俺たちメジャー衆

【相変わらず取って付けたようなビデオで飽きるね】

ROCKHURRAH WROTE:

タイガー・ウッズが実に久々の復活優勝で沸いた今年のマスターズ・トーナメント。
月曜の朝にニュース速報とかでも話題になったからゴルフ・ファン以外の人でも目にしたとは思うけど、日本では深夜から朝の時間にかかってしまうためリアルタイムで観られない人も多かったことだろう。
ウチもそのパターンでゴルフ中継は録画しておいて夜にちょっとずつ観るくらいしか時間が取れない。だからタイガー・ウッズ優勝の瞬間を観たのはその週の後半になってからだった。

いきなりROCKHURRAHのブログとは思えないスポーツネタで意外に思う人も多いだろうが、実はROCKHURRAHもSNAKEPIPEもBSでやっているPGAツアーの試合はほぼ毎週、欠かさず観ているくらいのゴルフ好き(この記事にも書いてるな)なのだ。実際の観戦ツアーに出かけるというほどの熱烈さはないから、半端なものではあるけど。

タイガー・ウッズは去年のPGAツアー最終戦、ツアー・チャンピオンシップでも復活優勝をしているけど、メジャー大会での優勝は11年ぶりなのでより一層の話題になってるというわけ。
背中や膝を何度も手術して、さらに愛人問題のスキャンダル、逮捕などでどん底の不振にあえいでいたのが去年くらいから復調してきて、やっとまた頂点に返り咲いた。この不屈のど根性(たぶん死語)にファンならば歓喜するよね。

多くの人が期待した「劇的な逆転優勝」というのとはちょっと違っていて、去年の全英オープンで優勝したイタリアのフランチェスコ・モリナーリが二度の池ポチャで自滅して何とかトップ。
いつの間にか追いついてきたダスティン・ジョンソンやブルックス・ケプカといった近年のメジャー・チャンピオン達、メジャー大会での優勝はまだないが上位の常連であるザンダー・シャフリーなどの混戦となって、最後は一打スコアを落としてもギリギリ逃げ切って勝ったという「辛勝」だったね。
タイガーはマスターズだけでも5度目の優勝というから、あとマスターズを勝ちさえすればキャリア・グランドスラム(4大メジャー大会全制覇)達成になるローリー・マキロイに分けてあげたいくらいだよ。

さて、このタイガー・ウッズのマスターズ優勝記念としてROCKHURRAHが陳腐な頭脳で考えたのがゴルフ用語にまつわる「俺たち〇〇シリーズ」だ。
知っての通り、70年代のパンクや80年代ニュー・ウェイブばかりに焦点を当てて記事にしている、現代とは思えない内容のROCKHURRAHブログ。パンクやニュー・ウェイブとゴルフは滅多な事では結びつかないと予測して実際にそうだった。だから苦肉の策で「ゴルフでも使われる用語をワンポイントで含んだ曲名」を選んで何とか記事にしてみよう。うーん、苦しい。

ゴルフの4大メジャー大会の中でも特に知名度が高いのがマスターズだが、ROCKHURRAHの世代で言えば往年の有名ゴルフ・ゲーム「遙かなるオーガスタ」で特におなじみの人も多かったはず。
大昔に中古ゲーム屋の店長をしていた頃にも入荷するとすぐに売れてしまうくらいに人気だったが、友達の家で徹夜でやっていた割にはあまりうまくならなかった記憶がある。
今では操作自体もあまり覚えてないけど、変なキャディーがつまらんアドバイスをしてくる、というどうでもいい記憶ばかりいつまでも覚えてるよ。

そのマスターズとはたぶん全然違う意味なんだろうが、とにかくマスターという言葉が入ったので選んでみたのがこの曲「Your Master Is Calling」。ピンク・ターンズ・ブルーはビデオを見る限りそんな風には見えないが1985年に結成されたドイツのバンドだ。
1979年くらいから1984年くらいまでのノイエ・ドイッチェ・ヴェレは好きで良く聴いてたROCKHURRAHだけど、バンド名が英語というだけでこのジャンル好きとしてはテンションが下がってしまう。ジャケットは有名でレコード屋でも良く見かけていたけど素通りしていたな。
改めて聴いてみたが80年代前半のネオ・サイケにも通じる哀愁のある曲調。ただしもう時代は80年代後半、しかもドイツだと考えるとちょっと微妙な立ち位置にいたのは間違いないバンドだな。
ヴォーカルの顔のペイントも寝てる間に落書きされたに違いなく、それだけ油断してる選手(ん?違うのか)には優勝のチャンスはないだろう。

ゴルフ場でグリーンと言えばホールが設けられていて、パットをするための区画なのは誰でも知ってる通りだが、この芝にもベント、高麗、バミューダにポアナなどなど、様々な種類があって素人にはわかりにくい部分。
癖があったり転がりにくかったり、逆に滑りが良すぎたり、その芝目を読んで適切なパットを出来るのが一流のプロというものだ。
パットがイマイチだけど世界一になったようなゴルファーは滅多にいないと思えるから、グリーン上がゴルフの中でも最重要な場所なのは間違いないだろう。ちょっと前はジョーダン・スピースがパットの名手と呼ばれていたけど最近は低迷してるので、今は抜きん出てうまい選手は見当たらないな。

グリーンと曲名についた歌は多数あったけど、どれもこれもゴルフのグリーンとはたぶん全く関係ないだろうと思われる。今回はパットだけにパッと思いついたこの曲で。

ロンドン・ パンクの時代にスタートしてネオ・モッズの頂点に君臨したメジャー・チャンピオンがジャムだが、その5枚目のアルバム「Sound Affects」に収録されていた名曲が「Pretty Green」だ。
この曲はいつものジャムの構成と同じなのになぜか聴いた印象がいつもと違う、その違和感とギリギリのバランスが面白い。5枚目ともなると円熟の境地になるくらいのキャリアなのにね。
同時期の大ヒット曲「Going Underground」が当時のジャムに期待されている要素が全て詰まった代表作なのと「Pretty Green」は対照的だと個人的には感じたけど、そんなでもない?

