没後150年 歌川国芳展

【歌川国芳展のチラシ。鯉の表現が見事!】

SNAKEPIPE WROTE:

SNAKEPIPE今年初のブログは、「没後150年 歌川国芳展」について書いてみたいと思う。
国芳展については数ヶ月も前から情報を入手していて、絶対に観に行こうと決意を固めていた展覧会である。(おおげさ)
そう言っている割には開催されてから、少し時間が経ってからの鑑賞となってしまったね。
成人の日、長年来の友人Mを交えて、ROCKHURRAHと共に3人で六本木に向かったのである。

開催している森アーツセンターギャラリーは、先月にも「メタボリズムの未来都市展」を鑑賞した、今まで何度も通っている場所…と思いきや!
通常「森美術館」と呼んで、鑑賞していたのは53Fのギャラリーだったことが判明!
今回の歌川国芳展は52Fでの開催なので、かなり久しぶりに行く場所だったみたい。
恐らく52F展示会場がメジャーな催しで、53Fはアヴァンギャルドな展示が多いのかもしれないね。
友人MもSNAKEPIPEもアヴァンギャルド志向だからねえ。(笑)
52Fの展示会場入り口に人が並んでいるのを横目で見て、上に上がっていたことを思い出す。
52Fはメジャー系だからお客さんが多いんだ、と入り口で待たされながら気付くSNAKEPIPE。
恐ろしや!入場制限をかけられるほどの大盛況、会場はお客さんで溢れかえっていたのである。

「どうぞ」と案内の方にうながされて会場に入るなり、飛び込んできたのは人、人、人!
思わず友人Mと顔を見合わせてしまう。
ちょっと待ってよ!なんなの、この人の群は?
浮世絵の展覧会が初めてだったため、会場の様子や浮世絵のサイズについて想像していなかったSNAKEPIPE。
浮世絵ってサイズが小さいのね…。
そして一枚の浮世絵に群がる大勢の人達。
「入り口付近が一番混雑しているので、空いている場所からご鑑賞下さい」
なんてアナウンスまでされてるし。
「せっかく来たから、展示順を無視して観て回ろう」
とかなり奥のほうまで歩いて鑑賞を始める。
浮世絵の真正面でじっくり鑑賞できることは稀で、ほとんどが人と人の隙間から「覗き」みたいな感じで鑑賞するハメになってしまった。
こんな鑑賞スタイルになるとは非常に残念!
今更ながら浮世絵人気を思い知り、こういう展覧会もあるんだな、と再認識したSNAKEPIPEである。

展示は10の括りで分けられていたので、それぞれについて簡単に感想をまとめてみたいと思う。
1:武者絵―みなぎる力と躍動感

「入り口付近が最も混雑」の原因は、最初のチャプターに「武者絵」があったからなんだよね。
そして国芳の他の展覧会では「妖怪画」として括られていたジャンルも、今回の展示では混在していたので尚更大人気だったみたいね。
ものすごい迫力と色調に圧倒されてしまう。
どの作品も、とてもカッコ良いなあ!
こりゃ、人が動かなくなるのも納得だね。
一枚一枚ゆっくり鑑賞したくなるもん。
牛歩になるはずだわい。(古い)
調べてみると「武者絵の国芳」と言われていたと書いてある。
うん、確かに一番初めに結論を言うのは心苦しいけれど、この武者絵シリーズが一番ガツンと効いたね!
国芳の代表作とされる作品群は、ほとんどがこの「武者絵シリーズ」の展示になってたね。
今回の展覧会で絶対に鑑賞したかった「相馬の古内裏」も無事に「覗き」で拝観!
いやあ、カッコ良いことこの上なし!(笑)
1845-46年の作品とのこと。
ひ~!今から160年も前だよ~!
この想像力、素晴らしいね!

上の作品、「源頼光公館土蜘作妖怪図」の構図の斬新さを御覧なさいよ!
上斜め半分が妖怪なんだよね。
ほとんど水木しげるの世界よ!(笑)
1843年の作品だって。すごいっ!
ゲゲゲの鬼太郎好きにはたまらないね!

2:説話―物語とイメージ

古くからの故事伝説や物語を視覚化したシリーズ。
上は「龍宮玉取姫之図」1853年の作品。
荒れ狂う波の表現と、空想上の生き物であるドラゴンの躍動感が見事!
「藤原鎌足は唐から渡来の霊玉を途中で龍神に奪われるが、志渡の海女が竜宮へ潜入して取り返す。だが眷属に追われた海女は、自らの乳房の下を切って玉を隠し、ようやく敵から逃れ、鎌足に玉を渡して死ぬことになる」という部分を表現しているらしい。
波の間に見え隠れしている魚達が着物を着ているところが素晴らしい!

