融合させる鳥飼先生の小説は大好きなので、「洞の鬼」はとてもお気に入り!
小説内にSNAKEPIPEの敬愛する映画監督であるデヴィッド・リンチ監督の名前があったことも嬉しかった。
そうだ、あの映画ももう一度鑑賞し直そう!(笑)
「純真無垢」というのが良い結果を生むわけではない、という今回もまた怖いお話だった。

「物の怪」や「妖怪」と呼ばれる伝説上の生き物について、鳶さんが理論的に説明を付け解読していく3つの小説は読みごたえ充分!
「なるほど」と感心しきりで一気に読み切ってしまった。
鳶さんから、もっといろんな妖怪に対する解釈を聞いてみたい、とも思う。
でも伝説のままのほうが良いのかもしれない、とも思うし。(笑)
それにしても3つのお話共、一番怖いのは××(あえて書かないけどね)なんだなと思ったSNAKEPIPEである。

「観察者シリーズ」に登場する、前述した4人はそれぞれキャラクターが立っているので、なんだかもう知り合いのような感覚なんだよね。(笑)
また4人に会える時を楽しみに待っていようと思う。
「観察者シリーズ」ではないけれど、キャラクターが立ってる、と言えば増田米尊もいるよね!(ぷっ)
鳥飼先生、これからもずっと応援してます!

ビザール・チェア選手権!2回戦

【やっぱりパンクならスタッズの椅子だよね!でもお尻が痛くなりそう。(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

今回のブログは以前に特集をして好評だった「ビザール・チェア選手権!」の続きを書いてみたいと思う。
世界の家具を検索し、素敵な商品を目にするのって本当に面白いんだよね!
簡単には入手できないモノばかりなので、鑑賞して満足しているSNAKEPIPEなんだけど。

ところが今回初めにご紹介する逸品は
「絶対に欲しい!」
と鼻息が荒くなってしまったほど好みの椅子。
何年も前に書いた記事「インダスとリアル(意味不明)」で説明したこともあるけれど、インダストリアル好きのSNAKEPIPEには垂涎モノの、レンチでできた作品!
材料がレンチ!ううっ、たまらない!(よだれ)
これはS.C. Maloneというデザイナーによる作品のようで、Radio Guyで扱っている商品みたい。
レンチと、ところどころに配置されたスパナの見事な調和、美しいフォルム!
シルバー色にピカピカ光る、スケルトン式インダストリアルってだけでもう大満足だよね。(笑)
「見た目よりも快適な座り心地」なんて説明がされてるけど、実際に座ることなんてもうどうでも良いかもしれない。
価格についてクリックすると会員専用ページに飛んでしまうので、詳細については不明。
うーん、どうしよう?会員になってみる?
ここまでSNAKEPIPEの心をくすぐる商品には出会えないかもしれないしね?
現在本気で思案中である。(笑)

次も個性的で色合いがとても魅力的な逸品のご紹介。
左の写真は椅子を上から見たところなんだけど、背面や下部にまるでロンドン鋲の長いタイプのような鉄がプスプスささってるんだよね。
まさにパンクのウニ頭状態!(笑)
色もピンクでカワイイ!
これはイタリアのAdrenalinaというメーカーの商品とのこと。
メーカーのHPによれば、この椅子の名前はBOMBになっているので、パンクじゃなくて機雷をイメージしていたみたいね。
上のレンチの椅子とセットで部屋に置いたら、とても素敵だろうね。
この椅子も欲しいな!(笑)

カラーで目を引いたのがこちら。
ペルーのデザイナー、Luis Miguel Hadzichの作品である。
カラフルなチューブを使って、どうやら自分で組み立てる椅子らしい。
説明によれば、子供の創造力を発展させるために作ったとのこと。
言ってみればLEGOの家具版みたいなものか?
確かにシチュエーションによって、椅子のポジションが変わったら良いなと思うことあるからね。
好きな時にバラして組み立てなおしができるというのは面白いアイデアだと思う。
そしてチューブだから安価だし、一本壊れてもまた買い足せる気楽さもグッドね!