1パット目が入らなかったという事で2パット目がこれ。
グリーンと聞くといつも真っ先に思いつくくらいにROCKHURRAHに多大な影響を与えたのがマーチ・ヴァイオレッツのデビュー曲「Grooving In Green 」だ。相変わらずゴルフのグリーン要素は皆無だと思うけどね。

1980年代前半にイギリスで起こったのがポジティブ・パンクというムーブメントだ。
それよりちょっと前にバウハウスやジョイ・ディヴィジョン、スージー&ザ・バンシーズなどによって暗くゴシックな雰囲気を持つバンドがパンクに代わるものとして台頭してきたんだが、その発展型として毒々しい化粧やホラー映画の要素を取り込んだのがポジティブ・パンクの始まり。
ポジティブとは名ばかりの退廃的なバンドが蔓延って、バットケイヴというナイトクラブを中心に数年間栄えたものだ。
しかし見た目ばかりにこだわって音楽性に乏しいバンドも続々登場したり、同じ系統ばかりで飽きられたり、もうそんな時代じゃないんじゃないの?という風潮もあって80年代半ばには大体消滅してしまった。
そういうバットケイヴ的なこけおどしを抜きにしてゴシックやダーク・サイケを独自に突き詰めたバンドが地方都市から生まれていったのもこの時代だ。イギリス北部のリーズからシスターズ・オブ・マーシーやこのマーチ・ヴァイオレッツが登場して、化粧しなくても立派にゴシック道(?)を突き進める事を証明した。
この2つのバンドが同じマーシフル・リリースというレーベルから登場したけど、重苦しくひたすらに暗黒なシスターズ・オブ・マーシーに対してマーチ・ヴァイオレッツの方は男女混声の掛け合いやドラマティックな曲調で新境地を切り開いた。
上のビデオは2016年とかその頃のものだと思うんだがやってるのは1982年のこの曲、30年以上も経って尚も当時のままで観客を沸かせているのがすごい。最終的にゴスの帝王と呼ばれたのはシスターズ・オブ・マーシーだが、マーチ・ヴァイオレッツのちょっといかがわしいB級のイメージがやっぱり大好きで、ROCKHURRAHも今でもこんな昔の曲でノリノリになってるよ。

バンカーも誰でも知ってるゴルフ用語で主に砂の窪地の事だね。
PGAのコースには誰かがつけた通称のようなものが数多く存在していて、マスターズの開催されるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブでは11から13番ホールの「アーメンコーナー(最後は神に祈るしかない難所)」などが有名だが、バンカーにもちょっとした名前がつけられている事も多い。
オークモント・カントリー・クラブにある「教会の椅子」などは見た目そのまんまの大きなバンカーで捕まると苦戦すると言われている。が、トップレベルにいる選手たちは大抵は何事もなかったかのようにバンカーを脱出するワザを持っていてバンカー=大ピンチというほどでもないシーンもよく見かけるね。

ゴルフ用語のバンカー以外ではさらに一般的ではない意味でしか(たぶん)使われない言葉だけど、意外な事にバンカーがタイトルについた曲は予想よりも多かったのでビックリ。どれにしようか悩んだがちょっと珍しそうだったので今日はこれにしてみよう。
Poésie Noireというベルギーのバンドなんだけどポエジー・ノワール(またはノワレ)でいいのかな?
ROCKHURRAHがやってる「80年代世界一周」という英米以外のニュー・ウェイブを探してくるシリーズ企画記事でまだベルギーは特集してないけど、もしかしたらまたそこで登場するかもね。
1985年くらいから活動していてシスターズ・オブ・マーシーやデッド・カン・ダンスのツアー・サポートをしたような経歴らしいからその音楽もたぶんそういう傾向にあるんだろう。
そのものズバリ「Bunker Song」と題されたビデオの曲は1989年くらいのもの。
しかしヴォーカルの見た目はキュアーのロバート・スミスを彷彿とさせるようなメイク、それなのにヴォーカルは予想外のドスの利いた低音でかなり意外なスタイル。曲は往年のエレポップの王道を意識したようなもので、全体的なアンバランスが逆に新鮮だよ。さすがニュー・ウェイブ大国ベルギー物は一味違うね。

 「ゴルフなんて全く知らないよ」って人以外なら大抵は知ってると思うけど、規定打数より一つ少なくそのホールを上がれたらバーディ。パー4を3打で終わらせればいいってわけだ。ものすごくコンディションが悪くてごくたまに全部パー以上のプラス何打とかでも優勝出来る場合があるが、通常はバーディやイーグルをいかに多く取るかで優勝が決まると言っていい。

ゴルフ用語ではそういう意味を持つバーディだが、辞書を見ると一般的には「小鳥さん」となってるよ。ただの小鳥じゃなくてなぜか小鳥さんという敬称付きなのがよくわからん。
この言葉ですぐに思い浮かんだのがペル・ユビュの「Birdies」だ。

ロンドンパンクと同じ頃の1977年に1stアルバムを出したオハイオ州クリーブランドのバンドがペル・ユビュでROCKHURRAHのブログでもたびたび登場している。
デブでかなり変なヴォーカリスト、デヴィッド・トーマスを中心にしたバンドだが、アヴァンギャルドでフリーキーな演奏と絶妙のタイミングで入るノイズが混沌として入り混じった、非常にユニークなスタイルを持っていた。
最初の頃はまだロック的な格好良さもあったけど、マーキュリーやフォノグラムのメジャー・レーベルからよくぞ出せたもんだ。80年代くらいからアヴァンギャルドなセンスに磨きをかけた割と難解な作風になってゆくけど、この頃からようやく日本盤も出て、逆に知名度も上がっていったという妙な経歴のバンドだ。
「Birdies」はその日本盤が出た4thアルバムに収録の曲。

日本でも2枚組のサントラLPが出た「アーグ・ミュージック・ウォー」という音楽ドキュメンタリー映画があって、その当時に注目だったバンドの珍しいライブ映像が観れると期待していたもんだ。ところが日本で映画が公開されたのかされなかったのか不明だが、ROCKHURRAHは結局ずっと観る事はなかった。
上のライブ・ビデオはその映画のものだと思うが、デヴィッド・トーマスの明らかに異常だと思える目つきや奇妙なパフォーマンスのインパクトはさすがだね。巨体なのに意外と身軽で小鳥さんジャンプなどが観れる貴重な映像だな。