3:役者絵―人気役者のさまざまな姿

歌舞伎役者のブロマイド的な作品である。
友人Mは歌舞伎について詳しいので余計に楽しめたようだけれど、ほとんど知識のないSNAKEPIPEには構図とか色彩などを鑑賞するにとどまった。
それにしても歌舞伎役者の名前というのはずっと変わっていないんだねえ。
上は「坂東しうかの唐土姫・三代目尾上菊五郎の天竺冠者・五代目沢村宗十郎の斯波右衛門」1847年の作品。
ガマガエルの妖術を使っている場面らしいけど、なんとも斬新な構図だよね。

4:美人画―江戸の粋と団扇絵の美
浮世絵の美人画というと、浮世絵の中でも花形的な存在だと思うけれど、国芳に限っては少し様子が違っていた。
なんと、女の顔にほとんど違いがないのである。
武者絵や役者絵のイキイキとした雰囲気はあまり感じられない。
もしかしたら女の顔より男を描くほうが得意だったのかもしれないね。
「鏡面シリーズ」という女が鏡に映った自分の姿を描いている作品群は、鏡の縁にかけられた布まで描かれていて、なんとも凝った構成になっているのが興味深かった。

5:子ども絵―遊びと学び
こちらも美人画同様、かなりぞんざいな顔の描き方だった。
江戸時代の子供の「遊び」や「学び」を主題にした浮世絵、ということなので余計に面白みに欠けたのかもしれないけどね。
サーッと鑑賞しただけで終わりにしてしまった。(笑)

6:風景画―近代的なアングル
風景を描いたシリーズ。(まんまじゃん)
SNAKEPIPEには「東海道五十三次」との違いが感じられなかった。
ずっと前から「東海道五十三次は江戸時代のスナップフォト」と思っているSNAKEPIPEなので、人物描写を含めた秀逸な作品だと思っている。
歌川広重とは同年生まれの同時代絵師だったようなので、風景画に関しては広重のほうに軍配が上がりそう。
特別国芳らしさが表れてるな、と感じた作品は見当たらなかったな。

7:摺物と動物画―精緻な彫と摺
摺物というのは特別注文の非売品だった作品のことらしい。
木版技術の粋を集め、素材も金粉や銀粉などを使用したり上質の紙に摺っているとのこと。
江戸時代の印刷技術の高さにびっくり。
これらは恐らく印刷物になった状態で鑑賞しても、よく解らない部分かもしれないね。
とても美しい作品群だった。

8:戯画―溢れるウィットとユーモア

動物やダルマ、妖怪などを擬人化して江戸っ子に仕立てあげている作品である。
これも国芳の得意分野だったようで、とてもイキイキとしている。
ユニークな作品が多く、江戸時代の笑いについても考えさせられる。
意外と日本人の「笑い」というのは、江戸あたりから変化していないのかもしれないね?
非常に細かい部分まで精緻に描かれていて、観ていて飽きない。
それにしても、国芳はネコ好きで有名だったようで、確かにネコの絵が多いんだよね。
でも全然顔がかわいくないの。なんでだろう?(笑)
上の作品「みかけハこハゐが とんだいゝ人だ」は複数の人で一人の男の顔を作っている寄せ絵である。
手の部分までも人で形作られていて、とても面白い。
16世紀のイタリアの画家、アルチンボルドの寄せ絵を感じさせるよね。
今回の展覧会では、鼻の部分の人が一番最後に飛び乗って顔を完成させるイメージフィルム(?)が流れていてニヤリとさせられた。

9:風俗・娯楽・情報
時事世相の報道メディア的な題材を錦絵にしたコーナーである。
そのため題材が幅広いのが特徴的だ。
浮世絵というのが当時の新聞・雑誌の代わりだったり、写真の前身だったということが良く解る。

10:肉筆画・板木・版本ほか
浮世絵というのは版画のことだけを指すんじゃないんだね。
いわゆる絵、肉筆画と呼ばれるモノも浮世絵の中に入るということを初めて知ったSNAKEPIPE。
皆様は御存知でしたかな?(笑)
最後のチャプターでは国芳の肉筆画、そして国芳の下絵を元に彫られた木版の展示などがされていた。
肉筆画はほとんどが美人画だったので、前述したように「同じ顔」オンパレードでイマイチ面白くなかった。
木版は、ものすごく細かく彫られていてびっくりした。

これもまた鑑賞後に得た知識だけれど、浮世絵の世界というのには必ず4人が関わっているらしいんだよね。
版元から依頼を受けた絵師が下絵を描き、それを彫師が彫り、摺師が色を乗せて擦る。
こういう役割分担があって一枚の浮世絵が出来上がるようなんだけど、一枚の作品となった時に名前が出るのは伝統的に絵師だけだったみたい。
恐らく「凄腕の彫師」とか「技を持った摺師」みたいな一流の職人はいたはずだけど、名前が出ることがない裏方稼業だったんだねえ。
そんなことを知ることができたのも、初めて浮世絵鑑賞をしたからなんだね。
人が多過ぎてキチンと鑑賞できたとは言い難い展覧会だったのは残念だけど、浮世絵をもっと知りたいと思うきっかけになったのは良かった。

国芳展は前期と後期の2期に分けられていて、作品のほとんどを総入れ替えするそうなので、本当はどちらの展覧会も鑑賞したいと思っていたんだけどね。
あの人の多さ、牛歩での鑑賞には正直ゲンナリしてしまったので、後期はパスだな。
今回の森アーツセンターギャラリーの対応にも問題アリだなと感じたしね。
お客さんの誘導もなし、白線を越えて鑑賞している人への注意喚起もしていない。
展覧会図録を会場でしか販売していない、なんてちょっとビックリ。
鑑賞した人しか買えないシステムにしてるんだよねえ。
森美術館はやっぱり53Fの展覧会に期待だね。(笑)

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