続いてはガラリと雰囲気を変えて怖い椅子シリーズにしてみようか。
Anthony Redmileの悪魔椅子!
1960年代の作品とのことだけど、なんだかもっと古い時代のモノに見えてしまう。
この椅子をパッと見て、何かの儀式で使うようなイメージを持つのはSNAKEPIPEだけではあるまい。
左の写真は小さくて判り辛いけれど、アーム部分に骨、角部分には実際に角を使用。
目とアーム骨部分にマラカイトが埋まっているのである。
モンスターハンターのマカライト鉱石とは違うのでご注意!(笑)
4本の足の部分もシカの足状態になっていて、呪術的雰囲気満載なんだよね。
この椅子が似合う人のは、アラン・パーカー監督の「エンゼル・ハート」に出演していたロバート・デ・ニーロくらいか?(笑)
この椅子も「価格についてはお問い合わせを」となっていて詳細は不明。
SNAKEPIPEが購入することはないので、興味がある方はどうぞ!(笑)

最後に怖いシリーズ第2弾、恐怖・炭黒蛸の触腕椅子!(SNAKEPIPEが勝手に命名)
スペインのデザイナー・Maximo Rieraのオクトパス・チェアである。
素材が何なのかは調べられなかったけれど、この椅子はどうやら彫刻みたい。
30人以上の手による作品のようだから、かなり大掛かりなんだね。
「動物シリーズ」として展開されていて、他にサイとかセイウチなども同様の手法で制作されている。
このタコ椅子も、実際に座るためのモノというよりはアート作品だね。
前回の椅子特集に登場したH.R.Gigerに通じる不気味さが素晴らしいよね!

世界のデザイナーとかメーカーのデザインには、面白いモノがたくさんあるんだよね。
見ているだけでワクワクしてしまうし、今回一番最初に書いたレンチの椅子は真剣に購入を考えてしまうほど惚れ込んでしまったし。(笑)
ブログをビザール・チェアとして続けたけれど、これからも世界のビザールな逸品を見つけていきたいと思う。
その時はまた特集してみようかな!

CULT映画ア・ラ・カルト!【10】少女椿

【ワンダー正光とみどりちゃん。お願い!みどりちゃん、幸せになって!】

SNAKEPIPE WROTE:

選択を間違えて手放してしまった本やレコードを思い返し、何度後悔したことだろう。
懐具合の問題で、欲しくても買えなかったこともあるしね。
若かりし頃の、最も多感だったSNAKEPIPEを熱狂させた数々の本や映画は、たまに復刻版で入手可能なこともある。
残念ながら、全く復刻されていないことも多いけどね。
運良く入手することができた映画をもう一度観たり、大好きだった音楽を改めて鑑賞したりする今日この頃。
「懐古趣味」「今更?」と言われようが、復刻でも再び手に入れることができた時の喜びったら!
青春時代にこんな傑作に出会えて幸せだったなあ、と感慨深い気持ちになる。
大人になってからはそれほど衝撃的なアートに出会っていないということなのか。
それともSNAKEPIPEの感受性が弱まったせいなのかもしれないね?(笑)

今回のCULT映画ア・ラ・カルト!は学生時代のSNAKEPIPEが大ファンだった漫画家・丸尾末広原作の「少女椿」のアニメ映画版について書いてみようと思う。
「少女椿」がアニメ映画になっていることを全く知らなかったSNAKEPIPE。
だって、そもそも「少女椿」を読んだのって…学生の時だから…ま、いっか!(笑)
それほど昔の、遠い遠い記憶のかなたのことなのである。
丸尾末広の絵のキレイさに圧倒され、ストーリーの奇抜さ、残酷さなど、その全てに強く惹かれたのである。
夢野久作や江戸川乱歩を読み、その毒に魅了されていたのも要因の一つだろう。
時代的には戸川純がいたバンド「ゲルニカ」が流行り、昭和初期の雰囲気に新鮮さを感じていたせいもあっただろう。
雑誌「ビックリハウス」や毎週のように通っていた「文化屋雑貨店」なども、レトロな感じだったしね。
80年代初頭は、もしかしたら昭和初期への憧れのような文化だったのかもしれないね?
などと、同じく80年代の申し子であるROCKHURRAHと懐かしい話で盛り上がってしまった。(笑)
ROCKHURRAHはその時代に現役古本屋だったため、80年代サブカル系(本当はサブカルって言い方嫌いなんだけど)漫画も当然ながら大得意なんだよね。
今回「少女椿」アニメ映画版を見つけてくれたのも、いつものようにROCKHURRAHだしね!(笑)