PGAツアーの試合を行っているのは大抵が世界の一流ゴルフ・コースで、ホテルやリゾート施設に併設されたカントリー・クラブなんだろうな。たまにすごく僻地っぽかったり砂漠の中だったりするけど、都会の近くよりは別世界みたいな感じがしていいな。

世界の一流品やラグジュアリーなものには全く関心がないROCKHURRAHだけど、ゴルフの場合はどうしても金持ちとか高級とかの印象を持ってしまうよ。試合中にギャラリー、マスターズの場合はパトロンと呼ぶらしいけど観客の服装とかを見ると特にそんな感じはしなくて普通だから、「周りは金持ちばかり」などと緊張する事はないんだろうけど。ROCKHURRAHと同じようにヒゲ、長髪、帽子、サングラスというギャラリーも多数見かけるから違和感はないかもね。

そんな数多くのドラマが生まれるカントリー・クラブをタイトルにしたのがアソシエイツの大ヒット曲「Club Country」だ。アソシエイツも何度もウチのブログでは取り上げてるけど、オペラ風の高音ヴォーカリスト、ビリー・マッケンジーの歌声と複雑怪奇に旋律が絡み合う曲作りが特徴のバンド。
日本ではヒットしそうにない要素たっぷりだけどイギリスではなぜか評価が高かったんだよね。
1982年に出た彼らの3rdアルバム「Sulk」は最もヒットした2曲が収録された代表作だけど、その頃が栄光のピークだったと言える。
その後は主要コンビ2人の喧嘩別れでどちらもパッとしない音楽活動を続けていたが、ビリー・マッケンジーが自殺(ずいぶん後になってからだけど)という最悪の結末となってしまう。

ビデオはそういう悲劇の片鱗もなかった人気絶頂の頃のもので、お色気ヴァイオリニストなども配置したゴージャスなステージとなっている。転落したけど見事に復活したタイガー・ウッズのように強い精神を持って続けて欲しかったよ。

というわけで書き始める前から書いてる本人が企画倒れになるのを確信していたけど、見事にタイガー・ウッズ優勝記念とはかけ離れた内容になってしまったね。ただしマスターズと絡めて書ける機会が今日しかなかったから、無理して書いてみたよ。
連休になったらもう少し時間をかけて何か書きたいね。

ではまたジュー ガン マイ(タイ語で「また会いましょう」)。 

80年代世界一周 南斯拉夫編

20190317【予想外に80年代ニュー・ウェイブの宝庫】

ROCKHURRAH WROTE:

毎回いつも書いてることだが、ROCKHURRAHが書くシリーズ記事はどれも、1970年代から80年代あたりのパンクやニュー・ウェイブと呼ばれた音楽ばかりをピックアップして特集にしている。
この「80年代世界一周」というのは日本に最も入って来やすいイギリスやアメリカ以外のニュー・ウェイブに焦点を当てた企画で、あまり馴染みのないバンドについてROCKHURRAHがいいかげんなコメントつけるだけという内容だ。
今どきこの手の80年代を大真面目に学ぼうとしてる人は少ないとは思うが、そういう人たちにとっては実に当てにならない読み物だという事だけは確かだよ。

さて、スペイン、イタリア、スイスと今まで書いてきたけど、今回は今はなき国に焦点を当ててみよう。
タイトルにもある通り南斯拉夫、これは一体どこの国?
かつてはひとまとめにユーゴスラビアと言ってたけど、1990年代に激しい内戦の末、今はいくつかの少国家に分裂してしまったという。これは歴史や世界情勢に疎いROCKHURRAHなんかより皆さんの方がよほど知ってると思われるが、ウチのテーマはそういうところにはないのも明らか。

ユーゴスラビアのニュー・ウェイブと言うと真っ先に思い浮かぶのがライバッハの存在だ。
ROCKHURRAHも好きなジャンルではあるんだけど、実は今日はライバッハ抜きにして語ってみたいと思う。
「何だかよくわからんがナチスっぽい、軍国主義っぽい」とか「今でも見え隠れする第二次大戦の爪痕」とか、ユーゴスラビアの音楽に対する勝手な偏見をROCKHURRAHが持ったのはこのバンドに原因があるからだ。 
たぶんそんな国じゃないはず。 

「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの連邦国家」とあるようにとても複雑な他民族国家だったらしいが、これだけのものが割と近場に混じり合ってると、かなり色んなものがミクスチャーされた文化になるのは当たり前だと想像出来るよ。

ではさっそくその独自の音楽文化に触れてみよう。

まずはユーゴスラビアのパンクと言うと必ず名前の挙がるPankrtiというバンドから。パンクルティとカタカナで書いてるサイトがあったからその読み方でいいのかな?

彼らは1977年にスロベニアで結成されたバンドだとの事。
旧ユーゴスラビアで一括りにされてた頃はそんな事なかっただろうが、独立して観光名所となったクロアチアなどと比べるとイマイチの知名度だと思える。街の屋根はみんな赤煉瓦色という印象だね。
こんな国にもパンク・バンドがいたとは。

パンクルティはその頃のユーゴスラビア版ニュー・ウェイブ(パンクを含む)、Novi Valというムーブメント(?)の中心的存在だったという話だが、驚くのはイギリスのパンクとのタイムラグがほとんどなく、社会主義のユーゴスラビアにもそういう波があったという事実だ。
うーん、パンクやニュー・ウェイブを若年より聴いてきたROCKHURRAHだけど、ノヴィ・ヴァルなどという動きがあった事など全く知らなかったよ。
ネットが普及した後の時代はそういう情報もすぐにキャッチ出来るんだろうけど、我等の時代にはそんな情報は日本には入ってなかったろうからね。ユーゴ帰りの友達もいなかったし。
社会主義という事に対する偏見、内戦やその後の分断された状況を断片的に見て勝手に勘違いしてたわけだけど、実は英米の影響がとってもすんなり入ってきて、さらに独自の味付けをこの当時から加えたバンドが数多くひしめいていたんだね。そういうユーゴスラビアの音楽事情にビックリするばかりだよ。
旧ユーゴは社会主義とは言っても昔のソ連や中国と比べると自由度が割と高かったらしいけど、よほど反体制じゃない限りは弾圧される事もなかったようだ。行って見てきたわけじゃないから詳しくはわからないけどね。

この曲「Totalna Revolucija(自動翻訳による邦題:総革命)」は80年に出た1stアルバムに収録。
演奏のチャチさはあるものの、イギリスのヘタなパンク・バンドよりは聴き応えのある曲が多数収録された名盤で、何だかよくわからんジャケットじゃなければどこでも通用してたに違いない。
曲はどこかで聴いたような既視感に溢れているが、今はどうしても思い出せない。何かのパクリだと思った人は教えて欲しいよ。ここまで出かかってるのに、何の曲だったかなあ?

これは聴けばすぐにわかる、セックス・ピストルズの「Anarchy in the U.K.」をカヴァー・・・と思いきや無理やりイタリアの革命歌と合体させてしまったという力技の一曲。
Bandiera Rossa」とは赤旗の事。
スキンヘッドのOi!とは対極にあるんだろうけど、結局は集団が拳を振り上げてみんなで合唱するような曲というのは、どちらの思想でも似通ったものになるんだろうな。「愛と幻想のファシズム」を思い出してしまったよ。

続いては上のパンクルティと同時期から活躍していたParafというバンド。パラフでいいのか?
ユーゴスラビアのパンクを集めたコンピレーション「Novi Punk Val 78-80」というアルバムでどちらのバンドも収録されてるが、こちらはクロアチアのバンドらしい。
アドリア海の真珠と評される美しくのどかな国、屋根がみんな赤茶色という印象ばかりだけど、こんな国にもパンクが根付いていたとは驚くばかり。

「Narodna Pjesma(自動翻訳による邦題:国民の歌)」は1980年に出た1stアルバム収録の曲だが、上記のノヴィ・ヴァルのオムニバスにも入ってる名曲。
見た目はニュー・ウェイブっぽいけどヴォーカルは結構なダミ声で曲調はスティッフ・リトル・フィンガーズやチェルシーあたりの王道パンクを思わせる。英米の70年代パンク・バンド達に混じっても遜色ない実力派バンドだと思うよ。1stアルバムの何が表現したいのかわからないジャケットじゃなければどこでも通用してたのに・・・。

「Rijeka」と題されたこの曲、クロアチアの都市名であり「川」という意味もあるらしい。
上のパンクルティがピストルズだったのに対してこちらはジョニー・サンダース&ハートブレイカーズやラモーンズでお馴染みのパンク史に残る名曲「Chinese Rock」をそのまんまクロアチア語か何かでカヴァー。
カヴァー(替え歌)対決としてはパンクルティの方が一枚上手だったね。
中国の革命歌と無理やり合体させたりしなくて良かったのか?

割とシリアスなバンドが続いたけどユーゴスラビアのニュー・ウェイブ(ノヴィ・ヴァル)はこちらが思ってるよりも遥かに奥深く、今頃知っても遅いかも知れないが、個人的にはかなり興味深いよ。
いいバンドに出会うために、時には面白くもないバンドさえも買い漁っていた青春時代に出会ってれば、きっとのめり込んだに違いない高レベルのバンドが色々いるもんだ。

このSarlo Akrobataは1979年結成のセルビアのバンドだとの事。サルロ・アクロバタでいいかな?
セルビアと聞いてもとっさには何も出てこないくらいヨーロッパの「あの辺」に疎いROCKHURRAHだけど、見どころはきっとたくさんあるに違いない(段々ぞんざいになってきた)。風景を検索してみたら「しつこい」と言われそうだけど屋根がみんな赤茶けた感じで、どれがどの国だか本気で区別がつかんよ。 

Sarlo Akrobataは上のビデオを観てもわかる通り、かなりコミカルでふざけたプロモーション映像が多いバンドで、三人のとぼけたキャラクターが絶妙。特にペドロ・アルモドバルか?というような髪型と体型のメンバーは顔だけで笑いを取れるし、悪ガキがそのまんま大人になったようなドラマー(真ん中の小柄な男)の動きや表情もお茶目。 

「Oko Moje Glave (自動翻訳による邦題:私の頭について)」は1981年の1stアルバムには未収録だが同年に出た「Paket Aranžman」というセルビアのニュー・ウェイブを集めたコンピレーションに収録。
シングルとアルバムを一枚ずつしか出してないバンドのはずなのになぜかプロモーション・ビデオがいくつか存在していて謎が深まる。
動きや歌はコミカルなのに演奏はタイトなベース・ラインとちょっとアヴァンギャルドなギター、スカやおそらく自国の伝統的な旋律なども取り入れていて、その構成力もお見事。 
英米のマネだけじゃなくてちゃんと独自路線を見出している、これぞ色んな国のニュー・ウェイブを知る醍醐味だと言える。

こちらのPekinska Patka(北京ダック)なるバンドも1978年結成のセルビア出身。
ビデオ見てわかる通り、「時計じかけのオレンジ」の影響を強く受けたバンドだと思える。
「時計じかけのオレンジ」と言えば70年代から活躍していたアディクツを真っ先に思い浮かべるが、日本にもハットトリッカーズという本格派のバンドがいたなあ。
大好きだったロビンが解散してもう8年にもなるが、最近はパンクやサイコビリー系のライブも全く行かなくなってしまった。ハットトリッカーズを単独で観た事はないけど、2011年以前にパンク系のイベントで知ったバンド。実に凝った衣装とメイクで一度観たら忘れないインパクトがあったものだ。

個人的な思い出話はどうでもいいとして、さて、このPekinska Patkaは素顔に付け鼻、ハットをかぶったというだけのお手軽コスプレでビデオの内容も 「時計じかけのオレンジ」の暴力シーンを元ネタにしたもの。
チープではあるけれどイギリスのバンドでも、まだそこまで凝ったプロモーション・ビデオがなかった時代だと考えれば、なかなか頑張ってるね(偉そう)。いつもこのコスチュームなわけではなく、このビデオだけこういうスタイルみたいだ。