SNAKEPIPEの持つ丸尾末広に関するエピソードといえば、やっぱり「東京グランギニョル」かな。
「マーキュロ」のチラシを丸尾末広が描いていて、それをずっと自宅の部屋に飾っていたっけ。
Wikipediaで調べてみると、「東京グランギニョル」が上演したのは4作品らしい。
「らしい」というのは、恐らく全てを鑑賞しているSNAKEPIPEだけれど、各々については朧げにしか覚えていないからね。
どの作品だったか覚えていないけれど、丸尾末広が出演したことがあったな。
「マルキ・ド・丸尾です!」
と言いながら、シルクハットに素敵なステッキを手にした丸尾末広が登場。(ぷっ)
その時に初めてお顔を拝見したSNAKEPIPEだったなあ。
「この人があの漫画を描いてるんだ!」
と感激したのを覚えている。
「東京グランギニョル」の芝居も、丸尾末広の漫画さながらの雰囲気だった。
詰襟学生服に白塗りの役者、立花ハジメ「太陽さん」などを使用した耳をつんざくような大音響、そして暗転。
暗転の後に何が起こるんだろう?という期待と不安。
ひゃー!書いてるうちのあの時の気分になってしまったSNAKEPIPE。
これ、もしかしたら若返り効果アリかも?(笑)

などと80年代の思い出について書いていたらすっかり長くなってしまったね。
では本題の「少女椿」アニメ映画版について。
この作品は1992年に公開されたみたいなんだけど、当時は劇場ではなく神社の境内で上映されたらしい。
今から20年も前に制作され、限定上映されていたとは全く知らなかったなあ。
そして映像は日本国内でほとんど流通されなかったようで、現在鑑賞することができるのはフランス版でタイトルは「MIDORI」。
日本では様々な理由から上映が禁止されているみたい。
このブログでは映倫の基準や差別用語の問題などについて語るつもりはない。
ただ「表現の自由」という点から考えると、上映禁止の処分は悲しいなと思うのである。
この作品に限らず、他にも上映禁止処分を受けた名作がたくさんあって、恐らくSNAKEPIPEと同じように鑑賞する機会を待ってる人が大勢いるだろうと思うからである。

アニメ映画版「少女椿」は、SNAKEPIPEの薄くなった記憶と照らし合わせながらの鑑賞となったけれど、漫画にかなり忠実に映像化されていたと思う。
映像化、とは言っても動いている部分のほうが少ない、紙芝居風の仕上がりになっているのも効果的で丸尾末広の雰囲気を損ねていない。
簡単にあらすじを書いてみようかな。

扉絵:みどりちゃん 見世物小屋へゆく
寝たきりの母親の代わりに花を売って生計を立てている少女みどりちゃん。
なかなか売れない花を全部買ってくれた親切なおじさんに出会う。
お金が手に入り、喜びながら帰宅するみどりちゃんが目にしたのは無残にも骸となってしまった母親だった。
天涯孤独の身となってしまったみどりちゃんは、
「いつでも頼っておいで」
と言ってくれた花を買ってくれたおじさんの元に行くしかなかった。
ところが親切なおじさんの正体は見世物小屋の親方だったのだ。
みどりちゃんは見世物小屋で下働きをすることになる。

第一歌:忍耐と服従
特別な芸があるわけではなく、特異な体で生まれたわけではないみどりちゃんは、芸人達の召使的存在になる。
皆からいじめられ、こき使われる毎日。
それでも他に行くところないみどりちゃんは、耐え忍ぶしかなかった。

第二歌:侏儒が夜来る
そんな時、新しい芸人が入ることになった。
ワンダー正光という名で、小さな瓶に全身すっぽり入ることができる芸を披露する。
この芸が受け、傾きかけていた小屋の経営も順調になる。
ワンダー正光はみどりちゃんを非常にかわいがり、二人はいつしか恋仲になっていく。
観客の発したある一言がワンダー正光を激怒させ、観客に向かい暴言を放ち、幻術で観客に復讐する。
この騒動がきっかけで親方は金を持ち逃げ、小屋は運営できなくなってしまう。
芸人たちはそれぞれの道を行くことになる。

終幕歌:桜の花の満開の下
「一緒に来てくれるね」
というワンダー正光の言葉に、コクンとうなずくみどりちゃん。
これは夢じゃない、これからやっと幸せになれるんだ!と頬をピンク色に染めるみどりちゃんの運命は…?