「Stop Stop(自動翻訳による邦題:止まれ止まれ)」は1980年の1stアルバムに収録された曲で子供向けアニメ(あくまで70〜80年代の)のテーマ曲みたいな感じだが、テンポも速くてノリがいいね。ROCKHURRAHが言うところの「Funnyちゃんミュージック」という括りでもピッタリな内容。

これまたセルビアのバンドで1979年結成のElektricni Orgazamだ。
エレクトリチュニ・オルガザムと読むらしいがノヴィ・ヴァルの中で生まれたバンドとしては一番長続きしてる大御所だとの事。何と今でも活動してるらしいからね。
「Krokodili dolaze(自動翻訳による邦題:ワニが来る)」は81年の1stアルバム収録で最も初期の曲だけど、このアルバムに収録の曲だけでも何曲分もプロモーション・ビデオがあってそれもまた謎。
普通はシングル曲くらいしか作らないと思うのに、売れる気満々だったのかねえ?そういうお国柄なのか?
ヴォーカルの爛々とした目つきや動きがかなり不気味。アングラ演劇でもやってたんだろうか。
ライブのビデオもあったけどこの目つきで変な前かがみになったりシャープな動きで飛び跳ねたり、一人だけ異常なアグレッシブさだったよ。
しかも違うビデオを見るたびに長髪だったりクリクリのパーマだったり音楽性も変わったり、イメチェンし過ぎの印象があるよ。Wikipediaで見るとジャンルがパンク、ニュー・ウェイブ、ポスト・パンク、ネオサイケ、ガレージなど、まさにカメレオン・バンド。

後半は全てセルビアのバンドだけになってしまったがそれだけ音楽が盛んで層が厚いというわけなのかな?
このIdoli(イタリア語で「アイドル」を意味する)も同じで、そもそも上に書いたSarlo Akrobata(サルロ・アクロバタ)とElektricni Orgazam(エレクトリチュニ・オルガザム)、そしてIdoli(イドリ)の3バカ、じゃなかった3バンドはセルビアのニュー・ウェイブを集めたコンピレーションに仲良く収録されているのだ。
他のバンドがパンクっぽい見た目なのに対してこのイドリはヴォーカルがメガネ男という事もあって、割と軟弱な印象がある。軟弱もまたニュー・ウェイブの重大要素なのは間違いないので、こういう路線もあるよって事だね。
「Zašto su danas devojke ljute(自動翻訳による邦題:今日の女の子はなぜ怒っているのですか)」は81年に出た1stミニ・アルバムに収録。
ちなみにレコードを見た事ないような若年層でミニ・アルバムを小さいアルバムだと勘違いしてる人がいるんじゃないかと心配になったから言っておくが、曲数が少ない収録時間の短いアルバムの事だからね。え?誰でも知ってる?

ビデオはお揃いの服装のメガネ男がなぜだか手をつないでるというもので、きっとこれもまたニュー・ウェイブの重大要素についての歌なんだろうな。

ノヴィ・ヴァルのバンド達を追って紹介してきたが、これらが最も良かったのは80年代初頭くらいまでの時代。そこから徐々に政情は悪くなってゆき、国は分断されてバラバラになってしまった。
その手の話にはノー・コメントのROCKHURRAH RECORDSだが、この時代のユーゴスラビアのバンドが思ったよりも遥かに進んでた事に驚き、今さらながらこの国に興味を持ったよ。 

さて、次はどこの国に飛ぼうか。
ではまたナスヴィーデニエ(スロベニア語で「さようなら」)。  

ふたりのイエスタデイ chapter16 /The Monochrome set

20190224 yop
【SNAKEPIPEが聴き込んだ一枚】

SNAKEPIPE WROTE:

SNAKEPIPEは夢を覚えていることが多い。
先日見たのは、三島由紀夫が登場する夢だったっけ。
SNAKEPIPEは撮影のための小道具を準備する役割を担っていて、何故だか三島由紀夫に藁で編んだ褌を用意しているんだよね。
藁を編むのが難しくて、「これで良いですか」と渡してみるとダメ出しされてたよ。(笑)
その翌日に見た夢に出てきたのは、かつてSNAKEPIPEと一緒に遊んでくれたお姉さんだった。
このお姉さん、イニシャルでIさん、としておこうか。
IさんはSNAKEPIPEよりも年上で、音楽、映画や本など様々な知識が豊富なため、SNAKEPIPEが好きそうな企画を見つけると一緒に行こうと誘ってくれた女性だった。
もうずいぶんお会いしていないけれど、このIさんが現在のSNAKEPIPEに、かなり影響を与えた女性だったと思う。
そして数日前、突然Iさんが夢に登場したんだよね。
本がぎっしり並んだ本棚を2人で見ていて、「まだこの本は読んでない」などと話している他愛のない夢だった。

Iさんが夢に登場したことにより、突然思い出したのがIさんが教えてくれた音楽のこと。
「きっと好きだと思うよ」
と言ってレコードから録音したカセットテープをもらったのは、いつのことだったんだろう。
手渡されたのはThe Monochrome Set(モノクローム・セット)というバンドの音楽だった。
帰宅後聴いてみて、すぐに虜になったSNAKEPIPE。
さすがIさん、よくSNAKEPIPEの好みを知ってるなあと感心したものだ。
何度も何度も聴いていたテープだったけれど、カセットデッキは壊れてしまい、時代はCDになっていた。
モノクローム・セットのCDを買おうとショップに行ってみるけれど、なんと売ってない!
何軒もCDショップを回ってみるけれど、結果は同じ。
ショックを受け、Iさんにそのことを伝えると
「CD持ってる知り合いがいるから、借りてきてあげる」
と言ってくれるではないの!
どういう知り合いの人なのかは聞かなかったけれど、実際Iさんからお目当てのCDを手渡された時には、飛び上がらんばかりに喜んだね。(笑)
もちろん聴いてから丁寧にお礼を言ってお返ししたよ。

その時にお借りしたのが「Westminster Affair」(1988年)というコンピレーションアルバムだったんだね。
アルバムの1曲目を載せてみようか。 

当時はパソコンもなかったので、今のように簡単に動画が見られる環境ではないからね。 
今回このビデオも初めて観たよ。(笑)
ジャンルを特定するのが難しい、無国籍で不安定な感じのメロディラインは、このヴォーカルの特性だったのか?
音楽しか知らなかったSNAKEPIPEだったので、少しモノクローム・セットについて調べてみよう。

モノクローム・セットは1978年にロンドンで結成されたバンドで、初期メンバーには後に「アダム&ジ・アンツ」で知られるアダム・アントも在籍していたというので驚いてしまった。
その当時のバンド名は「The B-Sides」だったという。
時代的に考察して、恐らく最初はパンク・バンドだったんだろうね?
ヴォーカルはインド出身、ギターはカナダ出身というので、国際色豊かなバンドなんだね。
4枚目のアルバムを出した1985年、バンドは解散している。
1990年に再結成し、どうやら日本ツアーも行っていたみたいだよ。
この頃のSNAKEPIPEはレゲエとテクノばっかり聴いてたなあ。(笑)
時代によって興味の対象が変わっていたので、来日を知っても興味を示さなかったかもしれないよ。

1998年、再びバンド活動を休止する。
それから10年が経った2008年、イギリスのインディーズ・レコード・レーベルの中でもラフ・トレードと並んで最も有名な大手インディーズ(変な言い回しだけど)であるチェリーレッドの30周年記念パーティのために再結成。
その後はまた活動を続け、現在に至っているようだよ。

モノクローム・セットについて書こうと思って、とROCKHURRAHに話すと
「やっぱり1stが良かったよね」
と語りだすではないの!(笑) 
ROCKHURRAHは、当時北九州に住んでいたけれど、ロクなレコード屋がなかったためわざわざ高速バスに乗り、福岡までレコード漁りに行っていたらしい。
その頃の目新しいニュー・ウェイヴは手当たり次第に買って、聴いていたという。
ROCKHURRAHは試聴をせずに、ジャケットやバンド名などからインスピレーションを感じるレコードを買うことが多く、その方法で好みのバンドを探し当てることに成功していた、とやや自慢げに言う。(笑)
モノクローム・セットを買う前のレコード漁りの時に、ジョイ・ディヴィジョンとディス・ヒートを同時に購入して、まるで宝くじを当てたような運命的な出会いをしていたROCKHURRAH。
その勢いがついた状態で、再びインスピレーションの赴くままにチョイスしたのが、モノクローム・セットの1stだったらしい。
ジョイ・ディヴィジョンのレコード・ジャケットを手がけたのはピーター・サヴィルというグラフィック・デザイナーだという。
モノクローム・セットの1stも彼の手によるものだったことに、ROCKHURRAHが気付いていたのかどうかは不明だけど、似た雰囲気を感じ取ったことに間違いないだろうね!
結果としてジョイ・ディヴィジョンの系列とは全く違ってけど…。
今まで聴いたことのないジャンルだったため、戸惑いながらも聴き続けていくうちに耳慣れていったという。
ROCKHURRAHのお気に入りを載せてみよう。 

モノクローム・セットだけに、モノクロ!(笑)
ライブなのでレコードとはかなり印象が違うような?

モノクローム・セットの真骨頂とも言える曲をもう1曲載せようか。

まるで呪文のように聴こえていた箇所の歌詞が分かったよ。
螺旋階段をぐるぐる回りながら上ったり下りたりするような、酩酊感があるんだよね。
なんとも不思議な気分になる曲だと思う。

ふとした瞬間に懐かしい人を思い出し、その連鎖で昔聴いていたバンドや曲を思い出したよ。
Iさん、今は何をしているんだろうなあ?
もう何年もお会いしていないけど、実はどこかですれ違っていたのにお互い気付いていなかったりして?(笑) 

ニッチ用美術館 第4回

【音楽とアートの狭間を埋める連載記事、久々の第四弾!】

ROCKHURRAH WROTE:

2017年の春から始めたシリーズ企画「ニッチ用美術館」なんだが、トップ画像を動画にするのがちょっと面倒な事もあって、なかなか新しい記事が書けないでいた。要するに記事の下準備に時間がかかるってわけね。

ちなみにタイトル見ればあのTV番組のパロディなのはすぐにわかるが、何でニッチなの?という説明が毎回必要なのがさらに難点。 まあ前回までの記事の冒頭にしつこく説明が書いてあるので律儀に読んでもらえればウチの方針もわかるだろう。
で、やってる事はROCKHURRAHの得意分野、70年代パンクや80年代ニュー・ウェイブの時代のレコード・ジャケットを展示して、それをアート的視点から語ってみようという試み。しかし語るほどアート界に詳しくないというパラドックスに満ち溢れた記事になっていて、何だかよくわからん趣向になってるな。これがROCKHURRAHの底の浅いところ。

今回はちょっと趣向を変えて、ウチのブログでも話題の「バッドアート展」風にしてみようと思う。
年末にSNAKEPIPEと2人で東京ドームシティまで行って観てきたんだが、それより前からウチでは注目していた美術館なんだよね(この記事)。 
要するに大真面目に美術的制作を行った結果、ちょっと方向性を間違えてしまったようなアートの事なんだけど、ROCKHURRAHが大好きな70〜80年代のパンクやニューウェイブにもその手のジャケット・アートが存在してるはず。ウケ狙いとか笑わせようとして、というのとは違うしアートの分野で語る以前のものも多かったから選考も難しかったが、とりあえず膨大な数のレコードを検索して集めてみたよ。 
バッドアートかどうかの判断は感覚的なものだろうから誰でも理解出来るというわけじゃないけど、いわゆる爆笑ジャケットというのではないから期待しないでね。
では時間もあまりない事だし、早速第4回目の展示を見てみるか。
尚、今回はジャケットのレコードに収録されているトラックと動画が一致してない場合があるけど、マイナー=動画が少ないのが多いから仕方ないと思ってね。 