と、あらすじを書いてみたけれど、これだけ読むと「なんで上映禁止なの?」って感じだよね。
SNAKEPIPEが言葉を選んで書いたせいもあるけれど、読むのと観るのでは大違いかも。
現代におけるタブーの要素は全編に繰り広げられてるからね。
ただ、これは「現代におけるタブー」であって、時代が違うと何の問題もないとも言えるんだよね。
江戸川乱歩の作品や、寺山修司の演劇や映画などに触れたことがある人にとっては、倫理を問う行為自体がナンセンスだと思うし、疑問を感じるはずだけど?

大好きだった作品をもう一度目にすることができて、本当に嬉しかった。
背中がゾクゾクするいかがわしい魅力。
怖いもの見たさとでも言うのだろうか。
この快感を再び味わうことができるなんて夢のよう!(大げさかな)
丸尾末広はまた活動を始め、江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」や「芋虫」をコミック化している。
「パノラマ島奇譚」しか読んでいないので、「芋虫」も入手して読まないとね!(笑)

誰がCOVERやねん2

【テレヴィジョンの名曲をカヴァー。映像がなかったので自分で作ってみました】

ROCKHURRAH WROTE:

6週連続でSNAKEPIPEにブログを書いてもらっても、その間に何も出て来ないほどネタ不足になってしまったROCKHURRAH。
暑くて頭も回らないけど、苦し紛れに考えたのが過去の記事の続編にしてみようか、という試み。

それで思いついたのが実に久々、というかもう3年も前の記事になる「誰がCOVERやねん」。この記事の第二弾にしてみよう。

これはロックの世界で誰もが試みるカヴァー・ヴァージョンについて語ってゆくという記事だったんだけど、今回も70〜80年代パンク、ニュー・ウェイブ界の偏屈なヤツ中心で書くから「元歌もわかりません」状態がいくつかあるのは仕方ないね。
誰でも知ってる曲を有名バンドがカヴァーしても王道すぎて面白くないし、それについてROCKHURRAHが書けないからね。

そこで今回は誰でも知ってる曲以外は元歌も一緒に載せておくという親切方針にしてみたから、検索するの面倒くさいって人でも安心。目の付けどころがヒューマン・セントリックでインスパイアー・ザ・ネクストを目指してるからね。 さて、さっさと始めてすぐに終わらせるか。

※註:<元歌はこちら>と書かれたリンク文字は全て映像と音が出ます。

Mutilators / Thriller

元歌は誰でも知ってるマイケル・ジャクソンの世界的大ヒット曲。長いプロモーション・ビデオも有名すぎるな。
ここまでは王道だが、果敢にもこのような有名曲に挑戦したのがアメリカのサイコビリー・バンド、ミューティレーターズだ。

ブログで何度もサイコビリーの事を書いてるROCKHURRAHだが、アメリカ物と最近ビリーについては全然詳しくないので、このバンドも名前程度しか知らない。

画像や映像を見る限りでは白地に鮮血といったシチュエーションのルックスが好みのよう。
一見センセーショナルだが、あーた、こんなのはMad Masatoがいた日本のグレイトなサイコビリー・バンド、マッド・モンゴルズが既に20年くらい前にやってたスタイルだよ。
しかも包帯から片目だけ出してウッド・ベース弾いてたMad Masatoの方がずっと病的で迫力あったし。

何度も書いたようにサイコビリーはカヴァー・ヴァージョンが大好きという傾向にある音楽で、どんな曲でもカヴァーしてしまう節操のなさと貪欲さは他のジャンルのバンドも見習うべきだと思う。
そういうサイコビリー・バンドにかかればマイケル・ジャクソンなどは片手で充分、アレンジしやすいレベルなのかもね。
サイコビリーの原則に忠実なカヴァーだしコーラスなどもうまいんだけど、何だかメジャーな香りがプンプンするね。というかもっと破綻してドロドロなのを期待してたROCKHURRAHには全然物足りないなあ。この辺がヨーロッパとアメリカのロック・ビジネスの違いなのかもね。
うーん、毎回だけど好きじゃないなら書くなよ!とファンから怒られてしまいそう。

Pop Will Eat Itself – Love Missile F1 – 11

原曲は元ジェネレーションXのトニー・ジェイムスによる勘違い未来派ロックンロール・バンドだったジグ・ジグ・スパトニックの名曲。
<元歌はこちら>

70年代パンクの人気バンドだったジェネレーションXは3rdアルバムでディスコっぽく大変身してしまい、ファンをがっかりさせてしまったが、後のビリー・アイドルやトニー・ジェイムスを見る限り、その方向性は間違ってはいなかったと思える。
特にこのジグ・ジグ・スパトニックのド派手なファッションとサイバーパンクな世界観は「キワモノ」と言われながらも後の世代に多くの影響を与えているしROCKHURRAHも大好きだ。

我々が少年の頃「これこそが21世紀だ」と信じていたような世界を具体化したのが彼らだった。残念ながら現実の21世紀は一向に面白くも何ともない世界だけどね。

さて、それをカヴァーしたのはイギリスはバーミンガム出身のこのバンド、ポップ・ウィル・イート・イットセルフだ。
バンド名長いし言い辛いなあ(以下PWEI)。

彼らもいち早くデジタルへの依存度を高くしていたバンドで、簡単に言うなら80年代後半にテクノロジーが進化したおかげでようやくビンボーな若者でも何とか揃えられるようになったデジタル音響機材を駆使して作ったデジタル・ロックの元祖的存在というわけだ。
センテンス長いなあ(笑)。

この後の時代には手動で全楽器やってるようなバンドでもコンピューターやデジタル機材は必須の存在となるのは皆さんも御存知の通り。
こういうのはテクノやエレポップという特定の音楽の専売特許というわけではなくなったのが80年代後半なのだ。
などと書いたがこの曲に限って言えばカヴァーしたPWEIよりもオリジナルのジグ・ジグ・ヴァージョンの方が数段も未来的だ。
やはりTVにもバンバン出て稼いだ大物バンドの財力(機材を揃える力)にはビンボー若者は勝てないの図、なのか?

このPWEIは他にも好みのカヴァーをやっていて派手じゃないから最初に紹介しなかったのが以下の曲。

これはマイティ・レモン・ドロップスというバンドがやっていた80年代ネオ・サイケの曲「Like An Angel」のカヴァーだ。マイティ・ワー!とティアドロップ・エクスプローズからバンド名の一部を拝借して曲の方はエコー&ザ・バニーメンそっくりという、リヴァプール御三家大好きな奴らがやってたのがこのバンド。というかこの原曲からしてエコー&ザ・バニーメンの「Crocodiles」のパクリなんじゃないか?と思えるほど酷似しているのが苦笑もの。
<元歌はこちら>
PWEIはさらにこの曲にティアドロップ・エクスプローズの「When I Dream」の一節を無理やりくっつけて、リヴァプール・マニアなら思わずニヤリとする出来に仕上げたのが流石。
2011年の現在にこんな話題言っても誰もわかってはくれないだろうな。

Spizzenergi – Virginia Plain

原曲はロキシー・ミュージック初期の名曲。ポップな曲なのにシンセサイザーやサックスの不協和音が心地よくも変態的でブライアン・フェリーの歌い方も粘着質、70年代前半にはチト先鋭的すぎたとも言える。
<元歌はこちら>

これを比較的忠実にカヴァーしてるのは70年代後半のパンク・バンド、スピッツ・エナジーだ。このバンドは大昔にも書いたけどバンド名をコロコロと変える事で有名だった。スピッツオイル、スピッツエナジー、アスレティコ・スピッツ80、スピッツ・オービットなどなど。要するに中心人物がスピッツという人で、メンバー・チェンジが激しかったからこういう風になったのだろうか?
ちなみに上のPWEIのところで書いたリヴァプールのワー!も同様に改名が大好きなバンドで、ワー!ヒート、ワー!、シャンベコ・セイ・ワー!、J.F.ワー!、マイティ・ワー!などという変遷をたどっていた。
どちらもハッキリ言ってどうでもいいと思えるが、やってる本人は大マジメなんだろうな。易や姓名判断とかハマってるのかな?
ロキシー・ミュージックの数あるヒット曲の中でも敢えて難しいと思えるこの曲を選ぶ偏屈さ、こういうものをROCKHURRAHは尊く思えるよ。