ROOM 1 廻天の美学 

廻天とは「物や人を満足できる状態に回復する行為」だそうだが、一般的な人はたぶん一生のうちに使う機会はない言葉だと思う。
ROCKHURRAHが知らないだけで、どこかの業界では常識的に使うのかも知れないが。

何でこのジャケットに廻天なのかと言うとこのバンド名にある。
Wirtschaftswunder は前にも何度かウチのブログでも書いたけど80年代ドイツのニュー・ウェイブ(ノイエ・ドイッチェ・ヴェレ)のバンド。「読めん」という特集で書いた通り単語を目の前にしてもちょっと考え込んでしまうが、ヴィルツシャフツヴンダーとは「経済の奇跡」と訳されるのだ。この言葉がひとつの単語になってるだけでもドイツ語、すごいと思ってしまうけどね。
「第二次世界大戦後の西ドイツとオーストリアにおける、社会的市場経済に基づくオルド自由主義を採用した経済の、急速な再建と成長を誇張した表現である。(Weblioより)」などと書かれててもよくわからないが、それをバンド名にした意図も不明。
戦争に負けても早く復興したドイツ国民のパワーというような意味合いなのかな?

それはともかくこのジャケット、しょっぱなからひどすぎるな。
ROCKHURRAHが大昔に書いた記事には載せてなかったけど、売る気があって採用したジャケットとは思えないよ。
四人並んでるからメンバーなんだろうけど全員口からびよーんと伸ばしてるのは何?何かくわえてるのか?色も品がないしこれをジャケ買いする人は滅多にいないと思える。
ドイツの変な大御所デア・プランが主宰していたワーニング・レーベル、これが名を変えノイエ・ドイッチェ・ヴェレの名門アタタック・レーベルになるんだけど、そこから1980年にデビューしたのがヴィルツシャフツヴンダーだ。
ROCKHURRAHは早くからノイエ・ドイッチェ・ヴェレに興味を持ってたからこのシングルを中古レコード屋のワゴンセール、たぶん50円か100円くらいで買った時には心の中で快哉を叫んだものだ。
まあ何も知らずにワゴンセール担当になったらこのジャケットならそのくらいの価格にしてしまうのも無理ないなあ。

割と奇抜なバンドがひしめいていたこのジャンルでも、かなり変でエキセントリックなパフォーマンスを得意とするバンド。
上に挙げたジャケットのシングル曲ではないけど、どういうバンドなのかわかりやすいと思ってこの動画にしてみたよ。
YouTubeとかの動画サイトが発達したから今は軽く観られるけど、その当時は日本で紹介されないこういうバンドの動いてる姿を見るだけでも、大変な苦労をしたものだった。
一時期明らかにメジャー志向の音楽に変貌したけど1984年くらいまでしか消息がわからなかったので、売れてたのかどうかも不明。
こんな不気味なジャケットでデビューしたとは思えないほど演奏も歌も堂々としてて、冒頭でずっこけるコミカルな動きのギタリストも狙ってやったとは思えない。
まさにバッドアートの趣旨にピッタリだね。

ROOM 2 虚心の美学 

虚心とは「わだかまりを持たない心。先入観を持たない、すなおな態度。」だそうだがそういう境地になるとこんな絵を受け入れるんだろうか?

このジャケットがこの人の描いた自画像なのか人に描いてもらったのかは不明だけど、よくぞまあジャケットとして採用したもんだ、という出来。

カレン・マンテロというシンガーがデニス・ジェノベーゼなる人物と70年代に米国グリニッジ・ヴィレッジで弾き語りみたいな活動してたのがはじまりらしいんだが、そもそもROCKHURRAH RECORDSのブログで取り上げるようなジャンルではない人物なのは確か。でもこのジャケット見たとたんにジャンルの垣根を超えて紹介するしかないと思ったよ。これぞ虚心って事なのか?
グリニッジ・ヴィレッジと言えば60〜70年代にはアートや文化が栄えたところらしいけど、個人的にアメリカに行きたい用事もないROCKHURRAHには特に憧れはない土地だなあ。かつてニューヨークでカルチャー・ショックを受けたというSNAKEPIPEには勧められているけどね。

さっぱり知らないから書きようもないがカレンらしき女性が登場するビデオもあったので、ウチが知らないだけのシンガーなのかもね。途中でパートナー、デニス・ジェノベーゼらしき人も登場するがどこの出身なのか不明の風貌。名前の通りイタリア系なのか?バスクベレーみたいなのかぶってるからバスク人、あるいはイスラム系にも見える便利な顔立ち。
カレンは可憐な女性という感じは全くしないものの、いかにもこの時代のアメリカンな雰囲気でサイドカーの横でも違和感はないね。ジャケットそのままの人だったらどうしようかと思ってたよ。
あのレコード・ジャケットは悪く描きすぎたからジャケ買いする人は稀だろうけど、そこそこファンがついてもおかしくはないシンガーなんだろうね。うーむ、よくわからん時はコメントもぞんざいだな。

ROOM 3 堅靭の美学

堅靭(けんじん)とは「かたくて、弾力のあるさま。強くてしなやかなさま。」だとの事。これまた現代では日常的には使わない言葉だろうな。

ROCKHURRAHが少年の頃、江戸川乱歩や横溝正史、夢野久作、小栗虫太郎などの作品との出会いをきっかけに戦前の探偵小説と呼ばれていたものに傾倒していった。
ただ作品を読むだけでなく、評論や研究書まで買ってたくらいだから相当のめり込んだ趣味だったのは間違いない。
北九州(故郷)あたりでそんなに掘り出し物があるとは思えないのに、何か探し当てるのを楽しみに古本屋を巡ってたな。
数多くの作家の探偵小説を読んだし、いくら探しても見つからず悔しかった本もたくさんあった。
いわゆる本格物という謎解き小説も好きだったが、変格と呼ばれた既存のジャンルからは外れてしまった作家の小説も好きで、さらに伝奇小説や冒険小説など、興味の幅も広くなっていったもんだ。
その頃、何編かは読んで気になっていたものの入手出来なかった作家に押川春浪があった。「海底軍艦」と言っても今どきの子供には通じないかも知れないが日本のSFの草分け的な作品で、当時の少年漫画雑誌とかでたまに絵物語化されていたように記憶する。
あまり記憶にないくせに段原剣東次(明治日本最大のアクション・ヒーロー?)をモチーフにした曲なども自作したもんだ。誰からも評価されなかったけど。だんばら、名前の響きがいいよね。