La Muerte / Lucifer Sam

原曲はピンク・フロイド初期の曲でシド・バレットの魅力全開なサイケデリック・ナンバー。
バンド名は知っててもこの初期は知らない人も多かろうから、一応原曲のリンクも貼っておくか。
<元歌はこちら>

で、これをカヴァーしてるのはベルギーはブリュッセルのバンド、ラ・ムエルテ(ムエルトとも言うらしい)だ。
80年代に何だかわからんが非常に所持率(初期のはほぼ全て持っていた)が高かったバンドなんだが、実のところ詳細は知らないのだ。
この時期にベルギーのサウンドワークスというレーベルに凝ってて、オーストラリアのサイエンティスツとか聴き狂っていた。

何だかわからないがこのレーベルのレコードが好きで出るたびに買いまくってた覚えがある。
中でもこのバンドは鬱屈した暴力的なエネルギーに満ち溢れた感じが好きだったものよ(稚拙な表現だな)。

ベルギーと言えばニュー・ウェイブ初期にはファクトリー・ベネルクスなどからも色々リリースされていた、とおぼろげに記憶するヨーロッパのニュー・ウェイブ先進国。
どちらかと言えば繊細なもやしっ子(死語)鍵っ子(死語)系バンドが多い印象だけど、こういう豪快なのもいるんだね。

同時代には決して見る事が出来なかったラ・ムエルテの映像だが、ずっと後になってYouTubeで見たのはカウボーイ・ハットにサングラス、そして覆面をつけた意外とカッコ良いルックスだった。
こんな見た目であのワイルドな歌声とはお見事。 現代の全然選ばれてない男たちが歌う凡庸なロックとは大違いだな。

Peter Murphy / Final Solution

最後を飾るのはやはり80年代どっぷりのよかにせ(鹿児島弁でいい男という意味)代表格、元バウハウスのピーター・マーフィーだ。

原曲は知る人ぞ知るアメリカ、クリーブランドの大御所、ペル・ユビュの最も初期の曲。このブログにも何度も登場してるが少年時代のROCKHURRAHがパンク以降に衝撃を受けた最初のバンドなのだ。
何がそこまでROCKHURRAHを惹きつけるのかはウチのオンライン・ショップでもコメント書いてるのでそちらを参照して欲しい。

簡単に言えば前衛的な曲調に工業的ノイズを散りばめて調子っぱずれに歌うデブなヴォーカリストのいるバンドで、ずっと後の世代のアメリカでオルタナ系(この当時はオルタネイティブという言葉で表現していた)などと言われたバンドたちの元祖的存在がペル・ユビュだったわけ。
<元歌はこちら>

バウハウスは80年代ニュー・ウェイブの中でも人気、実力、ルックスと三拍子揃ったバンドでダーク・サイケなどと当時は騒がれていた音楽の最重要バンドだった。
特にヴォーカルのピーター・マーフィーの声や存在感は圧倒的で、彼に人生を捧げた婦女子たちも数多くいた事だろう。今は全員おばちゃんになっているだろうが。
デヴィッド・ボウイやイーノ、Tレックスなどをカヴァーして、その並々ならぬセンスに誰もが脱帽したもんだが、解散後のソロでもやってくれるじゃありませんか。

同じ系列の声を持つ先輩バンド、マガジンの曲やこのペル・ユビュのカヴァーも素晴らしく、ピーター・マーフィー本人のオリジナル曲は全く印象にないほど・・・。これでいいのか?

バウハウス時代と比べると髪型もさっぱり健康的、何だか不明だが宙吊りになったビデオもすごい。石井輝男監督の「徳川女刑罰史」みたいだね。

大した事書いてないのに案外長くなってしまったから今回はこの辺でやめておくか。まだまだ隠し玉はあるんだけどな、続きは第三弾で紹介・・・するかな?。 では三年後の夏にまた会いましょう(ウソ)。