今年のNHK大河ドラマ「いだてん」に出てくる変なバンカラ運動集団、天狗倶楽部の創始者でもあったのが押川春浪だが、スポーツ大好きな春浪だったらきっと堅靭という言葉が好きに違いない。
うーん、たったこれだけを書きたかっただけで無駄な自分の回顧に十数行も費やしてしまった・・・。 

そんな堅靭好きの人の目に止まりそうなジャケットがこれ。
どこかよその国にも同名バンドがあったからUKを名乗ってるけどスクイーズの1stアルバムだ。パンクからパワーポップが派生した1978年頃から活動していたバンドだが、ROCKHURRAHはレコードを一枚も持ってなくてほとんど知らないと言っていい。インターネットの80’sニュー・ウェイブ専門のチャンネルとか流してると頻繁にかかるから聴けば「あ、この曲がスクイーズだったのか」と曲だけは知ってる場合が多いんだが、次回聴いた時にはすでに忘れてる事が大半。
グレン・ティルブルック、ポール・キャラック、ジュールズ・ホーランドなどといった(何で名前を覚えてるのか個人的に不明な)豪華メンバーがいたというのに、やっぱりROCKHURRAHの路線とはちょっと違うんだろうな。

マッチョなジャケットからはかけ離れたような面々がメンバーなんだが、この辺の初期の曲はいかにもニュー・ウェイブ真っ只中でいいね。なんかどうでもいい甘ったるい曲を先に知ってしまったから興味なかったんだよね。

ROOM 4  蚊喰鳥の美学

これまた一般的には馴染みのない言葉。蚊喰鳥と言われてもピンと来ないがコウモリの別名らしい。
わざわざ異名で書く意味はないが、この企画のチャプター・タイトルはなぜか「あまり馴染みのない漢字」で書くという変な決まりを勝手に自分で作ってしまい、それを考える方が画像集めたりするよりも遥かに難しいという状況なのだ。
難しい単語や言い回しなんてそんなにどこにでも転がってないから探すのが辛いよ。
一度、簡単な表現に戻してみたんだけど自分の中で何かしっくり来なくて、また使い慣れない言葉を探す始末。
「ニッチ用美術館」があまり書けないのは、そういう変なこだわりでがんじがらめになってるせいだね。
これもまたROCKHURRAHの美学かな。

さて、その蚊喰鳥を手なづけて一体化してしまったジャケットがこれ。斜線の入り方や劇画調のタッチは何となく達者なのに、女性の顔の残念な描写のせいで「誰がこれを見てジャケ買いする?」というレベルにまでなってしまったところがバッドアートの面目躍如だね。

この売る気がなさそうなジャケットで活動したおそらく一発屋のバンドがサウンド・フォースというオーストリアのバンドだ。1982年にこの一枚のみ出してた模様で、このバンドの事を書いた日本人もおそらくROCKHURRAHが初だろう。とにかくジャケット以外に情報が全く無いので何とも書きようがないんだよ。
こんなバンドでもYouTubeがあって、動画がいつ削除されるかわからんが一応載せておこう。 

聴いてみたら歌も演奏もちゃんとしてて、Haunschmidt Ursula(読めん)嬢のヴォーカルも60年代ガールズ・グループをパンクのフィルターに通したような雰囲気で気に入ったよ。エイプリル・マーチあたりの先輩という感じ。
ジャケットがもう少し良かったら人気出そうなバンドだっただけに残念だったね。
しかしこのイラストがHaunschmidt Ursulaを忠実に描写したものだったらと考えると恐ろしいね。

ROOM 5 靉靆の美学

最後はとっておきの読めない、書けない漢字にしてみたよ。うーん、これは一生使う事なさそうだな。

靉靆と書いて「あいたい」と読む。意味は①雲や霞(かすみ)などがたなびいているさま。②気持ちや表情などの晴れ晴れしないさま。陰気なさま。との事でこのジャケットとは関係なさそうだが、名詞としてはメガネを表すらしい。これで意図が通じたね。名詞と形容動詞で意味が大幅に違うのが気にかかるが。

しかしレコード屋でこれに直面したら何もコメントのしようがないくらいにひどいジャケットだな。
Photoshopを使い始めた人がお遊びで友達の顔をレタッチして作ったかのようなレベルで、今どきではそんな事をする人さえいないように思うよ。

このどう考えても売れそうにないジャケットはフィンランドで活動していたSielun Veljetというバンドのもの。
1983年にデビューして何枚もレコード出してるから人気はあったんだろうが変なジャケットが多いから、その路線で行きたいバンドなんだろうな。上の顔ジャケットは88年のもの。
ジャケットだけで選んだから今回は知らないバンドもいくつかあったけど、これまた今まで全然知らなかったな。
最近「80年代世界一周」という色んな国のニュー・ウェイブを探す企画をやってるから、この辺の英米以外のバンドはまた違う機会に語る事もあるかもね。

この変な顔ジャケットに収録されてないが、同じくらいの時代のモスクワでのライブ映像があったので載せておこう。
二階席まであるからその辺のライブハウスよりは大きい会場だと思うけど、一杯の観客を前に堂々としたライブを披露してて、「こんなジャケットだから三流バンドだろう」という予想は裏切られた。
今回は全体的にジャケットに見合ったトホホなバンドがいないぞ。

タイトル動画まで作らなきゃいけないから時間ないし、知らないバンドばかりだったからコメントのしようもなく、いつもよりは短いブログとなったけど、探せばまだまだ出てくるバッドアートなレコード・ジャケット。
またいつの日か第二弾もあるかもね。

ではまたサ・タ・プメ (ギリシャ語で「また会いましょう」)。